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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
122/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~3

                  セイルとユリアの大冒険 3


                 第一章・旅立ちの三部作・最終話



               ≪止まらない事態に 窮鼠は、どちらか≫




「リエルっ。 首尾はっ?!」


マーリの一族が、嘗ては住み暮らしていた居城。 その正面玄関に当たる大扉の前に、階段を下った場所が広場に成る。 そこで対峙したユリア達3人にマーリの仲間を加えた一同と、ジェノサイダーの4人と行動を共にするリエル率いる悪党集団。


所が、冒頭の言葉を発して其処に現れたのは、ラヴィン率いる別の集団だった。


「新手か」


短く呟くアンソニーに対し、驚いた様子なのはリエルやジェノサイダーの面々。 リエルは、思わずに。


「ラヴィン様、如何致しましたか?」


両者が対峙する場所に現れたラヴィンは、まだ戦いが始まっていないのを見て。


「詳しい話は、後だリエル。 直に、此処へ兵士の大隊が到着するやも知れぬ。 早くこの者共を殺し、宝物の有無を確認しろっ」


デイヴは、屍蝋化した様な青白い顔をラヴィンに向け。


「何を焦ってるのさっ?! 罠を仕掛けたコイツ等をっ!!!」


と、金切り声を上げる。


しかし、今までに無い程に焦るラヴィンで。


「喧しいっ!!! 我々は、酷く危うい立場に居るのだっ!!!!!!!」


と、声を張り上げたのだ。


冷静に見れるアンソニーは、クラークの脇に進み出ながら。


「どうやら、此方に援軍が向かって居る様だ。 援軍の到着まで、暫し堪えていれば助かるかな」


と。 雪の上を走る風が、アンソニーの纏う上質のマントをはためかせる。


何故、ラヴィンが此処に現れ。 そして、どうして焦って居るのか。


実は…。


あの夕方にラヴィンと交渉に出向いた悪党の一味は、密かに役人や兵士と密通を結んでいた。 仲間の一部は、表向き怪しげな店を遣っていたり。 暗黒街に近い場所で、飲み屋などを営む者が居る。 その者を動かし、ラヴィン達の事を兵士へと密告させていた。 更に、ロイジャーの一味が連絡を伝え合う繋ぎの場をも、兵士へ通報していたのだ。


ラヴィンが手下を連れて、商業区の彼方此方に在るその繋ぎの場を回る中で。 ロイジャーの一味の一人が、見回りの役人から身元の詮議を受ける羽目になった場所に遭遇する。 これは、ラヴィンと交渉に臨んでいた悪党が仕掛けた罠であり。 その繋ぎの場に居た悪党は、軽はずみにも人質の事を言ってしまうのだった。


ラヴィン率いる悪党数名が物陰に隠れて見ている中で、ロイジャーの手下と兵士の争いが始まった。 騒ぎに、繋ぎの場に居た3名の手下も出て来る。


(チィっ!! 何とも具合いの悪い間で…) 


人の往来も在る中で、その争いにラヴィンが入るのもはばかられた。 逃げる事を祈りながら見ている中で、巡回の兵士も現れ、その場に居た4人が全て拘束された。


(ふむ、これは釈放要求を出すしかないか)


困るラヴィンは、捕まえられた一味を脅しで釈放させようと思う。


所が…。


街の中の所々で、兵士や役人に身元の詮議を受け、争うロイジャーの一味が次々と捕らえられている実態が解った。


“明日になったら…”


夕方過ぎの話し合いで相手が云った言葉が、騙す為の言葉だったと悟るラヴィンで。 地元にとぐろを巻く小悪党を捕まえては、賑わう街の裏で締め上げてみると…。 あの博物館の襲撃に借り出した悪党の使い方を挙げ、地元の悪党組みが組織への反抗心を煽っていた。


確かに、ラヴィンはロイジャーやリエルの部下を使って、アハメイルの盛り場を回わらせ。 嘘の儲け話でゴロツキや地元の悪党を釣っては妖しげな薬を飲ませた上に、襲撃の現場へと刈り出した次第である。 結局あの襲撃では、街で調達したゴロツキの全員が死亡した。 釣りの話を怪しんで断った街のゴロツキや悪党からするなら、使い捨てに仲間や同業者が使われた形である。 しかも、何やら怪しげ薬を遣い、正常な判断力を奪ってだ。 組織の力より、自分たちの自由を取った街のゴロツキや悪党達。 ラヴィン率いる組織の一味を、役人に売り渡す事で排除しようと考えた…。 そんな所なのだろう。


ラヴィンは、アハメイルから直ぐに逃げる事を考えた。 ロイジャー以下捕まっていない仲間を集め、見張りを止めさせた。 もうこの作戦は、失敗と言って良い。 とにかく、このマーリの一族が嘗ては住んでいた居城に移されたと云う宝物の真偽を確かめ。 ゴリ押しで逃げようとラヴィンは決めたのだ。 今、クドゥルの一団は、もう一つの隠れ家に向かっている。 人質を確保する為である。


自らこの場に来たラヴィンは、戦う間合いを忘れ掛けたリエル達を動かす意味で、ロイジャーの手下に。


「殺せっ!! 数で踏み躙れいっ!!!!」


と、自身でも抜刀する。


すると、この声に聞き覚えの有るユリアが。


「あっ、コイツはセイルに墓場で負けた人だっ」


クラークは、承知とばかりに槍を突き出し。


「うむ。 御主が首謀者か、主導をする者だな? 前に負けた相手に、数で当たれば勝てると思うのか?」


クラークの動きに、デイヴとゴストンが動き構える。


ラヴィンは、ユリア達3人を見て。


「またお前達か? リーダーの小僧は何処だっ?!! 此処で、前の墓場の借りを…」


と云うのだが。 何故か、言い掛けた言葉を止める。


固太りの大男であるロイジャーが、その雰囲気を嫌い。


「おい、何だっ? 早く殺っちまおうっ!!」


と、云うのに対し。


(何故…あの小僧が居ない?)


ラヴィンは、セイルの姿が見えない事に不信感を爆発させ。 サッとリエルに。


「おいっ、レプレイシャス達はっ?!」


この短い間に、早いテンポで余裕を失い慌てるラヴィンを初めて見るリエル。 興奮と緊張と予想外の連続に、男とも女とも解らぬ口調に入り混んだリエルで。


「えっ?! あぁ・・、裏に…」


この一言を聴き、全てを粗方予見出来たラヴィンは、ユリアやクラークを睨み。


「うぬぬぬ…、己らっ!!!! 我らをたばかったのかぁっ?!!」


謀られた事に気付くラヴィンは、何時に無く取り乱して大声を上げる。


此処で。


「槍を構えーーーーーーっ!!! 前ぇっ!!」


後からやって来たラヴィン達の真後ろ。 庭の暗闇から、急に男の必死の掛け声が上がった。 集結した悪党達が声に驚くままに振り返る時に。


「うおぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!!!!!」


数人の声が合わさった様な雄叫びが突っ込んで来る。


「なっ!!」


完全に虚を突かれ驚くラヴィンの声に、ロイジャーの手下の声が被る。


潜伏する兵士を束ねる副隊長のボビーは、新手が来た事で動いたのだ。 隙を突ける今に、先制攻撃を仕掛けたのである。 不意を突けたこの先制は、一気にこの場を戦場に変えた。 闇を破る兵士達の突撃は、長柄の槍を有利に導く。


「うがぁっ!!」


「ひぎゃぁぁーーーっ!!!」


横一線に並んで突撃を繰り出した兵士達の槍は、ロイジャーの部下5人を突き倒す。


「殺してやるわぁぁっ!!!」


兵士に狂った眼を向けたデイブであり。 武器を構えたゴストン。


だが…。


「ワシを忘れるなぁっ!!」


クラークは、左右に長短の槍とスピアを構え、ジェノサイダーの二人に走り寄る。 一番凶悪なこの二人を足留めし、兵士にマーリ達が応援に行ける隙を作る。


一方で、リエルの手下にマーリ達が走る中。 リエルとサロペンの前に、アンソニーが近付いていた。


「貴様二人は、この私が面倒見よう。 魔法で人を殺させはせぬ」


杖を構え掛けたサロペンは、冷や汗を顔に浮かべて固まる。


(あ・・有り得ねぇぇ…。 最高位の不死者がぁ、いっいい・意思を持ってやがるっ!!)


間近にするとアンソニーが何者か。 魔術師の端くれであるサロペンは、理解出来る。 反属性の精霊を同時に扱う少女に、初めて遭遇した意思を持つ最高位の不死モンスター。 数多くの人々に恐れられたジェノサイダーの一人で在るサロペンが、今度は恐怖する番だった。


一気に争う怒声が沸き上がる中で。


「うぅぅぅぅ…。 やめろおおおおおーーーーーーっ!!!!!」


蹲っていたハイニーズが、何かを振り払う様に立ち上がった。 ユリアを前にして、狂った様に篝火へと身を向ける。


「もえもえもえもえろぉぉぉーーーーーーーっ!!!!!!!」


篝火に向かい、聞き取りにくい奇声を上げて何かの呪文を唱えるハイニーズ。


それを聞いたユリアの顔が、苦痛に近い形で歪んだ。 ユリアの片方の肩に宿る火食鳥が、ユリアへ嘴を寄せ。


「最悪ではないか。 精霊の力だけを引き出し、己の意思の分身を生む下法を扱う輩とはの」


ユリアの目が、スッと潤み。


「うん。 今…火の精霊が死んじゃった」


ユリアと精霊達の目の前で、篝火の炎が沸騰する液体のように蠢き。 ドロリと垂れ流れる液体の様に、ハイニーズの前へ移動する。 その炎は以前に悪漢を焼き殺した時と同じ様に、“アオアオ”と悶える様な人形に立ち上がるのだ。


ハイニーズは、全身をブルブルと震わせながらも、強い見えぬ力へあがらうかの如く両手をガバァっと上に上げる。 その大きな動きに合せ、戦いの怒声が巻き起こり始めた表庭を走る風に吹かれた所為か。 ズレたフードが頭から外れ、少し歪むハイニーズ顔が露に…。 血走った眼は、余裕の無いを通り越し。 死に物狂いの心境を表していた。


ユリアは、杖を握る手に力を込めながら。


「この状況で、火の写身を生み出すなんて…無謀過ぎるわっ。 アンタの耳に聴こえる精霊の声っ!! それはっ、アンタを呼ぶ声なんかじゃないっ!!! 今までアンタが犠牲にしてきた精霊の呪いよっ!!!!!」


どうしてユリアが怒ったのか。 ハイニーズの魔法がどうゆうモノなのか。 それは、後で解る事。


さて、セイルの方では…。


「これでいいのか?」


「あぁ」


ガルシアとレイが、壁に走った亀裂を前にして佇んでいる。 二人の足元には、雪の積もった中を走る道に倒れ込む人らしき影が横たわっていた。


朝にセイルが捕らえたデュナウド。 彼を連れて来た御者役の悪党に続き。 セイルの変装した小悪党に、都合のいい情報を吹き込まれたミカロまで殺されたのである。 御者を殺したのが、ジェノサイダーのリーダーであるガルシアなら。 ミカロを殺したのは、レイと云う面体の解らない美声の持ち主だ。 肺を剣で刺されたミカロは、血を吐いて声も上げられずに絶命した…。


レイは、碧眼だけが覗けるマスクの様な布の隙間から、壁に走った人一人入れる亀裂を見て。


「では、我々は宝物を確かめよう」


すると、何故かガルシアがレイの後ろにピタリと張り付き。 この状況の中で、レイを抱き竦めるのであった。


「これで、俺達も元に戻れる。 お前と一緒に成れる日に、一歩近付く…」


レイの耳元に唇を押し当てこう云うガルシアに対し、嫌がる素振りなど見せぬレイで。


「解っている…。 ガル、私の身は、御主の子を宿す為だけに在るのだ。 早く…早く再興を、の?」


夜の闇の中で、ガルシアの目がギラギラと男の欲望を滾らせていた。 表の方から、微かに人の声がしている。 だが、ガルシアは気にも留めず。


「あぁ。 では、中に入るか」


と、レイに耳打ちする様に問い掛け。


「うむ。 私が先行する…」


解放されるレイは、亀裂に向かって少し身を屈め。 暗闇の建物内部を窺う様に見て、徐に頭を入れた。 セイルが其処に待ち受けているとも知らずに…。


ガルシアは、ある意味でチームの仲間を犠牲にする事を企てていた。 表から声が聴こえるまでのんびりしているのも、余裕であるのと同時に。 宝物を守る者の気を全て表に回す為である。 仲間と一緒に行かせたリエルが、ラヴィンからどうゆう指示を受けているかは知らないが。 この一戦で仲間を始末する事は、ラヴィンも先刻承知だ。 もし、戦いで生き残った仲間在れば、ガルシアが自ら手を下す気で居た。


しかし…。


もし。 悪党達側の目論見が一瞬にして水泡に帰すとしたならば。 それはやはり、セイル以下仲間の3人が居たからであろう。


セイル達の旅立ちで訪れた王都アクストムにて、アンソニーを目覚めさせる事態を招いた一瞬から。 今日のこの日までの運命の流れは、結末に向かって一陣の風の如く流れ始めていたのかも知れない。




                       ★★★




亀裂から暗い中を覗いたレイ。 気配を伺った上で、左足を亀裂に踏み込ませた。 人一人通れる亀裂だが、やや斜めに入っている。 背の高い方に入るレイやガルシアでは、すんなりと入れる訳には行かなかった。


「気をつけろよ」


ガルシアが云うのに対し、頷くだけでレイは身を亀裂に入れる。


そして。 レイの頭が建物内へと潜り抜けた時。 静かに影がレイに走り寄った。


「ん?」


気配と云えば良いか。 それとも、走る人影に動かされた空気の流れと云うべきか。 レイは、その感じた何かを確認しようと、右足を引きながら建物内にて。 後ろに振り向いた。


(あ゛っ!!)


間近に居た影を見て、声を上げる事も無いままに驚く時。 その影の持つ何かが、闇の中で閃いた。 それは、用心をして踏み込んだレイにしても衝撃であり。 同時に、左足に走った痛みは、麻痺してすぐには解らなかった。


「あぁっ!!!」


予想外の悲鳴に似たレイの声がして、ガルシアが亀裂に寄るまでの間。 剣を持ったセイルは、レイの倒れ込む前方へと駆け抜ける時であり。


「レイっ、なぁっ?!!!」


ガルシアが亀裂からレイを呼ぶに合わせて見えたのは、影ながらレイの最後であった。


ガルシアが亀裂を覗こうとした時に見たのは、倒れるレイの弱い太刀筋が闇を斬った所で。 レイの安否を確かめようと亀裂に齧り付いたその瞬間。 左手で身を起こし、何者かへ剣を投げ飛ばそうとするレイで。 その剣を投げようとする右手を巻き込む形で、腰を屈めた影が剣を振り切った所であった。


「レぇぇぇぇぇイっ!!!!!!」


ガルシアの声は、ピュっと空を斬り裂く音と共に鳴いたレイの喉笛を掻き斬られる音を消した。


「うぐぅ…」


冷たい床へ崩れるレイ。 斬られた手と握る剣は、壁の壊れた洞穴の様な奥の闇に消え。 硬い床に落ちて転がる音を奏でる。


この一瞬の出来事は、レイとセイルの瞬間的な判断が織り成したモノである。


埃と氷の粒が、床や外気の入る壁に吹き敷かれた八角形の建物内にて。 レイも一角の剣士であり。 左足をふくらはぎ辺りから切断されて倒れ込むとは云え、剣を抜き払う覚悟と技量ぐらいは持ち合わせている。 倒れ込むレイも苦し紛れに反撃をしようと、蠢く影を抜き打ちに斬ろうとする…。


一方。 レイの背後で剣を振るったセイルは、レイの倒れる前方へと走り抜けた。 ガルシアの侵入を予想した上で、レイの抜き打ちの一撃に備えるのと同時に、相手を牽制して制圧する為に。 レイを無力化して、あわよくば人質にしようとしたのである。


所が。 レイを斬ったセイルは、屈めた腰を上げながら。


(近すぎたみたいですね…。 手だけを斬りたかった…)


と、思う。


レイがセイルに剣を飛ばす事さえしなければ、セイルは二の太刀を振り向き様に振るわなかった。 セイルの走る背を弱く斬った動きに比べ、無理やりにセイルを剣で刺し殺そうとしたレイの最後の一手が鋭すぎたのだ。 咄嗟に振り向き、腰を屈めて返し打ちにしたセイルの剣の切っ先は、レイの喉笛に届いてしまった。 闇夜の中で、しかも技量が拮抗している。 もはや、簡単に手加減の利く環境でも無いのだ。


「レイっ!! レイ返事をっ…」


ガルシアが亀裂を潜った。


「はっ?!」


レイを斬ってしまったセイルは、ガルシアが入ってくるまでレイしか見えていなかった。 人一人を殺める結果を招いたのだ、セイルとて平気とは云えない。


「レイっ、起きろっ!!!」


夜目も慣れたガルシアである。 暗くても倒れたレイを解らぬ訳では無い。 血の臭いの立ち込める中で、レイの体を抱き起こす。


「…」


言葉も発せないレイを確認したガルシアは、野犬の様に狂った眼をセイルへと向けた。


「貴様ぁぁぁ…。 俺らを嵌めやがったのかっ?!」


セイルは、その眼を闇の中で見据えている。


「我々を殺しに来たのでしょう? どちらかが倒れるのは、定めです」


セイルの若い声を聞くガルシアは、レイを片隅に伏して。


「ラヴィンの言ってたガキは、お前か。 何てガキだぜぇぇぇぇ~・・おい。 切り刻んでも収まらないぐらいに、腹立たしいがぁ。 …ガキとはとても思えねぇ鋭い剣筋してらぁ」


と、その場に立ち上がる。


怒りに狂いそうなガルシアだが、セイルにレイが斬られた事については納得がいった。 蝕して解るレイの傷は、スッパリと斬れた物である。 力任せに斬ったぐらいで、傷痕は綺麗に成らない。 角度、間合い、足腰と手、そして斬る事に対す心がせめぎ合う中で発揮される太刀筋は、剣士の力量を表す。 斬られた事を確かめるべく触ったレイの斬れ痕は、ガルシアも自身の経験に無い美しさが在った。 これ以上の斬り傷は、ガルシアも数える位にしか知らない。 しかも、同時に手首を骨ごと切断しているのに…。


見えぬ暗闇の中で、影だけで見えるセイルを睨むガルシアは、予てから用意しておいた固形燃料を取り出す。 そして、火打石を一つ取り出すと、慣れた手つきで壁に打ち付けた。


「?」


セイルが音に警戒し、一歩引く時。 ガルシアは、飛び出した火の粒を固形燃料を持った手で受け止めに。 固形燃料の表面は、火が付きやすい様に半かに蒸発をさせ、ガス溜まりの気泡が出来ている。 僅かな火種や、夏の熱い日差しを鏡などで反射させても発火する。 冷たい空気が張り詰めるこの場所でシュっと音が立てば、ガルシアの左手が燃える様に火が上がる。


「…」


「…」


マントを着たセイルは、顔をガルシアに向かわせた。 ガルシアもまた、そのセイルの美しい顔を見る。


見合った二人。


無言だが、動きが無い訳では無い。 燃える固形燃料を石の床に落としたガルシアは、レイの遺体の上だと云う事も解っている。 セイルに斬られたレイの衣服が、溶けて燃える燃料の影響を受け。 白い煙を上げ始める。


「…燃やすんですか」


斬った本人のセイルだが、遺体が燃えると思うに堪らずに聞く。


「あぁ。 俺以外の誰にも、コイツの身元を判られたく無いんでなぁ」


と、ガルシアはニヤリ顔で返すのである。


そのガルシアの顔を見たセイルは、レイと云う人物に対する彼の情念の様なものを感じた。 自分の物を、他の誰にも取られたくないと云う思いを…。


しかし今度は、ガルシアがセイルを見た感想を口にする。


「マジだ…。 その眼…、その一度見たら忘れられねぇ桃光眼。 前に一度だけ見た、あのエルオレウ・オートネイルと同じ。 マジで、あの剣神皇の孫かよ」


嬉しそうな、しかし信じきれない様な、ある種の運命を感じる様子に近い感情を見せたのである。


「あの一族以外にも、この眼を持つ人は居ますよ」


他人事の様にセイルがこう云うのに対し、ガルシアは首を振りながら笑み。


「止めろ。 サシでこれから決闘するのに、嘘は要らん」


と。


「…」


セイルは、ガルシアに差し込められたと云う感覚を受けた。


ガルシアは、レイを殺されたのに饒舌で。


「あはははは、何年前だろうなぁ~。 ホーチト王国で、お前のジジイに殺され掛かった。 だが、あのジジィは、俺を助けやがったよ」


この話は、セイルには聞捨て為らず。


「嘘だっ」


と、思わず云う。


「嘘なモノかよ。 俺達が暗殺して回った金持ちの中に、あのジジィにとって煩い相手が何人も居たんだとさ。 商売敵を殺した儲け分で、一度だけ見逃すって言いやがった」


その話に、セイルの目が少し伏せ目に変わる。 ガルシアの口から、セイルの聴きたくない真実が出たと思った。 祖父のエルオレウは、非常に冷血な一面が在り。 悪事でも自分にとって有益であれば、必要悪と受け止めるのだ。


(やっぱり…)


祖父を毛嫌いする感情から、セイルの全身にカァっと血が駆け巡る。


レイの衣服が燃え始めると、スラリと先端が広がり鉤型の返し刃の付いた剣を引き抜くガルシア。 その剣の先で、レイの衣服の上に落とした固形燃料を掬い。


「だが、俺はお前を見逃さねぇぞ。 レイ(コイツ)の仇と、俺の剣の腕に箔を付ける意味でもな。 あぁっ?!!」


と、声と共にセイルへ投げ飛ばした。


内側の壁が壊れたりして、瓦礫の破片なども散らばる幅広の回廊。 外周の母屋の外側に走る回廊は、所々は庭を吹き抜けで伺えた場所でも在った。 今や、その昔の面影を部分部分に残すのみである廊下の中で、セイルはガルシアへと走った。


セイルが燃える固形燃料を潜り、ガルシアに目掛けて一直線に斬り掛かって来る姿を見て。 ガルシアも喰えない笑みを浮かべ。


(へっ。 予想外だ…。 読まれてたかよ)


魂胆が空振りしたと思い、急ぎで剣を構える。


「たぁーーっ!!!」


鋭い掛け声と共に、セイルの剣が右斜め下からガルシアを襲う。 受け止めるガルシアが力勝負の押し合いに持ち込もうとしても、刃を噛み合わせたセイルは、ガルシアの脇に摺り抜けた。


(クソっ)


またも思惑がズレ。 ガルシアは間合いと取るべく、セイルの抜けた方に身を翻しながらに片手で剣を一閃。 セイルは、大きく跳んで奥へと逃げた。


ガルシアへ向き直るセイルと、相対するガルシア。


ガルシアは、固形燃料の燃え溶ける物をセイルに斬らせて、セイルの周囲に火を振り撒かせようと思った。 だから、斬り易い様な高さに投げたつもりなのだが、セイルは固形燃料を潜ってきてしまった。


逆にセイルにしてみれば、読んだつもりはない。 決着を着けるべく、燃料を斬るよりくぐり抜けて、交刃の間合いへと踏み込んだに過ぎなかった。


しかし、二人の初太刀の交わりは、五分で終わる。 ガルシアにしてみれば、素早いセイルの動きは驚異であるが。 その太刀筋の速さと鋭さにしては、受けた圧力は思ったより軽い。 才能や身体の際立った部分が突出しすぎて、身体全体に実力が合わさっていない感覚が直ぐに解る。


一方、セイルは逆で。 ある意味で全力の斬込みを簡単に受け止められ、脇に抜けて死角を突こうとしたのだが。 ガルシアは間合いを生むべく、後手に回った様に見えてもしっかり一撃を振り込んできた。 相手の慣れた経験が為す捌きに、今一歩踏み込めずに逃げた形で在った。


自分より頭一つか、二つ近い背の差を持つ相手を見据えるガルシアで。 レイの持つ固形燃料にも引火し、いよいよレイが本格的に燃え出して嫌な臭いが煙に混じる中。


「全く…。 なんて天稟だぜっ! 一、二年遅く出会ってたら、完全に俺の負けだ。 体の成長が、発揮する才能に同化しちゃいねぇ~のが幸いだ」


云うガルシアの肩に張り付く氷が、レイの身体から上がる煙で溶ける。 急激な温度差が生じ、レイの周りでは凍る床が水滴を生む。


「…」


黙って見る中で燃える相手が敵でも、流石にセイルは嫌だった。 しかし、ガルシアはレイの傍から無闇に踏み込んで来る気配も無い。 ある程度燃えるまで、傍に居る気配だ。


(…大切な人だった?)


何となく、セイルはそう感じれる。


「どうした、来い」


ガルシアは、様子を見てくるセイルを誘う。


だが、セイルは迂闊に踏み込めない。 自分にしっかりと剣を向けたガルシアに、先程の様な隙は無いからだ。 背の高い相手であるなら、懐に踏み込む必要が在る。 だが、下手に背の高い相手と剣を噛み合せれば、背の低いセイルは分が悪い。 セイルが奇襲をする上で、大きな目の付け所は燃えるレイの遺体だ。 ガルシアを揺さぶる上で、これ以上の一手は無いかも知れない。


しかし…。 


(他に何か…)


やはり、出来る事と出来ない事が在った…。 咄嗟の出来事で人を斬れても、卑怯な手は使えない。 セイルとガルシアを五分にするのは、姿勢にも問題が在る。


この甘さは、どう左右するのか…。

どうも、騎龍です^^


お盆に近づき、手が思うように動かないこの頃です。 震災から半年近いのに、特番などを見ると気持ちが思うようにコントロール出来ないのは、情けない限りです。


色々な意味で、お悔みを此処に残します。


空に見える流星が綺麗なのが、何とも複雑でした。


ご愛読有難う御座います^人^

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