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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
114/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~3

                    セイルとユリアの大冒険 3


                   第一章・旅立ちの三部作・最終編




                      ≪宴の前・後≫




この日は、アハメイルでも大きな動きが在った。


それは、ラヴィンとレプレイシャスがアハメイルに入った事である。 警戒の厳しい最中だったが、ヘンダーソンの息が掛かった兵士の誘導に因る。 黒いローブに身を包むジェノサイダー達と、覆面に黒い皮のコート姿のラヴィンは、商業区の奥地にわだかまる暗黒街へ向かった。


毎夜、大きな劇場がフィナーレに打ち上げる花火が夜空に開く中。 闇に紛れる黒い一団が商業区の裏道を歩く。


ラヴィンは、花火の明かりで夜道が見え易いので、遠くで煩い花火を見返り。


(闇には、明かりは嫌われる。 何れは、俺達の暗黒の時代が訪れる)


そんなラヴィンの脇に居たレプレイシャスは、花火の音に。


「うるせぇなぁ。 年末年始のバカ騒ぎを壊してやりたいゼ」


と、憎らしげな感想を吐く。。


すると、レプレイシャスの真後ろに居る背の高い者が。


「リーダーよ。 それなら、俺に命令しろさ。 派手に殺し撒くってやるゼ。 いひひひ」


その背の高く男の声をした者の横に居る何者かが。


「宜しいな。 血は、最も麗しいワインと同じ。 啜ってしまおう・・啜ってくれよう」


と、気味の悪い女言葉の様な言い草をする。 声は、甲高い男の美声なのだが。


ラヴィンは、誰かに見られる前にと歩き出し。


「何れ、全ては壊す。 行こう」


と、ジェノサイダーの面々を促した。


ラヴィンの向かったのは、暗黒街の一番危ない地帯だ。 下手な悪党等では、偉そうに彷徨かないような所で。 悪党組織の縄張りが建物一つ単位で出来ている場所。


ラヴィンの前に、何時の間にか現れた案内役の覆面人物は、


「お待ちしていました。 ラヴィン様ですね?」


と、カンテラを持ってラヴィン達を迎える。


「あぁ、ご苦労。 各徒党の長は、集まっているな?」


「ヘイ。 一昨日に、全員揃いまして」


「一昨日だと? 遅れたのは、どの徒党だ?」


「へい。 クドゥルのダンナが率いる一味です」


「クドゥルめぇ・・。 強行役だからと俺達に合わせたか?」


「あ、いえ。 最近の警備の厳しさから、見つからない事を最優先にしたらしいですが」


「・・・まぁ、いい」


「では、案内します」


アジトと成る建物が在る廃屋に行くラヴィンとジェノサイダー。


雪で覆われた街路を少し歩いて案内されたその建物は、石造建築の平屋の屋敷の様な大き目の建物だった。 その入り口が在る場へ、石の段を降りて行こうとした時だ。


「お~、真っ黒な集団サンですか。 ゾロゾロとこんな所を歩くなんざ~逃亡者かぁ?」


「うひゃひゃぁ~、年末でクッセ~流れ者が増えた増えた~」


酔いが混じる大声で、3人連れの無頼が通り掛かりを装って難癖を付けて来た。


「おい、こち・・」


案内で現れた男が、3人を制止しようとすると・・。


「いい」


ラヴィンがそれを制止。 そしてラヴィンは、レプレイシャスの仲間に。


「暴れてなくて血に飢えているなら、此処で気晴らせ。 どうせ、殺しても役人すら来ない」


と、言った。


ラヴィンの半歩後を歩く形で停まったレプレイシャスは・・。


「いいのかよ。 あ~あ」


絡まれた事に怒る訳でもなく。 また、無責任に放任する様な言い草しかしない。


7人で構成されるジェノサイダーの面々らしいが。 その内の3人が酔っ払った悪党どもに進み出ると・・。


酔った悪党3人は、マントの前を開いて各々が腰に下がる得物を見せ。


「おいおい、俺達とやる気みたいだぜ?」


「へぇ~、命知らずもいいところだな」


「怪我じゃ終われないぜぇ」


と、嘲笑う。


ラヴィンは、その絡んで来た無頼の3人の余裕を見て。


(この一帯に塒を構える輩の下っ端か・・。 小さい組織に胡坐を掻くのも、程がある。 仕事中は黙らせる為にも、丁度いい見せしめに成ろう)


ラヴィンは、ジェノサイダーの力量の断片を見たい所も在り、ソレを許可したのだ。


「やんのか、ゴルァ?!!」


無頼の中でも一番大柄な強面が、ハンドアクスと云う片手用の斧を構えて見せると。 ジェノサイダーの

中で最初に歩き出した猫背の者が・・。


「アージャスビア・・ウルクラスマム・・・ソエビアカ・・モノブっ!! いでよっ!! フレイムアウハントよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


枯れた声を不気味に間延びさせるその男の声に、案内の者が持つカンテラが応えた。


「うわわっ!!」


カンテラを持つ案内が驚いたのも無理は無い。 カンテラの外周を構成するガラスが瞬時に勢い良く壊れ、なんと生き物の様に炎が溢れ出したのだから。 案内の手を離れたカンテラは、雪の積もる踊り場に転げ落ち。 溢れ出た炎は、何やら呪文を唱えた男の前に舞い降りた。


「あ~ん? 手品かぁ?」


悪漢は、炎がモヤモヤと人型に象って揺れ動くのを見てこう云うのだが・・。


人型に姿を留めた炎は、”オアオア”と云う口の動きで顔と見て取れる部分を有し。 モゴモゴと口を動かす姿は、何か言葉を喋っている様にも。


不思議と思うラヴィンは、レプレイシャスに。


「炎の精霊か?」


「あぁ。 ハイニーズは、炎の精霊を呼べる。 頭は子供みたいだがな、喜怒哀楽が支離滅裂に成ってるから、敵と見なす相手には歯止めが効かん」


「ほう」


そう二人が言い合う中で、


「そおおおれぇぇぇぇぇぇ、こげこげこげぇぇぇぇぇ~」


ハイニーズは、まるで子供が喋る様な様子で、短い杖と云うか木の棒とも見て取れる物をグルグル振る。


すると、突然に炎の塊が前進し、ハンドアクスを構えて見せた無頼の男に襲い掛かった。


「わぁっ、なっ・なぁんだぁぁっ?!!!」


3人の無頼は、その炎に迫られた事で左右と後方に散る。

 

口をモゴモゴと動かす炎のモンスターは、ハンドアクスを持った無頼に伸び上がる様に襲い掛かった。 暴れる様に振り込まれたアクスは炎の身を斬る事も出来ず。 炎の精霊の身に無頼の男の手が呑まれる。


「ぎゃっ!! 熱いぃぃっ!!!!」


喚いて手を引く大柄の無頼男だが、引く手と同じ動きで自分に炎をが抱き着いて来る。


「うギャァァーーーーっ!!!!!!!」


灼熱の炎に抱き付かれたら、誰でも悲鳴を上げるに違いない。 ジュっと焦げる音が沸き上がり、頬や額が急激に火傷をし。 衣服や皮のプロテクターが焼けて燃え上がる。 あっと云う間に無頼の男は炎に包まれてしまった。


「おわぁっ」


「お・・・」


無頼の2人の仲間が、ハンドアクスを持った者に寄ろうとしたが。


「んがががががぁぁぁ・・・・・・」


何と、燃える男の体を這いずり回る炎が、絶叫を上げる口の中にスルスルと入り込み始め。 しかも、炎の一部がその抱き付いた男の頭を鷲掴みにして、グっと上向きに擡げた処で、悲鳴を上げる口の中に更に炎が入り込むのだ。


炎に包まれた身は雪の上に倒れて白い湯気を上げる。 そして、人の焦げる凄まじい異臭が立ち上り、驚いた仲間の二人は近づく事も出来ない。


仲間二人が呆然と見ている中で、ブルブル・・ビクビクと身体を焦がしながら痙攣する無頼の男は、次第に内から身を焦がして動かなくなった。


すると。


「オホホホ・・、見ている場合かえ?」


小太りで頭髪を布で巻いて纏める無頼の背後に、先程に女言葉を使っていたローブの人物が近寄っていた。


「あ゛っ!!」


大きく口を開いた小太りの無頼だが、そのまま口に手を当てられたままに押し倒された。


「もぐぅ!! ふぐぅぅぅぅぅ!!!!!!」


篭った声が、鈍く篭れる。 腹部に、幅の狭い長さだけがある剣が突き刺さったからだ。


ラヴィンは、その手際の鮮やかさに。


「殺し屋の様だな」


レプレイシャスは、無頼を惨殺し始めた女言葉の者を見ながら。


「ヤツは、在る意味で獣だ。 デイヴは、金持ちの商人の息子でさ。 身代金目的で誘拐された過去が、今の性格を目覚めさせた原因らしい」


「ほお~、犯罪に巻き込まれてか」


「あぁ。 誘拐されて、監禁状態に成った後。 ヤツの身の代として要求された金額が多額で、監禁が長期に亘ったらしい。 犯人は、最初からデイヴを殺す気だったらしくてさ、水すら与えずに置いたから飢えに飢えた。 それまで、何の不自由も無く暮してたお坊ちゃんだったんだが・・、監禁の間に凄絶な暴力も振るわれたらしい。 そして、アイツの精神がぶっ壊れたその時に、犯人の不手際が起こった」


「“不手際”?」


「あぁ。 なんでも、ヤツが弱ってるから、甚振りながら殺そうとしたんだ。 だから、縄を解いたんだ」


「ほう」


「だが、その時既にアイツは、もう飢えて理性の消え失せた獣だった。 だから・・・ホラ」


レプレイシャスが顎で指し示す。


ラヴィンは、目の前で見える光景を見て。


「なるほど・・・。 相手の犯人を食った訳か」


レプレイシャスも頷き。


「おう。 喉笛に噛み付き、犯人の肉を喰らった。 その時、飢えが限界を超えてたんだろう。 ヤツぁ、肉より血が・・美味いって思えたんだと」


レプレイシャスが言い終える頃。


「あああああぁぁぁぁっ!!!!!」


闇の中で、獣の様な奇声を上げては無頼の男の腹部に顔面を押し付け、まるで犬食いをする様な者がいた。 この人物が、デイヴ・・。 一瞬手前まで、女言葉を使っていたとは思えない。 雪の上に倒れた無頼の腹辺から、雪が黒ずんで行く。


グチャ・ピチャっと云う音が闇の中で聴こえる中。 レプレイシャスは、フードを取り。


「犯人を食って助かったヤツだが、もう心が人には戻れなかった。 親や友人を食う鬼と成り、役人に追われて街を出た訳さ」


以前にこのレプレイシャスが、自分の仲間を気狂いの集まりだと言った。 ラヴィンは、その意味が今に解った。


「あっ・あっ・・嘘だぁっ!! そんなぁぁぁぁーーーっ!!!」


人が人を食うなど在り得ない。 そう驚いた最後の無頼の小男だが。


「逃がすかよっ」


と、背後から声がして。


「ハヒィっ?!」


最後に残った無頼の小男は、戦慄に怯え背後に向くのだか・・。 振り返った背後に誰も居ない。 そして、小男が右に顔を回すと・・。


「痛っ!!!」


頬に何かが刺さって痛みが走る。


「痛いか?」


耳元でまた声がして、


「わぁっ!!」


と、恐怖が心の中に居座ってしまった無頼の小男で。 大慌てで後ろを振り向くと・・。


背が高く、黒いローブを被った面体の判らない者が立っている。


「痛いぞぉ~、もっと痛いぞぉ~、泣き叫べっ!! 喚き倒せっ!!!!!」


と、まるでからかいながら相手を甚振る様な口調である。


そして、頬から痛みを伴って流れ出る物が自分の血だと解った無頼の小男は、後退りをしながら。


「ヒィィっ!!!!! わぁっ・わぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!!」


と、大声を上げて逃げようと必死になった。


が、黒いローブの何者かは、右手に持つ太く丸みのある変わった刃物を投げ付けた。 闇の空を裂いて走る刃物は、背を向け逃げようと走り出した無頼の小男の右肩に突き刺さる。


「ひぎぇっ!!」


突き刺さった勢いと痛みから、踏み出した足が縺れて大きくすっ転ぶ無頼の小男。 雪の敷かれた上を転げた小男に向かっていくローブの何者か。


レプレイシャスは、少し先の暗がりに成って、悲鳴を上げながら近づいて来た何者かから逃げようと這い蹲る無頼の小男の方を見ながら。


「アイツは、元は殺し屋のゴストン。 相手を殺すときに・・」


と、ラヴィンへ説明をする最中で、


「んがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


何か口を塞がれたままに、拷問でも受けて責め抜かれている様な絶叫が上がる。


レプレイシャスは、その声を聞いて。


「あ~ぁ、始まった。 ラヴィンよ、お前が餌を与えるからだぞ」


ラヴィンは、無頼の小男がどんな目に遭っているのか今一解らず。


「何をしているんだ?」


と、レプレイシャスに問う。


「あ? アレは歯を抜かれてるんだ。 一本残らず。 それが終わったら、爪に移る」


「ほう。 随分と恐ろしいやり方だな」


「あぁ、奴は好きなんだ。 人の絶叫が、歌の様に聴こえるらしい。 叫び声が、人の声の中で一番美しいと思ってるみたいだ」


狂ってるとは云え、それでも随分と変わっていると思うラヴィンは、先に隠れ家へと入ろうと階段を降り切る。


レプレイシャスは、人を消し炭にするまで燃やそうと、炎の精霊を働かせるハイニーズに歩み寄って行きながら。 少し離れた傍で、頭を狙うデイブに向き。


「デイヴっ!!」


と、鋭く言う。


「・・・」


口の回りを血だらけにした、面長のデイヴがレプレイシャスを見る。 長めの鼻が曲がり、死人の様に白い肌をした青年の様な人物だった。 踞った体勢から、瞳孔の開いた狂気の瞳をギロギロとさせてレプレイシャスを見る。


レプレイシャスは、微塵の怯えも見せず。


「頭は止め。 お前、狂い切って手に負えなくなるぞ。 生きて遊びたいなら、その一線は後に取っとけ。 そろそろ仕事の話を詰めるから、中に入れ」


「・・・」


レプレイシャスを見続けるデイヴだが、レプレイシャスが目を細め。


「デイヴ。 チームが危険に曝されるなら、お前を斬る」


と、言うと・・。


「・・」


デイヴは、遺体から離れ出す。


「ハイニーズ、ゴストン、殺しは依頼がくればいくらでも出来る。 さ、殺しを止めて中に入れ」


レプレイシャスに言われ、二人も動きを止めた。


ハイニーズは、大柄の無頼の8割を燃やした所で止め。 ゴストンは、闇の中でまだ生きている無頼の小男にトドメを刺す。 因みに、ゴストンの持つ短い丸型の刃物は、燃える炎を象った“フレイミンカッタ

ー”と呼ばれる近距離格闘用の武器である。


レプレイシャスは、路上の雪の上に転がった遺体をそれぞれに見て。 何とも気味が悪いと向きを変える。


この異常な者共が、世界でも5本の指に入る凶悪なチームの”ジェノサイダー”であった。



・・・。



外から見ると、その建物はみすぼらしい感じだが。 中は中で、殺風景な何もないフロアなだけだった。 蝋燭の置かれる木箱や、壁際に使い古した長い長いソファーが有るなど以外は、埃臭い広い広いフロアが有るだけなのだ。


壁際に並べられた長椅子のソファーに座るのは、ジェノサイダーの面々のみ。


部屋の中央に有る木箱の間近には、ラヴィンが覆面をしたままに居て。 その周囲で、二つ有る蝋燭の光が届く範囲には、数名の者達が2・3人単位で固まり。 少し纏まりが離れながら、ラヴィンに向いて立っている。


「それじゃ、報告を聞こうか。 捜索を命じられたのは・・ロイジャーの一団か」


ラヴィンの右手に立つ3人の男達。 中でも太った大男が、暗い横を向きながら。


「今、運んだ奴らを探してる」


ラヴィンは、ピッタリとその男性に向きながら。


「ロイジャー、珍しく見逃したのか?」


「知るか。 突然に訳の分からん事に成ったんだ。 何でも、中央でド豪い事が有ったらしいじゃないか。 その知らせが届いたみたいで、その直後に国の奴らまで加わっての失踪だ。 何がなんだか、こっちが困ってる」


すると、コツ・・コツと床を鳴らして歩み寄るラヴィンは、背の高い大男の悪党を目の前にする。 頭に布を巻いて、冒険者に近い格好のロジャーへ近づくと。


「話に聞くと、お前のよこしたクルーガーが、尾行に失敗したとか・・」


「みたいだな。 ガキに侮って失敗したとか。 ただ、それでも行方はしっかり押さえてた。 宝物の運び込まれたらしい博物館と、奴らが泊まってたらしい宿も」


「ほぅ」


「しっかり調べて、人質を取ろうと計画した矢先に消えられた。 情報が足りないから、不測の事態には対処も困る」


「ふむ。 だが、焦った手下が、無理やりに役人を殺したそうだな。 街中を見ても、その御陰で警戒が更に強化されてる。 これでは、何をするにしても面倒だ」


そのラヴィンの話に合せ、左側にいる背の高いニヒルな顔立ちの中年男が。


「ホントだぜ。 街に入るのにエラい苦労した」


と、嫌味を効かせる。


太った大男は、舌打ちをして横を見る。


しかしラヴィンは、


「クドゥル。 それ以前に、もっと早く入る予定だっただろう? ロイジャー達と一緒に行動しろと命令を出したハズなのに、その遅い行動には目に余る。 此処で、雇った殺し屋達に命じて始末させようか?」


ニヒルな印象の中年男は、そのラヴィンの冷血な話にやや大きい目を細め。


「本気で言ってるのか? 組織の命令に、今まで何度も応えて来たってのによっ」


「当たり前だ。 今回は、此処十数年は発令されなかった召集が掛かってる。 今までの手柄や、功績など酌量の余地に入らない。 それだけ、今回の案件は力を注いでいると言う事だ」


「・・・」


軽口をたたいたニヒルなやさぐれ男も黙り。 ラヴィンは、大男に向き。


「それで、運んだ四人が居ない訳か」


「あぁ。 もう少し突っ込んだ調べ込みが出来れば良かったんだがな。 その四人が宿から消えた事で、もう箝口令も布かれているらしく、宿の従業員への聞き込みが思わしくない。 リオンが居ない分、テトロザがマジに成って色々働いてる。 軍内部でも、内通者の届かない権限で動いてるから、内情を知れないんだ」


ラヴィンは、計画を立てようと思い。


「何でもイイ。 解る範囲の事を教えてもらおうか」


「複数の場所に張り込みをしてる。 先ず、博物館には変な動きがないか探らせている。 後、住居区の片隅に有る廃棄場には、深夜に何かを運び混んだと思われるから張り込みをさせてる。 他には、宝物を運び込んだ場所を探す上で、博物館の持ち主一族が昔住んでいた旧貴族区の周辺も探らせている」


「成果は出そうなのか?」


「正直な所を言って、博物館からの情報流出は難しい。 兵士をウチの手下が焦って殺してるし。 運び出しの情報を貰った博物館の日雇いも、仕方なく口止めに始末してる。 その御陰で一部の者のみで情報を出さない様に警戒しているから、もう後は踏み込むしか無いな。 それから、廃棄場にも常時兵士が居る。 張り込んでる手下から聞くには、数が潜んでるかも知れない。 態と俺達を誘い込む罠とも受け取れるな」


ラヴィンは、それを聞きながら俯いていたが。 3呼吸ほど間を開けてから、


「それなら、その二箇所には踏み込もう。 待ち伏せが予想されている物置場には、雇ったジェノサイダーに行ってもらう。 博物館の方には、寄せ集めのゴロツキをクドゥルに指揮してもらおうか」


手下を抱える頭目でもあるクドゥルは、その命令に目をギラギラさせ。


「あ? 俺に捕まれ云うのか?」


一々説明が必要なのが煩いラヴィンは、軽い溜息をした。


「ふぅ。 クドゥル、お前の持つ本隊は切り札だ。 寄せ集めのゴロツキさえ見限れば、お前なら捕まらずに逃げれる。 奴らを慌てさせるのが狙いだが。 宝物の有無を確かめる所まで出来るなら、踏み込め。 そうゆう指揮に長けるお前に任せるんだ」


叱責をさっきに受けたと思うクドゥルなだけに、失敗は許されないから不満が顔から溢れていた。


ラヴィンは、真ん中に立っている物静かな覆面の一人に向くと。


「リエル。 お前の仲間は手勢が少ないから、手下は旧貴族区の搜索に向かわせろ。 そしてお前自身は、クドゥルに付き添って襲撃を手伝え」


すると、リエルと呼ばれた覆面の人物は、何も言わずに頷くだけ。 背はさほどに高く無い人物だが、どうも隙の見えない者でもあった。 ただ、挨拶すらも喋らない人物で、会話も出来ないらしい。


クドゥルは、リエルと云う者を見て。


「ラヴィン、コイツは一体誰だ? 呼び寄せる悪党なら、他にも幾らだって居るだろう? もっと手勢の多いのだって居たはずだ」


言い掛かりだとラヴィンは腕組みをして。


「今回の一件は、ただ数だの力だのを求めればイイと云う内容ではない。 他の集団は統率が低く、しかも暴れ回るしか能の無いゴミだ。 戦争をする訳でも無い。 とにかく、手に入れる物さえ此方に獲られればそれでイイのだ。 統率の取れない集団など、今回の仕事には向かないのだ。 集団の盗みや情報収集に於いて、ロイジャーの一味が一番優秀だ。 クドゥル、お前の率いる集団が一番戦闘能力が高い。 そしてこのリエルの抱える集団は結束力が強く、ある程度の暗躍行動も出来るし、リエル本人の剣の腕も中々だ」


クドゥルは、覆面のリエルを睨み見て。


「コイツがぁ?」


頷くラヴィンは、話を早める為に。


「下らん品定めは必要ない。 寧ろ、踏み込んだ先に兵士が居た時の事でも考えろ。 俺は、今回の仕事に当って、お前の手下は必要とするが。 お前自体は、さほどに必要とは思わない」


クドゥルは、その言われ様に怒りが全身に沸き上がる。


「なぁにぉぉぉっ?」


「冗談では無い。 お前は、あの者共の頭目で有ると云う指揮能力が有るから、それで呼んで有るだけだ。 お前が実力を発揮すれば、三下の指揮でも十分に力を振るえる。 余計な感情は要らん。 今回の功績が高ければ、お前も俺と同じ立場に推薦出来る」


クドゥルは、その貶されているのか、褒められているのか解らない言われように黙る。


ラヴィンは、大男のロイジャーに。


「解った範囲で博物館の地図を書いてくれ。 確認次第、様子を見て日取りを決める」


大男の頭目であるロイジャーは、


「ラヴィン。 今回は、こっちも被害が多い。 後、何の位この仕事に関わればいいんだ?」


と、悪党面を神妙にして聞く。


すると、ラヴィンは、ロイジャーを目だけで斬る様に見ると。


「それは、この仕事が終わるまでだ。 お前の一味は、今回の一件に深く踏み込んで調べてる。 此処のカタが着いたら、次は王都に向かわせる」


「本気かぁっ?! それじゃ、何時に成ったら解放されるか解らないだろうが」


「ロイジャー。 もう身に沁みて解っただろうが、今回の召集は本当に面倒な仕事だ。 多額の金を組織に納金されているから、断ること無理だしな」


ロイジャーは、難しい顔で頷くのみ。 だが、内心では・・。


(俺達・・何処まで付き合わされるんだ?)


嘗ては悪党としてもひよっ子だったロイジャーが、召集の事に関して噂を聞いた事が有る。 それは、


“最悪な召集の時は、逃げれるなら逃げろ”


と。


詳しい理由は教えられなかったが、話をした老練な盗賊は顔を厳しくして言った。 他の噂では、仕事が失敗から頓挫して、大きな盗賊集団が消えたとだけは聞いた。



ロイジャーは、30人以上の仲間を抱えるだけに、今後は更に気が抜けないと緊張する。 このラヴィンは、以前にも仕事にいい加減な集団を暗殺で潰した経緯を持つ、本当に非情な男であることを知っていたからである。 普通、特別な召集でもないのに、大きな失敗が無い限りその様な事は無いらしい。 だが、このラヴィンは別だった。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、ありがとうございます^人^

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