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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
113/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~3

                  セイルとユリアの大冒険 3


                 第一章・旅立ちの三部作・最終編



                      ≪宴の前≫



クシャナディースは、雪の中で顔を隠し。 自分の配下の者を連れて夜に無縁墓地の園を訪ねた。


雪が降る夜で、寒さが身に染みる。


だが。 無縁の遺体を引き取りたいと寺院に掛け合い。 エリーの母親の事を僧侶に告げると・・。 僧侶の老婆は、祈りを現し。


「あの女性は、特に不憫なご遺体でした。 医者にも診て貰えず、数日は遺体を放置された様です。 そうでしたか・・、あのご遺体の女性にご息女が・・。 では、夜分でしょうが、遺体を持ち運びなさいませ。 まだ、木棺も完全に腐ってはい無いでしょうから」


クシャナディースは、面体を隠し名前も明かさぬままながら。


「許可を出してくださるか。 これは、忝い。 なるべく音を出さず、始末を付ける故。 この事は、他言には・・」


「え~え~、解っていますよ。 あのご遺体の女性の事は、少々ですが存じ上げて居ります。 余計な事を言うのは、後々にご面倒でしょうからね」


寺院を管理するこの老婆の対応に、クシャナディースは、何もかも在り難いと思った。


墓地の一角を掘り返えしさせたクシャナディースは、半白骨化した凍える遺体を新しい立派な棺に移し変え。 それを馬車で運んだ。


母親の亡骸の到着で、エリーが棺に張り付いて泣き出したのは言うまでも無い。


地下の冷たい場所に安置して。 年が明けたら、祝賀の行事が終わり、王都が静まる頃に墓を建てるとエリーに誓ったクシャナディースである。


「旦那様・・この様にして頂き・・エリーにはもう何の未練も御座いませぬ。 一日も早く、旦那様の足元に土台を築ける様に、子供を産みたいと思います」


ハレンツァが死んで間も無くの頃まで、ヘンダーソンやら老人と共にして心が尖ったクシャナディースだが。 エリーのこの一言に、落ち着きをを見出せると感じる。


(焦りすぎていた・・か。 まさか、エリーに感謝される時が来ようとは思わなかったが。 これで、後は御老の望みを叶えてやれば、我は安泰だろう。 御老さえお亡くなりになれば、あの孫殿などではヘンダーソンの言う事に耳を貸すまい。 ヘンダーソンだけになれば、それなりにし様が在ると言うものよ)


クシャナディースは、王宮内から締め出された格好のヘンダーソンは、権威の維持に一苦労して、これまで通りの威勢は張れないと見越した。


問題は、長寿を保つミグラナリウス老人である。 だが、クシャナディースも、老人の息子がアハメイルでリオンに近い軍部の軍人で在る事は知っている。 更に、孫のジャニスが老人と敵対に近い間柄で在る事も。 老人さえ死ねば、もうクシャナディースには、ヘンダーソンだけと成り。 自分が公爵として地位を確立すれば、何れはヘンダーソンも相手では無くなる。 正直、エリーがこうなれば、もう貴族絶対主義などもどうでもいい。


クシャナディースの脳裏に、ミグラナリウス老人の訃報を求める願望が出来始めていた。 




                       ★




一方。


毎夜。 役人などが街中を巡回する影で、姿を隠した者達の攻防が続く。


王都郊外の湖にも近い森の中。 雪が大人の腰近くまで体積している雪深い森の中で、


「逃げろっ。 逃げ切れっ、ジョンっ!!」


「ワロマープ殿っ!!」


「早く逃げないかっ!!」


ズタボロのマントを着て、フードに顔を隠す何者か二人が逃げている。


「逃すなっ!!」


「へいっ」


「殺した分だけ金になるっ。 見逃すんじゃないぞっ!!」


命令口調で、逃げる二人を追う黒尽くめの集団を指揮するのは、独特の声からあのモジューロゥであろうと思われる。


影ながらに動くハレンツァの手の者は、総勢6名。 その内、既に3人が殺されていた。 残りの3人も、誰かと連絡を取りたかったのだが。 役人や政務官に中に、ヘンダーソンや老人に密告をする内通者が居た。 殺された一人は、その内通者に謝って接近してしまったのである。


王都の中に居て。 ハレンツァの手の者は、影ながらに悪党では無い。 一般人でもなく、冒険者や旅人でもなく、悪党やゴロツキでもない。 ハレンツァの庇護が在って、身を隠し通せていた彼等だ。 ハレンツァが居なくなった後、個別にバラバラで潜伏していれば、微かに動いても怪しまれる。


実は、ハレンツァの執事である老人の甥が、ヘンダーソンに因って買収されていた。 ハレンツァの密偵を、それとなく全員調べ。 情報を渡して金を得ていた訳だ。 ハレンツァの襲撃時、情報源だった甥も殺されている。 完全なる口封じと言う訳だ。


ある程度の人相や背格好がばれている。 ハレンツァの密偵達は、圧倒的に不利であった。


密偵達の長であったジグムは、もう殺されてこの世の人では無い。 警察役人に収容され、リオンが死体安置所で検めた遺体がそうである。


今、モジューロゥ一味に追われて逃げる二人は、ハレンツァに使えていた者の中で一番若い30半ばに成るジョナサンズ。 通称、ジョン。


そして、40の終わりに成った男で、ハレンツァに仕えて居た年数では一番の古株であるワロマープ。


二人は、郊外の森に逃げ込んで居たのだが。 ワロマープが連絡を取ろうと森を抜け出した事で、手下を多く散会させて捜索するモジューロゥに見つかった。


そして、森に引き返してしまったワロマープであり。 騒ぎを聴いて、ワロマープを助けようと隠れていた場所からでてしまったジョン。 今、二人は、逃げるしか無い状況である。


「クソっ、雪がぁっ」


脛を越える雪に足を取られ、逃走に苦しむワロマープは、元は殺人を犯した犯罪者である。 ゴロツキの若者時代、自分の女にしていた女性を巡って、別のワルと争い。 そして、殺めた。 だが、死刑でも構わないから、お腹に子供の居る女を助けて欲しいと懇願した彼で。 その現場に居合わせたハレンツァが、彼を“死んだ生き人”として助けたのである。 ハレンツァに恩義を感じたワロマープは、終生影としてハレンツァに尽くすと密偵に成った。


「ジョンっ! 湖だっ、飛び込めぇぇっ!!!」


どんどん雪深くなっていく森の中を、雪を掻き分け逃げる二人。 二人が逃げるのは、右側を斜面に湖まで下る山の森林地帯。 


「ワロマープ殿っ、そんな無茶をっ」


直ぐ近い所まで追い着かれそうに成った時、ナイフが飛んできた。 ジョナサンズの頬を、ナイフが掠めて痛みが走る。


ワロマープは、一気にジョナサンズに近寄り。


「バカ野郎ぅぅぅっ!!!! 追っ着かれたらどの道終わりだっ!! ダメでも逃げる可能性を捜せぇぇぇっ!!!!!!!!」


「うわぁぁぁぁーーーーーっ!!!!!!」


ワロマープの体当たりを食らって、ジョナサンズは針葉樹林が生える急な崖にに近い斜面へと突き飛ばされる。 塊の雪ごと足を踏み外すジョナサンズは、斜面の宙へと投げ出された。


夜目の利くモジューロゥ達だが、これには驚きで。


「あ゛っ!! クソったれがぁっ!!!!」


ワロマープは、逃げるままに雪を巻き上げて。


「うわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!!」


と、大声を上げる。 振動で雪崩でも起きないかとの悪足掻きだ。


モジューロゥは、石くれが結んである硬い紐を取り出すと、足場が悪い中でワロマープに投げつけた。


ワロマープの脇を飛んだ石くれで、


「こんなのが当る・・」


と、石くれを見たワロマープだったが・・。 モジューロゥが手首に捻りを加えて紐を引く。 引っ張られると同時に、ワロマープの顔面に飛び上がる石くれ。


「っつお!!!」


何とか石くれを避けたワロマープだが、彼を追う黒尽くめ達がナイフを次々と投げ出し。


「い゛っ!!! うぎゃぁっ!!!」


肩に一本が突き刺さり。 態勢を崩し掛けた所で、背中にまた。


モジューロゥの一味が、雪の中に倒れ込んだワロマープを見てみれば・・。


「おいおい、当たり所が良すぎだぜぇ~」


と、ニタリ顔を作るモジューロゥ。


ピクピクと血を流して動くワロマープで、肩と背中の他に首にもナイフが刺さっていた。


「カシラ。 落ちたヤツはどうしやしょうか」


黒尽くめの手下一人に言われれば、


「決まってんだろう。 これから追うぞ」


「へい」


すると、一人の黒尽くめが。


「カシラ。 遺体の見張りはどうしやす? 昨日、ガンダの阿呆が尾行されてたらしいじゃねぇ~ですか」


モジューロゥは、夜の雪が舞う中で。


「思い出させるなっ。 あのバカ・・、のこのこと尾行者を近くまで誘導してきやがって・・」


昨夜の事だ。


ハレンツァの手の者を捜していたモジューロゥが、もう朝方が近い頃に手下をバラけさせ。 そして、一人で住居区の郊外に在るアジトに帰ろうとしていた時だ。 アジトに向かう不審な気配を感じ、先回りしてみれば。 子分で酒癖の悪いガンダと云う男が、酔った足で尾行されていたのである。 無論、モジューロゥがそれを赦す訳も無い。 ガンダは、還らぬ人としたが、尾行者は直ぐに消えた。


今日のモジューロゥは、それが故に機嫌が悪かった。


「見張りはいい。 それより、落ちた奴を捜せ」


「へい」


「了解」


「わかりやした」


数人の手下が、闇の中に散っていく。


モジューロゥは森の中を振り返り、気配を探した。


(昨日、アレからなぁ~んか気味が悪ィんだよなぁ。 尾行されてる様な・・)


こう思うモジューロゥ。 だが、その勘は当っている。


モジューロゥの居る場所から、登って来た下方に下がった木の上に、青いコートの様な衣服を着た者が隠れていた。


覆面をして、目だけ見える様にしているが。 目や肌を見るに女性らしい。


(落とされた男は、アッシュ様が助けに行ったみたいね。 あのリーダー格の男は、相当な手練・・。 行かせると不味いわ)


この女性は、アッシュの手下だ。 リオンの命令で動く隠密部隊の一員である。 自分の尾行をモジューロゥが疑っている事を観て、モジューロゥの力量が窺える。 ナイフや特殊な武器の扱いにも長けた悪党ならしいと。


この夜。 ハレンツァの手の者を隠れ追うモジューロゥ達を、リオンの密偵の一員である彼女が初めて補足出来た。 だが、この女性が仲間に連絡を取る間に、追う者と追われる者は、森の中に。


正直、尾行や情報収集が主のこの女性。 戦う腕は、一般の冒険者と然して変わらない。 モジューロゥの手下は、流石に腕を磨いている者達。 女性は、先んじて尾行を続けるのみだった。


今さっき、アッシュとその部下二人が追い着き。 丁度、崖に突き落とされたジョナサンズの様子を見た次第。 アッシュは、この女性に目配せをして、崖の方に下りて行った。


アッシュ達が崖に落ちた男性を助けるのに、モジューロゥの存在は危険と思う女性の密偵である。 腰のベルトに挿し込まれた細いダガーを取り出し。 少し離れた木に投げつける。


(気のせいか・・)


と、手下を追おうとしたモジューロゥだが。 風も殆ど無い中で木が揺れ、枝に乗っていた雪がドサッと落ちたのに。


「んっ?」


モジューロゥの反応は、早かった。


(今、何か気が立ったな・・・)


雪が落ちて振り返ったのでは無い。 木に刺さるダガーと同時に気付いた。 闇の中で、何かが動いた気配を読んだのである。 手を振り上げる時に切る空気の音や、ナイフを投げる時に出る音なども悟られる要因になる訳だが。


「おーーーーーーーーいっ、気を付けろっ!!!!」


突然に、モジューロゥが大声を上げた。


(えっ?!)


これに驚いたのは、尾行をする女性。 想定外の行動に、思わず身じろぎをしてしまう。


モジューロゥは、10・・数本先の木からだけ雪が落ちたのを見ていた。


「ほほ~、正直だねぇ~」


ニヤりと笑ったモジューロゥは、ゆっくりと歩き出し。


「やぁ~っぱり、誰か尾行してたのか。 ついでだ、面でも拝ませろ」


と、言い放つ。 相手に動揺や、行動を促す心理的な揺さぶりだ。


(不味いっ。 完全に気付かれてるっ?!)


雪が降るから、月は出ていない。 動かなければ見えないだろうが、雪を落とした事で場所を特定させる可能性も在った。


密偵の女性は、息を殺して木にへばり付いた。


「どこだろ~な。 身体を切り刻んで・・心臓を突いてやるゼ」


モジューロゥは、動き安さを念頭に来た雪の少ない部分を選んで、雪の落ちた辺りを目指す。


だが。 そこで突然に・・。


「カシラァァァーーーーーっ!!! 野郎を助ける輩が居るっ!!!」


「クソっ!! 新手だぁっ!!!!」


斜面の方から、手下の声が響いてくる。


モジューロゥは、その声が切羽詰っていて途切れる様に聴こえてくるのに、戦っているのではないかと思った。


「チィ。 もう、向こうに行ってたかぁっ」


モジューロゥは、急いで斜面に向かっていく。


斜面に向かうモジューロゥを見て、


(嗚呼・・良かった)


と、安堵した彼女。 戦闘経験の無い訳ではない女性だが、モジューロゥの気配は不気味だった。 恐らく、何度も人を殺してきている悪党の中の悪と云った気配。 自分では、まともに遣り合ったらまず勝てないと解った。


(アッシュ様、霍乱に回ります。 どうか、ご無事で)


リオンの密偵達は、遂にハレンツァの手の者と接触に成功したのである。


モジューロゥが斜面を降りて行けば、所々に負傷した手下達が呻いていたり。


「クソっ!! クソクソクソっ!!!!!」


モジューロゥが更に追えば、不自然な逃げ方をする者に追い着く。


「このや・・あぁっ?!!」


顔の解らない何者かに縛り上げられた手下が、湖の畔の方へと引っ立てられている。 しかも、斜面から落ちた者で、自分達が殺そうとしていた人物が、既に小船で運ばれようとしている最中であった。 小船に灯る弱く絞られたカンテラの明かりに照らされ、船の中でぐったりしている者が見えたのだ。


「まぁてぇぇっ!!!!!」


怒鳴るモジューロゥだが、彼に立ちはだかる黒覆面の何者か。


「丁度いい。 お前が首領か?」


覆面をしたアッシュは、コート風の衣服を閃かせ。 モジューロゥに対峙して、少し短い中剣を構える。


(むっ。 コイツ・・)


踏み込もうとしたモジューロゥだが、その隙が無く手前で止まった。


湖の畔で、水の温度が高いから雪が重い。 アッシュの足、モジューロゥの足に、雪が着いた。


「・・・」


モジューロゥを見て、戦闘態勢に入る無言のアッシュ。


「へぇ、出来るじゃねぇ~か」


と、鎖鎌を手にするモジューロゥ。


アッシュの背後では、合流してきた女性の密偵が、アッシュが手離した縛られたままの悪党に駆け寄る。


モジューロゥは、


「お前かっ!! さっき俺を牽制したのはっ?!」


と、アッシュの脇に視線を送るのだが。


アッシュは、モジューロゥの視線を遮り。


「お前の相手は、この俺だ」


と、見合う間合いから、牽制の間合いへと踏み込む。


「くっ」


分銅の着いた鎖の先端を握り、鎌の刃先をアッシュに向けるモジューロゥだが。 二人の者に運ばれる手下に気が行ってしまう。


「フンっ」


アッシュが、その隙を突いて踏み込んだ。 火花が上がり。 斬り込んだアッシュの剣を、モジューロゥは弾いて大きく引く。


広い場所で戦うならいいが。 細い木々が疎らに生えるこの場所では、モジューロゥにとって相手が悪い。


「チキショウめっ!! お前等は一体誰だっ!!」


モジューロゥは、大声と共にアッシュへ鎖を投げ付ける。 避けたアッシュだが、サッと引っ張るモジューロゥで。 分銅が唸ってアッシュの頭に撓った。


だが、アッシュもそれは想定内で、屈んでかわすと分銅を馬手(利き手)で掴んだのである。


「なぁっ」


モジューロゥは、アッシュが避けて態勢を作る間に、あわよくば船に向かおうと思った。 だが、鎖を捕まれては、対処に困る。


(とにかくっ)


モジューロゥは、得物を捨ててでも行こうと思う。


だが、アッシュはそれを先読みする様に。


「むんっ」


鎖を不意に引っ張った。


「おっ!! こ・・の」


思わず引っ張られる格好で、ハッと武器を握って引き返すモジューロゥ。


船に、ハレンツァの手の者と、捕まえた悪党が乗せられた。


(間に合わねぇかっ!!)


モジューロゥは、踏み込んできたアッシュに専念するれば・・。


「ふんっ、コラぁっ!!」


鋭い振込みで、アッシュに鎌を薙ぎ付け。 アッシュが身を引いて避けると、今度は鎖を引きバランスを崩しに掛かる。


アッシュは、鎖を手放して踏み込もうとするが。


「おっと」


モジューロゥの鎌が、自分に向かってピッタリ向いている。


船が漕がれる音がして、遂に二人だけの戦いに落ち着く。 お互いに、腕は互角だと思えた。




                       ★




そして、別の場所では・・。


「ジャニス様、何処ですか?」


ミグラナリウス老人の執事と言ってよいマクファーソンは、深夜に屋敷から離れた厩舎に居た。


この馬小屋の先には、手入れされた森林公園の様な場所が続く。 北東にそのまま進めば、ジャニスの住まう別邸に行くのだ。


ジャニスの持つ別邸は、ジャニスが買う時にの所有者が違っていた。 この広大な森林公園を含め、元々はミグラナリウスの所有地だったが・・。 今の老人が事件で隠棲に追い込まれ、生活費の工面から売られた訳だ。 その敷地を、まだ幾らか借金は残るもの、全て買い戻したジャニス。 祖父に対する当て付けであり、喜んだ祖父を無能の骸とこき下ろした。 同じ一族が所有する土地ながら、完全な線引きがされる地続きの一角なのである。


暗い闇夜の中で、馬の鼻息などが聞こえるだけの馬小屋のはずが・・。


「来たか。 マクファーソン、遅かったではないか」


厩舎の裏口に立つ黒い影から、ジャニスの声がする。


ジャニスに近付くマクファーソンだが。


「うぐっ・・・」


急に首筋へ冷たい物がくっついた。 刃物の感触を良く知るマクファーソンだ。 首筋に当てられた物が、刃渡りのやや長い短剣の類だと理解する。


だが、マクファーソンが不意を突かれた以上に驚いたのは・・。 刃物を差し出している者から、極身近な人物の好む香水の香りがしたこと。


「っ?!! まさかこの香水・・ユーシスか?」


すると、闇の中から。


「ウフフ・・・。 流石は、マクファーソン殿。 私の香水の匂いが・・お解りに成りますのね?」


驚いたマクファーソンは、唸る様に。


「うぐぅ・・裏切ったのかぁっ?!」


と、低い押し殺した声で言うと。


「“裏切る”? さぁて、何の事かしらぁ。 私は、命令でジャニス様に近付いた。 でも、ジャニス様の方が一枚上手だっただけよ。 私が・・飼い慣らされただけ」


耳を疑う様なセリフが吐かれ、マクファーソンは観念した。


「・・殺れ」


だが、ユーシスは、何かを取り出すとマクファーソンに握らせる。


(・・紙?)


マクファーソンは、感触でツルツルした紙の様だと思うと・・。


「ジャニス様。 例の物を渡しましてよ」


と、ユーシスが言えば。


「そうか。 では、用件を言う」


ジャニスの声が、マクファーソンに向けられた。


話を聞くマクファーソンは、目の前が真っ暗に成った。 夜の闇では無い。 絶望によるショックからである。


ジャニスは、用件を述べると。


「ユーシス、帰るぞ。 お前との約束を果たさねば成るまいからな」


と、ジャニスは去る様相を見せる。


一方。


マクファーソンに近付いてきたユーシスは、マクファーソンの耳に口を寄せ。


(もう、力関係は変わってるわぁ。 ミグラナリウス様では、新しい未来は無い。 んふぅ・・、わかるぅ? ワタシ・・凄い興奮してるの。 下半身が熱くて・・濡れて・・我慢できないわぁ。 ミグラナリウス様の魅力より、ジャニス様の方が上よ)


ユーシスは、こう言って得物を離しながら引いて行く。


息子を人質に捕られてる手前で、マクファーソンは動けない。


マクファーソンに背を向け。 お尻を振りながら妖艶に歩くユーシスは、手を振りながら。


「じゃぁ、後始末はお任せするわぁ。 私は、ジャニス様に苛められてるから、朗報を期待してるわよ」


ユーシスを見送るマクファーソンは、馬のブルルと云う声を聞きながら膝を折る。


(こんなっ・・こんな最後かっ?!!!! 俺の最後は・・・こんな・・・)


ガクリと跪いたマクファーソンは、手に握らされた物を握り締める。 怒りから捨てようと振り被ったが・・・、息子を助けるには捨てられなかった。


ジャニスは、確かに策士だった。


その本性と度胸と鋭敏なる才能を、マクファーソンは見せ付けられた。 確かに、裏で糸を引くだけの老人とは違う恐ろしさが在る。


藁の散らばる地面を片手で握り潰すマクファーソンは、人生最大の選択を迫られる事と成った。


老人は、ソルフォナーズと親密に密会を続けるばかりで、ヘンダーソンとクシャナディースが面会に来ない。 老人の傍を離れられぬ身のマクファーソンは、相談出来る相手を失っていた。




そして・・・。



身を隠すヘンダーソンは、逃げる手段を講じ始めていた。 自分の手打ちの筋から、リオンの命を受けた者達が、ヘンダーソンや老人といった者達の身辺を露骨に洗い出していると報告を受けたからだ。 リオン自身が、老人の援助を古くから受けていた寺院に赴くなど、先ずは在り得ない事態。


ヘンダーソンは、様々な事態を想定し。 もう、自分達の計画が漏れているのではと恐れ始める。


ヘンダーソンは、本気でクシャナディースを消す事を本気で考え始めた。

どうも、騎龍です^^


ご愛読ありがとうございます^人^

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