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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
133/222

ウィリアム編・Ⅳ

                      冒険者探偵ウィリアム


                  それは、街角の知らぬ間に潜む悪意 8


                      ≪嵐が近付く中で≫




風が強くなり、生暖かい風が肌にまとわりつく様な感じに成ってきた。 時折、激しく降り付ける雨が、これから来る嵐を予感させる。


ウィリアムの登場により、閉じ込められている状態を解放されたアクトル達。 ウィリアムと一緒の馬車に乗り込もうと云うアクトル達である。


さて。 別の馬車に乗せられたジュリエットを見たウィリアムは、今にも萎れそうな可憐な華を見る様で。


「だいぶ萎れてますね。 ああ云った方には、何の栄養が必要だか・・」


と、冷淡な呆れ口調だった。


先に馬車に乗り掛けるリネットは、それに同意出来て。


「本当だ。 一輪植えの愛でられた花が、飼い主を失った様子でしかない」


まだ外に居るアクトルは、高さの在る建物が多い住宅区が見渡せる通り上で。 ポツポツと顔に来る雨をよけながら。


「しかし、何処に行くんだ? まさか、両親と同じ牢屋・・か?」


ウィリアムは、アクトルがブラックジョークを云うのに苦笑いして。


「違いますよ。 フラックターさんが、女性の役人の方が住まう場所に、匿う為の一部屋を借りる話を付けてくれたそうです」


「ほぉ・・、顔が広いな」


「彼の御姉さんは、この地元でも旧くから威勢を保つ貴族の家に嫁いでいるとか。 恐らくですが、親戚などが近い場所に居るんじゃないですか?」


役人の全面協力を窺い、アクトルは少し構える様に。


「おいおい、話が大きく成ってきたな」


馬車に仲間が乗り込めば、狭い車内ながら今までの経過を説明をするウィリアム。


走り出す馬車に揺られる中で、リネットが。


「では、老婆を殺した犯人が、その消えた警察役人なのだな?」


と、決めつける。


アクトルは、頭が天井にぶつかるのが嫌な顔のままに。


「多分、逃げたんだからな。 そうなんじゃないか?」


所が。 それをウィリアムは疑問にする。


「果たして、そうでしょうかね」


護送用の馬車である為に、車内には小さな窓しか無く。 押しても少し開くだけの窓。 その窓に張り付く雨粒を見るウィリアムの眼は、何処か遠い様子である。


隣に座るクローリアは、ウィリアムへ。


「違うんですか?」


車内持ち込んだ槍が鬱陶しそうなリネットも、アクトルも、多くを語らないウィリアムに目が移る。


アクトルが、問う様に。


「おいおい、犯人は別かよ」


「いえ。 ハッキリとは言えません。 ですが、手口が妙に鮮やかなんですよね」


「“手口”?」


聞き返すアクトルを、女性二人が見て。 また、3人の目がウィリアムへ。


窓を見るウィリアムは、そのままに。


「此処に来る直前に、引き取り手の無い被害者の遺体を地下で見ました。 胸部から心臓を突き刺され、胸部の内部を抉られてました。 ですが・・」


その被害者の様子が語られると、クローリアは祈る。


「嗚呼、そのような酷い事を…」


リネットは、殺してからまた遺体を傷付けた事に苛立ち。


「とことんふざけた真似だっ」


だが、一人冷静なアクトルは、話の続きが聞きたくて。


「どうゆう事だ? それぐらい、誰でも出来るだろう?」


すると、ウィリアムが眼を横目にアクトルの方に送り。 そして、首を二度横に降ると・・。


「人の心臓を抉るにしても、刃物の入った傷を酷く押し広げずして遣るのは、プロもプロの仕業。 内部の損傷からしても、暗殺者などが好む曲刃のナイフです。 血をお湯で溶かす小細工も、キキル刑事官と云う人の性格からしてちょっと不自然な気がします。 恐らく、事件当夜のキキル刑事官の所在確認をすれば、犯人か否かの判断は付きますよ。 俺が感じるに、彼の現実的な罪は、冤罪未遂と冤罪を作った事。 そして、参考人を暴力的に取り扱った事だと思いますね」


聞いている三人は、ウィリアムがどうしてそう思うのかが解らない。 もう、普通の人の判断領域を越えた所に至ると感じられた。


視線を窓に戻したウィリアムは、黙る3人へ続け。


「キキル刑事官と云う人物は、今回の事件までは怠け者だった。 今回の事件まで、捜査もしなかった。 捜査に絶対に関与せず。 事件と云うか、仕事に関心すら見せなかった。 なのに、今回はそうした。 それは、老婆が死んで何かそうせざる得ない状況に陥った・・。 と、云うだけの気がします」


アクトルは、返す様に。


「おいおい、だがよ。 ソイツは、以前から借金取りが来たり、その取立て相手に剣を抜いたりしたんじゃないか。 そんな狂暴な奴なら、犯人と言っていいだろう?」


「俺が思うにですね、手口が違う気がします。 今回の事件は用意周到で、今だに殺害現場が解らない様な殺し方をしています。 しかも、遺体を態々家に運んで、お湯を掛けたりする等の小細工まで。 キキル氏と云う方が本当に犯人なら、もっと感情的で在るべきですし。 また、凶器は分かり易いと思いますね。 第一、老婆から金を借りたかどうかは別にして。 老婆の抱える取立て役が、キキル刑事官に接触していた事実が無い。 昼間に捕まった彼の部下から話を聞いても、その証言は有りませんでした」


ウィリアムは、敢えて“キキル氏”と最後に付けた。 彼の私生活に踏み込んだ意味で、だ。 その性格からして、伴侶も長居出来ないのは理解出来る。 家族からすら煙たがられる彼にとっては、取り巻きの様に寄ってくる部下ぐらいしか相手が居なかった。 キキル氏の家は、地方の鉱山を始め巨額の利権を生む国営事業へ、管理者としても食い込んでいる。 鉱物の一部を横流ししたり、息の掛かる人出し稼業を働かせたしているので、貴族の中でも最も富裕な方に在るらしい。


昼間、キキル刑事官の部下数人が捕まった。 ウィリアムは、その中でもキキル刑事官と休暇も行動を共にする一人に話を聞いた。 キキルの休みの付き合い相手は、仕事の部下である。 だが、キキル刑事官が老婆を知っている雰囲気は在ったらしいが。 その被害者の抱える男から、取立てを受けた事は無いとハッキリ云った。


リネットは、ならば何故にキキルと云う人物が動いたのかが解らず。


「では、そのキキルと云う男は、何でそんな違法も甚だしい事をしたのだ? その根本が解らぬ」


“全くだ”とばかりに頷くのは、アクトルやクローリア。


ウィリアムは、首を軽く傾げて。


「どうなんでしょうかね。 ま、その事実も何れは解りますよ」


アクトルは、踏み込む言い方で。


「見込み有るのか?」


ウィリアムは、やけに冷静な顔をアクトルに向けた。 それだけだった。


さて。


宿に仲間を送り届けたウィリアムは、そのまま警察局部へと戻る事を告げる。 今日も戻れるか解らないと告げた。


強く降り始めた中で、雨のカーテンが宿の入口に掛かる。 アクトルが、開かれた馬車のドアの先に居るウィリアムへ。


「おいおい、スティールは?」


それを問われると、捜査の顔をしている割には珍しく軽い笑みを浮かべるウィリアムで。


「今は、仮眠中ですよ。 捜査に興味が在る様なので、付き合いたいと」


すると、リネットが。


「ならっ、我々も連れて行かぬかっ」


と、云うのだが。


ウィリアムは、淡々とした表情に戻り。


「今、皆さんが来られても、フラックターさんに迷惑を掛けるだけです。 必要な時は、直ぐに手を借りに来ますよ」


と、言い。


「すいません、お願いします」


と、ドアを閉めながら御者に声を掛けた。


動き出す馬車を見送るリネットは、憤りを隠さず。


「何で、一番不届きな者が…」


だが、アクトルは…。


(全く、俺より相性がイイんじゃないか?)


と、呆れるだけだった。 ま、自分の様な大柄な者や、ロイム・リネットの様な煩い者がノコノコと付いていくのも邪魔になるのは明白だ。 捜査と云う意味で、ウィリアムに合うのはスティールで在ると理解は出来た。


処で。


ウィリアムを乗せた馬車は、何故か途中商業区の中をで迂回し。 道を変えて街の南側へと向かった。 商業区を中心に、南下に広がるのは住宅区と小さな鍛冶屋や、薬業者などの製造業が広がる場所である。 店に卸す売り手や、店側の我儘を近場で引き受ける装飾着業者も多い場所だ。


馬車が狭い路地を走る頭上には、隣の建物の窓に向かって紐が伸び。 晴れた日には、洗濯物などで埋めつくされるし。 子供が路地上で遊ぶ光景も普通に見える。


夕方の暗がりに、建物に挟まれる迷路の様な場所にウィリアムが何故来たか・・。 それは、或る聞き込みをする為である。 今、スティールは本当に仮眠を取っている。 フラックターも徹夜続きで、似たり寄ったり。 小さい事は、自分ですると決めたウィリアムで。


「着きました」


と、ウィリアムに声を掛け。 広場に停めた馬車から降りたのは、同じく徹夜続きの役人ジャンダム。 雨を弾く厚手の黒いコートを羽織り、ウィリアムの捜査に付き合う為に、志願して付いてきた。 運転席に座る3人の内。 一人は、役人のジャンダムで。 もう二人は、兵士の若者である。 ハイドゥン卿が付けた、云わば見張り役と言っていい。


さて。


ウィリアムが、何故に此処に来たかったか。


それは、老婆の家から押収された借金者の記録帳簿である。 この記録に因ると、フラックターの義兄の他、ジュリエットの両親などの記載が在り。 青い厚紙を表紙に束ねられた紙には、一つの共通点が有る者が載っていると云う事実である。


それを確かめるべく。 ウィリアムは、数ヵ月内に金を借りた家を訪ねる事にした。 フラックターも同行させるつもりだったが。 アリマ長官に演説した後、捜査は地元の役人に遣らせる様にと言われてしまった。 代わりに、夜からは、あのマッジオス副刑事官が合流する手筈に成っている。


ウィリアムは、雨に濡れながら一軒の装飾屋を営む夫婦に面会した。 役人が来た事で、老婆が殺されている事を噂で知っていたのであろうか。 40半ばの夫婦は、かなり緊張した様子でウィリアム達を出迎えた。




                          ★




それから、夜も耽け始める頃。


強風がロファンソマを襲う。 大粒の雨を伴った強風が、建物や木々へと打ち付けられる。 水と風が闇夜に音を出す。 何時もは大勢の客と働く女性などで賑わう酒場は、黄色い声を出す雇っている女性が集まらず。 また、客も来ないと云う有様で、宿とつがいに成る店以外は、早々と店仕舞いを強いられていた。


生温かい風が、涼しい夜を何処かに吹き飛ばしてしまっていた。


フラックターの宛てがわれた部屋に居るスティールだが。 フラックターと席を並べては、少し遅めの食事をするソファーの向かいには、ムスっとした顔で黙るマッジオス副刑事官が居る。


「スティールさん、まだ食べますか?」


役職に構わず、スティールと対等な様子で軽食を食べるフラックターが、パンと挟む具の乗るトレイを薦めて来た。


「おう。 ウィリアムの分は、有るよな?」


紅茶のお代わりを注ぐフラックターは、“勿論”とばかりに頷き。


「一緒に話を聴きに行ったジャンダムさんの分も」


「なら、頂こう。 爆睡して、腹が減った」


二人の様子を、ジロっとした目で見るマッジオス。 役職上では、フラックターの方が遥かに偉い。 正直、権限の領域を踏まえれば、義兄をも凌ぐ。 そんな役職の者が、一冒険者と肩を並べるなど…。 マッジオスからするなら、何とも苛立たしい事である。


其処へ。


入口の扉が開き、ウィリアムと役人のジャンダムが戻ってきた。


「中々似合うではないか」


と、ジャンダムが言い。


「済みません。 少し、お借りしますね」


と、ウィリアム。


元から居た3人が見れば、ウィリアムの上着が黒い長袖長襟の衣服に変わっている。 ジャンダムも、衣服が繋ぎから、上下に別れた制服へと変わっていた。


そのジャンダムの制服を見たマッジオスは、指を差し向け。


「お前っ、その制服は何だっ?!」


と、いきり立つ様子で云う。


すると。


ジャンダムは、マッジオスの前に進み出て。 正しい敬礼をすると。


「マッジオス副刑事官殿。 本日、アリマ長官の命により、ラインレイド様の捜査陣へ正式に配属されました」


マッジオスは、寝耳に水と云う驚きの顔で。


「何だとぉっ?! では・・、ワシ達への命を預かったと云うのはっ、キサマの事かぁっ?!!」


「はっ」


部外者もいいところの下級役人に、アリマ長官は大切な言伝を預けたと云うのだ。 マッジオスからするなら、これは服務規定違反に近い衝撃であった。


が。


ジャンダムは、30半ばを過ぎた顔を引き締め。


「これより、アリマ長官殿の言伝を伝えます」


「むっ」


マッジオスは、焦茶色の立派な制服に身を包むままに、身を捩ってジャンダムに食らいつく様に見た。


「以後。 これからの捜査は、フラックター様の命令に従い。 此方のウィリアム氏の助力の元で、マッジオス様が進めよ。 ・・との事です」


「ぬぁにぃぃっ?!!」


驚くマッジオスへ、ジャンダムは更に。


「尚、配下や手下は、私を含めた者以外は、駐屯軍内部監査役のハイドゥン卿の私兵を借りろと云う事で御座います。 今、早駆けの兵士5人が到着し、下で待機しております」


「なっ・一体・・それ・・なぬぅ?!!」


事態が飲み込めないマッジオスは、何がなんだか解らない事に顔が歪みきった。


其処へ、タオルで髪の毛を拭いていたウィリアムが。


「キキル刑事官が消えたのは、もうお耳に?」


と。


マッジオスは、横からの唐突に近い質問に構えが失せ。


「おっ・・おう」


「逃げたか、隠れたかは解りませんが。 その家柄と親族が、この街の政治の中枢に噛んでます。 その権威から逸れる役人は、極僅かだと聞きました。 ですから、貴方以外の皆さんは、アリマ長官直々の命令で、特別任務に当たるそうです」


「と・・くべつ?」


「えぇ。 暴行を受け、入院した参考人の警護。 ラインレイド卿の身の回りを護る役。 それから、キキル刑事官の配下で、行方を眩ませた役人数名の捜索だそうで」


「ワシだけ・・が?」


「一応、手柄はラインレイド卿の捜査陣へ譲る手筈ですから・・」


マッジオスは、フラックターやジャンダムを何度も見る。


ウィリアムは、更に。


「ラインレイド卿の疑いが晴れ、キキル刑事官が掴まれば障壁が薄くなります。 そうなれば、ラインレイド卿を職務に戻せるそうで。 そうなった時、このジャンダムさんと、誰か責任者的な引継ぎ役が居れば、捜査に戻りやすいとか」


マッジオスとて、貴族の端くれ。 今の状況で、見える恐怖はキキル刑事官の本家が持つ権力である。 その権力が及ばないのは、今の中で裁判部。 そして、独自の強い権限を与えられた軍部の一部だ。 アリマ長官は、権力層で乱れが少ないままに、この事件を穏便に解決したいと腹を決めたと解る。


「………」


マッジオスが、ウィリアムとジャンダムを見る。


敬礼を解かないジャンダムは、


「マッジオス様。 この若者は、非常に優秀です。 今回だけ、ラインレイド様の為と騙されて下さい」


と、申し入れる。


急激な展開。 衝撃的な現実。 マッジオスは、普段の構えがそれで吹き飛んだ。


「・・、アリマ長官の命令なら………致し方有るまいな」


この街で、最も権威の有る家の一族が絡むと云うのだ。 マッジオスとて、何の拠り所も無くして、キキル刑事官の弟などが出て来られたら何も出来ぬ。 それが解っていたから、上司ラインレイド卿が謹慎を食らっても、更に上の上司へ立て付かなかったのだ。 事件を任されたのが、よりによってキキル刑事官だったからだ。


(アリマ長官の選んだのが、寄りにもよって…。 だが、中央から派遣されているあの若造の力は、確かに無視出来ん)


萎える様に折れるしか無いと思うマッジオスなのだが。


ウィリアムが加わった事で、フラックターはデスクに備わる椅子を持ってくる。


「おっ・・重いよ」


慌てて手を貸すジャンダムだが。 腐りにくい木を選び、職人が手塩に作った一品だ。 重さも中々であった。


さて。


上座の様に、ティーテーブルを左右に分ける様に見える場所に座ったフラックターで。 右手のソファーに、どっしりと居座る様なマッジオス。 その横に、少し控える形で座ったジャンダム。 左手には、ウィリアムとスティールが並んで座る。


フラックターは、口に付くケチャップを拭いながら。


「ウィリアムさん。 所で、夕方に何処へ行ってたの?」


ウィリアムは、キキル刑事官の元に押収されていた借金者の内情を記帳された帳簿を出す。


「これに書かれた人の家に行って、事情を聞いて来ました」


マッジオスは、そんなものを…と云う顔で見たが。


「理由は・・、参考人が重体だからですか?」


と、問うフラックターに対し。 ウィリアムは、温い紅茶を含んでから。


「と、云うよりですね。 この帳簿に名前の有る者は、全て理由が同じなんですよ」


「はぁ?」


「へ?」


「?」


フラックター、スティール、マッジオスが、各々に意味不明という顔をする。


スティールが、まっ先に。


「金貸しから金を借りる以外に、理由は無いだろう~がよ」


マッジオスも。


「その通り」


と。


だが、ウィリアムは。


「いえいえ、借りる事では無く。 その借りる必要を生んだ事態に、特定の同じ間柄の者が絡んでると云えばいいでしょうかね」


マッジオスも、スティールも、顔を歪め。


「まどろっこしいっ、パッと云わぬかっ!」


「言ってる意味がわかんねぇ~」


と、次々に感想を云う。


ウィリアムは、帳簿を広げると。


「この帳簿に記載された方は、全て金を借りる理由に娘さんが絡んでます」


フラックターは、義兄の隠した娘の事を思い返し。 マッジオスやスティールは、固まった。


ウィリアムは、ジャンダムに眼を向けると・・。 頷くジャンダムは、


「口を挟みます」


と。


マッジオスやスティール等、3人の目が、ジャンダムへ向かう。


「初動の捜査で、殺された被害者の雇っていた手の者二人を抑えました。 取り調べをしたのは、自分です」


ウィリアム以外の3人の視線が、此処でまちまちに交わされる。


ウィリアムは、重要な話なので。


「続けて下さい」


と、促す。


「はい。 二人の男に話を聞きました。 何方も金貸しをしていた話をしました。 その話は、食い違う事は無く。 それぞれに、遣っていた事を普通に話したと思います」


マッジオスは、踏み込む様に。


「で?」


「はい。 金を貸した相手の事を聞きましたが、老婆は必ずとある店に相手を呼び。 応対をする役の男に話を聞いて、貸すか、貸さないかを見極めていたそうです」


「自分で対応しなかったのか?」


「はい。 被害者は、もう足が弱り腰も曲がり始めと云った高齢に為り。 自分では、パッとした対面では圧しが利かないからとの事で」


「・・ほう。 で?」


「金を貸した理由より、基本的には返せるか・・返せないか。 また、担保が見合う物かどうかに絞って、貸す相手を判断していた様です」


「そんなの、当たり前ではないか」


「は。 ですが・・、例外が在ったと」


スティールも、マッジオスも、これには目が張った。


マッジオスは、微妙に気になると。


「“例外”だと?」


「はい。 金を借りる理由が、子供とか。 その、家族に為るとき、時として姿を表し。 そして、相談を聞く時が在ったと・・」


「ほう」


するとジャンダムは、ウィリアムを見る。


それに合せ、3人の目がウィリアムに移ると。 ウィリアムは、帳簿を触り。


「此処に書かれて居るのは、先程も話した通りに娘が絡む理由の借主です」


“それで?”


と、ばかりに。 3人は、聞く事に集中して姿勢を正した。


ウィリアムは、皆に問う様に。


「普通に考えても、他の理由で金を借りた方が圧倒的に多い筈・・。 では、他の帳簿は何処に? どうして、分けた?」


こんな質問をされても、3人は被害者の老婆では無い。 理由が解る訳も無く、視線を宙に巡らせるのみ。


ウィリアムは、更に。


「不思議なのは、この帳簿に書かれた人達だけに、金に厳しい老婆が査定を緩めたとか。 つまり…」


と、言いかけると。 スティールが後を奪う様に。


「そりゃ~死んだ婆さんにも、それなりに家族が居たからじゃないか? 手心を加えるって事は、裏返せば同情してる訳だし。 そんな金貸しの人間が同情するなんざぁ~・・同じ境遇だからとしか。 なぁ?」


と、フラックターに振る。


「えっ?! あ・・そっ・そうですね」


慌てる様に云うフラックターは、義兄の事に気が行っていた。 義兄は、この殺された老婆と、どうゆう形で話をしたのかを想像し始めていたのだ。


スティールは、眉間にシワを寄せ。


「ちゃんと考えろよぉ~。 前みたいに、上の命令聞いてりゃイイ人間じゃ無いんだかんな」


「わっ・解ってますよぉっ」 


マッジオスは、その二人を無視して。


「ウィリアムだったか。 で? その理由は、解ったのか?」


「いえ。 正直、被害者の過去が解らず。 また、被害者が殺される前までの立ち回り先が、今だに不透明なので。 只、一つだけ、不自然な場所が在ります」


「“不自然な場所”? 何処だ?」


「被害者の家。 寝室です」


マッジオスの他、フラックターやジャンダムも、ウィリアムを見た。


マッジオスは、ジャンダムへ。


「本当かっ?」


と、鋭く問うのだが。


「いえっ・・私は・・」


ジャンダムは、意味が解らずに答えを返せない。


ウィリアムは、マッジオスへ。


「今の所、暴かれて無いなら、自分しか解って無い事だと思います」


「? なら、どうして解る」


ウィリアムは、その場に居るジャンダムに。


「ジャンダムさん、寝室に火を掛ける場所は?」


パッと聞かれたジャンダム。 不意にだったので、背を伸ばし。


「あ・・、一応は、ランプが」


そんな事などと思うマッジオスは、ウィリアムへ。


「寝室に灯りを入れられるなど、何処でも当たり前ではないか。 今どき、下町のボロ屋でも当然だぞ」


すると、フラックターとジャンダムが見合い。


「あ゛っ」


二人が思い出すのは、被害者である老婆の家。 寝室には、火を入れられるランプらしき物は無かった。

普通なら、蝋燭を掛ける簡易的な蝋燭立てぐらいは、有っても良さそうなのに。


ウィリアムは、まるであの家に居るかの様に。


「それだけじゃない。 他にも、寝室には不自然な点が在ります」


見てないスティールは、探る様に。


「お前・・、何を見つけた?」


すると此処で、ニヤリと口元を捻るウィリアムは、皆を見て。


「今夜は嵐です。 あの老婆の家に行けるのは、今夜が丁度いい。 どうです、これから行きませんか? その不自然を見に」


マッジオスは、“猛牛”と異名を取るままに。


「おしっ! 臨む所は、今ぞな」


と、拳を作って応えた。


「え? この嵐の中をかい?」


と、聞き返すフラックターだが。


そこで、いきなりまた、入口が開いた。


「遅くなったな。 嵐の中でも行ける馬車を、こうして用意したぞ」


突然に現れた人物。 それは、ハイドゥン卿その人だった。

どうも、騎龍です^^



ご愛読、ありがとう御座います^人^

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