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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
120/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~3

                    セイルとユリアの大冒険 3


                   第一章・旅立ちの三部作・最終編



                    ≪運は、天命に流される≫



セイルがデュナウドを捕らえた時点でも、両者の事情を踏まえると。 その運命の天秤は、略平衡を保っていると云っていいだろう。


だが、その均衡を壊す出来事が、昼に起こった。 それは、宝物と偽った物を、再度旧居城へと運ぶマーリ達の乗る馬車に。 宝物と見せかけて運ぶ馬車の車輪が、街中で壊れたのだ。 車輪のスペアは、車体の底に部分分解されて備え付けられていたのだが、それを取り替えるには、少々の時間が掛かる。


確かに、これを受けたマーリは、幸先が悪いと内心怯えた。


だが、この出来事が大きく運命の天秤をセイル達に傾けさせたのだ。


それ意味は、旧貴族区に様子を見に行ったあの中年の悪党に関係が在る。 ラヴィンに命じられて、旧貴族区に見に行った彼が、セイルと会ったのは昼下がりの午後。 日差しが夕日に成り始める少し手前で、昼食を終えた人々が一休みも終えて動き出す頃合いであり。 昼下がり街に活気が出る頃だろう。 主婦は、子連れで買い物に出掛けたり、働き手は昼を過ぎて一番精力的に仕事をする姿が溢れる。 日中の内に買い物を済ませようとする客が、一番ごった返すそんな頃合い。


この時。


「おい」


マーリの一族が嘗て住んでいた古い古城を見張る何者かを、雪に半分埋もれた石壁に影に見つけた悪党のミカロは声を掛けた。 彼は、ロイジャーの徒党に与する一人で、普段は押し込む店の斥候調査の役割を任されていた一人。 角張ってやや捻くれた訝しい顔付きながら、歳相応の風格も在る40半ばの男。 短髪の頭を布で覆い、垢の染み込んだ皮膚は、刺さくれた様に皮が剥げる部分も見える。 ボロのずた布で作られたマントを纏いながら、セイルの扮する見張りに近付いた。


「わぁっ」


思わず大声を上げそうに成った…と演技するセイルは、既にこの人物の接近をアンソニーから教えられていた。


「バカっ。 声を出すな」


声に驚き、セイルの姿を壁に押し込む様に隠すミカロで。


「すっ・すいやせん。 元々が追われてる身なもんで、どうもビビって…」


セイルの演技か上手いのか。 この荒廃した場所がその雰囲気を作るのか…。 ミカロも、怯えるセイルの姿に見縊った訳で。


「で? 先に来たジェノサイダーのダンナは?」


見回す限り、デュナウドの姿が見えない。


セイルは、此処が一番の正念場だと思い。


「あの…、寒いから街に…」


「あ?」


ミカロに聞かれ、怯える素振りのセイルで。


「あ、温かい物…買ってきて下さるとかで」


ミカロは、立っているだけで寒さが体に突き刺さるこの場に。


「確かに、こんな場所で見張りは辛いやな」


と、漏らす。


此処で、また見張りを続けようと壁際に行くセイルで在り。 この覆面をしたセイルの素性をある程度把握しようと気持ちを持ったミカロ。


だが、此処で、遅れてマーリとその仲間達を乗せた馬車と。 宝物を乗せて来たと見せ掛ける馬車が、タイミング良く到着してきたのである。


「あっ、馬車が…」


小声でそう云うセイル。


「んっ?!」


驚き、セイルの詮索を忘れたミカロ。


二人が見る中で、遠くの壁が崩壊した割れ目から、馬車が二台敷地に入るのが見える。


ミカロは、


「チィっ、遠いな」


と、云うのに対し。


「なら、近くに行きやしょう」


と、云うセイル。


「あぁ?」


驚くミカロだが、此処はセイルも弁えている。


「今は、見張りの兵士らしき奴らが、外側の建物の見張りを終える頃だと思いやす。 壁の裂け目から入って、見える場所に近づけるチャンスですぜ?」


ミカロは、この場所の地理的な感覚の一切を持たない。 だけに、少しセイルを頼り。


「お前、解るのか?」


セイルは、このために建物の内部を全て見回り把握した。 ユリア達の居る中庭の塔型の建物は勿論。 その外周を成す、八角形の一階を成す建物、二階の五角形を成す建物の双方を備に見回って把握した。 この状況に導き、自分を如何に悪党達に信用させるかと騙す為に、そうした。


「へい。 外周の建物だけは、全て把握してござんす」


ミカロは、馬車が入った事で、それを疑うより頼った。


「おし、そりゃいい。 見える場所に案内しろ」


「解りやした」


セイルは、ミカロを引き連れて壁の裂け目から用心に用心して入る。 実は、馬車が来たなら、この外周の見張りを止める様に兵士に言っておいた。 だが、その事を悟られない為にも、自分が相当に発見に対する危機感を持っていると、悪党相手に見せつけなければいけない。 セイルは、勝って活路を見出す最大限の工夫をしていた。 余計な工夫はせず、ただ一向に…。


セイルがミカロを最初に案内したのは、五角形の建物で在る二階の南東。 表の庭の見える場所である。 建物内部は、崩壊した天井や、壁で隠れる場所は多い。


(ほぉ~、こいつはイイ)


割れた壁の裂け目から、隠れながら盗み見れる部屋に入ったミカロは、馬車を降りて宝物と思しき宝箱を運ばせるマーリとその仲間の冒険者を見る事に。


セイルは脇で、


(兵士は、4・5人から少し増えました。 7・8は居るかと)


と、有益な補足をすれば。


ミカロは、屈んだ体勢からセイルを見上げ。


(そうか…。 護りを固めた所を見ると、運び込まれたブツも怪しいな)


(へい。 あの…)


(ん?)


(夜には、押し込みを掛けるんですかい?)


ミカロは、運び込まれる宝物をまた見出し。


(ジェノサイダーの一団と、少数で腕の達つ一団が来る。 お前や、居ない旦那の面子を入れても、10・・7・8…、いや20人ぐらいって処だ。 恐らく、直ぐにカタが付く)


セイルは、ミカロに近寄り。


(あの~、死んだ奴の身銭なんかは…貰ってイイんですか?)


聞いたミカロは、大仕事を前にしてみみっちい事を云うセイル扮する相手に呆れた。


(お前なぁ…)


だが、一方で。 内心にコイツをどう扱うのかの末路を知らないだけに、小銭でやる気を出させてキチンと始末が出来るならそれでもイイと思えて来て。


(……ま、仕事が終わった後にしろ。 一部の女は、生かして連れて帰るかも知れん。 死体荒しは、お前にくれてやろう)


(あ・ありがてぇ)


セイル見せる様子に、ミカロは小事だと呆れた。 宝物と思われる物品が運び込まれたタイミングが遅れた事で、セイルの素性など後回しに成ったのである。


外周を形成する八角形の建物に運び込まれた宝物の箱は、そのまま中庭の六角の塔へと運ばれていく。 セイルの案内で場所を変え変え、隠れながらその一部始終を見ていたミカロ。


その後。 マーリ達が中庭の建物から出てこなく成ったのを見届けたミカロは、冬の早まった夕暮れが始まる中で、セイルを伴って元の壁の裏まで逃げ隠れた。


「おし、いい情報が得られたぞ。 お前の案内で、中に侵入する経路も決まった」


と、セイル扮する見張りの肩に手をやり、喜々とした顔のミカロは云う。


セイルは、下手に。


「お役に立てれば何よりです。 しかし、ジェノサイダーの旦那は遅いですね」


ミカロは、もうどの道押し込む手筈であった場所なだけに、このセイルが扮する者に見張りを任せきり。 デュナウドは、ゆっくり休むのだろうと思い込んでいた。


「別に、そっちはいい。 今夜には、もう押し込むのは決定だ。 お前が見張ってれば、他に人が居ても邪魔なだけだ。 それより、深夜頃にまた来る。 それまでは、此処で見張ってろよ」


此処で、セイルは…。


「あ~、あの…」


ミカロは、口答えかと思い。


「ん? 何だ?」


と、眼を細めて上からの視線を送る。


セイルは、建物の方を指差し。


「深夜は、寒いんで建物の中に居ます。 出来れば、建物の中にまでは来て頂けると…」


ミカロは、夜の暗い中では、確かに見張りは間近に成ると思い。


「そうだな。 あの破れた亀裂は解りやすく、夜でも俺が一緒なら案内は要らん。 ま、お前は中で中庭の建物でも見張っとけ」


と、承諾した。


セイル扮する者は、ペコペコと頭を下げた。


だが、これでセイルは襲撃に立ち会わずに済む。 セイルの冒す危険は、予想以上の成果を上げそうだった。


アンソニーが、立ち去るミカロを見送った直後に、セイルの元に現れる。


「セイル殿、行かせて大丈夫なのか?」


覆面を取ったセイルは、曇り空の空が赤く夕暮れに染まる彼方に消えたミカロを見送り。


「なんとか、此方の思惑に沿う情報を与えられたと思います。 今夜、深夜に襲撃が来るそうです。 もう、我々は、迎え撃つその準備に入りましょう。 今夜が、もう白黒を着ける時です」


ミカロの尾行は、テトロザが何とか回してくれた隠密行動をする部隊の者が追っている。 セイルから、ジェノサイダーが居る居場所は知ったテトロザだが、大掛かりに部隊を動かす事はまだ出来ない。


テトロザは、密かにポリアの父親に会い、事の詳細を伝えて兵士の総指揮の了承を得た。 リオンの不在の中で、全ての権限を預かるポリアの父親は、有能なテトロザに全てを任せた。 自分が表立って動いたり指示を出せば、悪党達に直ぐ判るだろうし。 また、毎年行う年末年始の祝賀会を変更すれば、それだけで噂に成るからだ。


テトロザは、兵士部隊を配置する準備に追われている。 以前にも、ホローの時に使った地下水路等の通路には、既に悪党達の監視の目が入っていた。 此処で、考え抜いた末に、古い地下水道と坑道の一部を遣う事にした。


今、テトロザは、限られた隠密部隊を斥候として動かし、兵士の行かせる道の確保に忙しい。


一方。


悪党達は、水路の交わる大きな分岐点にのみ見張りを置いている。 これは、手数が足らない為だ。


更に。 テトロザやセイルに運が見方する。


それは、ラヴィンと地元の悪党集団の話し合いが決裂に向かった事だった。


暗い廃屋の様な飲み屋の中で、ランプに入れられた蝋燭が弱々しい炎を上げる。 折れて転がるストゥール、腐って崩れたカウンター。 どんなに客を入れても20人も入れば満員に成る様な酒場の跡でだった。


ラヴィンは、リエルとその部下数名を連れて、漸く話し合いの場へと来れた。 昼頃に向かった指定場所では、ジェノサイダーに殺させた3人の敵討ちにでも来た様な雰囲気の悪漢達に囲まれた中。 詰まらぬ小細工のされていそうな酒を出された。 何も手を付けず、ラヴィン達は静かに長々と待たされた。


そして、夕方も暗くなった頃。 やっと頭目達が会うと云う事に成って、今度はボロの廃墟に案内された訳だ。


ランプに火を入れたのは、力自慢を見た目に解る男の悪漢である。 そして、崩れたカウンターの向こうに、二人の偉そうな男が現れた。


「待たせたな」


と、先に入って来たのが、背が高く鼻髭を蓄えた長髪の男で。 蒼いスカーフネクタイをして、白いコートを貴族の如く気取って着ている。 後から入ってきたのは、煮ても焼いても食えないと思える笑みを浮かべた小太りの男。 商人と思える衣服の出で立ちである。


カウンターを挟んで、ラヴィンと二人の男の話し合いが始まった。


ラヴィンは、組織に加われば利点も多いと口説くのに対し、二人は何で組織に縛られる必要が有るのかと反論。 ここ最近の組織の動きは、悪党の社会を統べる様な支配力を見せ付け。 もはや、使役に近いと誰もが思っている。


ホローが盗賊団を作っていた裏には、ラヴィンに因って裏の悪党社会が横行に対して眼を瞑る様に仕向けていた部分が在り。 それが崩壊仕掛けてる今の裏社会では、悪党達も徒党を作って一大勢力圏を作ろうと動く。


ラヴィンの誘いに、二人の頭目は明らかな嫌悪を見せたのである。


ラヴィンは、ジェノサイダーの存在をチラつかせるも、二人は偽って冒険者を募り。 悪名高く、その討伐のあかつきに齎される名声や報酬をエサに、戦い抜くと言い張る。


平行線を辿る話し合いの中で、ラヴィンは言いくるめるのは無理と判断した。 自分達組織の事を悪党達に判らしめるだけの腕の達つ無頼が、嘗てはこの場所に居たが。 今は、アハメイルなどには居ない。 組織の威光を背にしていた悪党集団は、リオンの手で壊滅させられた。 ホローの様な金権を示す金蔓も居ない今は、確かに不利な時節である。


(仕方がない…。 今は中立だけを約束させ、後で背くゴミを潰して行く事にするか…)


ラヴィンは、組織に与する者達の仕事が終わるまで、無用な手出しを控える事をだけを飲ませようとする。


処が。 


寧ろ悪党達からするなら、組織の影響で兵士達や役人が暗黒街に踏み込む機会を与えていると云う。 組織の働きとやらが、一番稼ぎどきの今を邪魔していると。 しかも、我が物顔で地方の悪党達が街を彷徨き、兵士を挑発していると云う始末。


ラヴィンは、此処で頭目のこの二人を殺してしまいたい処だが。 一緒に連れてきたリエルの一団は、ジェノサイダーの襲撃に付き合わせたかったし。 此処で大騒ぎを起こせば、それこそ色々と面倒に成る。


「解った。 では、明日にもう一度話し合いをしよう。 此方も、見合う何かを用意する」


ラヴィンは、やや控えた声でこう云った。 頃合いは、日が暮れた夜の始まりである。


頭目の二人は、今夜が明けたら余所者を探す行為に出ると云う。 これ以上自分達の権益を奪われるつもりは無いと…。 ラヴィンは、特にニヤニヤする小太りの頭目からは、ホローに似た嫌な気配を覚え。 もう、云うだけ手段に訴える手を用意しているのではないかと、勘繰った。


司令としてのラヴィンは、ミグラナリウス老人から請けた仕事を成功させる事を、何よりも最優先にしなければ成らない。 此処で新興勢力の悪党達と、小競り合いに時間を費やすなど馬鹿らしい。 だから、今夜の襲撃で宝物の有無に白黒を着け、さっさと王都へと帰ろうと思う。 流石に、老人の傍を長く離れるのも悪い。


物別れと云う形で終わる話し合いに、組織の在り方が今の裏社会に溶けきらないと感じるラヴィン。 まさか、新興勢力の頭目風情に脅し返されるとは思わなかった。 だが、兵士の方とは違い、人質が有る訳でも無ければ。 また、力づくのゴリ押しで従わせるに足りる戦力が此処に無い。 ラヴィンとリエルの一味で五角に戦えるだろうが、被害も出るし今後に支障が出る。


(不気味だ…)


ラヴィンが思うのは、頭目二人が物別れでも構わないと強硬姿勢を見せれる根拠だ。 組織の勢力範囲は、世界規模。 それは、この二人の頭目も知らぬ訳では無いだろう。 それなのに、強気で出てくる姿が、只の虚勢や強情から来る無謀とは思えない。 ラヴィンは、その辺も調べさせようと思う。 ここまで来て、不意を突かれて足元を掬われては、ラヴィンも組織に見下されるからである。


ラヴィンは、小さな廃屋を取り囲む多勢の悪党達に見送られながら、雪がまた降りそうな暗雲の夜をリエル達と帰る。 リエルには、戻り次第ジェノサイダーと行動を共にする様に言い渡し。 自分は、別に動くと言い渡した。





                   ≪ジェノサイダー…出る≫




ジェノサイダーのリーダーであるレプレイシャス…。 いや、真の本名をガルシア=レプレイマー=シャリングと云う貴族出の彼は、ラヴィンの早い帰りに危機感を強めた。


リエルの一味を従える事は了承したものの。 処の無頼から不意打ちなど受けたくは無いので、アジトを此処からもう一つの場所に移す様進言。


ラヴィンは、その場所をリエルが知るだけに。


「解っている。 だから、お前達にリエルを付き従わせるのだ」


と、少し余裕の無い言い方をする。


…此処からは、彼の名称を本名のガルシアに変えて。


ガルシアは、冷え込みが厳しく感じられるアジトで。


「んで、お前は襲撃に来ないのか?」


と、ラヴィンに。


「お前に任せる。 俺は、クドゥルとその部下を連れて、街に散るロイジャーの仲間を当たる。 どうも、あの頭目二人の態度が気に係る」


ラヴィンは、余裕の無い様子のままに、また外へ。


ガルシアの前に居たリエルは、初めて彼に喋り。


「さっきの集団の中に、冒険者が…居た」


その、若く綺麗な男性らしき声は、ガルシアには悪いものでは無かった。


「ほう~、喋れるんだ」


そう云うガルシアに対して、リエルは更に。


「魔法遣いも居た」


無視された感の在る雰囲気の中で、ガルシアは少し投げ遣りに。


「大方、屯組みの冒険者を寄せ集めたんじゃ~ないか? ゴミが幾ら集まろうが怖くは無いが、御宅等だけじゃ~面倒に成る。 ま、襲撃が容易い内容で有るなら、帰りにソイツ等を殺すか。 逃げるのに面倒は、追われる時には困るからな」


リエルは、アジトに残っていた手勢も集め、全12人をガルシアの前に集め。


「宝物の運び込まれた場所が解っているなら、今すぐ行かないのか?」


しかし、まだ動く気配を見せぬガルシアは、片隅に戻りながら。


「人の多い時間帯に動けば、俺達も目立つ。 街がある程度寝静まった頃の方が、俺達の暴れる頃合いよ。 流石に下手に動いて兵士をマジにさせて、テトロザや腕の達つ高位の騎士に当たると面倒だ。 先ずは、宝物の中身が最優先。 ラヴィンは、それが確認出来ないと不味いらしい」


「…」


リエルは、ガルシアの背中を見て無言の刺を送る。


「怒っても無駄だぞ」


と、云うガルシア。 だが、ガルシアも考えが在り、それを覆す気も無い。


街が年末を残す処一日と成る夜を、バカ騒ぎ色で染める。 花火の数は日増しに増え。 雪の溶け残る大通りを闊歩する人々の数も多ければ、街角を賑わす芸人の数もまた然り。


一方で、ロイジャーの集団を基本に、軍施設や役人の居る施設を始め、見張りは継続されている。 ラヴィンの動きで、明日には一旦アジトに身を隠す事が伝えられてゆく中で。 見張りの状況は、逐一と云った感じで伝わり。 細かい回数でガルシア・リエルの潜むアジトに報告が来る。


ガルシアは、もう仲間には武器の手入れを示してある。


リエルは、仲間とその様子を見ているだけ。


「リエル。 激戦も想定した用意はしろ。 真っ向でぶつかっても構わない用意をな」


ガルシアは、かなり真剣な声音で云った。 リエルは、寝込みを狙う襲撃と聞いているだけに。


「何故だ?」


広く寒いフロアの中、灯りの数も足りず薄暗い部分が多い。 木箱の上に、剥き出しの蝋燭が灯されている前に居るガルシアは、剣を抜いて見ている。


「ハッキリとした確証は無い・・。 が、罠も在りうる」


壁際に蹲っていたリエルは、直ぐに立ち上がり。


「何故?」


すると、長剣の類に入る武器で在る、引っかかりの様な刃の出っ張りを持つ変わった剣を見るガルシアは、表情を一つ変えずに。


「静か過ぎる…」


と。


「意味が解らない」


少し慌てた感じリエルは、ガルシアの間近に行く。


リエルの仲間は、それをじっと見守った。


ガルシアは、剣を備に見て刃こぼれ等を確認しながら。


「リエルよぉ、幾ら人質を取られたからってな。 国の連中ってのは、そんな簡単に負けを認めるダンマりはしねぇ。 この動かない静けさは、下手すると向こうの作為の現れかも知れん」


リエルは、少し形の違う両目の視線をガルシアに突き刺したままに。


「予測出来ても、乗り込むのか?」


すると、此処でガルシアが不気味に余裕を残す視線をリエルに向け。


「まぁ…、想定内だからな。 下手に兵士が居るなら、魔法で殺す」


「…」


リエルは、ジェノサイダーの中でも一番まともに見えていたガルシアが、実は一番の知能犯ではないかと思えた。 この男は、何のためらいも無く、狂う事も無く人を冷静に殺せると判断した。 流石は、ジェノサイダーを率いるだけは在る。 …いや、狂った者達を率いるだけ、彼が一番狂っているのかも知れない。


(レプレイシャス………喰ってみたい)


ガルシアの事を認める事で、リエルの中で異質な別の者が蠢いた。 彼女…いや、今は彼か。 だが、その目がやや緩み、妖しげな艷やかさを浮かべたのは事実である。


だが、ガルシアの読みも確かなものである。 もう、この場所は逆に見張られている。 報告に来る人の出入りなどが数えられ、明日にも成れば繋ぎの潰しも可能に成るだろう。 何処から来る情報が多く、何処から来る情報が少ないか。 少ない場所は、折り合いを見て兵士側も潰していく。 今までは完全な優位を確立した組織側が、今度は追い詰められる番に変わろうとしている。


そう、人質の居場所がまだ判らない処が、兵士達の動けない要素を保持している。


そして…。


街中が深夜に落ちて、人の往来に区切りが出始めた事を聞くガルシアは、仲間に向かって。


「そろそろ出るぞ。 殺す時になった手加減は要らねぇ、全員ブッ殺す。 ハイニーズ、燃やせと言ったら、燃え残しは許さん。 デイブ、ゴストン、殺した相手は、誰かまわず好きにしろ。 生半可に死体を判る様な残し方をするな。 後から死体を見た奴が、誰か判らない様に。 見た奴が戦慄に怯え、俺達と戦う事に対して躊躇する様にしろ」


精霊魔術師のハイニーズは、“ウアウア”と言いながら頷くし。 殺戮狂愛者のゴストンは、身悶えする様に。


「声が・・早く声が聴きたい…」


と。


デイブに至っては、瞳孔の開いた眼をリエルやその仲間に向け。


「喰える・・人が喰える…。 頭も、目も、ドクドク動く心臓も喰える」


と、今にも飛び掛って来そうな様子を見せた。


交代で休むロイジャーの手下は、ジェノサイダーの面々が喜々と喜ぶ姿を見て、生きた心地のしない恐怖に犯された。 病気的な侵食より、暴漢に犯される様な畏怖を覚える。


リエルは、手勢12人を引き連れ、ガルシアに従った。


黒いマントに身を包み、外に出る一行…。 フードで顔を隠すガルシアは、リエルの一味と仲間を引き連れて繁華街に近い場所へと。


もう深夜と云う事で、酒場は開いているが。 往来を行く人は、通りの大きさや場所に応じて様々に成る。 遅くまで開く酒場の周り以外の通りは暗がりと成り。 闇が増えていた。


その中で、ガルシアは次々と馬車を襲う。 飲み屋が在る通りに面した脇道などに、主などを待って停車する馬車を襲い。 御者を殺し、時には中に乗り込んでいた者も犠牲にした。


「いいか、死体は通りのド真ん中に放り棄てろ」


死体を放置しては、直ぐに犯行がバレると思われる。 だが、これもガルシアの狙いであり。 死体の事で騒げば、役人はそっちに集中する。 兵士もまた、そうせざる得ない状況にしようと云う事だ。


御者も出来る悪党に一台の大型馬車を任せ、リエル達を先に行かせたガルシア。


更に。 後を追う馬車を調達しながら、もう従業員などの居ない店の外側にハイニーズの精霊魔法を撃ち込み。 深夜の街に先制攻撃を加えたのである。


老人の御者を殺し、首を切り落として喰らうデイブに、


「デイブ。 行くぞ」


馬を操れるガルシアとレイが馬車を支配し、デイブを急かせた。


繁華街の酒場から、魔法が撃ち込まれた異常な爆音を聞き付け人が出てくる頃。 ガルシアの操作する馬車が、仲間を乗せて貴族区に走り出した。 リエル達を乗せた馬車の御者は、デュナウドを運んだ御者であり。 ガルシアを道案内をするのは、ミカロだった。


遂に、ジェノサイダーが動いた。 向かうは、セイル達が待ち受けるマーリの一族が嘗ては住んでいた居城である。


この狂気に染まった殺人集団を、セイルはどう迎え撃つのか…。


そして、その勝敗の結果は…。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、有難う御座います^人^

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