二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~3
セイルとユリアの大冒険 3
第一章・旅立ちの三部作・最終話
≪その後…≫
雪国の中でも、冬にカラリと晴れる日は少ないフラストマド大王国。 しかし、この日は珍しく綺麗に晴れた。
「…」
セイルがゆっくり眼を開くと、其処は見慣れない場所だった。 うっすらと柑橘類の香りがして、ボンヤリと視界も明るい。
「あっ、目を覚ましたっ」
このユリアの声が、間近で聞こえたセイル。 鉛の様に重たい体だが、首を動かして左に向けると…。 ベットの上で寝ているらしい自分の枕元に、ユリアの仲間である精霊達が居る。 サハギニーや水蜘蛛。 セーラ・シェリールも居るし、宙に浮いてテングが此方を覗いてきた。
「ダイジョブかぁ」
声だけだが、闇玉の声がする。 ぼんやりとする視界。 なんとか理解出来る所では、どうやら何処かの部屋で、ベットの下に闇玉が居るらしい。
少し重い瞼を半開きにしたセイルの視界に、ガバッとユリアが顔を見せて。
「アンタねぇ~、何時まで寝るのよっ」
朝の光を入れてる部屋の中で、セイルは呟く様に。
「僕・・そんなに……?」
立ち直り腰に手を当てるユリアは、安心と呆れの混じる顔で。
「もう、ブッ続けで4日。 年初めのパレードとか、色んなイベントも終わっちゃったよぉ~。 ん、もうっ」
態と少し悔しがって見せたユリアは、
「んじゃ、クラークさんとか呼んでくるからね。 寝るなよっ」
と、ドアに向かう。
ユリアから余り離れられない精霊達は、皆が消えたり離れようとする中で、セーラだけは残った。
ユリアが退室して、精霊が消えた中。
「セ・ラちゃん。 ユリアちゃん…寝てない?」
セイルが聴けば、セイルの枕元に御人形さんの様に座って、光る花を触るセーラは小さく頷いた。
「うんっ。 セイルが心配で、眠れなかったみたい。 うたた寝しても、短くて…。 セイルが起きないから、みぃ~んな心配してたわよ」
セーラの話を聞くセイルは、記憶を辿るのだが。 ガルシアを斬った辺りで記憶が無い。 クラークに背負われた様な気がする…。 それが限度である。
セイルがぼんやりしていると、右側の窓に風が拭きつけたのだろう。 ガタガタっと窓が動いた音がした。 セーラは窓を見たが。 セイルは、白と青のチェック柄の天井を見上げたままである。
(斬って倒す以外は、僕には無理だった…。 クラークさんを回せば・・、ううん。 槍であの狭い空間は難しい…。 先に僕が斬った人と二人を相手にしたら、クラークさんでも危なかった)
不思議である。 己自身の人間性と云う意味では、二人を斬った事に強い罪の意識を感じている。 だが、二人を斬った手は、身体は、不思議な達成感と云うか。 成し遂げた満足感に近い手応えを覚えている。
あの夜の闘いの中。 先に斬った人物の足を攻め。 後から入ってきたジェノサイダーのリーダーの男を警戒して、倒れた人物の前に出て身動きを征しようとした。 だが、抜き打ちの一撃を躱した直後、二の手で突かれると感じた時。 振り返るタイミングは、あの間合いでしかなかった。 早ければ・・は、無く。 遅ければ、刺されたかもしれない。 振り向き様に振り払った剣は、相手の手首を斬って。 相手が突く為に使わない手で、前に身を持ち上げた為に切っ先が喉に…。
(これが、剣士の宿命…)
剣術を子供の頃から嗜む様に成ったセイルは、実家が営む稽古場に来ている冒険者や風来の武術家と気さくに話した事が幾度も在る。 冒険者に然り、剣術などの腕を磨く武術家に然り、人の命に関わる事で負い目を背負ったと云う人が何人も居た。 悪党とは云え、人を斬ったと云う事。 モンスターなどに襲われた人を救えなかったと云う事。 己の腕を頼みに生きる上で、最も根深い葛藤を齎す要因だと云う。
特に剣士は、その人口も数多く。 また、各国が兵士や騎士に覚えさせる個人武術の類では、最も重視される分野だ。 テトロザの様に、その剣技一つで近衛騎士の副団長まで上り詰める者も居るし。 自分の祖父の様に、剣の腕の名声で、存在自体が誉れに値する人物に成る事も在る。
嗜む人口数が多く、憧れる武術の最高峰が剣術。 しかしそれ故に、武器を扱う人格が伴うかどうかは千差万別。 ジェノサイダーのリーダーであるあの男が、そのいい例の一つである。
初めて人を殺めた事に、セイルの若き心は答えを見いだせる訳も無い。 静かに、あの夜の事を考えるしか無い。
其処へ、廊下を来る足音が幾つも近付いてくるのが聞こえた。 勢い良く扉が開き。
「うん。 まだ寝てないとイイんだけどね」
と、ユリアの声がする。
ユリアの知らせを受け、アンソニーやクラークがテトロザと共にやって来たのだ。
が。
ユリアの後から、テトロザが入り。 クラーク、アンソニーと続く訳だが。 セイルは、アンソニーに対する感受的感覚で、ハッキリと彼を捕える事が出来た。
「アンソニー・・様?」
セイルの一声に、喜びの言葉をもってセイルの脇に座ろうとしたテトロザは、動きを止める。
代わって、セイルの寝るベットの足元を回り。 セイルの左手に迂回するアンソニーが。
「うん。 言いたい事は、良く解るよ」
と。
クラークとユリアは、お互いに見合ってセイルとアンソニーの成り行きを見た。
その中でアンソニーは、何よりも色々な話が山積していると思ってか、テトロザへ。
「座っていい。 彼に、事の詳細を話して下さい。 私の事は、後からでも構わぬ」
テトロザは、セイルとアンソニーが何を言い合いたいのかが解らず。 話の順序の流れを探ろうとしていた。 だが、アンソニーにこう言われては、
「は。 では、先に失礼致します」
と、セイルの寝るベット脇に置かれた背もたれの細長い木目の椅子に座るしか無い。 座って見れば、半開きながら、セイルは眼を開いている。 テトロザは、リオンの心情もしっているからか、大いに安心した顔で。
「セイル様、お目覚めは如何ですか?」
リオンからセイルを頼まれたテトロザからするなら、この目覚めは何より心待ちにした出来事だろう。 幾らセイルとユリアが冒険者に成ったとは云え、彼の知り合いはクラン王やリオン。 今回の事で何か有ったら、テトロザも心苦しく。 これから後、政務が手に付かなかっただろう。
「あ・・、少し弱ってるだけですね。 気分は、悪く無いですよ」
弱々しい笑みを浮かべるセイルを見て、テトロザは深く頭を垂れ。
「今回は、御助力有り難き事に。 先日、王都におわすリオン様より、数回に亘って早馬が来まして。 王都では、今回の策謀に関わった全ての者が摘発され、そして裁可が下されたそうで御座います」
「え? もう・・、裁きが?」
セイルは、流石に早い裁きだと驚いた。
その経緯は、簡単に掻い摘むとこうである。
リオンは、ヘンダーソンを締め上げて、事の詳細を聞き出した。
が、その次の日。 何という事か。 ミグラナリウス老人と、執事の二人が死んだと云う一報を、孫のジャニスから受けた。 リオンが兵を率いて老人の屋敷を訪れると、ジャニスが一般の役人を見張りに立てて、現場を保存させて在った。
リオンの様な剛健たる人物に、天才肌で芸術家の極みの様なジャニスは合わないが。 リオンの下の弟とは、芸術的な趣味からジェニスとは親交が在る。 ジェニスと祖父の犬猿たる仲は、リオンもジャニスの父親から聞いていた。
リオンが現場を見た後で、ジェニスが作った執事マクファーソンの遺書が役人から渡される。 国家顛覆を夢見た老人の鬼気迫る様子と、その片棒を担がされたマクファーソンの苦悩が、その遺書には克明に綴られていた。
ジャニスは、リオンへ。 マクファーソンの国家に対する忠義と、主従に対する忠義の板挟みで自殺した事を告げ。 その心を踏まえた上で、彼の家族に累が及ぶ事は無い様にして貰いたいと願い出る。 これからも、国家が安泰を維持するには、マクファーソンの様な者が必要だと。
即答出来る事では無い申し出だが、無碍にも出来ないと思うリオンは、とにかく二人の遺体とこの一件での目撃者当と王宮に連れて行く事にする。
ジャニスが計画した祖父の抹殺は、完璧な仕上がりで幕引きをする。 また、ジャニスは、マクファーソンの家族を養う事に。 情に流される彼では無いが、情を逆手に取る事はする。
また、ミグラナリウス老人の家督は、伯爵に格下げをされながらもジャニスの父親に踏襲される事になる。 この寛大な処置は、ジャニスの父親が、テトロザの片腕としてアハメイルに於ける事件の収束に尽力した事と。 ジャニスや父親には、老人と同じ反逆の意思が微塵も無い事。 そして、忠義の為に散ったマクファーソンの気持ちを組み、彼の行いを手本とする裏が在っての事だった。
一方で。
ヘンダーソンが捕まった事を受け、クシャナディースが自ら出頭した。
が。
クシャナディースは、裁きに因って寛大為る自決の裁きと成り。 王家の沙汰がどう回ったのか、御家は断絶されなかった。
それ所か。 それとは逆に、クシャナディースに嫁いだエリーの実家であるハルツベリモント家が、突然の沙汰に因って断絶に追い込まれた。 表向きの罪は、オグリ公爵とクシャナディースに共謀し、宝石商人の家を陥れた事。 更には、ミグラナリウス老人の謀に知らずながら手を貸していた事が挙げられた。
さて。
何故だろうか。 エリーの家に、ハルツベリモント卿の家族が預けられ。 クシャナディース家がその統合公爵家に成ったのである。 一般の人が見るに、エリーが妊娠した事に同情でも集まった様に思えるのだが。 厳しい沙汰を平気で断行するリオンとポリアの兄二人からして、そんな甘い訳が無いと云う処。 その本当の意味を知るのは、王家や政務上層部の極一部で。 その他では、ポリア達だけだろう。
そしてやはり、この一件で最たるに注目すべき出来事は、ヘンダーソンの処罰である。
年始の祝賀の席でだが、クラン王は、貴族の処分としては最悪の“王裁”を行うとした。 詰まりは、王自ら剣を持って、貴族の罪人を処するのだ。 この罪は、貴族としては最も重い刑罰で、無論の事ながら罪は家族にも及ぶ。 本人は、王直々で打ち首と成り、家族は一切の財を持てずして永久追放処分。 更には、例外無くこの名前の爵位は創られない。 存在を抹消される屈辱の刑なのだ。
だが、これは当然。 寧ろ、ミグラナリウス老人とその一族がそう成らなかった方が、ある意味不自然と言えよう。 だが何より、年始の祝賀の時、出席した一同を驚かせたのは…。 あの気弱な王子トリッシュが、少し体を弱めていた王の代わりを申し出た事。 そして、リオンの差し出した名剣にて、ヘンダーソンの首を…斬った事である。
この一件。 ハレンツァに剣の手解きを受けたトリッシュの為すのも、王族でも在る彼だから一理在ると思われるだろうが。 実は、非常に今後を占う大事件であった。 “王裁”は、定められし内容からするなら、王が決め、自ら行うのが慣わし。 だが、今回は、申し出たトリッシュがまだ王子であり。 トリッシュに剣を差し出したリオンは、トリッシュに臣下の跪きをもって敬意を示した。 リオンに王位を狙う気が無く。 次期国王は、王裁を身代わるトリッシュで在ると示さんばかりに。 そして、クラン王がトリッシュにその役を任せた事もまた、それを示す。
泣き叫ぶヘンダーソンに、トリッシュの手で裁きが下された。 王都に居て祝賀へ出席した貴族や臣下へ、未来の王家の在り方を示す様子が其処に在った訳だ。 弱々しい取り入り易いと思われたトリッシュの姿は、その場に無く。 また、リオンを担ごうとしても、それが無駄で有るとする様子も伺えた。 出世や王家に取り入る下心を持つ者にとっては、その出来事は目を見張るに値する出来事だった。
ヘンダーソンは、早々に裁可を下されてしまったが。 リオンは、もう少し対処に追われる立場として、王都に残る事を決めた。 クシャナディースの自決を見届け、トリッシュノ手を煩わせる事を粗方始末するのが目的だった
此処までを聞いたセイルは、ハレンツァを思い出して。
「ハレンツァ様も、トリッシュ様やリオンの姿を天から見ているでしょう。 王国の血筋が揺るぎない絆をもって、そう対処したなら…。 きっと、喜んでますよ」
その話を受けて、王家に仕える一人としてテトロザは、熱くなった目頭を押さえ。
「はっ。 私も・・そう思います。 ハレンツァ様には、老い先が短い方の私めが、何れは死んだ後に伝えまする」
セイルは、弱く微笑み。
「気が…早いですね」
と、云うと。 テトロザは、少し弱々しい素振りで目を拭い。
「え、はは・・。 もう、年寄りに・・近いですからな」
そう弱気な事を云うテトロザとしても、兄を慕う行動をとったリオンの姿が、朧気ながらに眼に浮かぶのだろう。 リオンが王子として、分を弁えた姿を示した事が誇らしい。 ハレンツァと云う大きな犠牲を払った以上、その弔いに相応しい決着が着いた事が嬉しいのだ。
テトロザは、次にこの大都市アハメイルでの事に触れ。
「悪党以下、罪人は全て捕まえてに御座います。 セラフィミシュロード様の御裁可の下で、全てに処罰を出し終えました」
と、云うのに対し。 セイルが。
「でも、あの悪党組織の口は・・匆匆に割れなかったでしょう?」
と、云うのだが。
其処へ、腕組みして立つアンソニーが口を挟み。
「それは、私が手を貸したよ。 闇の魔法には、相手の口を割らせる良い魔術が在った。 組織の内情に通じた二人ばかりを、その術中に堕とした」
それを聞いたセイルは、
「そうですか。 それなら、裏は取れますね」
と、納得する。
頷いたテトロザが、また話を受け取り。
「はい。 今の所、王都から来る経緯の内容と、悪党の供述に食い違いは在りません。 しかし、あの犯罪を導く組織ですが、中枢が何処に在るのかが解りませぬな。 首謀者のラヴィンとか云う者の供述では、世界に幾つも在るとか…」
セイルは、此処で眼を閉じ。
「向こうだって、数百年以上も世界を暗躍して来た組織です。 末端で動く首謀者を一人捕まえた所で、壊滅に至る程は脆く無いでしょう。 ・・でも、この大きな国で陰謀を阻止出来たのは、大きい成果だと思いますよ」
「なる程。 それもそうですな」
客観的に受け止めるテトロザは、それは正論だと素直に受け止めた。 その上で。
「しかし、収穫も有りましてな。 我が国フラストマドに於ける拠点の数箇所が判明致しました。 リオン様のお越しを待って、制圧に乗り出そうかと思います。 今回の様な策謀は、もう懲り懲りですから」
再び薄目を開けたセイルで。
「それは、リオンとテトロザさんが謀るなら、成功するでしょう。 その拠点を根城にする悪党集団を、今回で潰せたのですから。 向こうは手薄。 軍が動けば、一溜りも無いかと思います」
「セイル殿のお墨付き在れば、リオン様も頑張りまする」
物事の先を読む目を持ったセイルやテトロザには、大体の先は見える。 手抜かりが無ければ、ある程度の成果は期待できた。
★
テトロザは、経過を語って仕事に戻る。 本来は忙しい身で、冒険者の事などを気遣う暇など無い筈なのだが。 セイルが眼を覚まさない事に、仲間と同じ心配を傾けていた。 リオンとセイルの関係がどれほどに深いか…。 この事からも、窺い知る事が出来た。
さて。
話疲れたと云うセイルは、軽く水を飲んだりスープを腹に流して落ち着くと。 クラークやユリアに、少しは気晴らしをして欲しいと云った。 もうそろそろ年末年始の祝賀ムードも消える。 まだ余韻が残る内に、有り金を使い果たす気負いで堪能して欲しいと。
セイルが起きた事で、返って元気の出たユリア。 お供にとばかりに、渋るクラークを引き連れ。 まだ賑わいの在る街に出て、何か食べる物でも買出しに出ると云った。
所が…。 何故か、アンソニーは残った。
…。
セイルの寝る部屋で、アンソニーがテトロザの座った椅子に居る。 セイルの方を見ず。 壁側に向かって…。
二人の居る部屋に、暫し沈黙と云う調べが流れる。 静まり返った部屋の中で、聴こえるのは風の音や廊下を行く足音など。
少しして、その静まりの幕を開けるかの様にセイルが。
「アンソニー様、人を……食べたのですか?」
と、問うた。
俯き加減で、床の木目を見下ろすアンソニーは、短く。
「解らない…」
と。
アンソニーの手は、若々しい肌を見せる。 顔も、喉元も、肌が確実に若返っていた。 その身から、抑えていても感じれる魔力は、あの闘いの以前とは比べモノに為らず。 とても強く凝縮された気配であった。
あの襲撃を迎え撃った夜。
アンソニーは、態とリエルを逃してその後を追い掛けた。
リエルは、貴族区に出ると乗ってきた馬車に乗り。 調教の行き届いた馬の引く馬車を走らせた。 手綱を引く手は下手だが、右か左に引くのは解っている。 馬車は、夜の通りを直走り。 途中で静止しろと云う役人の一団や、見回りに出ていた兵士の静止も振り切り。 別の隠れ家が在る住居区の北側に広がる旧地区に向かった。
しかしアンソニーは、もうその馬車に乗り込んで居た。 リエルが何処まで行くのか。 人質の無事を確かめるのが先決だと思ったから、隠れたままで居た。
リエルの向かった場所は、旧商業区と住居区の区別が無い場所で、古い無人の屋敷なども残る場所だった。
古い高さの在る神殿に似せた屋敷。 その敷地に馬車を入れて、大分に庭を走った所で止まって転げ降りるリエルを、アンソニーは捕まえてしまう。 夜の中で、その屋敷にはクドゥルの手下2・3人と、人質の太った女性が居た。
アンソニーは、自分の両手両足が既に干枯らびて居るのを知ってて、人質の救出を試みた。 リエルが馬車を無謀に走らせた事で、その止めに入った兵士が曲者を見つけたと騒いで居た。 何とか人質だけでも助け、後は兵士を見つければ事足りると判断してである。
実際。 この行動は成功する。
アンソニーの魔力の前に、人の2・3人など赤子に等しい。 馬車に人質を乗せ、捕まえたリエルや悪党は屋根に縛った。
馬車を走らせ通りに戻り。 リエルの後を追って、曲者探しをしていた兵士の一団に合う。 人質の女性を引渡し、テトロザの名前を出して後を頼んだ処までは覚えていた。
が。
しかし、その後の記憶が無い。 間を開けながら云うアンソニーの話は、おぞましい内容に踏み込んだ。
「実は、セイル君。 その後、私は・・朝に。 港で気を失ってる所を発見された。 人質を引き取った兵士の話では、私は見えない悪党達を捜して別れたらしい」
「………」
セイルは、何も尋ねずに黙る。 その沈黙が素直で、まるで納得しているかの様な雰囲気が…。
さて。 アンソニーも追っていたクドゥルの一味は、見張りの付いていたアジトにも現れて居なかった。 朝に成り、捜索の手は街道にも及んだ。 しかし、前日から街道を巡回していた特別警戒隊と、新たに派遣された兵隊が合流しても、怪しい一味は見つからなかった。
漸くクドゥルの一味が見つかったのは、年末最後の日の夜。 下水道にモンスターが現れたと云う報告から、兵士が入って解った。 悪党一味の集団と思われる死体が、下水道の北側。 地下水脈に続く古い坑道付近で発見されたのだ。 その血の臭いを嗅ぎ付け、大型のネズミに似たモンスターが、坑道の奥から下水道に侵入してきたらしい。
モンスターは、騎士と兵士にリオンの派遣した仲間が合流して倒した。 だが、肝心の悪党達の遺体は、回収されなかった。 バラバラで、とても回収に至る形ではなく。 その血みどろの惨劇と言って良い状況に、兵士達ですら吐き気を催し。 テトロザでも気分が悪い惨状で、回収処の話では無かったのも理由だろう。
テトロザは、その遺体の残骸を坑道の奥に入れ、行き止まりに埋め込んだ。 持ち物の残骸だけを証拠品として押収したのである。
不思議なのは、誰がこんな事を…。 どうして、こんな悲惨な様子に成ったのか…。 今回の事件で、最大の謎が残った。
兵士に連れられ、ユリア達も休む軍医施設に運ばれたアンソニーだが。 彼を見たマーリの仲間の魔法遣いは、悲鳴じみた声を上げて逃げた。 更には、疲れて気絶する様に寝ていたユリアも、寝ている部屋の中で隣の部屋に運ばれようとするアンソニーが近付いた瞬間に飛び起きた。
何がどうではない。 最高位の悪霊、死霊など、不死の亡者が放つ強い魔力をアンソニーが持っていたからだ。 ジェノサイダーや悪党達の襲撃を受けた時までの力と比べたら、その感じ方は桁が違っている。 更に更に、クラークですら、フラフラで自分では動けないアンソニーを見ながら。 その感じられる雰囲気の違いに、ギョっと眼を見張った程なのだ。
一日経ち、眼を覚ましたアンソニー。 眼を覚ました時、全身に沸き上がる力の漲る様子に、自分でも自分がどうしたのか解らない。 ユリアに理由を問われても、答える記憶が無かった。
この三日で、力の制御が上手く行く様に成り。 有り余るエネルギーを隠せる様に成った。 取り調べに参加し、テトロザの立会いの下でリエル他、悪党の頭で在るロイジャーやラヴィンの口を割らせたが。 すんなりと吐かせた魔法の冴えに、自分でも意味の解らない恐ろしさすら覚えた。
アンソニーが経過の全てを語ると、セイルは静かに。
「アンソニー様が御自分から何かをしたので無いなら、それでいいと思います。 その力の使い方は、アンソニー様自身が決めるべきです」
と、在るがままに許容する。
返ってアンソニーは、ユリアが自分をしつこく問い質した様な事をしないセイルに驚き。
「セイル君、君は…」
と、何かを聞こうとするのだが。 見るセイルは、平静のヘラヘラした笑みに近付いた顔で居て。
「解らないんですから。 無理に考えても、…ね」
「…」
確かにその通りで、何も云えないアンソニーは、それ以上を云う材料が何も無かった。 自分で自分に何が起こったのか、サッパリ解らないのが本当だからである。
話す事が無く、二人は黙る。 少しまた、沈黙が流れた。
が。 こんな時程、アレコレと考えるもので。 アンソニーは、クラークとテトロザが揃って言っていた事を思い出す。
「・・あ、そう言えば…」
「はい?」
「いや、な。 セイル君が斬った二人なんだが」
セイルは、斬った感触を思い出しながら。
「何か?」
「ん。 君の剣が、二つとも折られて居たとか。 だが、二人ともしっかりとした斬れ方で、傷口も鮮やかだったと言っていたのを思い出してね。 燃えた女性らしい人物も、顔が残っていたから解ったんだが。 斬れていた事が、それが不思議だと皆が言っていた」
その話を聞くと、セイルは当然だと思う。
「確かに、そうですよねぇ~」
「君が、二人を斬ったのだろう?」
「えぇ。 実は、魔法で剣を再現したんです」
「? 再現…、詰まりは…剣の魔法で倒したのかな?」
アンソニーですら、言ってる事を直ぐに飲め込めないと云う事に、セイルは少し苦笑して。
「いえいえ。 僕は、魔法を遣えるまで修行してません。 想像の力で、魔力から剣を再現したんです。 刀身を半分折られた剣を元にして、魔力で剣を作った…と云えばいいのかな?」
アンソニーは、それこそ聞いた事の無い話で驚き。
「そんな事がっ、でっ・・出来たのかい?」
「はい。 ・・ですが、魔法を扱う訓練が足らない所為ですね。 魔力を具現化して、扱うだけで精一杯。 強引に魔力を使い過ぎたので、この通り倒れてます」
と、情けなくセイルは笑って見せる。
アンソニーは、まじまじとセイルを見て。
「・・確かに、確かに君は、逸材だ。 元気に成ったら、魔力のコントロールを促すイリュージョンを教えよう。 君なら、訓練次第でもっと強く成る。 ユリア君では、そうゆう意味では相手に成らないだろう?」
するとセイルは、大いに頷き。
「はい。 ユリアちゃんて、雑念多いし。 生まれながらに扱えるから、そうゆうのしないんですよ。 出来れば、訓練の仕方を教えてください。 道場って、武器遣う人しか来なかったし。 あは・あはは」
そんなセイルを見て、フッと笑み、アンソニーは思う。 セイルとユリアなら、最悪の場合に自分がモンスターと化しても、その場で倒せる力が在ると。 自分が無益な人を傷付けない様に、最後の決断をしてくれる者だと。 彼等と居れば、人の心を保てる様な気がする。
セイルとアンソニーの囁かな笑いが、その狭い部屋を満たした…。
その頃。
「ヘックシュンっ」
店の前や道に雪が多く残る中。 出店なども並ぶ商業区の通りを行くユリアが、クラークに向いた所でクシャミをする。
「わっ、ユ・ユリア殿っ」
バロンズコートの上に、薄い生地の黒いマントを羽織るクラークだが。 マントの一部に鼻水が付いて、別な意味で唖然とするしかない。 自分のチ-ムでリーダーをしていた頃では、有り得ない失礼で在る。
他の人には見えないが、クラークには見えるユリアの足元に居るサハギニーが、集められた雪を指差し。
「汚い・・。 槍の友よ、雪で拭った方が良いのではないか?」
余りの仕打ちに、固まったクラークに対し。 鼻を擦るユリアは、皮の手袋に鼻水を付けながら。
「クラークさん、ゴメン。 あ゛ぁ~、セイルか誰か、絶対になんか言ってるわぁ~」
と、いい加減な言い訳を。
(…、ワシは・・これしきの事では、めげんぞ)
悄気げた様子で、通行人をよけながら雪の元に行くクラーク。
「おいおい、ユリア。 クシャミぐらいは、人に向けるな」
通りの往来も激しい場所で、他人には見えぬ精霊に叱られるユリアであり。
「だぁってぇ~・・」
と、傍から見るに、誰も居ない路上に向かって言い訳に成らない口答えをする。
今の彼等を見る限り、緊迫した襲撃を潜り抜けた様子は微塵も感じられない。 だが、眼を覚まさないセイルを心配して、殆ど睡眠を取らなかった疲労の翳りが、目元や頬に薄く見られるだけだ。
しかしながら、未来を勝ち取った側は、先を行かねば成らぬ。 ユリアもクラークも、襲撃を乗り越える中で感じた心の明暗を胸に仕舞う。 前に進みながら、それを問うて行くのだろう。
こうして、大国を揺るがした大事件は、過去に薄らぐ事に成った。
≪新たなる伝説に成る兆し。 新生・勇躍の翼は、再び羽ばたく≫
新たな年に入って、6日目の朝。
「う゛~、まぁ~た雪だよぉ」
寒そうに厚手の洗い晒した緑のマントを羽織るユリアは、白い息を吐いてどんよりとした空を見上げる。
ユリアの右肩に居るサハギニーが。
「ユリア、気候風土は仕方無いと思う」
と、言い。 左肩でコロンコロンしている闇玉は、
「オイラは、昼間でも出やすいからイイけどなぁ~」
と、まんざらでも無い様だ。
元気に成ったセイルだが、テトロザが国庫から幾らか謝礼を払うと云った申し出を断った。 冒険者は、仕事で稼いで幾ら…である。 もう、身銭も少ない彼等で、“何か仕事でも~”と斡旋所に向かう最中であった。
商業区を刻む網の目様な大小の通りをクネクネと行く中で、もう年末年始の騒ぎは随分と収まり。 裏道を歩くと、一時期混みあった出店の並んでいた通りが、急に寂れてしまった様な印象を受けるのだった。 空模様が良くない所為か、道行く人もマントやローブにフードを被り。 賑わいの去った建物の集まるこの場所が、廃墟に見える場所も在る。
クラークは、アンソニーと肩を並べながら。
「しかしながら、何度見ても不思議ですな。 あれだけ人が集まって溢れ、もう人の居ない場所など何処にも無い様な年末年始の騒ぎが、数日で嘘の様に元へと戻る。 人と富が一箇所に集約される此処は、世界でも一番の都市ですな」
「確かに。 後何年続くのか知りませんが、一つの歴史のうねりが此処に在るのでしょうね。 我が国が平和を主張する国で在り続ける限り、この賑わいが続く事を願うまで…ですよ」
そんな事を語り合う大人二人に、セイルは振り返り。
「しかし、クラークさんが、あのジェノサイダーのリーダーらしき人の素性を知ってるなんて…。 驚きですね」
と。
実は…。
セイルがガルシアを斬り、気を失った直後。 セイルを見つけ、彼を背負って外に出たクラークは、テトロザが率いる軍が応援に来た事を知った。
ユリアや怪我人と一緒に、セイルも馬車で軍医施設に運ばれた後。 兵士達の案内役と成り、テトロザと共にガルシア達の遺体の転がる場所に向かったクラークだったが。 回収されたガルシアの顔を見て、彼の名前を口走ったのだ。
今、頭や肩に雪を乗せるクラークは、怪しい空模様を見上げながら7日前の事を思い出し。
「えぇ。 あの者は、我が国の貴族で在った者で御座います」
セイルは、過去形で云うクラークの表情が、少し険しく成ったのを見逃さず。
「“在った”…。 今は、違うんですね?」
クラークは、深く頷く。
「あのガルシアと云う男は、政治的に軍事的圧力をもっと行使しようと云う“高圧派”でしてな。 私が冒険者に成って数年後、国の国防と経済を監視する政務部の下官に取り立てられたのですが。 内部機密を、政治から遠ざけられている過激な思想の貴族に流したとか。 その情報を元に、政府高官の地位を狙う貴族が、国の財政を預かる政務官を脅すネタとして利用したらしく。 結局は、後に行われる一斉摘発の対象者に、あのガルシアと云う男も成りました」
アンソニーは、今日まで自由の身で居た事を踏まえ。
「それで、その男は逃げたのですか?」
クラークは、自国の不手際を語るのがもどかしく思いながらも。
「はい。 セイル殿が先に手を下された女性は、異国の貴族の御息女でして。 お互いに、許嫁とその相手と云う間柄、摘発時に女性が手を貸して逃亡したのです。 私の姪が、若くして輿入れすると云うので、一時だけ仲間を連れて帰郷していた最中に在った出来事でした」
ユリアは、目を丸くして。
「へぇ~、お嫁さん候補なのに、剣術が強かったんだぁ」
クラークは、鈍く横を向き。
「許嫁の娘は、家が没落しかかって居たようでして。 気が強く、伸し上がる気迫も旺盛なガルシアに、夢を託して心酔していたとか・・。 貧しい貴族の娘が、花嫁修行の手習いだけでは生きていけないと、その・・剣術を習っていたそうです」
アンソニーは、ある意味で見上げた心意気だと思いながら。
「しかし、夫婦で揃って殺し屋とは・・、何とも虚しい」
「いえいえ、アンソニー様。 あの二人は、正式にはまだ夫婦では御座らぬ」
「ん? では、異国の貴族の娘が…どうして相手方の家に?」
「はぁ。 これは、我が国の不手際を晒す様ですが。 我が国の経済の内部事情を、あのガルシアと云う男が手に入れ。 そして過激な貴族に流す一方で、許嫁の娘が自分の国の重臣へ売り込んで居たらしいので」
「なる程、その娘が利用されていたのか。 政治の駆け引きの道具・・だね」
アンソニーは、流石は王子なだけに直ぐに読めた。 無論、セイルも同様である。
クラークは、別れては、また合流する裏通り・中通りを行く人が、この悪天候で誰もが寒そうにしているのを見ながら。
「はい。 高額の金銭と、地位を餌にされて居た可能性が…。 ですが、事が公に成り、どうも相手国は彼女を切り捨てたらしく。 彼女の家は、直ぐに取り潰しにされた様です。 数年して、私自身が冒険者としてその国を訪ね、彼女の生家を探しましたが。 全くをもって、墓すら移されてしまったらしく。 もう、その事情を知る人も殆ど居ませんでした」
セイルは、腕組みしては前を向き。
「証拠隠滅の工作でも在ったんでしょうか」
アンソニーは、静かながらも確信を持って。
「違いないね」
ユリアは、何だか小難しい話だと。
「あ~ヤダヤダ。 難しい話って、どれもきったない」
直情な意見だが、同じ思いのクラークがそれに同意して。
「真だ。 胡散臭い謀が多過ぎるわい」
と、策謀に塗れた当時の過去を嫌う。
セイルやアンソニーは、それが現実の駆け引きだと知っている手前、何も言わずに黙った。
とにかく、その情報はテトロザに告げてある。 テトロザも、話が話なだけに驚いたらしい。
さて。 何だかんだと話している内に、斡旋所が見えてきた。 パブの看板の上にも雪が積もり、薄着の女性の絵が寒そうに見えた。
4人が斡旋所へ迎えば、同じく斡旋所に入る冒険者の一団が、何故か先に道を譲って来た。
セイルは、素直に。
「どうも~」
と、云う。
アンソニーは、譲ってくれた中に居る若い女性の魔術師を優しげに見返しながら。
「失礼する」
と。
所が、何か異質な視線で見られたので、ユリアは頭を下げるだけだったが…。 暗がりの階段を降りる途中でも、集り相手を探す目付きの嫌な冒険者風体の者達が、セイル達を見た途端に道を開ける。
4人は、前に来た時とは明らかに違う雰囲気に包まれながら、あの煌びやかなパーティー会場の様に見て取れるフロアに入った。 すると、間近のテーブルに集まる冒険者の一団が、セイル達の訪れに気付いた。
「おいっ、アレだ」
「え?」
「ジェノサイダーと悪党集団を壊滅させたチームっ」
「あ゛っ、ブレイヴ・ウィング?」
「そうそう、スゲーよなぁ」
「クラークさんだけが凄い訳じゃないんだぁ・・」
テーブルに着く一団が噂話をし始めると。 その色めき立った話し方に気付き、壁に寄り添って立ち話をしている一団等も、セイル達に気付く。 中には、セイル達が地下の“開かずの子供部屋”に案内された時に、カウンターのダンディな男性受付へ噛み付いたチームも居た。
「うわっ、何? 何で見られる訳ぇ?」
ユリアは、カウンターに向かう先を埋め尽くす冒険者の皆が、此方を一斉に見てくる事に驚き出す。
セイルは、ヘラヘラした笑みで。
「さぁ~。 かなり有名な暗殺集団を倒したからじゃない?」
頷いたクラークは、慣れた様子で。
「ま、その様な処だと思います」
アンソニーは、自分達を見てはあーだこーだ云う冒険者達を見ると。
「ふむ。 矢張り、相手も有名な悪党だったのだな。 こんなに噂に成るのは、そうに違いない」
と、何とも客観的な意見を云った。
ユリアは、一々これからこーなるのかと思うと、どうも面倒な思いがする。
(鬱陶しい~、噂する暇有ったら、なぁ~んかすればいいのにぃ)
セイルが先立ち、クラークと共に冒険者達の間を抜けようと歩き出す。 テーブルの間を抜けて行くと、急に右手に座っている人から。
「よ、お疲れ」
と。 男性の声である。
セイル達が声に導かれて見れば、マーリに協力するチームの一つで、博物館の警備に参加していた面々が其処に居た。
あの襲撃を撃退する際に、マーリと一緒に来ていた戦士の男性も居て。 頬に、薄っすらと傷痕の名残りをまだ残しながら。
「いやいや、元気な姿を見れて安心した。 マーリが心配していたぞ」
笑顔のセイルは、返す様に頷いて。
「今朝、寝泊りしている軍医施設で会いました。 マーリさんも、元気そうで何よりでした」
「そうか。 会えたなら、安心だ。 昨日まで心配して、結構煩かったんだ」
すると、襲撃時に魔法の光を翳していた魔想魔術師の男性が、深い青のフードを取り。
「所で、奥で賞金を受け取りなよ」
と。
賞金と聞こえたユリアは、何事かと。
「へぇ? 賞金って…何?」
笑顔の魔想魔術師は、自身の腰に下がる金袋を触りながら。
「君達が倒したジェノサイダーは、世界的な御尋ね者。 一人一人に高い賞金が掛かってるし、チームの壊滅と、全員確保で生死に関わり無く特別報償が在るってさ。 一応、僕達もその一部だけを特別に貰ったけどね。 相当額の礼金が在るって」
ユリアは、それを聞くと…。
「うわっ、丁度いい~。 クラークさんのマントとか汚しちゃったしぃ。 貰ったお金で、衣服を買い替えようよ。 アンソニー様の服、結構シミとか着いて汚く成ってるしさ。 セイルとかも、ボロくなったし」
それを聞いたクラークは、“是非っ”とばかりに頷き。
「それは良い提案ですなっ。 拭った雪も中が汚れていて、拭った後にどうも気落ちしましたから」
と、ユリアを横目に見る。
アンソニーは、シミの目立つマントを見て。
「構わないが・・。 安物は嫌だよ」
と、サラリと我儘を。
セイルも、ひと月ばかりでかなりボロく成った衣服を見ると。
「悪くないですね。 ついでに、折れにくい剣も欲しいです」
クラークとユリアは、同時に手を打ち。 先にユリアが、
「そう言えば、ま~た全部折られたんだっけ?」
と、云えば。 クラークも続き。
「金額が如何程でも、まぁまぁの剣は買えるでしょう。 是非、そうした方が良い」
そうこう言い合う内に、王都にて封鎖区域に於けるモンスターとの闘いに参加した冒険者達が、有名に成り始めたセイル達と親交が欲しくて話し掛けて来る様子が続く。
話も適当に、カウンターの前に4人が進み出ると、ダンディな受け付け男性がセイル達を見れば…。
「…」
無言で、左手を白い扉の方に差し向けた。
流石にクラークですら、こんな短期間で上位の仕事を受けれる部屋に顔パスに成るなど聞いた事が無いし。 また、その経験も無い。
(もう、羽ばたくのか…。 同じチーム名で世界を一瞬で駆け抜けた、彼のお二方と同じではないか…)
人の欲望の汚さに嫌気が差し。 有名への階段を上り詰め掛けた処で棄てたクラークには、ある意味で心地よい運命の裏切られ方でも在る。
生い立ちはそれぞれだが、在るべくして運命に導かれた4人のチームには、“勇躍の翼”が必要なのかも知れない。 力強く、明日に向かってのみ羽ばたく翼だ。
彼等が動けば、勇躍の翼は羽ばたく。 凡ゆる窮地を潜り抜ければ、更に力強く…。 更なる高みへ…。
その先に、如何なる困難が待ち受けようと。 くぐり抜けた試練は、全てが新たなる伝説を刻む記憶に成る。
此処に、後に語り継がれる新生・ブレイヴ・ウィングの軌跡の始まりが在った。
=セイルとユリアの大冒険・序章…完=
どうも、騎龍です^^
今回のお話は、様々な支障が内容が一部曖昧になり、大変に苦しい作業でした。 ですが、敢えて残ったデータにブラッシュアップを掛けずに話を作れたので、後から改訂版として、全てを書き直すベースが作れたとも思って居ります。
さて、次回は、ウィリアム編と、K編を続け。 年末か年始には、遅れっ放しに成っているポリア編の後編をお送りしようかと思います。
東日本大震災以後、自然災害が続いて、何とも心苦しいニュースが多いですが。 一人でも読んでくれる方が在る限り、エターナルも続いていけると思って居ります。
ご愛読、有難う御座います^人^