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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
132/222

ウィリアム編・Ⅳ

                      冒険者探偵ウィリアム


                  それは、街角の知らぬ間に潜む悪意 7


                   ≪突発的に起こる不自然なる騒動≫



突如、廊下で起こった騒ぎ。 それは、ウィリアムに予感を与えた。 この事件を素早く解決するいとぐちだと。


フラックターを迫立たせたウィリアムは、廊下に出て立ち竦む役人の一人を捕まえる様に言含める。


フラックターは、廊下でオロオロとしている痩せた役人を見つけ。


(ウィリアムさん、なら・・あの人にしましょう。 彼は、キキル刑事官の下で働く者です)


ウィリアムは、申し分ないと頷いた。


大廊下の片側。 長い廊下の所々にポン・・ポン設けられた窓が、やや高みの角度から、鈍い陽の光を廊下へと伸ばす。 その窓側に寄って佇む気弱そうな小柄の中年男が、一人でモジモジ・オロオロとしていた。


スティールは、近付く事で見るその小柄な男が、役人と云う仕事が勤まるのかと思える程に痩せているので。


(おいおい、こんな奴が悪党相手に立ち向かえるのかよ)


と、内心に呆れた。


その小柄な男性、気弱そうな印象もさる事ながら。 ガリガリに痩せた容姿に纏う正式な繋ぎの制服もダボダボして、腕や足の裾はまくって有る。 顔ものっぺりとした瓜顔で、それが干からびた様に痩せているのだ。 見た印象からして、キキルと云う刑事官の小間使いではないかと思える。


ウィリアム達より二歩先を行くフラックターは、その男に近付き。


「スイマセン。 今、廊下で大声が聞こえましたが・・、どうしましたか?」


声を掛けるフラックターを、その気弱そうな男性が見れば。


「あっ、・・いや・・その……」


明らかに、少し警戒した顔をする。 謹慎中のラインレイド刑事官とは、義理の兄弟に当たるフラックターの事は、この男性も知っているらしい。


フラックターは、邪気の無い笑みの顔で。


「今、キキル刑事官は、外に出ていると言ってましたが・・。 自分は、先程に下で見かけましたよ」


すると男性役人は、大いに慌て。


「え゛っ?! 本当ですかっ?!!」


「はい。 容疑者などを収容した地下房の階段へと…」


すると、その気弱な男性は卒倒しそな素振りで伸び上がる。 背の低い男性だが、それが飛び上がりそうなのだ。 まるで、脅かされた野うさぎが藪から飛び出す様で有る。


「あわわわっ、マッ・不味いっ!!」


その小柄な役人が、廊下の向こうへと振り向こうとするのだが。 フラックターは、その男性の腕を掴み。


「あの、何が有りました?」


すると、慌てる男性は、もうその手を振り解こうと。


「放して下さいっ」


と、云う。 明らかに慌て、何かを隠していると思われる素振りであった。


だが、捕まえるのは、ウィリアムやスティールの手も在り。


ウィリアムが。


「随分と慌ててますねぇ。 先程行った大声の主に、キキル刑事官の居場所を言いに行きましょう」


と、フラックターへ言ってから。 今度は、捕まえている小柄な男に。


何を言いに行こうとしたかは知りませんが。 地下の牢屋へ行く理由は、貴方が知って居そうな感じですね。 一緒に行きましょうか」


男が最も嫌がる事と思える事を、穏やかな顔をして云う。


慌てた男性は、その申し出を聞いた瞬間に。


「え゛゛っ?!!」


と、目を丸くして固まるのだ。


その顔の滑稽さと来たら。 スティールは、顔芸をする芸人の様で、思わず失笑仕掛ける程。


ウィリアムの提案を聞くフラックターは、確かにそれがいいと。


「そうですね、急ぎの用事なら、そのほうがいい」


と、同意する。


捕まった男性は、ウィリアムとフラックターを何度も見交わしては、もう口元を歪めてフラフラに為り。


「放して下さい・・。 お願いしますから、放して下さいぃぃ」


フラックターは、ウィリアムと目配せを交わしてから。


「今、此処を通ったのは、一体何方ですか?」


すると。


「嗚呼・・、キキル様…スミマセン」


気弱そうな男性は、そう呟くと。


「軍部の規律・詰問役で有る監査位に就く方です・・。 お・お兄様が捕まって……」


不思議な事も有ると、フラックターは思い。


「何かしたんでしょうか?」


すると、気弱な男性は、涙を浮かべて。


「だからっ! ・・あの老婆殺害の事件で・・関係者としてっ!!」


と、声を荒らげる。 言いたくないのに、言わされている様な感じでだ。


だが。 これには、フラックターやウィリアムも何が何だか解らない。 フラックターは、更に。


「一体、何方なんですか?」


「そっ其処まで聞くんですかぁっ?!」


すると、ウィリアムは袖を引き。


「これは、益々引き渡した方が宜しいのでは?」


と、フラックターに問う。


これには、もう小柄な男性が泣き出し。


「やめ・・止めてっ。 云いますっ、云いますぅぅ。 宿屋の夫婦と一緒に捕まった・・魚屋の主です」


と、云うと…。


ウィリアムは、ハッとして。


「あ・・、ジュリエットさんを送り迎えしていた御者の男性? 確か、大柄な初老の商人・・だった様な……」


フラックターも、確かに報告書で読んだと。


「あぁ・・、その人か」


すると、気弱な男性は、非力ながらももがき出し。


「もうっ、放して下さいよっ!! キキル刑事官にっ、この事を報告しないとっ!!」


と、ピーピー小鳥が煩くする様に言い出す。


其処へ、エリザを馬車に乗るまで見送ったあの男性役人が戻って来て。


「一体、どうしましたか?」


と、尋ねて来る。


フラックターは、どうしていいものかと。


「ウィリアムさん、どうしましょ」


「何を言ってるんですか。 この彼を、その軍人さんが向かったお偉方の所に連行しましょう。 万が一、彼がキキル刑事官に何か言ったら、逃げ出すかも知れませんよ」


「あ゛っ、そっ・そうですね」


こうして、気弱な男性役人のムムナンを伴い。 あの捜査を手伝って貰っている男性役人のジャンダムと共に、刑事部総括責任の長であるアリマ長官を訪ねていく事にした。


この施設は、軍部・刑事部・裁判部の三部が入っていて。 それぞれに独立した管轄に成っていた。 正直、刑事部と裁判部は、付き合いが認められておらず。 また、軍部と刑事部は、警備上の付き合いから、仲が良い。 刑事部の総括責任者と、軍部の上層部は貴族が殆どなので、非常に仲が良かったと言えよう。


キキル刑事官が独断で強引な捜査をしている事で、その仲に石を投げて波紋を呼びそうな事態に成りかけていた。


役人ムムナンを伴ったウィリアム一行が、4階の統括室を訪ねた時。 部屋の中では、凄まじい剣幕で喚く中年の偉丈夫と。 困惑に面食らって、椅子に座る老人が居た。


喚く偉丈夫は、如何にも武人然とした印象の人物で。 その発する声も轟々と勇ましく。 上質な背凭れの長い椅子に座る老人を、声だけで圧潰さんばかりの勢いだった。


其処へ。


「失礼します」


部屋に付く男性秘書官が、ドアを開けて広々とした趣有る統括室に声を出す。


「なっ、何じゃ?」


と、灰色の立派な制服に身を包む老人が声を返し。


「おいっ、今は立て込んで居るのだぞっ!!」


と、紺色の軍服に身を包む偉丈夫が、水を刺されて苛立ちをぶちまける。


重厚な容姿と光沢の美しい机を挟んで居るその二人へ、秘書官は続け。


「ですが、キキル刑事官の事の様でして・・」


軍人らしき偉丈夫は、“キキル”の名前を聞いた途端。 ギロリと眼を光らせては、秘書官の方に体を向いて。


「何だとぉっ?!」


同時に。 顎に細い髭を垂らす老人長官も、また。


「何用じゃ?」


と、用向きを聞く体勢に成った。


「は。 中央よりお出でのフラックター様が、キキル刑事官の配下の者を連行したと。 廊下では、キキル刑事官は出払っていると聞いたらしいのですが。 フラックター様は、2階の牢屋に向かう別階段当たりで、キキル刑事官を見掛けたと云うのです」


偉丈夫と老人は、互いに眼を交わす。


何も言わなくなった雰囲気が異常で、困惑の秘書官は半身に成りながら。


「今、後ろに居りますが・・、如何致しますか?」


と、その場に問うた。


偉丈夫を見て頷く老人は、直ぐに。


「入れるのじゃっ」


と、声を飛ばした。




………。




その頃。


街を東西へと貫き。 湖の前を通り抜ける大通りの東側。 何家族もが住める集合住宅の高い建物も並ぶ中に、ジュリエットの実家が在った。 茶色のレンガが外壁を造り、屋根は落ち着いた黒の平らな円屋根である。 円筒の3階建てで、周囲の四角い住宅に比べると、目立つ建物では在る。


その一階にて。 雨が窓を打ち、伝う雫が下へと降りるのを見る女性が。


「はぁ・・」


と、溜め息をつく。


一階の窓から外を見るのはクローリアである。 家を取り囲む様に集まった馬車の異様さに、呆れて溜め息をするのだ。


(こんな事が、お話以外で起こるなんて・・)


美少女ジュリエットに、求婚を願い出る貴族や商人の息子に加え。 いい年をした大人ですらうら若い美少女を求めて、こうして馬車に従者を乗せて派遣している。


何で此処までするのか・・。 と、思えるのだが。


今まで、彼等はジュリエットに出会える事が無かったらしい。 両親は、ジュリエットを箱飼いするようにして、専用の御者と馬車を雇い。 少数の女性のみが通える学習院へと通わせていた。 貴族のレディが、勉強と礼儀を学べる場所らしく。 基本的にその敷地内へは、限られた男性以外は入れない。 詰まりは、男子禁制の場所ならしい。


確かに、そうそうは居ない美女のジュリエットだが。 今まで外に出る時は、未亡人などが被る黒い帽子を被り。 通学時ですら、顔は良く見えないままに過ごさせていたらしい。 噂だけに聞く美女と云うジュリエットで、今までは防御壁の様に両親が守っていた。


が。


今回に至り、初めてジュリエットの顔が見えた訳だ。 噂に違わぬ美少女の美貌に、想いを寄せていたドラ息子などは、一気に色めき立って興奮している。 ある意味、一過性の異常が起こったと言っていい。 綺麗な女性なら、他にも居る訳で。 別に、ジュリエットが神の如き力を持っている訳でも無い。


だが、求めてきた男達にとっては、金を積んだり権力をチラつかせたりしてまでも求めたジュリエットであり。 素顔がベールを脱いで露に成り、障壁が無くなった事で暴徒の様に暴走していると言って良かった。


さて。


「クローリア。 外の様子は、どうだ?」


温かい紅茶の入ったカップを二つ持つリネットが、寝泊りを許される二階から降りてくる。 一階には、人を近寄せぬ為と、警戒する意味で灯りが無い。 庭を窺える窓以外は、殆どしっかりと戸締りされ。 忍び込もうとするなら、何処かの鍵を破らなければ成らない状態なのである。 薄暗い広間には、肌寒い空気だけが垂れ込めているだけだった。


「はぁ~、異常ですわ。 役人の方々が昨日は居ましたのに・・。 今では、姿形も見えません。 何かしらの権力が働いたとしか考えられませんわ」


テーブルにカップを置いたリネットは、聞くのも嫌だと云う首振りをして。


「下らん。 男とは、どうしてこうも下らないのか」


同意の気持ちが強いクローリアは、苦笑いで。


「ですが、恋心も併せ持たないなら、男女の関係も子孫を残す事も難しいですわよ。 確かに、この状況は異常ですが…」


クローリアの覗く窓から、一つ奥の窓に近付いたリネット。 少しだけ顔を乗り出し、隠れ見る様に外を伺い。


「だが、中には我々にまで言い寄った阿呆も居たではないか。 目当ては、上に居るジュリエットだろうに。 金を出すからだの、穢わらしいにも程が在る」


「それは、確かに」


馬車が壁を作る様にして、大通りから枝分かれる路地を占拠する様子を見たリネットは、窓から少し離れては上を向き。


「しかし、今の時勢にあの様な箱入り育ちの者が居るとはな・・。 正直、両親が死んだら、生きていけるか心配だ」


クローリアは、リネットが他人を心配するとは面白いと薄く笑った。


薄暗い中で、二人は外を伺いながら色々と話をする。 何時しか紅茶は冷め。 もうカップの底に僅かに残るのみと為って行った。 雨音が次第に強く為りつつ有るのに気付く頃には、もう昼と成っていた…。





                        ★




その日の昼。


警察局部では、かなりの混乱が起こっていた。


その端は、軍部の内部規律の乱れを正したり、捕虜等の詰問・調査をする軍部の監査役が。 言い掛かりに近い理由から拘留される兄との面会を求めた事から始まる。


この兄というのは、元は軍人だが。 事故が元で片足・片目を悪くした人物で。 伯爵の家柄ながら、家督を弟に譲り。 好きな商売をしながら、穏やかに生きる御仁らしい。 名前をオルトリクスと云う。


そのオルトリクス氏は、馬の扱いにも長け、実に実直で大らかな性格を乞われ。 ジュリエットの夫婦から、ジュリエットの送り迎えなどを頼まれていた。 元々から家が裏手と云う間近同士で在ると云う事と。 過去には、幼女の頃のジュリエットを付け狙うタチの悪い男を、このオルトリクス氏が捕まえ懲らしめた経緯も在った。


なにより、身体に障害を負うオルトリクス氏は、魚の目利きが出来なかった。 その肩代わりを、ジュリエットの母親が代行している。 商売と料理人と云う意味で、しっかりと共同していたお互いなのだ。 しかも、オルトリクスの一人娘は、ジュリエットの両親から料理の手解きを受け。 今では、交易商人と結婚して、大きな店を持つオーナーでも有る。


この関係を聞けば、この両家族が如何に深い繋がりで歩んで来たかが解るだろう。


さて。


ジュリエットの両親が逮捕されるに当って、金貸しの老婆に会う場に立会人としても出席したオルトリクス氏。 キキル刑事官は、その素性も良く確かめず、強引に捕縛。 一応は貴族の身内と知ったが、もう家督を放しているので、勝手な判断で拘留したのである。


ウィリアム達がムムナンを連れて、刑事部を総括する長官アリマ氏に面会し。 同時に、オルトリクス氏の弟で、サゼルハイム家の家督を受け継ぐハイドゥン卿に出会う事に成った。


ムムナンが頑なに口を閉ざす中。 一連の流れを聞く前に、キキル刑事官をアリマ長官の前に連行する事態に成ったのだが。 いざ探せば、キキルは姿を消していた。 背丈が高く、カマキリの様な容姿のキキル刑事官は、非常に目立つ。 呼びに行った役人と一歩違いで、部下数人を連れて外に出たと云う話しが聞けた。


処が。 問題は、それだけでは無い。


強引に拘留されていた人々が解放されたのだが、酷い暴行を受けた者が多数居た。 見張りをしていたキキル刑事官の部下が、状況も知らずに現れたハイドゥン卿やフラックターに脅迫じみた言葉を投げ掛け。 実の兄が暴行を受け牢屋に倒れているのを見て怒り狂いそうなハイドゥン卿は、愛用の軍刀を引き抜く。 怒声が牢屋の並ぶ階を木霊し。 警察局部の内部で、軍人が役人を捕り物にする異常な事態へと発展した。


薄暗い岩の部屋である牢屋は、環境が宜しくない。 怪我人を診たウィリアムは、傷が化膿しているのを見て、鋭い口調で緊急事態を訴えた。


ジュリエットの両親は、最も最近に老婆から金を借りた人物である。 しかも、当夜のアリバイを捏造しようとして、嘘の証言を強要したらしく。 拒んだ夫婦二人と、その言い掛かりに反論したオルトリクス氏は、酷い暴力の痕が見られた。


また、老婆の金貸しを手伝っていた二人もまた、老婆殺害。 若しくは、老婆殺害の情報を聞き出す為に、許可も取らずして折檻をされた様だった。


大男で、知恵の回らないソナーンは、顎の骨が壊され。 治っても、まともに喋れない程。


一方のオズワルドは、感染症に至って高熱を発していた。


この時、ウィリアムが始めて怒りを顔に浮かべ。


「酷すぎる・・」


と、眼を鋭くさせた。


それを見るスティールは、同じ思いながら。


(これで、ウィリアムも本気に成るな)


表向きに正義感が見えるのはスティールだろうが。 本質的に人間の汚い歪みを憎むのは、ウィリアムの方である。 その逆鱗に触れたなら、どんな悪党も首を洗う必要が有るとスティールは思っていた。


一般の医者に入って貰う事で、軍医施設として稼働している施設に、掴まっていた人々が緊急で運ばれた。


キキル刑事官の捜索が、別の刑事官の元で始まる。 アリマ長官が、そうゆう風に命令を出した。 ロファンソマを治める統括長官にも、兄であるキキル刑事官を匿わない様にと云う要望書も出した。


そして、ゴタゴタに対して、様々な手が動き出す頃。 ウィリアム達とフラックターが、アリマ氏の元に再度呼ばれた。


其処には、事の始末までを見届けようと、ハイドゥン氏も立ち会う。


午後の昼下がりだった。 少し降り方の強まる雨が続き。 風が南から吹き始め、少し暖かく感じられ始めた頃合い。


アリマ長官の机の前に立つフラックター。 ウィリアムとスティールは、その後ろに立つ。


キキル刑事官の暴走を知り、酷く困惑したアリマ長官である。 愛用の円帽子もズレ掛けていて。


「ふぅ~、中央からお出での、情報集積部長フラックター殿。 この度は、我が内部の非道を知らせてくれて、感謝致す。 所で、貴殿は何用で・・動いて居るのじゃろうか。 この非道を、中央へ報告する為かのぉ」


アリマ長官の内心を想い、姿勢を正すフラックターで。


「今回は、中央で起こった或る事件の情報収拾に参りました。 ですが、アリマ長官もご存知でしょが。 キキル刑事官の携わった今回の事件で、我が義兄様が疑われました」


もう冷めた紅茶を、喉を潤す意味で飲んだアリマ長官。


「・・確かに」


「キキル刑事官は、今まで仕事を本気にした事が全く無い人物であったのに。 今回に限っては、異常な思い込みで義兄様に罪を被せるべく、冤罪も構わない様な命令を出して動いて居ます。 これは、今までに無かった事で在り。 また、そうせざる得ない状況が在ったのでは? と、そう思えて成りません。 ですから、我が義兄様の濡れ衣を解き、正しい解決を行われる様な情報を集めようと思い立ち。 今回は、仕事の傍らで、行動に出ました」


「ふむぅ」


瞑目するマリマ長官は、考えに落ちる。


そこで。 アリマ長官の横に置かれた椅子に座っていたハイドゥン卿が、何故か立ち上がり。


「だが、フラックター殿とやら。 いくら事情が有ろうが、その様な冒険者の力を借りるとは・・。 些か、不可思議だと思われる」


すると、顔を強ばらせるフラックターは、少し力む様にして。


「ハイドゥン卿っ。 私とて、これでも役人の端くれ。 その辺に居る冒険者の力を、過信して借りる気など無いっ」


と、言い切る。


ハイドゥン卿は、アリマ長官の脇に来て。


「ならば、何故に?」


フラックターは、ある意味の才能を見込んでウィリアムを頼った。 ロレンツやリオンが褒めたウィリアムであり、尊敬もしている。


だから・・。


「貴族のハイドゥン卿なれど、このお二人には敬意を払うべきですぞっ。 同じ貴族の犯した巨悪の過ちを、見事に解決されたのだから」


と、強く言った。


この言葉に、アリマ長官は眼を開き。 ハイドゥン卿は、ウィリアムとスティールを見た。


「この二人が・・か?」


と、云うハイドゥン卿だが。


アリマ長官は、フラックターを見据え。


「確か、フラックター殿が手柄を挙げたのは・・公爵殿下オグリ卿の関わる事件でしたな?」


フラックターは、この二人きりしか居ないからと覚悟し。


「そうです。 あの時、一人の若い女性が、犯人に仕立てられました。 その無実の罪を王子に訴え、見事解決まで導いたのが、此方に居るウィリアム殿」


ハイドゥン卿とアリマ長官の目が、ウィリアムに向かった。


フラックターは、更に続け。


「この街で、ウィリアムさんを見掛けて運命だと思いました。 自分一人では、今だに未熟で。 義兄様の無実をどう晴らせば良いか解らず、困っていました。 ですが、其処に彼が見えた。 しかも、部屋の外で控える役人のジャンダム殿。 そして、昨夜に検死を行なってくれた医師に聞けば、このウィリアムさんの能力が解りましょう」


「能力・・とな?」


「はい、長官殿。 遺体も無い現場を見て、彼は今の現場が殺害の現場では無い事を言いました。 犯人が行なった小細工も、見事に言い当てました。 彼は、薬師としての技能で、リオン王子の目の前で悪徳商人ホローが隠す禁制の薬を見破り。 此処に至っては、医師の手伝いをしてた経緯から、不自然な現場の違和を言い当てました。 彼が協力するなら、この事件も解決出来ましょう。 優秀な義兄様居らぬ中で、彼抜きでは事件の解決が何時に成るか解りません」


フラックターは、気負うぐらいに胸を張り。 自分には、ウィリアムが居れば…。 と、云う様な、絶対の自信が有るぐらいの様子で言う。


その話を黙って聞くスティールは、フラックターが必死に頑張ってると思えた。


(アハメイルで会った時とは、少し違って来てらぁ~ね。 役職に就いて、成長してんだなぁ)


さて。


そんなフラックターを見つめたアリマ長官は、静かに俯いて溜め息を一つ吐き。 その後、顔を上げて思うままに言葉を述べた………。




                        ★




午後が過ぎてゆく中。 ウィリアムの予想通り、嵐でも来そうな強い風が吹く。 重々しい雨雲が垂れ込め、鉛色の雲が生き物の様に蠢いて流れていた。


何時もは賑わう街中も、この天候では人が少なく。 うら若い女性や家族連れが集まる湖にも、人気が全く見えない。


昼間に白んだ空が黒々とし出して、夕方に近付こうと云う頃合いだろうか。


ジュリエットの家にて。 リネット、クローリアの女性二人が、他愛ない話やこれからの事を話込んでいる最中に。


「なぁ、相談在るんだがよ」


と、アクトルの声がする。


女性二人が声の方に振り向けば、アクトルが暗がりの階段の所に顔を見せている。


「何だ?」


「何か、妙案でも?」


一階に降りてきたアクトルは、小難しい顔をして来て。


「この際だからよ。 俺達が泊まってる宿に、彼女を連れていかないか?」


女性二人は、キョトンとしてからお互いで見合い。 また、アクトルに顔を向けると、先にリネットが。


「御老人は?」


「一緒に。 先に宿へ話付けて、金を払おう。 俺達の部屋は、運のいい事に隣だろ? 親が働いてる宿だし、向こうの方が見張る役人も少なくて済む。 女の役人でも一人二人居てくれれば、後はリネットやクローリアが居れば大丈夫だろう」


クローリアは、馬車が通りを占拠しているのを見て。


「ですが・・」


ジュリエットの事で、此処に押し込められていると云う事実からして。 黙って居るのが嫌になり、頭痛のしそうな頭を抱えるアクトルで在り。


「とにかく、ウィリアムに相談しようゼ。 流石に、この状況は面倒だ。 アイツが役人と一緒だから、アイツの伝から役人の偉いさんに掛け合おう。 俺達だけじゃ、何れ権力でこられたら大事に成るぞ」


昨日には、家から追い出そうとした時。 大声を出して、権力を振り翳さんばかりに息巻く貴族の息子たち。 その出来事をリネットは思い出し。


「確かに、我々を排除するとか言ってたな」


リネットと見合うクローリアは、外に出るのも怖いので。


「ですが・・、どうやって?」


「そうだなぁ~、それが問題だ」


三人三様で考え込むのだが。 そうこうしていると…。


「あら?」


外が急に騒がしく成り始めたと、クローリアが窓の外を見る。


「どうしたのだ? 何か在ったか?」


と、リネットも外を見れば。 何故か、馬車から次々と御者や従者らしき者が降り。 大通りから伸びる脇道を、大通りの方面に向かって歩いていくではないか。


クローリアは、御者や従者等の黒い衣服の男性達が、少し変わった繋ぎの制服を着た役人らしき数人に追い立てられ出す様子を見て。


「まぁ、役人の方が・・」


と、声を出した。


同じく、見ていたリネットも。


「ほう、こんな事が…。 流石に、住宅区の通りを占拠しているのが通報でも受けたか? 漸く、役人が追い払いを始めた」


アクトルは、これは有り難いと。


「よし、役人にもう一度掛け合おう」


と、表玄関のドアに向かった。


クローリアは、リネットに。


「これで、少しは安心出来ますわね。 正直、昨夜は寝てませんの」


クローリアの言葉を受けたリネットは、窓の外を見ながら。


「ま、目の下に出来た隈を見れば解る」


「まぁ」


窓に移る顔を慌てて見るクローリアは、横に向いて両目を揉み出した。


さて。


ドアを開け、小雨が続く外に出たアクトルだったが・・。


「お・・、あっ?」


“おーい”と声を掛けようとした時である。 退いた馬車が在った場所に、何とウィリアムの姿を見て驚いた。


一方、ウィリアムもアクトルに気付き。 軽く片手を上げた。


「こらっ。 通りを勝手に占拠するなど、幾ら貴族でも罷り成らんっ。 苦情も多数寄せられているっ、早々に立ち去れぃっ」


役人の服装とは少し違う者達が、声を出す。 アクトルがよく見ると、それは兵士で在った。


「…」


流石に、兵士が来ては体裁が悪いと、ジュリエットの出待ちをしていた馬車の郡が散り出した。


ジュリエットの家の庭を歩いてくるウィリアムは、小雨の中でアクトルと会う。


「おいおい、ウィリアム・・。 兵士か?」


「はい。 通りを占拠する馬車の列に、周辺住民から苦情が来てましてね。 兵士の一団が、その聞き取りに警察局部へ来たんですよ。 役人さんは、貴族の威光に逆らえず戻ったと云う事なので。 今度は、兵士さんが追い払うと云うんでね。 丁度いいと思って、こうして御迎えに上がりました」


「“御迎えに”って・・おい」


ウィリアムは、ジュリエットの居る三階の窓を見上げ。


「捕まった彼女の両親から依頼を受け、警護や護送を引き受けていたのが軍人の親族だそうです。 その親族も殺人事件の参考人として捕まったので、ちと警察局部で騒動が起こりましてね。 今、ゴタゴタが続いてます」


アクトルは、何のこっちゃと驚きで。


「あ・・、あぁ。 詰まり……、どうゆう事だ?」


事を迅速にしたいウィリアムは、左手をアクトルに差し出し。


「いえ、細かい話は、馬車の中で。 とにかく、彼女を連れ出して下さい。 フラックターさんが、一時的な避難場所を確保して下さいましたよ」


「フラックターって、中央から来た役人の?」


「そうです」


アクトルは、良くは話が飲み込め無かった。 だが、ウィリアムのすることに、一々聞いてる間は無いと感じ。


「話してくらぁ」


「はい。 外で待機してます。 馬車も在りますから」


「おう」


アクトルは、直ぐに背を向け、家の中に逆戻りしたのである。


南から来る嵐は、何の前触れだろうか。 混乱か、それとも…。

どうも、騎龍です^^


秋が来て、雨が多くなり、。 涼しくて小説も書きやすいこの頃です。


迷い込んできた子猫と、家で生まれた子猫が走り回る様に為り。 パソコンがボコボコにされる中で製作しています^^;


年末に、ポリア編を掲載したく書き進めてまいります。


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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