二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~3
セイルとユリアの大冒険 3
第一章・旅立ちの三部作・最終話
≪相、打ちて 【前】≫
ガルシアの放った火の手。 セイルに投げられた固形燃料は、熱でドロドロに成っては壁や床に飛び散り燃える。 壁を伝って落ちる炎が、埃や風で隅に集められたゴミに引火していた。
しかし。 一番激しく燃えているのは、セイルの一刀で死んだレイだろうか。
「…」
「…」
セイルとガルシアは、凡そ7・8歩の距離で対峙している。 セイルの眼から見ても、ガルシアが火の消える前に決着を決めようとしているのは解る。 黙って立っているが、その目に強い殺意が集中しているのが解った。
「…、行きます」
スルスルっと歩いて距離を詰めたセイル。
「来い」
大きくその場で剣を構えたガルシア。
5歩まで踏み込んで、サッとセイルは走る格好から左に跳躍した。
「?!」
斬り込んで来る・・と、セイルの目で理解したガルシアだが。 いきなり壁に跳躍し、目の前の間合いから外れたセイルの行動に焦り。
「このっ」
壁を蹴って飛び上がり、ガルシアの脇を抜けようとするセイル。 一呼吸の遅れを取り、慌てて斬るガルシアだが。 その刃は、マントの縁を斬ったにすぎない。
ガルシアの右後ろに着地したセイルは、その場でクルリと回り。
「やっ。 はっ!」
振り向き様に、鋭い声と共に大きく上から斬る。
しかし、ガルシアも身を半回転しながらに引いて、寸前の処で剣を打ち当てて防ぎ。 セイルの二の手である掬い斬りにも、剣を振り下ろして受け止める。 ガルシアは、此処で剣を押し込む様にして押し合いに入る。
「っ!」
打ち合わせた事で剣の勢いを殺されたセイルであり、力を込めながら前にジリジリと踏み込み始めたガルシアと睨み合う事に。
殺気の漂うニタリ顔のガルシアは、セイルの眼を見て射抜く様で。
「腰の力ってのは、腕力に勝るがよお…。 体重までぇぇ掛けられると、俺の方が強いわなぁぁぁぁっ」
力の掛け合いで剣を引けば、間合いや攻め方でどちらかに優劣が生じる。 今の立ち位置や間合いを見るに、セイルが引けば、ガルシアは牽制と先手を征すべく突いてくるだろう。
「んんんん…」
力を出して、均衡を保とうと必死のセイル。
「おおおおお…」
剣を押し込んでバランスを奪うべく力むガルシア。
セイルの剣が、打ち合わせた高さから頭一つ下がった時。 急にガルシアの力が勝って、グっと押し込めた。
(なにっ?!)
嫌な優り方で、ガルシアも腕に掛けた力を弱める時。 剣から力を抜いたセイルが、その場で跳躍したのが同時。
「うおっ」
剣の戦いながら、格闘術さながらの回し蹴りをガルシアに放つセイル。 ガルシアは、仰け反って引くのが精一杯。 セイルが見合うまでの間合いを生じさせた形で、両者はレイの燃える遺体の脇で対峙する形に成った。
(ガキがっ!)
斬り合いで喧嘩殺法を繰り出すのは、ガルシアの常套手段。 それを相手にやられては、ガルシアも気に入らない。 剣を握る手に力を込め、一気に斬り倒そうとセイルに踏み込んだ。
「そらぁっ!! コイツめっ」
大きく斜めに斬り込んだガルシアの一撃は、受け合わせたセイルの剣を弾く勢いであった。 セイルを踏み込ませない様にと、受け止めたセイルに蹴たぐりを入れ。 横に逃げたセイルに振り向き、上段からの一撃を見舞う。
すると。
“ガキーーーン”
甲高い音が、閉鎖空間に近いこの場に響いた。 セイルの剣が、刀身半ばで叩き斬られたのだ。
(斬ったっ!!!)
武器を壊せたと思ったガルシアは、一気にセイルを押せると確信した。
一方のセイルは、自分に投げられた固形燃料が燃える辺りに退こうと。 素早く交刃の間合いから飛び退き、更に大きく後ろへステップをする。
「逃がすかぁぁっ!!!!」
セイルの身軽さに付いていく事が出来ないと判断したガルシアは声を出して、左手で腰の脇に備えるダガーを引き抜く勢いのままにセイルへ投げた。
が。
空中で“ガキン”と金属がぶつかる音がして、ぶつかった何かは別々に壁の方に飛び。 ガルシアと近い所の床に何かが落ちる。 ガルシアの投げたダガーと一緒に、セイルの斬られた剣が床に転がっていた。
(まさか…)
その転がるダガーと壊れた剣を見て、ガルシアは焦り驚く様にセイルを見る。 背中に差した剣を新たに抜くセイルが居て、慌てた様子も無い。 ガルシアは、若いセイルがどうゆう育ち方をしたのかが疑わしかった。
(アイツ、どう見てもガキ…だよな? 俺と同じ考え方をしてる? いや…、有り得ねぇだろ?)
床に転がる剣とダガーは、ガルシアに近い位置に在る。 詰まりは、セイルが、ガルシアの行動に反応したのでは無く。 セイルの投げた壊れた剣の軌道と、ガルシアの投げた剣の軌道が重なったに過ぎないと云う事が現れていた。 ダガーを投げたガルシアは、セイルの顔を狙った。 その軌道に壊れた剣が噛み合うなら、剣を投げたセイルは、ガルシアの胸を狙って投げたと云う事だ。
今の出来事に対し、ガルシアが驚くのには意味が在る。 それは、ガルシアもまた、幼少の頃から剣術を正規の手解きとして受けていた経験が在るからだろう。
純粋に剣術を習うなら、剣が壊れても投げ出すと云う行為に至るには、それなりの場数が必要だ。 咄嗟の中で、身体が正規の習い事の範囲を踏み出して、戦う得物で在った剣を捨てる…。 自分の得物である物を、壊れたとは云え機転が利いた選択肢を選ぶ。 それは、正規の剣術を習う者には中々至れない処だ。 矢が無くなったからと、簡単に弓を捨てる者が少ない事と同じだ。 壊れたとは云え、剣術で戦うなら剣は持つべき物と云う意識が先んじる。 剣を取り替えるにしても、だ。
長年、生死を掛けて殺す事に人生を費やしたガルシアであり。 そのガルシアが、常套手段として行う剣術から外れた邪道の行為を、セイルは齢16で出来るのだ。 甘い考え方が在る一方で、咄嗟にガルシアが行う手段に、セイルは同じ実力で返して来るのが驚きでしかなかった。 まだ、新たな剣を抜く為に、壊れた剣を持ったままに守りながら逃げる方が、セイルの年齢に似合った行動だろう。
命を掛けた闘い。 それを強いられた中で、セイルと同じ年頃の者が同じ事を誰でも出来る訳では無い。 口で云うなら誰でも出来るだろうが、この緊張感の中で冷静にそれを選択して、為す。 それには。心身にそうさせるだけの経験や感性が備わる必要が在る。
(チキショウめっ!! 更になまくらみたいな安物なんか引き抜きやがってっ!!!! 切り刻んでも飽き足らねぇぐらいに生意気なっ!!!!!!)
セイルの構えた剣を見て、ガルシアが更に苛立つのもまた当然かも知れない。 剣士たるもの、力量に似合った剣を持つのは普通の意思。 何もかもがちぐはぐなセイルの為すことに、ガルシアも舐められて居る様で腹が立つ。 もう一度剣を叩き折って、そのまま斬って捨ててやろうと意気込んだ。
セイルに向かって、猛牛の如く勢いで走り出すガルシアであり。 静かなるセイルもは、剣を構えて迎え撃つ体勢に入った。
★
「そんなものかぁぁぁぁーーーっ!!!!!!」
冷たい風が空気を凍てつかせる。 その凍える空気を揺るがす怒声は、クラークの声。 暗殺に慣れるデイヴとゴストンを相手に、一見すると不利に見える槍を巧みに操り。 二人と応援に来る悪党達を圧倒するのだ。 踏み込んでくるゴストンに長柄のランスを突き付け、短いスピアでデイヴを赤子の如くあしらう。
「ちきしょう!!! コイツ強えぇっ!!」
「そうだっ、ガキの女を襲えっ!!!」
と、斜めに構えた背後を通り抜けようとする悪党を、その場で一転する薙ぎ払いでブッ飛ばすクラーク。 長柄のランスに二人の悪党が叩き打たれ、ユリアとは反対の方に飛ばされた。
「こっ・・こんな事ってぇぇ…」
力量の差を見せ付けられ、狂気の表情を忘れかけるデイヴ。 姐御言葉が上擦る彼など、仲間でも見た事の無い様子だった。
「これが本物の冒険者がぁっ?!」
一方のゴストンの声も、完全に弱音に変わる。
ジェノサイダーの持つあの恐るべき狂気が、真の強さの前には通用しない事が証明されていた。
例えば。 アンソニーを相手に、ラヴィン、リエルとその手下数人、そしてサロペンが囲んで戦う。 だが、素早い動きが真骨頂のリエルやラヴィンの筈が、瞬間移動の魔法を瞬発的に遣うアンソニーを相手にすると完全に惑わされていた。
しかも、アンソニーへ魔法を使おうとするサロペンだが、最高位のモンスターであるアンソニーに睨まれるだけで精神を乱される。 恐怖に戦き、精神の集中が出来ない。 しかも、リエルとラヴィンが間合いを計って遠ざかれば、アンソニーは直ぐにサロペンを見るのだ。
「うわぁぁーーっ!!! くっ・来るなぁぁぁっ!!!!!」
アンソニーに睨まれるだけで、もう怯えるままに逃げ腰と成るサロペンが居て…。
(何と…、本当にモンスターなのか?)
その存在するだけで、えも言われぬ恐怖を覚えるアンソニーを相手に、ラヴィンもどうしていいか思考能力が回らずに居る。
リエルに至っては、仲間をアンソニーの後ろに行かせてユリアを人質に取りたいのだが。 アンソニーに背を向けては、誰も勝てる気がしないのである。
「この私ごときを前にしただけで、怯えて魔法も扱えぬのか? 天下を脅かす暗殺集団が聞いて呆れる。 キサマの実力など、初心の冒険者以下だな」
アンソニーと対面で睨まれ、足がガクガクと嗤って杖がまともに握れなくなるサロペン。 助けを求める様に、ラヴィンの連れてきたロイジャーの仲間を見れば…。
「私の博物館を奇襲したクセにっ、お前達の本当の姿はその程度かぁっ?!! 其処に直れっ、斬って捨ててくれる!」
気負うマーリが悪党一人を負傷させ、散り散りに成って反抗するぐらいしか出来ない悪党の手下を見ると。 威勢の良い言葉で、多勢にも関わらず相手を罵倒する。
(ヤバいっ!! 俺の間近に、誰も居ねぇぇっ)
リエルの手下も、リエルの背後に下がって前に出れない始末。 サロペンを守る余裕の在る者など、誰も居なかった。
さて。
篝火の周囲で、激しく戦う者達が散開している中で。 1対1の対峙…、別世界を築く二人が居る。 ユリアとハイニーズであった。
冷たい雪もチラつく深夜。 外を時折駆け抜ける冷たい風に吹かれ、フードの捲れ上がったハイニーズがユリアを睨んで喚く。
「お~~まえはぁぁうるさあああああいぃっ!!!! しねっ、しねしねぇぇぇ~~~~~~っ!!」
声が張り、ハッキリとした声は濁声が割れている様な…。 両手を天に壊れかけの杖を翳すと、一刀両断の様相で杖をユリアへと振り下ろすのだった。 すると、炎の人形の前で炎で燃え上がり、人も一呑みしそうな火球が出来上がる。
「いげぁぁぁぁぁ!!!」
ハイニーズの聞き取りにくい罵声の様な声に反応し、火球はユリアに飛んでいく。
だが。 強い眼のユリアは、それに驚く事もない。
「火食鳥。 水の力が強いけど、お願い」
ユリアが願えば、ユリアの肩の上に佇み浮いていた火食鳥がフワリと飛び上がり。 ユリアに向かって来る火球に飛び込んだのである。
その瞬間。
「あ゛がぁ?!」
口を開いて驚くハイニーズ。 火の精霊である火食鳥が勢い良く飛び込んだ火球が、ユリアに届かず瞬時にボワーーーーーっと燃え広がったからである。 更に、燃え広がった炎がキラキラと輝いて、時間が停ったかの様に炎の全てが静止した直後。 耳慣れぬ奇怪な鳥の鳴き声が上がると共に、今度は急激に燃え広がった炎が一点に収縮する。
「炎の精霊が…かっ火球をのみ・・飲み込んだ…」
アンソニーの魔力に怯える魔想魔術師のサロペンは、その光景を見ていて何が起こったかを口にした。
燃え広がった炎の跡には、火食鳥が現れて飛んでいる。
口をワナワナを動かすハイニーズは、何ふり構わない動きで間近の篝火に飛び付いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
怒りや不安で、子供が錯乱した様に成ったハイニーズ。 気でも狂ったかの様な様子で篝火を倒すと。 突如として人の悲鳴が湧き上がった。
「うぎゃっ!!!」
「熱チィ!! うわっ、燃えるぅ!! 燃えてるぅっ?!!!」
クラークに薙ぎ倒されて立つことの出来ない悪党の上に、炭に成りかけた薪と石炭が掛かり。 燃えやすいボロマントや衣類を燃やし出した。
「いけないっ」
炎で人が死ぬと思ったユリアは、水の精霊に消火させようとするのだが。
「もえっ、もえーーーーーっ!!!!」
呪文の様に燃える事を願うハイニーズが間近で早く。 悪党3人の衣服に付いた炎は、一気に炎上し出したのである。
それを見たユリアは、こんな非道な事を平気で出来る事に驚いて。
「止めてぇぇーーーーーっ!!!」
と、叫ぶ。
だが、悪党を焼いて燃え上がった炎は、生き物の様に蠢き出し。 炎の勢いを弱める人形に飛び込んで行くのだった…。
「オアオアっ、オアァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
炎が加わる事で身を震わせ、グッ、グっと膨張する炎の人形。 更に一回り大きく成り。 ユリアが少し見上げる様に成った。
ハイニーズは、焦げ付いた悪党の死体などに目もくれず。 ユリアに殺気立った眼をひん剥くと、
「いげぇっ、もやせぇぇぇ!!! みぃんなもやせぇぇぇ!!!!」
と、杖を振り向ける。
精霊のみならず。 悪党とは云え、人までも犠牲にするハイニーズに、ユリアは怒りが爆発しそうだった。 ワァっと湧いた涙で潤む眼を鋭くさせて、
「最低っ!!! こんな精霊遣いなんて、居ない方がマシよっ」
ユリアの迸る声に、精霊達が心配そうに彼女を見上げたりする。
炎の人形を操り、ユリアを焼き殺そうと差し向けるハイニーズだが。 前に、悪漢を殺した時。 更には、廃棄場を襲撃した時の様な、悦びを現した声では無かった。 明らかに切羽詰まり、苦し紛れに刃向かう様な言い方をしている。
ハイニーズが杖を向けたと同時に、ノソリ・・ノソリとユリアへ向かう炎の人形。
だが、険しい眼を凝らすユリアが杖を右に側めると…。 何故か火食鳥が姿を消し、水の精霊で在るサハギニーや水蜘蛛がユリアの足元に移動する。
ハイニーズは、ユリアを歪んだ顔に在るギョロギョロとした目で見つめ。
「おでのセイレイわぁぁぁぁ、おまでのセイレイよおりつおいどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
と、右足を前に出し。 炎の人形の後を追って、ユリアに近付く形で踏み出して行く。
所が…。
怒りの眼をハイニーズに向けるユリアは…。
「アンタの目の前に居るのは、本当の精霊なんかじゃ無いわっ!!!!!! もうっ、これ以上の精霊を犠牲にする真似なんてっ……させないんだからっ!!!!!!!!!!」
張り裂けんばかりの声をもって、チラリチラリと舞い落ちる粉雪の舞う天に杖を擡げたユリア。 その大声に、クラークやアンソニーも彼女を見たし。 何事かと、敵もユリアを見る。
炎の人形は、ユリアに向かいながら炎の千切た欠片を浮かばせては、それを飛ばして火の粉が降り注ぐかの如く攻撃をする。 所が。 皆の目の前で、普段は見える筈の無い精霊二体が青いオーラを纏って、火の粉からユリアを護る。 降り注ぐ炎の欠片は、燃えながらユリアに届こうとする前で、ジュっと云う音を立てて青い水の力のオーラに消されてしまう。
そんな攻防の中だ。
「命を繋ぐ水よっ。 恵みと裁きを天秤に測る水の上位精霊よっ!!! 火を征し、破壊を治める力をっ、いま此処に示せっ!!」
そのユリアの声が空に木霊する時、その周囲に沸き上がる力にサロペンが度胆を抜かれる。
「なんて力だぁっ!!!! この場の雪が遠くまで応呼してっ、スゲェ水の力が湧き上がって来てるっ?!!!」
逃げ腰のサロペンの云う意味が解らないのは、アンソニーを警戒しきれずにユリアを見ているラヴィンやリエル達。
一方。 アンソニーは、ユリアを見つめ。
(これが、精霊に愛される力か。 あの年頃で、上位精霊の最高位に位置する精霊と繋がり始めた。 これは………いでる)
この旧貴族区に積もる莫大な雪。 その雪に宿る小さな小さな水の力が、強き心で願うユリアの応呼に応じ。 大洪水で流れる鉄砲水の如き水の力が、爆発的にユリアに向けて集まり出しているのがアンソニーにも解る。
チラリと見ていたクラークは、ユリアからジェノサイダーの二人に顔を戻すと。
「喧嘩を売った相手が悪かったな。 お前の仲間の精霊遣いも、時期に倒されよう。 さ、突っ立ってる暇は、ないぞっ!」
余裕の無いゴストンとデイブは、自慢にすら思っていた仲間の魔法攻撃が本来の力を発揮されず。 こんなにも追い込まれるものかと狼狽えるしかない。 苦し紛れに連携しても、慌ててダガーなどを投げたりしてみても。 クラークは、二人の為す事を失敗に至らせるのだった。
アンソニーとクラークが、ユリアに誰一人も近付けぬ勢いで相手を圧倒する中で。 ユリアの周囲に集まる水の力が、深い青の色を光らせる。 周囲を照らしさえするその光は、魔想魔術の青白いオーラとは違う。 純粋に何処までも青い、晴れた日の湖や海の美しい青であった。
そして、ユリアを護るサハギニーと水蜘蛛の力が、ユリアの周りに集まり出した水の力を得て。 更に、更にと強まり、幾重にも折り重なるベールが風に揺らされ、遠くに靡く様に広がり出す。 その水の力の前に、見えない壁にぶつかって前に進めない様な素振りの炎の人形。 炎の人形の後ろに後3・4歩前まで歩いたハイニーズも、立って居られない強風に吹かれている様な感じで体が立ち止まる。 ユリアを護る青い水の力が強まるにつれ、炎の人形も、ハイニーズもそうなった。
「まっ・魔女かぁっ?!!」
「足元のアレなんだぁぁっ?!!!」
「バケモノを呼べる人間かよぉっ!!」
悪党達が、ユリアの姿に浮き足立つ時。 ユリアは、真剣さと感情が極限に昂った眼をハイニーズに向けて。
「その力、清楚にして穢れ無き水の女神゛ウォレイティ・レナース”よ。 我が心の声に………、応えてっ!!!!」
強く投げかける声と共に、目の前に杖を振り向ける。
その瞬間。 凍てつく様なキーンとした空気が壊れんばかりに張り詰めて、時が止まる様な感覚が広がった。
戦う手を進めるクラークやマーリ達に対し、解り得ない現象に慌てる悪党達が居る。
だが、ユリアの精霊を呼ぶ声に、瞬時に反応したのは炎の人形。 動きが完全に止み、悶える様なままに止まっている。
そして…。 その炎を生み出した男も、また。
「お・・おおおお…。 おうっ・おあががががががががががががが…………」
ハイニーズの全身の力が一気に抜かれた様に成り。 雪が落ちては溶ける広場の石の床に両膝を崩して、やや天を向き。 小刻みに震えながら、口をぽっかり開いてしまったではないか。
クラークが槍でデイヴを押し退け、ゴストンに狙うを定める時。 アンソニーは、理解の出来ない光景に苦しむリエルとラヴィンを横向きに見て。
「さぁ、現れるぞ。 精霊の命を無駄に殺して来た者を裁く、水の精霊がな」
背後の後方で起こる事を、見ずに言い表すアンソニー。
やや離れた場所からアンソニーの言葉に合わせて、ユリアとハイニーズを見るリエルとラヴィンは、変化が現れるのと同時に。
「なにっ?!」
「嗚呼っ!」
と、声を。
ユリアの杖が差し向けられた場所に、何故かダイアモンドダストが現れて空を清める。
刹那…。
天から落ちる一糸の青い光が、キラキラと煌めく氷の粒の中を反射して行く。 ユリアの倍の高さは在る空間に、空気中に浮かんだ氷の粒に反射する青い光の糸が、何と籠状の檻を形成するではないか。 そして。 青き光を纏いながら、白銀のオーラを眼に宿すユリアの前で、その檻が甲高い音を奏でて壊れたのである。
「あ、あああ…」
「何がお・おっ・・起こってるんだぁ?!」
デイヴやゴストンの周りで。 ユリアとハイニーズに近い場所でそれを見た悪党達は、幻想的な光景に戦う意思を失った。
青の光で出来た檻が、粉々に砕けた氷の様なままに空中に留まる中で。 突如として、青い光を纏う麗しい美女が現れた。 青い二枚の翼を背に、青い水で出来た様な優雅なドレスを纏い。 青に光る長い髪を空に棚引かせる、天女の様な幻想的な美女であった。
ラヴィンは、その現れた美女が何者なのかが理解出来ない。
「誰だ…。 アレも、せっ・精霊なのか?」
一方のリエルは、眼を奪われ。
「き…綺麗」
と、呆然とするしか無い。
アンソニーは、ユリアの方を一瞥しただけで。
「解らないのか? あのお前達の仲間が、彼女を怒らせた。 その怒りと嘆きを知り。 精霊の中でも神の力の一部として生み出された・・水の精霊が応えて来たのだよ」
動けないハイニーズ。 そして彼の生み出した炎の人形が動けないのを、ラヴィンは見て。
「なんだと…。 そんな事が・・人に出来るのかっ?!」
するとアンソニーは、紅く黒いオーラを眼に宿すと…。
「そんなに驚く事でもあるまい。 お前達の前には、その呼び出された精霊と対等のモンスターが居るのだからな? さ、そろそろ決着を着けようか」
不敵な言葉を生んで、闇の力を強めたアンソニー。 その恐怖を与えるオーラの前に、ラヴィンとリエルは武器を身構える余裕すら持てない。 アンソニーは、他の兵士や冒険者も居るからだろう、あえて本領を発揮しない様にしている。 彼が本気を出せば、この場の殆どの者が恐怖に竦んで精神を乱すか、壊してしまうだろう。
アンソニーとクラークがセイルの思惑を成して、完全に敵陣とユリアとの距離を生む中。 現れた美女の精霊は、透明で水面の様なサークレットをした髪を触れながら。
「ユリア・・、貴女の声が聞こえましたよ。 私に、何を願いますか?」
と、美しい声を響かせ、その青の美女はユリアに聞く。
強い瞳のユリアは、その美女を見上げ。
「レナース、呼び出してごめんなさい。 でもこれ以上ね、炎の精霊を殺させたくないの。 あの炎を消して…。 殺されて力だけ奪われた炎に、安らぎの消滅を与えて。 …お願いっ、モンスターにさせないでっ!!」
ユリアの迸る様な叫びを聞く水の女神は、ゆっくりとした動きで炎の人形を見る。
「…。 人は、困った生き物ですね。 “エレメンス・パ・ペッターヌ”・・ですか。 本来は行なっては成らぬ邪法なのに………。 しかも、人を焼き殺した魂までも吸って…。 これは早く消さなければ、モンスターとして動き出すのも時間の問題だわ」
呼び出された水の美女は、ユリアへ顔を戻し。
「では、魔法で消すわね。 ユリア、精霊浄化の魔法を遣いなさい。 私が、炎を拭います」
美女と視線を合わせるユリアは、安心を得た顔色を浮かべて。
「有難う、レナース」
と、頷き。 涙の滲む目元を袖で拭うと。
「じゃ、いくよ」
ユリアが炎の人形とハイニーズに向けば、水の女神も向き。
「さ」
杖を水平に構え、眼を閉じるユリア。 炎の人形から発せられる嘆きを心に受けながらも、救いたい一心で…。
「暴走した自然の力よ。 心を無くした精霊よ。 ・・聞こえる? 貴方の暴れる力を受け止める、反対の力を…。 荒ぶる事に心を失っても、浄化される事で安らぎに戻れる。 さ、委ねて。 相反する力は、貴方を滅ぼす力では無い。 ・・そう、鎮める救いの手よ」
ユリアが穏やかに掛ける声。 その詩を囁く様な物言いに合せ、呼び出された水の精霊である美女が宙を歩く。 そして、炎の人形の前にに来ると、御髪を撫でてその手を差し出した。
すると…。 炎の人形が微かに震え出す。 震えが顕著に見える様に成った時、今度は湯気を全身から立ち上らせるのだった。
「さぁ、もう御休みなさい。 理の枠から外され、暴れてはダメよ」
水の女神が言葉を発すると、炎の人形は更に激しく震え。 そして湯気を出しては、その体積を縮めてゆく。
「ハイニーズっ!! しっかりおしよっ!!!」
勝つ為には仲間の支援が必要だと、苦し紛れにデイヴが叫ぶのだが。
そこへサロペンが。
「無理だぁっ!!! 上位精霊にはっ、ハイニーズ(やつ)の精霊は刃向かう事も出来ねぇっ!!!! 負けだっ!! 俺達の負けだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
と、怯えた声で叫び上げる。
その声にデイヴが何かを云う前に。 遂にクラークの掬いに殴り付けた短いスピアの一撃を、ゴストンがモロに腹部へと受けて体が跳ね上がる。 激烈な衝撃を受け、瞬間的に息が強引に押し出てくる。
「ぶっ!!!!!」
クラーク程の男が、全く手加減もしていない一撃だ。 冷たい広場の床に落ちたゴストンであり。 内蔵に損傷を受けたのか、唾に血を交えて激しく咳き込んで吐き出した。
「ふんっ」
それを見下ろすクラークは、更にゴストンの首筋へとスピアの手加減した一撃を撃ち込む。
「…」
白目を剥いたゴストンは、そのまま動かなく成った。
「ゴストンっ!! ゴストンっ!!!!」
男の姐御言葉を出すデイヴは、やはり真の強者とは云えない人物なのだろう。 魔法で一撃を見舞った上の奇襲や、人を惨殺しての畏怖を見方に付けれない彼は、羽根をもがれた蛾の様なモノに近い。
(クソっ、こうなったらっ!!!!!!)
デイヴは、間近で戦うマーリを人質にしようと向きを変える。
「ぬっ、させるものかっ!!」
デイヴの視線が自分から外れた事に反応するクラークは、走り出すデイヴの足に目掛けてスピアを放った。 先端が三角垂に近い槍のスピアは、投擲にも適した短い槍。 重いランスとは違うので、投げると刃先の部分が重いだけに勢いが付く。
「はっ?!!」
悪党一人を殴り倒したマーリは、周囲を確認しようとする過程で直ぐ側に近付いたデイヴを見て焦った。
が。
デイヴの前に出した右足の腿の裏を通り、又の間に入ったスピアが左太腿にグサリと刺さる。 縺れる勢いでスピアの刃がずれ下がり。
「ぎゃぁぁっ!!!!」
肉を斬られる痛みに、デイヴは悲鳴を上げて前にもんどり打った。
「マーリ殿っ!!」
クラークの一声が上がれば、気合いを呼び戻すかの様に眼を鋭くさせたマーリ。 デイヴの武器も手を離れていないので、金属のブーツを履いたままの右足で踏み付ける。
「ひぎゃっ!!」
デイブの片手の甲から骨の折れた音がしたが、死んだ兵士や負傷させられた警備兵に比べたら…。
「終いにしろっ!!!」
マーリは、踏み付けた右手に加え、デイブの左手をスッパリ斬った。
「い゛ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!」
デイヴの絶命に近い絶叫が、小雪が舞う暗い夜空に木霊する。
無力化する為の仕様だが、マーリの怒りも向けられた一撃だった。 セイルやクラークの様な力量に至らないマーリでは、サーベルの刀背打ちで気絶させられたか解らない。
其処に、ユリアの声が。
「鎮まりなさいっ」
と、聴こえて来る。
クラークが顔を向ければ、炎の人形が塵も残さずに消滅した処で。
「おぉ、あの炎の化け物を消した…」
そう呟くクラークは、肩で息をするユリアも確認出来る。
「ユリア殿、大丈夫ですか?」
離れた所で頷くユリアは、
「クラークさんっ、早く他の悪い人を捕まえなきゃっ。 セイルが心配。 僧侶や魔法遣いの人は、わ・私が護るから…。 皆をこっちに」
チラリとクラークが視線を背けると…。 ユリアの離れた後ろには、マーリの残る仲間が怯えた顔で立ち尽くしている。
(早く決着を着けねばいかんな)
闇夜に紛れる兵士などは、どうなっているか判らない。 マーリの残る仲間や連れてきた用人は、頻りに声を出している様だ。 激しく斬り結んで居るのだろう。
「ユリア殿っ、如何為さるかっ?」
「魔法で閉じ込めるっ。 殺さなければいいんでしょっ?!」
「解り申したっ。 では、悪党を一箇所に集める様にします」
「お願い。 私がケリを着けたら、セイルをっ」
「無論っ」
ユリアと互いに頷きを見合うクラークは、マーリの方に向かった。
さて。
アンソニーと戦うリエルやラヴィンは、自ら得意とする暗闇に引いた。 何故なら、サロペンが。
“モンスターだから戦っても無駄だっ!! とにかく俺達だけでも逃げようっ”
と、云うのに。 追い詰められて余裕を失ったラヴィンは、苛立ちから激怒。 逃げ様にサロペンの首を斬り裂いてしまった。
血を撒き散らして、入口に通じる階段へと倒れたサロペン。 その様子を見たアンソニーは、意外にも嫌悪の眼をラヴィンに向け。
「仲間の命すらも何とも思わないのか? …事件解明に必要ではない身なら、この手で葬ってやりたい処だ」
と、ラヴィンを睨み付ける。
暗がり手前で振り返るラヴィンは、焦っている手前で本性が剥き出しに成り始める。 覆面から覗ける眼が、不気味で異常な程に鋭かった。
「喧しいぃっ!!! 計画に支障を来す者は、全て殺すのみだっ!!!!」
妖しく光る眼を細めるアンソニーは、シルク地のマントで身を包み。
「ほう。 では、死人で在る私を、高が人の貴様が倒せるか?」
「ウルサイっ!!! 来いっ!!!」
篝火の範囲の外に下がろうと退くラヴィン。 更にその後ろには、リエルとその部下数人が従う様に闇に紛れている。
だが…。
妖しく微笑むアンソニーには、程近い距離で誰が何処に居るかが丸見えであった。 闇に下がろうとしたラヴィンの目の前に、アンソニーはフワリと魔法を遣って現れる。
「化け物がぁっ」
引き抜いていた剣をアンソニーの腹に突き立てようとするが。 明らかに不自然な処で、ラヴィンの剣の勢いが止まる。
(ぬっ?! 何だっ?)
柄を握るラヴィンの手は、まだ脇腹すら通り過ぎて居らず。 剣を押し出そうとするのだが、硬い壁にでも突き立てているかの様に前に進まない。
実は、ラヴィンの突き出した剣の切っ先を、グローブの填る左手で捕まえているアンソニー。
「フッ。 仲間に選んで貰った衣服を、簡単に傷付けて貰っては困る」
ラヴィンへそう云った瞬間、アンソニーは右手で剣を殴り。 驚異的な力で剣を割った。 その殴る勢いのままに、踏み込みながらラヴィンの懐に背を合わせるアンソニー。 割れた剣の切っ先を握ったままの左腕で、ラヴィンの腹に肘鉄を食らわす。
「む゛ぶっ!」
手加減はしているアンソニーだろうが。 本領を出してモンスターと化す彼の力は、人間の比では無い。 残像すら残しそうな素早い踏み込みから繰り出される格闘術は、それだけで破壊力を秘めた一撃と成ろう。 丈夫な皮製のプロテクターを纏って居なければ、ラヴィンの肋骨は粉々に砕かれて居ただろう。
骨が折れた痛みや呼吸も止まる衝撃に、老人の様に腰を曲げて後退りしようとするラヴィンだが。
「おっと」
アンソニーは背を向けたままの体勢から、脇を過ぎる剣を右手で掴んで引き戻す。 そして、いつの間にかラヴィンと対面の体勢に戻ると、切っ先を棄てた左手で彼の顎を掴んだ。
すると。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ…。 ぎゃっ・やめ……いぎゃいぃぃぃっ!!!」
アンソニーに握られた顎で、ミシミシと骨が軋む。 アンソニーに持ち上げられるラヴィンは、痛みと嘗てない恐怖に堪らず暴れる。 そこで、剣が持たれるアンソニーの手が素早く引っ張られた。
この同時で。
“ラヴィン様っ”
と。 闇の中で折り重なる二つの影が見えるリエルは、何か危険な事が起こっている事に慌て。 この一声を出して、リエルがラヴィンを助けに行こうとするのであり。
“バキィっ!!”
と、その直後に、奇っ怪な音が走るのと連なっていた。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁっ」
喉を詰まらせるラヴィンの濁声が、異様な雰囲気を撒き散らして始めた。
そして此処で、ラヴィンの元に走ろうとしたリエルの部下が。
「うぎゃぁっ!!」
と、叫ぶのである。
瞬時の中。 立て続けに次々と起こる事に対し、もうしていいか対処出来ないリエル達は、立ち止まるしか無かった。
ラヴィンを襲ったアンソニーは、顎を握り潰され様として痛みに抵抗するラヴィンが握る剣を、一気にもぎ取る勢いで引き抜いた。 剣を放そうとするより、握る力が抜けきらなかったラヴィンの右腕は、強い力で引き伸ばされた。 その勢いで、肘・肩で繋なぐそれぞれの腕の骨が外れてしまう。 これが、喉を詰まらせながらの異様な声をラヴィンが出す結果に成る。
更にアンソニーは、向ってくるリエルとその部下3人の気配を読んでいた。 だから、一番大男の部下に目掛けて、ラヴィンより奪った剣を投げたと云う処。 切っ先すら無い剣だが、瞬く間の勢いで投げられたのだ。 剣は、大男の左肩に直撃。 その大男の身体を刀身が貫き、鍔が体に引っ掛かる形で大男は10数歩後方へとブッ飛ばされてしまったのである。
恐るべき短い間に、立て続けて起こる事に驚くばかりのリエル達。 仲間の一人が叫び上げた事で、ラヴィンに向かう足がその場から先に動かせない。 そしてリエルが何より不思議なのは…。
(どうして…。 どうして相手が見えない? ・・嗚呼っ、ラヴィン様が持ち上げられているのも、その影で何となく判るのに…。 持ち上げてるあの男が…影にも見えないっ!!!)
リエル達は、暗い闇の中でアンソニーの妖しき眼だけしか判らない。 その不気味に光る眼が見えても、夜に慣れたプロの夜目が、アンソニーの体のシルエットの何処も見えないのである。 流石に人殺しも簡単に行うリエル達が、篝火も近い闇で人を判らないなど…。 しかも、目で其処に居ると解っていて、判別出来ないのだ。
こんな事は、リエルもその部下達も経験の無い事だった。
さて。
左側に持ち上げたラヴィンを見ずして、リエル達に向きながら立つアンソニー。 圧倒的な強さから与える恐怖を闇に漂わせながら。
「殺しはせぬ。 だが、後で我が恐怖の魔法で、その貴様達が企てる真意を激白させてくれよう。 我が国の忠臣を殺めた罪…。 命ぐらいで償えると思う無かれ、悪党どもよっ!!!!」
と、ハレンツァを思うアンソニーは、怒りを声に込めた。
「…」
リエル達がその強大な魔の力に怯える瞬間。 アンソニーは、暴れるラヴィンの左腕すらも捻って使えなくする。 そして、残る悪党を潰すべく、ラヴィンを庭の雪の上へと放った。
顎の骨が壊されたか、外されたかして口が閉まらず。 雪に覆面の顔を埋めたラヴィンは、痙攣して突っ伏している。
「あがぁ・・あががが…」
アンソニーを間近にして、恐怖の魔力も受け止めてしまったのだ。 痛みか、恐怖からか、血走ったラヴィンの目には涙が浮かび。 身動きの出来ない様子からして、意識が正常なのかすら解らない。
一度。 アハメイルに来る途中まで尾行された相手を、捕縛出来る所まで追い詰めながらも自決されているアンソニーだ。 同じ轍は踏まないと云う想いで、ラヴィンの自由を粉砕したのである。 ハレンツァを失った悲しみ。 アンソニーは、密かにそれを爆発させていたのだった…。
どうも、騎龍です^^
明日か、明後日に後編が続きます。
ご愛読、有難う御座います^人^