二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~3
セイルとユリアの大冒険 3
第一章・旅立ちの三部作・最終編
≪殺戮者達の宴≫
年の最後まで後少しと云うほどにまで迫った頃。 年末年始の賑わいを掻き消す事件は、その日に起こった。
場所は、三箇所。
一つは、昼に既に起こった王都アクストムでの御者と母親の誘拐。
別の二つは、セイル達の居るアハメイルで。 宝物を運び込んだと見せ掛けた物置き場に在る襤褸小屋と。 そして、マーリの博物館への襲撃。
交易都市アハメイルで起こった襲撃のどちらで起こった事も、手口から見ても大胆不敵なやり方で。 双方とも、明らかに冒険者の技能を持った者が絡んでいた。
先ず、物置場として廃棄された物を仕舞っておく倉庫と云える小屋から。
まだ深夜と云っていい頃合いだろう。 セイル達を抜いて、兵士だけで見張っていた襤褸小屋に、突然魔法が打ち込まれた。 炎の魔法らしく、小屋の中が一気に炎で包まれ、廃棄物が炎上したのだ。 元から廃棄物の物置として使われた小屋で、埃と燃え易い家具などの壊れた物が在るだけに。 其処に大火球が投げ込まれたら・・、瞬時に廃棄物が燃えるのは当然だろう。
見張っていた兵士と、隠れて待機していた上級兵士が驚いたのも無理は無い。
闇夜に紛れる様に黒いローブを着て、面体が解らないままの5人の者達が小屋に近付いた。
先頭に立って踏み込むのは・・。
「もえもえもえもえろぉぉぉぉぉ~、ぜぇ~んぶもえろぉぉぉ~」
炎の精霊を操るハイニーズである。 大きな火球を襤褸小屋に飛び込ませた跡の穴から小屋に踏み込むと、身の回りに炎の輪を生み出した。
「出たぞっ!!! 取り押さえろっ!!!!」
組織された上級兵士数名と騎士3人の潜伏隊は、ハイニーズに向かって燃える倉庫内でも果敢に向かっていった。
だが、ハイニーズは炎の輪を波動の如く飛ばし、潜伏隊を蹴散らす。
そして。
「構う事は無いっ!! 存分に殺せっぇぇぇ!!!!」
と、声を挙げたのは、ハイニーズの後から踏み込むレプレイシャス。 その後、次々とジェノサイダーのデイヴ、ゴストンに続いて、初老の剣士デュナウドも加わっていた。 ジェノサイダーの中でも、レプレイシャス、レイ、デュナウドの3人は一角以上の剣士であり。 その腕は、日々の鍛錬で磨かれた騎士を相手にしても、決して退けを取るものでは無い。
レイと魔想魔術師のサロペンは、博物館の襲撃に回っていた。 だから、此方はジェノサイダーの5人のみと云う事だ。
「おのれぇぇっ、怯むなっ!!! いずれテトロザ様の応援が来るっ!! それまでに持ち堪えるのだぁぁっ!!!!」
炎の鞭と化したハイニーズの魔法に吹っ飛ばされた騎士のリーダーが、臆病風に吹かれて踏み込めない兵士を叱咤するように云う。
だが、テトロザは、相手が魔法を遣う事も視野に入れ、無理やりな戦いは避けろと指示を出していた。 処が、統制の取れている兵士や騎士でも、其処には人間としての心情も滲む。 魔法で攻撃され、ホウホウの体で逃げただけと成っては、リーダーの騎士もプライドが保てない。 まだ30半ばの騎士は、命令を出して無理を押した。
「うおぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!!!」
抜刀した兵士とリーダーの騎士は、周りが燃えるのも無視してハイニーズに向かって行った。 ある意味、ジェノサイダーの入って来た場所が一番安全な逃げ道でも在る。 逃げる血路を開く意味も在る突撃だったが、これは最悪の結果を生む事と成った。
「先ずは魔法を遣うアイツを斬るんだぁっ!!」
「一人で向かうなっ!!」
「結束ーーっ!!!」
見張りの兵士や隠れていた兵士合わせて十数名が、ジェノサイダーの一味をを取り押さえようとしたのだが・・。 人に対して魔法を遣う事を躊躇わないハイニーズ。 そして、レプレイシャス達もそれぞれに武器を遣う。 訓練を受けた選りすぐりの兵士6名が、反撃されて直ぐに意識不明の負傷。 残りの兵士達は、逃げるだけで精一杯と云う状態に陥った。
その騒ぎは、近場に在る海沿いの警備施設に待機していた軍隊にも知らされた。 通報を受けた待機中の軍が急行してみれば、現場に残された兵士は何れも惨殺されていたのである。 テトロザが連絡を常に取るようにしていた兵士は、襤褸小屋に押し入る前、先に殺されたので連絡が遅れたのだ。
この時、襤褸小屋は既に半焼以上に焼け落ち。 小屋の中は引っ掻き回されて、其処に火の手が回って更に炎上していた。 襤褸小屋と言っても、ある意味の倉庫で。 何時までも燃やしておいては、火の手が飛び火する可能性も在る。 遺体の全回収より、消火を優先させなければ成らない状況だったのは云うまでも無い。
「火を早く消せっ!!!」
「周りの建物に飛ぶ火させるなっ!!!!!」
「水だぁぁぁぁっ!! これ以上ゴミや遺体を燃やさせるなぁーーーっ!!!」
駆け付けた軍が浮き足立つ程の事態で、大声が次々と上がる。 深夜がまだ明け方に近付く頃合いで、住居区の市民を起こす騒ぎと成った。
一方。
時を同じくして、マーリの博物館に賊が押し入った。
博物館の敷地を囲う塀。 これを破るべく撃ち込まれたサロペンの魔想魔術が、争いの口火を切る合図に成った。
マーリの組織する私兵と云える雇われの腕に覚えの在る用人達が、開いた穴から侵入してくる賊をそれを迎え撃つ。
だが、相手は50人近い賊と、ローブに身を包み指揮をする3人の何者かと云う大勢。 辺りのしじまを破り、凄い喚き声が上がった。
フードをして顔を隠し、ローブに身を包むリーダー格の3人を相手に、組織されたマーリの警備団は負かされ掛けた。
館内を守るマーリの仲間を中心とした一団と、常に館内に寝泊りしていたマーリが合流して、暗夜の博物館外は更に争い激しい戦場と化したのである。
「何者かっ!!! 我が博物館を襲撃など、何たる狼藉っ!!!」
マーリは、自身の得物と成る軍用剣を手に、細剣を扱うリエルに斬り掛かり。 止めを刺され掛けた警備隊長を助ける。
マーリの仲間5人や雇われた冒険者3名は、腕っ節の強い賊や、悪党の頭目であるクドゥルとジェノサイダーのメンバーであるレンの足留めをした。
更に此方には、テトロザと彼の側近の騎士数名からなる待機兵士十数名が居た。 喚き声を聞き、見回りの騎士と兵士。 そして、マーリの屋敷内に身を潜めて、執事などを守るテトロザが動いた。
テトロザは、騒ぎに驚き命令だけ出して出るマーリの代わりに、宝物の有った地下倉庫へメイドや執事を逃がして安全を確保してから。 兵士数名と騎士を博物館内部に散らし、逃げ込んでくる負傷した者を助け。 窓などから侵入してくる賊を、確実に斬り伏せながら外に出る。
そして、外回りの警備から戻った高位騎士数名の働きもまた目覚しいもので。 数で押されていた勢いを挟み撃ちすることで盛り返し。 外に出てきたテトロザと応呼しては、リーダー格の3人を含めた暴れる賊共を打ち返す勢いも付けた。
あのラヴィンに命じられ、ゴロツキを騙して押し込み強盗に見せ掛けたクドゥル。 そして、彼の片腕として、クドゥルに向ってくるマーリや冒険者を食い止めるリエル。 そして、ジェノサイダーの副リーダーとして、参謀の様な働きをするレンと云う人物が主軸だったが。 テトロザともう一人の高位騎士は、この三人を含めた4・5人の手練を相手に激しく打ち合って劣勢に追い込む。
巨漢の悪党二人が、テトロザを相手に負ける。 これを見たクドゥルが、退きながら。
「いかんっ。 テトロザが出た」
それに応える様に、レンと呼ばれるフードを深く被る者が。
「逃げるに限る」
そのレンの声は美しく、女性か男性か区別のつかない感じであった。 その引き締まりの有る中性的な声に頷きを返すのは、悪党二人と3人掛かりで高位騎士を相手にしていたリエルだ。
「・・・」
夜の闇の中でそう言い合う二人と、逃げるタイミングを見たリエルで。 リーダー格3人が逃走する事で、賊の残りは指示もなく戦うハメに成る。
本当なら、外壁の塀を壊しまくって、放火をして混乱を促す手筈だったサロペンだったが。 四方の一面に当たる壁を何回か壊した直後、火を放とうと賊二人と放火をする所で、見回りの騎士と兵士の一団に出食わしていた。 距離が有れば魔法も放てようが、兵士3人が素早く並んで槍を一列に構え突き込むランスウォールの一手に、それが叶わず。 逃げる事が最優先と成ってしまっていた。
分が悪くなる此処で、流石にラヴィンの見込んだクドゥルの判断は早かった。 軽い興奮剤の様な薬を仕込んである酒を振る舞い、闘争本能を煽り立てて有った賊達に向け。
「逃げろっ!!!!! 四方八方に逃げて、誰でも殺し捲れぇぇっ!!!! 騒ぎがデカくなればっ、兵士や役人も混乱するぞっ!!!」
と、嘯いて逃げる。
もう、酒で酔い。 更に薬の作用で、常人としての思考能力の低下した賊共。 闇夜の劣勢の中で散り散りに成りながらも、クドゥルの出した指示を実行し始め様と言い合うのだ。
リーダー格の誰かは捕らえようと思っていたテトロザだが、これには不味いと思い。
「賊の逃亡を許すでなぁーーーいっ!!!!!!! 敷地から出る曲者はっ、問答無用で斬り捨ていぃっ!!!!」
と、リーダー格3人の相手を諦める。
怪我をさせても狂った様に暴れる賊が相手だ。 騎士達は、それなりに腕も有れば戦えているのだが。 兵士や警備団には、当然ながら怪我人も出る。 施設内に怪我人を連れて行ったりして、徐々に応戦の手は減る中でのこの事態。
死に物狂いの獣の集団と化す賊の残党と、決死の覚悟で破壊行為を止める兵士や騎士。 その戦いは、明け方前に決着を見たが。 兵士や騎士に死傷者を出す結果に成る。
事態の収拾をするテトロザも、流石に此処までの事を相手がするとは予想をしても。 被害が多く、頗る表情の険しい境地に至る訳だ。
(うむむむ、これは非常事態だ)
と、朝方に駐屯軍の全部隊を動かす決意をした。
軍の応援が来る事で、廃棄場の襤褸小屋も襲撃された事が解るし。 賊の死者が何十人と出て、平穏なアハメイルとは言えなくなったと思えた。
★
アハメイルで襲撃が起こった頃。 王都アクストムでは、モジューロゥとその仲間の数人は、ミグラナリウス老人の元に出向いていた。 ヘンダーソンもクシャナディースも面会に来ない中で、ミグラナリウス老人も焦りが出て来たのだろう。
怪我をしたモジューロゥと、その手下を玉座の様な椅子が配された間に呼んだミグラナリウス老人。 幅の有るマフラーを幾重にも首から肩に回している服装で、
「おぉ、呼び寄せて済まない。 何でも、ハレンツァの馬鹿者の手下を葬るのに、其方も怪我をしたそうじゃな。 して、守備はどうじゃ?」
モジューロゥも、流石に老人を前にしては膝を折り。
「へい。 実は、一人だけ相手側の密偵に渡ってしまいました」
老人は、ギョっとした目で。
「なんじゃとっ?!」
モジューロゥは、悔しながらも続け。
「今は、宝物を運んだ御者を誘拐して、在処を吐かせている所でごぜぇます」
老人は、騒ぎに成っている街中の事は、夕方に手の者から聞いたので。 思わず椅子から身を乗り出し。
「バカめがぁっ!! ハレンツァの手の者を始末出来ずにその様な事を仕出かしたら、お前たちに国の手が伸びるではないかっ?!!! ヘンダーソンは・・ヘンダーソンがそう指示をしたのかぁっ?!」
憤り、焦り、恐れ、感情の滲む老人の声が、幽かに震え出す。
頭を下げるモジューロゥだが。
「はい・・。 指示は、前にされたままの内容でやっとります。 とにかく、宝物の運び込んだ内情だけ調べ、一度姿を消そうかと思っとりますがぁ」
控えた脇の暗幕の裏に、あの不気味な商人ソルフォナースが控えているのを見た老人であり。
「・・」
静かに頷くソルフォナース。
(やはり、手は早く打つべきじゃったか・・)
老人は、限られた情報しか無い中で、現状から推察して事を指示するしか手が無いと云う事を思い知った。
そして・・、やや落ち着きを窺わせる老人は、口を開くと。
「・・よし。 それは許す。 聞き出せたなら、そのままアハメイルに迎え。 そして、ラヴィンに助力するのじゃ」
何故、怒りを鎮めたのか解らぬモジューロゥは、片手で頭を下げ。
「はい」
「じゃが・・」
此処での老人の言葉が更なる用事を窺わせたのに、モジューロゥは顔を挙げる。
「はい?」
すると、ギラギラとした怒りの含む目をした老人が。
「良いか、去る前に一仕事をしてゆけい」
と。
その異常な光を宿した目を見返すモジューロゥは、背筋に寒気を覚えながら。
「なっ・なんでしょう?」
「ん。 ヘンダーソンを殺せ」
「は?」
「ヘンダーソンは、もう要らぬ。 アヤツに捜査の手が回れば、ワシの元に直ぐ手が届く」
モジューロゥは、ヘンダーソンからクシャナディースの始末を持ち掛けられていただけに。
「あの・・、デカい方のダンナじゃないんですかい?」
老人は、腰を深く席に戻し。
「いや、クシャナディースを殺せば、公爵に手が出たと更に悪く成る。 寧ろ、ヘンダーソンを殺せば、見せしめに成り。 クシャナディースもまた、私の元に尻尾を振りに出てくると云うものよ。 恐らく、もうヘンダーソンはお役目を解かれる時に来ている。 一番切りやすい処で、我の元に来ぬ輩共に丁度良い見せしめに成る上。 更に、ワシに捜査の手が及ぶ危険性の有る者を摘み取るのは、今講じれる策の上でも良策。 ヘンダーソンは、長年仕えたが故に知り過ぎているしのぉ」
「でっ・でわ・・ヘンダーソンの旦那を殺せはイイんですね?」
「うむ。 ハデに殺しても良いぞ。 逃げる上で、攪乱に使えるならそれでも構わぬ。 それから、話を聞いた後の御者の処理は、内々に頼む。 探す目標が既に無いのは、一番の労力の無駄。 巷を慌てて走る兵士共には、丁度良い盲ましに成る」
老人がそう言ったのに対し、モジューロゥは思う。
(そうか? これだけの騒ぎに成ってるのに・・。 だが、逃げる前にやれば・・確かにそれも・・・)
この王都に長居する訳でもないので、モジューロゥはその計画を十分に利用させて貰おうと考えるに至り。
「では、これで。 これから、一気に締め上げて吐かせます」
「おう、そうかそうか。 では、アハメイルに行く様なら、ラヴィンに早く戻る様云うて欲しい」
「へい」
下がって消えるモジューロゥ。 ミグラナリウス老人は、モジューロゥを返した後。
「ソルフォナース殿、どうやら貴殿の云うた通りに成った様じゃ。 こんな・・こんな事なら、早うにどちらかを殺すべきじゃった。 ハレンツァを始末した直後に、の」
老人の前。 段の下に出たソルフォナースは、モジューロゥの消えた後を見て。
「ですな。 しかし、騒ぎが妙に大きいのが気に掛かります。 御老。 こうなっては、一度は王都を出る事も視野に入れた方が宜しいのでは有りませぬか?。 まだ、御当主の遠縁に当たる血筋が、過去に亡命した国に残るとか。 その者を計画に引き込めば宜しいかと思いますが・・」
すると、ミグラナリウス老人は、渋い顔をして。
「それは、嫌じゃ。 この王都を出ると云う事は、それこそ逃げると云う証・・。 あの事件から200年・・200年じゃっ。 もう、我らに光が当っても良い。 良い筈じゃっ!」
駄々っ子の様な事を云う老人。 生まれてから、母親にその事を言い含められて90年である。 自分でその事を計ろうと、法律に携わる役職を希望して就けど。 それも上司に因って思い叶わず。 従って、微かに続く遠縁のヘンダーソンを魅了し、計画を立ててきた。 此処で計画を頓挫させて、しかも逃げるなど出来ようか。
ソルフォナースは、それでも説得に掛かった。
★
事態が大きく畝ねった日から、明くる日の早朝。 テトロザが後処理に負われている中。
リオンは、山の捜索にまで兵を向け。 自分でも一休みだけして、捜索を続けようと王宮に戻った時。 暗い大広間のロビーを行くリオンの前に、黒い影が控えて居た。
リオンは、一緒に戻った騎士の数名を共にしながら。
「誰か?」
すると、アッシュを助けた女性の密偵で。
「リオン様、失礼ながらお知らせが」
「リュジュか?」
「はっ」
「どうした? まさか・・アッシュの身の上に何か在ったかっ?!」
「いえ。 先日お助け致しましたあの御仁が、意識を取り戻して御座います」
「誠かっ?!」
「はい。 リオン様が直々に御会いに成られるか、御伺いに参りました」
リオンは、直ぐに。
「よし、行く」
騎士達を休ませる傍ら、リオンは疲れ知らずで保護した男性の居る寺院へと向かった。
ハレンツァの手の者は、名前を変え、一般の病人として中央に在る寺院に匿って在る。 軍医施設と併合された大型寺院であり。 気絶した彼を地下の通路から運び込み、一般の病人として個室に入れてある。 傍には、絶えずリオンの手の者でも腕の達つ二人が見張りをしていた。
リオンが寺院に行けば、全身に手当てされた姿を見せる男性が寝ていて。 リオンが声を掛ければ、驚いて動かせない身をモゾモゾと動かし。
「こ・・これ・・は、リオ・ン・・さま・・・」
仲間の男性に突き落とされた時に、腕と肋骨を負傷した彼だったが。 衣服を取って見れば、彼方此方に傷を負っていて。 しかも、あのモジューロゥの手の者の投げる刃物には、神経系を侵す毒も塗って有ったらしく、思った以上に重症だった。 だが、こうして生きてリオンに会えると、感極まって涙を落とす男性である。
リオンは、今までの経過を話した上で、何か情報を掴んでいるのかと訪ねた。
傷だらけの男は、リオンの前だからと平伏しようとしてはリオンに叱られ。。 寝たままの体勢から、辿たどしい口調ながら事と次第を話し出した。
ハレンツァは、子供達の事件を調べさせていたらしい。 その中で、最初に手掛かりが出てきたのは、魔術師に扮した者が子供を脅した現場から少し離れた場所で。 その風体にソックリな何者かが、時折出没すると云う情報だった。
その情報を追う内に、その変装をする前だろうか解らないが。 その場所に在る廃屋に、時折出入りする冒険者風体の者が居た事を突き止める。 リオンの率いる軍とポリア達が、封鎖区域に蔓延っていたモンスターを掃除した頃だ。
そして今度は、別の何処かにもその怪しい冒険者風体の人物が出入りしている事まで突き止めた所で、ハレンツァが殺されてしまったのである。
司令塔を失った彼等は、何とか息子のエリウィンに面会したかったらしいのだが。 リオンに呼ばれたままに戻らず、連絡が付かない。 仕方なく捜索を続けようとすると。 今度は、自分達を探す悪党の一団が現れたりして、もう捜索処では無くなった。
何より彼等が驚いたのは、自分達の素性の大半が相手に露呈している事。 そして、立ち回り先を押さえられていた事だった。
この数日の間に、もう助けられた彼以外の全員が殺されていた。 行方の判らない一人は、今も冷たい下水路に沈んでいるのだ。
さて。
生きた情報として、その冒険者らしき男が出入り場所を聞けたリオン。 その場所は、住居区と貴族区の交わる境で。 王都郊外の縁際に有る家だと云う。 下がった地下に一階を持ち、二階・三階部分は常にカーテンが窓を締め切って誰が住んでいるのか判らない。 しかも、周囲に聞き込んだ所に因れば、ヘンダーソンの血族が偽名で買った家らしい。
リオンは、その場所を聞き。
(まさか・・、連れ攫われた御者の親子も其処か?)
怪しい荷馬車が走っていったのは情報として聞けた。 その荷馬車が消えた聞けたのが、中央公園とその周辺の文化区域であり。 その場所を中心に、必死に探し回っていた捜査陣であるが。 もし、何か工夫を凝らされていたとしたら、幾ら探しても見つからないだろう。 それなら、王都の中で怪しむべき所は、全て調べて潰していくに限るとリオンは判断。
「解った。 ゆるりと休むが良い。 何れは、エリウィン殿に面会させる」
「まっ、真で・・御座いますか?」
「うむ。 だが今は、其方の身も狙われる現状だ。 今暫くは此処で、一般の病人として身を隠すのがいい」
「は・・はい」
寺院を出たリオンは、王宮に戻って。 朝方に兵と騎士で小隊を4部隊編成し、その場所を目指して手分けし向かった。 朝方だが、まだ暗い闇を利用し、見回りの兵を装う様に静かなる行動を言い聞かせた。
そしてこの時。
ミグラナリウス老人の元から帰るモジューロゥは、ヘンダーソンの家に向かった。 彼は家の場所を知っていたし、彼が居る事を確かめようと思ったのである。
ヘンダーソンの屋敷に辿り着いたモジューロゥは、足を引き摺るままに一人で面会に行くと云う。 敷地内に侵入の手伝いをしろと手下に言えば、手下の一人が。
「今、殺してしまったら如何です?」
と、云うと。
「バカ、まだあの強情なババァと御者から話を聴けてねぇ。 こっちを殺して騒ぎに成ったら、逃げる時間稼ぎが苦しくなる」
「あ・・、なるほど」
「それに、あの御偉いさんの周りには、剣の腕が達つ用人が二人程居るんだ。 手負いの俺以外で、たった3人じゃ乗り込んでもしくじる可能性が強い」
「んじゃ、何で今に?」
「所在の確認と、雰囲気を探るんだ。 あの老人に面会に行かない以上、なぁ~んか企んでるとも限らねぇだろ?」
「あ、なるほど」
モジューロゥは手下に手伝われ、雪の敷き詰まったヘンダーソンの家の敷地へと忍び込む。 普段なら縄等使わないし、他人の助けなど借りるモジューロゥでは無いが。 今はそうも言って居られない。 モジューロゥは、嘗ては自分の長で在った頭目を殺し、強引に頭目の地位を奪い取った成り上がり。 手下には、信頼して全てを任せられる腹心が無く。 しかも、自分から率先して動かないと、油断から寝首を掻かれるとも限らない不安が、常に彼を付き纏う。 裏切りを重ねた身故の、被害妄想だ。
ヘンダーソン家の離れ屋敷まで来たモジューロゥは、手下を木々の影に隠してヘンダーソンを訪ねた。 折しもヘンダーソンは起きていて、面会は容易だった。
屋敷内に招き入れられたモジューロゥは、貴族の家にしては簡素で落ち着いたロビーから続くリビングに来る。
暖炉の脇に置かれた一人掛けのソファーに、偉そうにして足を組み座るヘンダーソンが居て。 しかも、珍しくフードの無いナイトガウンの衣服で座っていた。
「モジューロゥ、・・随分と情けない姿だな。 まさか・・、しくじったのか?」
一応、膝を折ったモジューロゥ。
「へい。 あのジジィの手の者を見つけたんですが、保護する何者かに奪われた次第でして・・スイマセン」
間近の小さな丸い台にワインを置くヘンダーソンは、ワイングラスを手にしながら。
「はぁ~ん。 それは恐らく、リオンのバカタレが動かす密偵だろう。 これは、容易な事態では無いなぁ・・・」
「すいやせん」
再度謝るモジューロゥ。 その様子を見るヘンダーソンは、細めた目で見据えながら。
「その様子だと、昼から騒ぐ兵士などの一件もまた、お前達の仕業か?」
「へい。 宝物を運んだ御者が戻って参りましたので、話を聞く為に誘拐したんでさ。 兵士が常に見張っていたんで、ソイツを強引に潰してからして退けました」
ヘンダーソンは、上から見下ろす目を気味悪くさせ。
「やはり、お前達はラヴィンとは違うな。 こんな大騒ぎに成っては、もう誰も沈静化は出来ん。 で? どうするつもりだ?」
「へい。 さっき、あの御老体に面会しまして、宝物の情報を聞き出したらアハメイルに向かえと」
此処で、ヘンダーソンは目をグっと細め。
「それで、他には?」
その声と目で、モジューロゥはヘンダーソンが警戒しているとハッキリ解った。
(やべぇ、この野郎・・それが目的だったか)
自分の後ろに一人。 そして、ヘンダーソンの脇に一人。 隙の無い中年の用人が控えて居る。 自分の身体が不自由なだけに、下手な事をすれば殺されかねない。 モジューロゥは、こんなに簡単に自分と面会したヘンダーソンの魂胆を窺い知った。 ヘンダーソンは、自分と語らい問い質しては、老人の真意を探ろうとしたのだ。
「あ・・、いえ。 ラヴィンとジェノサイダーの一団が戻ったら、クシャナディースの旦那をどうするか決めると・・」
その一言を聞くヘンダーソンは、ニタリと笑みを浮かべて。
「そうか、そう仰ったか・・」
急にヘンダーソンが怖く成り、冷や汗を全身に掻き始めるモジューロゥ。 余りにもその笑みが不気味で、自分の命が此処で終わるのかと思った程。
だが、ヘンダーソンは、頻りに頷き。
「そうか、そうか、それは良い事を教えて貰えた」
モジューロゥは、雰囲気を変えようと。
「ヘンダーソン様よ。 御老体が顔が見えない事に不審がってましたゼ?」
ワインを一口含むヘンダーソンは、
「・・、そうか。 だが、今は動く時に無い。 ハレンツァを殺した御陰で、その喪に服す国王の示した静けさが、怪しい者をかえって炙り出す結果を招いている。 年明けまでは、静かにするのが一番だ」
この話に、
(ほぉ~。 んじゃ、今少しは黙って居るって事か。 なら、襲い易い)
と、思うモジューロゥ。
ヘンダーソンは、モジューロゥを見据えながら。
「所で、仲間はどうした?」
「あ・・はぁ。 お屋敷の中に入れるのも無粋ですから、外に待たせて在りますがぁ・・。 何か?」
「いや。 その姿で一人戻るのは、見付かり易く困ると思うたまでよ」
「これは、お世話を・・」
何時に無くモジューロゥが言葉を選び、謙る。
(流石にあの御老体の傍で、長年に亘って謀をしてきただけあらぁ。 スゲェ~鋭い・・。 こっちの思惑がバレてなきゃいいがぁ・・・)
モジューロゥは、それが心配だった。 帰る事を告げると、ヘンダーソンは態々ワインを薦めて来て。 モジューロゥが一杯だけ飲み干すと。
「御老のお気持ちを伝えに来てくれて感謝する」
と、言ったので在った。
どうも、騎龍です^^
ご愛読、ありがとう御座います^人^