二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~
セイルとユリアの大冒険 1
≪3人のそれぞれ≫
「ほほう、お孫殿であったか」
安い大衆レストランに入った3人は、賑う店内の窓側の席に座り。 丸いテーブルを囲みながら事実を打ち明け合った。
実はこのセイルと云う若者は、剣神皇と呼ばれたエルオレウ・オートネイルの孫である。 但し、正当な後継者の順位としては、末っ子で3人兄妹だから、第3後継者となるか。
現・オートネイル家の当主が、セイルの父親のサムソン・オートネイルだが。 エルオレウ・オートネイルは未だ健在で。 オートネイルの家には隠然たる影響力を持っている。 エルオレウ氏は、60過ぎで隠居に入り。 一族の運営する孤児院や病院や武道施設の管理者として悠々自適な生活をしているとか。
ユリアは、見たとおりの活発な少女で。 年齢も16歳と、セイルと同い年。 産まれて直ぐに棄てられた孤児らしい。 だが、クラークの目にも、彼女のあっけらかんとしている様子は良く見える。 生まれに全く捻くれていないのは、ユリアの魅力に繋がっていた。
「ま~、セイルのおじ~ちゃんの運営する孤児院に拾われたのが運命だったみたいね~」
ステーキを切りながらユリアは、ワインを飲むクラークに言った。
「ふむ、苦労しているな・・。 その点で言うなら、わしは一応貴族の生まれでな」
“貴族”と聞いてユリアは、直ぐに話しに飛びつき。
「すっごいお城みたいな家とか?」
クラークは、そう言われて苦笑する。
「ああ、凄い広い庭と小さいながら湖を所持する公爵の家だ」
「わぁ~お」
瞳を輝かせて驚くユリアに。
「モグモグ・・・すごいね~」
と、ニコニコで食事するセイル。
クラークは、グラスに注いだワインを口に含んでから。
「いやいや、ワシも二男の産まれでな~。 適当に政務に付いて、土地の一部を分割して貰えると云われたんだが・・。 ど~も、武術を習った手前に冒険者に憧れてな。 18で、飛び出したままだ」
セイルは、マナーの行き届いた作法でライスを口に運んでから。
「クラ~クさんは、お幾つになるんですか~?」
「お、ワシか。 今年の暮れで、42歳だな」
ユリアは、凄い年上に驚いた顔をして。
「うわっ、すっごいオッサンだ~」
クラークは、微笑んで。
「うむ、飲み屋で綺麗なオネ~サンにもそう云われる。 あはははは」
ユリアとセイルの瞳に映るクラークは、不思議な印象の中年だ。 貴族のクセして、偉ぶった印象が見えない。 冒険者として相当有名なのに。 駆け出しのユリアやセイルと同じ目線で物事を話す。 確かに、しっかりした人物らしい。
ユリアは、ニンジンのグラッセを食べながら。
「モグモグ・・・でも・・モグ・・クラークさんも・・不思議よね。 な~んで、チーム棄てちゃったの? リーダーなのに・・・」
セイルも、横で頷いてから。
「でも、僕達助かったけどね~。 あははは」
すると、クラークはワイングラスを片手に、テーブルに肘を付いて。
「いや~な。 それが、大変だったんだ。 チームに加えた若い女を巡って、元々チームに居た二人の魔法遣いと学者が喧嘩するし。 神官のお年を召された年増の女性が嫉妬してワシに毎日文句を言う。 他にも色々とチーム事情が交錯してな。 頭に来て、解散しようと思ったんだが・・。 どいつもこいつも有名に成ったチームは棄てたくないと我儘をな~。 だから、面倒に成って、チームから抜けたのだよ」
「マジ? 毎日が修羅場じゃん」
ユリアの言葉に、困った皺を眉間に寄せてクラークは真剣に頷き。
「うむ、修羅場だ、正しく修羅場。 ま、その仲間の一人がどうしてもリーダーをやりたいと言うしな。 ワシが抜ける事に異論は出たが、人間は去る者は直ぐに飽きるモノだ。 2日で、抜ける事が決まったよ」
セイルも、話が話なだけに。
「スゴ~。 初めて聞きました~」
と、半笑い顔。
考えるユリアは、困惑の顔で。
「でも、クラークさん」
「ン?」
「そうゆう事情なら、尚更早く色々と仕事を請けられる様に、もっと有名なチームに加わった方が良かったんじゃないの? やっぱり、アタシ達は・・・エルオレウ様に縁有るってだけで、駆け出しだし・・・」
クラークは、ユリアが気の強いと同じ位に人を思う思慮が在ると思いながら。
「いやいや。 実はこの世界もそうは簡単では無いのだよ。 特にこの道はな・・」
「そうなの?」
ユリアは、セイルと見合ってからクラークを二人で見た。
クラークは、しみじみと壁の洒落たグラスランプを見ながら。
「生じ、中途半端なチームに入ると、似合わぬ無理をチームがしたり、ワシの実力を自分達の実力と勘違いする輩も出る。 何より、チームのリーダーがコロコロと後から入れた者に変わっては、意見も信頼も揺らいでしまい、つまりは仕事に命を張れない。 それなら、チーム名が凄くて、あのエルオレウ殿のお孫殿のリーダーの下に入った方が、お気楽極楽じゃわい。 ガハハハハ」
と、一転して陽気に笑う。
「ナルホド・・・」
と、ユリアは納得してから、クラークに小声で。
「あ、一応・・・セイルの生まれはナイショだよ・・。 世界一位の金持ち財閥の孫だなんて、マジでお金が歩いてるのと一緒だから・・」
クラークも、生じ爵位のある家柄の産まれで理解している。
「ウム、他言無用だな。 誘拐されても、不思議じゃない」
その、本人は。
「あはははは~、イエ~イ」
と、Ⅴサインを出す。
グッと拳を構えて青筋を浮かべたユリアは、その頭を“スパコーン!!”と小気味良く叩いた。
「フザケんなっ・・・」
涙目のセイルは、笑顔のままに。
「ス・・スミマセン・・・」
クラークは、ユリアの叩きが異常に素早くて。
(は・・早い・・・デキるな・・・)
と、感心である。
さて、チームを結成してその日。 3人は、早々と明日にでも仕事を請けようと斡旋所の宿に泊まる事にした。
雪が粉雪から、積もる雪に変わりそうな夜。
宿に泊まる手配をする中でクラークの見るセイルとユリアは、旅が初めてとは思えない程に落ち着いている。
(ふむ、行く行くは羽ばたくかもな・・。 面白い二人だ)
と、数年後を予想しながら、斡旋所を見下ろせる内廊下を歩いて個別の部屋に入った。
クラークの出現は、セイルとユリアにとっては大いなるプラスだったのかもしれない。 また、セイルとユリアにとっても、クラークの存在は嬉しい存在だった。
≪クラークさんとカミーラさん≫
このフラストマド大王国の首都から上は、これからの時期に2・3ヶ月ほど極夜の状態に近付いてゆく。 つまり、日中の太陽が出る時間がどんどん少なくなり、150日程続く極夜のピーク時は、25日前後が丸々夜の様に暗くなるのだ。
フラストマド大王国は、周りの国々よりも国土が大きいだけでは無く。 上の北側に大陸が突き出す特殊な地形に国があり。 内陸は海抜がやや高くて、冬は極寒になる地域が多いのも特徴であった。
さて、次の日の朝。
「ふあ~・・・」
良く寝た感じのユリアだが、淡い紫の下着姿で毛布に包りながら窓の外を見れば、暗い曇り空が暗雲立ち込めた様に見える。 まだ、雪がチラついていて、寒空が怖いくらいであった。
「うはあ~・・。 コレが極夜かぁ・・。 丸で夜みたい。 でも、今頃だとまだお昼前には朝が来るって聞いた様な・・」
セイルの話であった。 ユリアとセイルは、昨日は南の陸路から馬車に乗せて貰ってアクストムに入ったが。 入ったのは夕方頃で、極夜の本当の体験は今日が始めてである。
さて。 もう、朝方の仕事に向かう人々は起き出して、街中を歩いている。
着替えて起き出したユリアは、木造の宿屋内の内廊下を歩き、シャンデリアが灯る明かりで吹き抜けの下に見える斡旋所を見下ろしていた。
「アレ、もうセイルもクラークさんも起きてる・・」
見下ろす1階のロビー兼斡旋所は、何か慌しい。 空中にピンと張られた鉄線が何本も張り巡らされ。 その鉄線から、斡旋所を照らすランプが何十と空中に吊り下げられている。 そのランプに、こんなに早い時間から灯りが入り。 その灯りの下で、早々と何十人もの冒険者達が起きて集まっては。 騒々しく話し合っている。
(あらら?)
ユリアは、何か胸騒ぎが起こって、緑のステッキを片手に荷物を背負い直して下に急いだ。
一般公開の仕事の張り紙がしてある掲示板が並ぶ列の脇に、セイルとクラークが立ってカウンターを見ている。
其処に。
「どうしたの、なんか騒がしいけど」
と、ユリアが合流した。
セイルは、微笑む顔は何時もながら。 言葉遣いを幾分しっかりさせて。
「ン~。 なんでも、子供達が居なくなったんだって~」
と、カウンターを指差す。
「え゛っ」
驚き、カウンターを見るユリアに、頭上からクラークが。
「消えた子供達の中に、どうやら斡旋所の主の孫も含まれてるらしくてな。 昨日の夜に、泊り掛けで遊びに来ていた農村地区の子供と、主の孫を含む町の子供たちが、コッソリと肝試しに行くと消えたらしい」
ユリアは、街中には怖いスラムなども在るのを良く知っている。
「あちゃ~、事件に巻き込まれてないといいけど・・・」
と、心配してから。 辺りの慌しい雰囲気に。
「でも・・・何で斡旋所が・・騒々しいの?」
セイルが、ユリアに向いて顔を寄せると。
「その捜索を、請けたいチームに依頼するんだって~。 一刻も早く見つけて欲しいから、公募依頼にするらしいよ~」
ユリアは、聞いた事の無い話に。
「こ・“公募・・依頼”?」
クラークは、慌しく受付を行っているカウンターを見ながら。
「請けたいチーム全てに依頼を請けさせて、一番早く依頼を達成したチームに報酬を払う依頼の請けさせ方だ。 確かな情報だけでも、少しの報酬が出るし、云わばレース型の仕事だな」
「はあ~・・・、初めて聞いた・・」
驚くユリアに、セイルは二カッと笑って。
「もう、僕がと~ろくしちゃったモンね~。 一発目のお仕事は、これで決まり」
頷いたユリアは、真面目なしっかりした顔で。
「そうね。 お金云々より、人助けだわ。 子供達、心配だわね」
セイルとユリアは、マーケット・ハーナスでは孤児院の年長組みだ。 年下の子供達を面倒見たり、世話したり、読み書きを教えたりしていた。 そうゆう意味では、セイルは非常に優秀であったとか。
さて、後少しで受付が終わると云う報告が斡旋所に通達された。
チームの中には、昨日の今日で。 セイル達に・・・特にクラークに対抗意識を見せる様に意識して此方を見てくる冒険者達が居る。
ユリアからするなら。
“くっだらない。 人の命が懸かってるのに・・・アホ丸出しじゃない・・”
クラークも、同感過ぎて相手を見る気に成らなかった。
そんな中で、3人の前に赤髪が短めのボーイッシュな雰囲気の女性らしき人物が寄って来た。
「そなた等か?、有名なクラーク殿と使えぬ子供二人のオンボロチームとは」
ユリア、いきなりの毒舌にムッとした。 白い、貴族特有のエレガンスな作りのピアリッジコートに身を包み、前は止めずにベルト以外は開けっ放し。 腰には、細身の細剣が佩かれ。 皮のブーツ、短いスカートから覗ける足には、太股と膝に黒い皮のプロテクターが。 上半身には、右肩を基点に、身体を巻き包む様な金属のベルトの様な鎧を着ている。
「初対面のクセに、礼儀知らないのね。 大人でも、バカが居るってマジだわ」
怒った顔のユリアが、赤髪の女性を見てそう言った。
赤い髪の女性は、ユリアをギラリと睨む。
其処に、クラークが口を挟み。
「その赤髪、“ダークチェイサー”のカミーラ殿か?」
ボーイッシュな女性は、鋭い目線をクラークに戻し。
「ほう、妾を知っておったか」
と、背の高いクラークを上目遣いに見上げるカミーラと云う女性。
すると、クラークは真面目な顔をして。
「まあな、容姿からして。 問題を起こす面倒なチームと噂で聞いたが・・・。 噂に違わぬな」
その話に、セイルは感心の頷き。
ユリアも、納得の頷きである。
「フッ、子供の世話係に堕ちた過去の有名人に言われるとはな・・」
カミーラと云う女性は、せせら笑いに似た笑みで、クラークに返す。
だが、クラークには怒る気も起きず。 また、これだけはハッキリ言えると確信が有った。
「何を云うのも勝手だが、私から見て一つ言える事がある」
カミーラは、鋭い視線でクラークを見上げ。
「なんだ? 世迷言か?」
「いや、お主が冒険者に成った時。 今から、10年程前だったな。 依頼主に反発し、仕事を棄てた。 それから、此処まで10年か。 悪いが、お主の知名度位なら、今の我々3人でなら1年で抜ける。 それだけは、断言出来る」
クラークの言葉に、カミーラの目が冷たく感情を無くす。
「ほほう・・・随分と強く出たものだな」
「違う。 10年有れば、一角の冒険者チームならば世界に出れる。 その事を一番認識しているのはお主自身な筈だ。 10年前の一件で、お主はレッテルを貼られたが。 今まで世界に出れないのは、それが理由では無い。 お主の言動や仕事に対する姿勢であり、10年前の失敗を教訓に出来ずに逆恨みしてるからだ。 その辺の事は、冒険談義でも噂に成るほどに有名な事だ。 今更の事では無い」
クラークの言葉に、カミーラの顔が歪む程に怒りに染まった。
其処に。
「受付を終了する。 では、説明をするから、カウンターの前に集まってくれ」
老いた主の、少し疲れた声が響いた。
「おのれ・・勝負だクラーク殿。 我々が先にガキを見つけるか・・。 それとも、其方が先に見つけるか・・」
すると、ユリアは悲しい顔で。
「貴女・・・バカだわ・・・。 詰まらない女ね」
と、カウンターに歩く。
カミーラは、ユリアに殺気立った目を向けるのだが、完全に無視である。
ユリアのその後ろを、ニコニコとセイルが続く。
最後にクラークが続き。
「人の命が、子供達7名の命が危ぶまれる時に、その命を賭け事の様にしか考えられんお主の言動。 確かに、詰まらんな~」
「・・・・」
カミーラの顔が、憎しみめいた色に変わり。 クラークとユリアを異常な目つきで追っていた。
≪子供達を捜そう≫
説明がされて、一同解散と成り。 手柄を急ぐチームは、もう雪の積もる外に出て行った。
「凄い勢いですね~。 でも、参加されたチームが27チームでしたか・・。 人数も、100人を軽く超えていましたね」
感心するセイルは、腕組みしてカウンター前に立ち。 一気に人が消えた斡旋所内を見渡して言う。
「だな。 あれだけ急ぐのは情報収集だろうな」
と、クラークも自身生涯2回目の公募依頼に少し驚いていた。
ユリアは首を傾げながら。
「う~ん。 7人の子供たちが、肝試しに夜に出かけて居なくなった・・。 見つければいいのは解ったけど・・・。 何処を探せばいいやらね」
クラークは、頷いて考えながら。
「時間が過ぎてるから、雪に残る足跡も判らぬ。 皆と同じく、街中で情報収集するしか無いの」
すると、セイルはユリアに。
「でも~、ユリアちゃん」
「ん? 何?」
「うん。 これが、孤児院の子供達だったら・・・どうする?」
云われて、ユリアは考えるに。
「う~ん・・。 まあ~、先ずは残った子供達に話を聞くわよ。 大抵、同じ子供達の事は、子供が知ってるもの・・・」
セイルは変わらず微笑みながら頷いて。
「じゃ~、何で、依頼の失踪した子供たちが、“肝試し”に行ったって解るんだろう?」
クラークは、腕組みして。
「ン? それは、話を聞いていたからだろう・・。 誰か、解らないが・・」
ユリアも、クラークの言葉にウンウン頷く。
セイルは、ニッコリ微笑み。
「子供が、大人に知られたら怒られる様な事を大人に言いますか?」
クラークとユリアは、そのセイルの言葉にハッとしてお互いに見合う。
ユリアは、クラークに指差して。
「言わない・・よね?」
「うむ・。 ワシも、言った事が無い」
セイルは、カウンターに向いて。
「じょーほーしゅーしゅー、ご~」
クラークは、流石に孤児院にて、子供と遊んでいたセイルだけ在ると思い。
「ナルホド、よし」
と、カウンターに向かった。
「主殿、もう少し話をいいか?」
孫を心配して、グッタリしている老いた主は、重く首をクラークに向けた。
「ン? なんだい?」
クラークは、セイルを見てから。
「いやな。 子供たちが“肝試し”に出かけたって云う情報は・・何処から聞いたんだ?」
「ああ・・・。 昨日、泊まりに来ていた子供達は、10人近く居たんだ・・。 ウチの悪ガキと農村区の仲の良い悪ガキが二人で言い出したらしいな。 起きていたのに、孫達に着いて行かなかった子供達2人から聞いたんだ。 今でも、裏に居るよ・・。 ぐずって泣いてるが・・。 言わなかったか?」
ユリアは、脇からカウンターに顔を出して。
「ねっ、もう一度だけ、私達も話聞いていい?」
困る顔の主は、訝しげにユリアを見て。
「もう・・ワシ達が早朝に聞いたぞ・・。 新しい情報など、子供から出はせんと思うがの~」
クラークは、一つ頷いてから。
「とにかく、一番子供達に近い情報源だ。 無駄なら無駄でもいい」
「・・・解った・・」
こうして、まだまだ暗い朝。 3人は、子供達の中でも怖くて行かなかった子供達二人に接触した。 冒険者達が一気に全員去ってしまった、ガラ~ンとした斡旋所の中の大きなテーブルに、気弱そうな可愛い7歳ぐらいの男の子と、まだ5歳くらいの女の子が呼ばれた。
セイルとユリアは、子供達にホットミルクを飲ませて雑談をし始めた。
“昨日の夜は、誰の意見でお泊りする事にしたの?”
と、聞けば、女の子が。
「ジ~ン・・。 あっせんぞ・・おにいちゃん・・」
斡旋所の孫の名前は、ジーンと云うのだ。
“いつも、何処で遊んでるの?”
と、聞けば。 農村地区の子供は、学校が湖を渡らないといけない程遠いので、都市内の学校に隣接する宿舎に泊まり。 5日泊まって学校に通い、家に3・4日帰るのだそうな。 昨日は、学校が今日からお休みになるので、一日遊びで泊まる為に、皆がジーンの誘いで斡旋所の祖父の所に来たんだそうな。
クラークは、話がズレているような気がしたが、セイルとユリア二人の話を聞く事にしていると。
セイルが、落ち着き始めた気弱な男の子に向かって穏やかに。
「でも、こんな大きい都市で“肝試し”って出来るの~? 何処かに、怖い所とか有るんだ?」
すると、男の子は頷いて。
「うん。 ジーンは、武器屋のジュンガが教えてくれたって言ってた。 人の居ない所が有るって・・」
女の子も、ミルクの入ったコップを手に。
「いてた・・、こわ~いおうち~って」
ユリアは、後を汲んで。
「ねね、そのジュンガ君は、一緒に行っちゃったの?」
すると、気弱そうな男の子が、大きく首を左右に振った。
クラークは、
(ほう・・繋がった)
セイルは、小声で。
「ビンゴ~」
斡旋所の主達が知ったのが、朝方だ。 しかも、この二人はジーン達が何時までも戻って来ないままに眠くてグズリながら寝ていた所を起こされた。 焦る主が訪ねる詮索も急で、勢いに怖かったのかもしれぬ。 どうやら全てを言い切って居なかった訳だ。
武器屋の子供の居場所を教えて貰って、3人は子供達を休める為に主に終りを告げた。
≪情報の糸を手繰ろうよ≫
落胆の色を顔に浮かべて、斡旋所の主が3人を見送る中。 100人以上居た冒険者達の中でも一番遅く外に出た3人。
ユリアは、もう雪が粉雪からフワフワした雪に変わっているのを見て。
「さむ~い・・。 都市が一面白銀の世界じゃない・・」
と、皮の手袋を急いで取り出した。
周りの繁華街の屋根が、一面真っ白の雪化粧である。 空の東側が、錆行く鉛色の様な夜明けを滲ませる中。 本降りの雪は、深々と降り続きそうであった。
斡旋所の南側の入り口の前は、広い通りだ。 仕入れから戻って来たらしき手押し車を引いて木箱を運ぶ人が居たり。 厚手のコートやマントを羽織った人々が往来している。
そんな中で。 美しい顔立ちと、優しげな印象のセイルは、コートを着て道行くウラ若い女性に間近で見惚れられて。 逆に微笑み返す。
「まぁ・・」
初な女性なのか、セイルが綺麗過ぎるのか・・。 顔を赤らめて王城方面にコートを腕で抱くように側めて去って行く女性。
「おいっ」
バシっと、ユリアがセイルの頭を叩く音がして。
「あ痛っ・・」
と、セイルが前につんのめる。
ユリアは、腰に手をやり。
「サービスすんなっ!!! さっさと行くよ」
「は~い」
涙目のセイルは、苦笑の顔で後頭部を擦る。
クラークは、去った女性が清楚な雰囲気のタイプだっただけに。 セイルに近付き。
「お主・・中々やるの~」
「あはははは~」
セイルはヤケクソ笑いでいた。
斡旋所から程近い、大型の4階建てをした円筒形の商店に入った。 1階は、旅に関する用品の専門販売店であり。 2階が薬やスキル専門用品。 3・4階が武器や防具を扱っている複合店。
「うはぁ~・・・狭いぃ・・・」
1階の旅に関する店は、もう店内がアイテムだらけで、通れる隙間はユリアがどうか。 クラークでは、絶対に物を落とす。
「おう、欲しい物を言ってくれ。 昨日、大量入荷してこのザマよ。 母ちゃんが、発注の量間違えちまって、夏物まで仕入れしちまったんだ」
店の脇に居た店主が、ユリアに声を掛けてくる。
ユリアは、愛想笑いをして。
「あの~・・。 この店って、武器屋も防具屋も、オジサンの物?」
雪を避ける庇の前で、陳列した商品に雪が掛からない様に配置換えしている店主は、ユリアを見て。
「おう、上の店は俺の親父と弟家族がやってるぜ」
クラークも、雪を避けて庇に入り。
「では・・・武器屋の息子の“ジュンガ”とは。 お主の弟さんの子供か?」
店主は、急に家族の話をされて訝しげな顔に成り。 防寒具のコートに、毛皮の帽子を被った姿を仁王立ちにして。
「ああ、そうだが・・。 何だ、アンタ等?」
ユリアは、店主に近寄って。
「あのね、斡旋所の主の孫が、昨日お友達を泊まらせたらしいんだけど。 真夜中に“肝試し”に行くって言って子供達連れて何処かに行っちゃったらしいの」
「ほ~、あの悪ガキ達のしそうなこったな。 甥のジュンガも、悪戯好きで困っちゃいるが・・。 今回は関係無いだろう? 今朝も、俺達と一緒にテーブル囲んでたしな」
クラークが、頷きながら近付いて。
「うむ。 だが、行き先は知ってる可能性が在る」
「何だって?」
「どうやら、その“肝試しをし”に行った場所を教えたのが、お主の甥子さんらしいんだ。 だから、出来れば話を聞かせて貰えればと思う。 消えた子供達が怪我などしていたり、事件に巻き込まれていたら大変だ」
店の店主も、7人の子供が居なくなっているのには流石に驚いたようだ。
「いいぜ、俺が此処に連れてくる。 弟は、夏から身体を壊し休み休みだからな。 俺が、半分ジュンガの父親代わりみたいなモンだし。 待っててくれ・・」
と。 建物の裏側に消えて行った。
「なんとか、話聞けそうね」
と、ユリアはクラークを見る。
「うむ」
「セイル。 セイル?」
ユリアが振り向くと・・・。 店の前にセイルは居なかった。
「アレ? セイル~」
クラークも、周りを見てセイルが居ないのを知り。 雪の降る通りに出て左右を見渡すと。
「ん?」
通りを、来た道を戻る形で少し行った路上に、セイルが雪の降る中で通りの西側を見ている。 微笑んでいるままだが、一点を見つめていた。
クラークは、セイルに寄って行き。
「どうした、何か在ったか? 雪を被ってしまうぞ」
セイルは、ボンヤリと一点を見つめながら。
「はい・・。 そうですね。 行きましょうか」
と、クラークに振り向いた。
≪“肝試し”が出来る場所?≫
3人は、店の前で待たされていた。
「う゛~、さぶいっ」
ユリアが、店先で足踏みしている。
「だろうねぇ~。 この時期は、特に寒いから」
店の主人の代わりに店先に出て来た奥さんは、小太りな年配者だ。 頭も白い物が混じり、皺も主より多い。 だが、苦労している雰囲気の滲む男っぽい見た目通りに、ヴァイタリティーは有りそうなオバチャンであった。
話せば気風のいい奥さんで、ユリアなどはこの来たばかりの国について色々教えて貰ったり。 美味しい食事の出来る場所を教えて貰ったリ。
さて、東の空が少し白み。 夕暮れの様な暗さが少し明るく成った気がする中。
雪の降る様子を、軒下から不思議なまでに穏やかな目で見ているセイル。
並んで立つクラークは、吐く息白く。
「フム。 誰か尾行しているかな?」
「ハイ。 カミーラさんでしたか。 あの方みたいですね」
クラークも、黙って立って居ると。 何となく、視線を感じる。
「フム。 逆恨みかのぉ・・・」
と、挑発してしまった申し訳なさを目じりに滲ませてセイルを見れば。 セイルも、ニコニコした顔でクラークをみて、幾分静かに。
「かも~ですね~」
そんな中で、暇なので通りを行く人を見ていると・・・通行人の中に、切羽詰った様な会話を交わしながらに歩く冒険者の一団が見えた。
「ん・・、焦って居るな」
クラークは、その一団が自分達と同じ依頼を請けた別のチームと理解した。
セイルも。
「焦ってます~」
通行人の中に、毛皮のコートなどを着て優雅に歩く女性が出て来たり。 雪に喜ぶ子供達の一団や、買い物に来たのか親子連れが見える。
直後。 この店に、旅人がカップルで買い物に来て。 セイルとクラークの後ろで賑やかな会話が飛び交ったりする。
通勤が収束し。 朝も遅い時間帯に成った頃だ。
「おーい、遅くなった。 ジュンガを連れて来たぞ」
と、消えた店主の少し息の荒い声がした。
ユリアが、オバチャンとの笑顔の会話を終えて。
「セイル、クラークさん、店の脇に回って行くみたいよ」
と、先に行く。
「ウム、行こうか」
「は~いは~い」
ユリアは、主の後を行けば、店の裏に有る押し上げる形の倉庫の扉が開いているのが見えた。
ユリアが入り、暗がりの中で涙目の少年を見る。
(ありゃりゃ、もう怒られてるみたね・・・)
「ホラっ、お前が教えたんだろっ?!! シッカリ話せ」
店の主人に連れて来られた男の子は、10歳までどうかと云う生意気盛りの顔を訝しげにして。 倉庫の入り口に揃った3人の前に押し出された。
ジュンガと云う少年は、降り被った雪が解けて湯気の上がる坊主頭で、黒い瞳は大きく。 悪戯しそうな雰囲気を見せる少年だった。
ユリアは、ジュンガの前に屈んだ。
「ねえ、ジーンに教えた場所って何処? 昨日の夜から、みんな帰って来てないよ」
「・・・・」
ジュンガは、下目遣いにユリアを見て黙って居る。
其処に、セイルが。
「怒られるのは、仕方無いよ。 でも、皆無事の方がいいでしょ?」
すると、ジュンガはセイルを文句の有りそうな目で見上げて。
「危険な場所じゃない」
「ど~して解るの?」
問われて俯くジュンガは、ぶっきら棒に。
「だって・・・いっつも役人が立って見張ってる・・・」
ユリアは、セイルを見上げて。
「役人が・・・見張ってる?」
セイルは、ユリアを見返して。
「王城とか~、貴族の住んでる地区とか~、湖の港とかね~」
其処に、ジュンガの伯父さんが加わって。
「ジュンガっ、お前って奴はぁ~。 あれ程に貴族様の地区や北の封鎖区域には行っちゃならんと言っただろうがっ!!!」
と、ジュンガの襟首を掴んだ。
「だっ、だってッ!!! 前に伯父さんがっ、剣を届けに行ったじゃないかっ!!!!」
そのジュンガの言葉に、店の主人は驚いた顔で。
「おっお前・・封鎖地区に着いて来たのか?」
ジュンガの顔が、泣きそうな顔で俯いた。
クラークは、店の主に。
「その“封鎖地区”って、あの親善大使館のある場所の事かい?」
店の主は、苦労の滲む色黒の顔を上げて。
「ああ、各国から親善が来て住んでいる場所さ。 だが、あの場所の一部で、広大な森が封鎖されたままにもう200年に成るって話だ。 その森では、昔はモンスターが出たって噂だよ」
ジュンガは、その話に驚いた眼差しで顔を上げた。
セイルもユリアも、その顔を見れば一目瞭然。 ユリアは、セイルと見合ってからジュンガに。
「ジーン達は、其処に行ったの?」
俄に震え出したジュンガは、頷く。
「だ・・だって・・・モンスターなんて・・聞いた事ないよ・・。 森に・・霧の出る森に探険に行っただけだよ・・・」
ジュンガの話に、伯父の店の主は顔を真っ赤にして怒り出した。
「このバッカ野郎っ!!!!! 駄目だってのはっ、本当に危険だから言ってるんだっ!!!!」
ユリアは、いきなり叩かれて怒られるジュンガと店の主の間に入ろうと。
「うわわわっ、ちょちょっと待ってっ!!!! いきなり怒っても事態は変わらないってぇっ」
怒る主人は躍起になって。
「だがっ・・」
セイルも、穏やかな声で。
「モンスタ~の事を知らないなら~面白そうだから行っちゃうよ。 子供だもん。 とにかく、これから探しにいきま~。 あまり怒らないであげてね」
と。
3人は、仕方なく一度斡旋所に戻る事にした。 役人が居るとなると、勝手に突入出来るとは思えなかったのだ。
次話、予告。
主に事を話し、その封鎖された森に行く3人。 だが、霧に閉ざされた森の奥には、不穏な影が蠢いていた。 セイルとユリアとクラークの3人だけで、子供達を発見出来るのだろうか・・。
次話、数日後掲載予定。
どうも、騎龍です^^
インフルエンザの威力は凄まじいですね^^;
未だに喉が痛くて、微熱が続くし^^;
皆様、流行り病にご用心^^:
ご愛読、ありがとうございます^人^