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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
109/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~3

                  セイルとユリアの大冒険 3


                 第一章・旅立ちの三部作・最終編



                  ≪抉じ開ける側と封じる側≫





ポリアにリオンが言って、臭わせた不安要素。 それは、ハレンツァの手下として調べに動いていた者達である。


ハレンツァの葬儀後、リオンは彼らと接触を図るべく、自分の手の者を王都に忍ばせた。 だが、確かにヘンダーソンとクシャナディースを調べる誰かが居るのは解るのだが。 用心をしている所為か、彼らと接触が図れない。 そして、それだけでは無い。 ヘンダーソンやクシャナディースの周囲を嗅ぎ回る者を、何者かが始末しようとしていると。


リオンが聞いたエリウィンの話では、確かに4・5人のハレンツァに忠誠を誓う手の者が居ると云うことなのだが・・。


王宮を幾度も騒がせた次の日。


ポリア達と深く話し合い、そのまま一晩を過ごしたリオン。 明くる朝に、見えぬポリアを心配するルシャルルムと共に馬車に乗り、身を隠す形で王宮に戻ったのだが・・。


私室にて、明かりも無い部屋にリオンが入れば。


「・・・リオン様」


と、少し篭った声がする。


机の近くに或る優雅な街灯に似せたランプへと向かい掛けたリオンだが、声に反応し。


「アッシュか?」


「は」


昨日の夕方にも会っているので、随分と早い帰還に期待を寄せるリオンで。 暗い中でも、明かりを点けずのままに。


「もう戻っていたのか。 何か、収穫でも?」


「いえ・・。 それが、妙な事が在りまして」


「何だ?」


リオンの手足となり、様々な隠密行動をする影の配下を束ねるアッシュが語るには・・。 今朝方。 街の二箇所で、身元不明の男性遺体が見つかったとの事。 身分を示す物を全く持ってなかったのだが、その姿は隠密行動をする様な格好で有り。 彼が一人を調べると、懐にかなり立派な短剣を忍ばせていたとか。


リオンは、嫌な予感を覚え。


「してっ、その遺体はっ?!」


「は。 一つは私めが見つけましたので、密かに収容させました。 もう一つは、警察役人の下に。 そして、これがその短剣で御座います」


アッシュは、暗い部屋の中で短剣をリオンの机に置いた。


「そうか・・、遺体の調査は私が行おう。 引き続き、ハレンツァ殿が指揮していた手の者を探す事と。 ヘンダーソン及びクシャナディースの内を探れ」


「は。 ですが、向こうも掃除屋を散らばせている模様。 争いに成りませぬ様、慎重に進めさせて頂きます」


リオンは、ハレンツァを殺害した集団も居るので。


「そうだな。 ハレンツァ殿を殺害した一味かも知れぬ。 下手に戦わずと良い。 居場所だけ、なんとか着き止めよ」


「は。 では、最後にもう一つ」


「何か?」


「何でも、2・3日程前でしょうか。 面体や容姿を隠した10人前後の面々が、馬車で王都を離れたとか。 立派な馬車で、通行検めの騎士が止めましたが。 然るべき身分の方の所有する馬車だったらしく、そのまま南方に向かうべく出立した様です」


「そうか・・」


「では、これにて」


「待て、アッシュ」


急に呼び止められる形に成り、アッシュは珍しいと思いながら。


「・・は?」


「危険な任務だが、無理を通すな。 危うければ、此方が王道の手を使う。 今回は、内々の事では済まなくなりそうだ。 それを皆に伝えておけよ」


「・・・、有り難き配慮を。 然らば、出ます」


「ん、大儀だ」


気配は、直ぐに消えた。


リオンもまた、直ぐに部屋から出て動いた。


まだ、朝の暗い中。 先ず向かったのは、死体の保管される警察役人の施設。


王城の西側。 凍結しかかった水路を越えた所に、中々立派な構えの大型施設が在り。 石で作られたその施設は、王城さえ無ければ見栄えがすると思える。


リオンは、知り合いの上級捜査官を捕まえ、早朝に収容された遺体の所在を聞いた。


「リオン様のお知り合いですか?」


「いや、そうでは無い。 ただ、内々に不審者はこの目で調べたいのだ」


勘の鋭い者なら、リオンが何を調べているかは想像が出来る。


「・・・。 では、何も聞かずにご案内いたしましょうか」


「あぁ、済まない」


以前にも書いたが。 この国では上級捜査官と、その部下の下級捜査官に役職が別れている。 その上級捜査官が朝に一度集まる部屋は、大部屋に区分けを作る様な仕切りを設けただけの場。 此処で、新たに起こった事件の報告と、その事件に当たる者が決められる。


その朝の会議が終わる前に、リオンが此処を訪れてた訳で。 他の捜査官にも、リオンが来た事が解った。


チラチラと見る他の捜査官から、リオンは珍しいが近付きたい存在であろう。 だが、リオンは貴族至上主義など毛頭も無く。 彼が頼るのは、能力と人間性の在る者。 偉ぶる者や無能で出世欲だけが強い者等は、軽い挨拶で打ち止めを食らわされる。 上級捜査官達の中でも、貴族と云うだけでお役目に就いてる者達は、リオンに頼られる捜査官へ羨望の眼差しを向けた。


そんな視線など気にも留めないリオンは、案内で地下の更に寒い保管質に向かった。


「今、明かりをお持ちします」


保管室前で、真っ暗な廊下からさめざめしい明かりの漏れる見張り場へ入る捜査官。


「・・・」


黙るリオンは、霊気が放たれる壁に凭れ寄り。


(面体を見ても誰と解らぬだろうが。 何か、手掛かりに成れば・・・)


リオンは、此処に来て全てに不安要素が出現し、困惑の中に居た。 ハレンツァの手の者を一人も特定出来ず。 また、接触すら叶わない。 リオンの配下の先端で動く者は、もう1・2度襲撃をされていた。 それなりの訓練を受けた隠密行動のプロであるから、死なずに逃げおうせたのだが。 相手も殺しには腕が有り、自由に捜査が出来ないらしい。 リオンにして見れば、その邪魔をする者を辿りたい所だが。 捕まえるのも一苦労する相手らしいのだとか・・。


其処へ。 ランプに明かりを入れて持ってくる捜査官は、リオンが随分と浮かない顔をしているのを見て。


「リオン様、お体の加減が優れませぬか?」


と、白い息を随分と伸ばす。 それだけ、此処は極寒の中だった。


「いや、心配事が多くてな」


「それなら、私もお手伝いを致しましょうか?」


身を壁から離すリオンは、


「いや、結構」


と、やや冷たく言う。


捜査官の男性は、少し沈む笑みで。


「済みません。 出過ぎた言葉でした」


と、云えば、リオンは・・。


「いや。 優秀な捜査官を、汚らわしい輩に殺されては困る。 今回は、少々危険過ぎる輩が居るのでな」


男性捜査官は、その殺された者の槍玉に名前を出さないだけで。 沈黙ながらに“ハレンツァ”の事が在ると解った。


「・・・では、入りましょうか」


「あぁ、頼む」


重そうな鉄の扉が開くと、かび臭い異臭が微かに香ってくる。 この保管庫は、壁の外に雪を厚く入れる事が可能な保冷庫。 だが、真夏になれば、冷たく保たれると云っても秋の終わり頃の夜ほど。 身元の判明しない遺体は、此処に何日も置かれるから少しづつ腐敗する。 その匂いが壁に沁み込み、こびり付いて洗っても消えないのだ。


だが。 流石に冒険者としても経験を積むリオンだった。 臭いに顔色一つ変えず、男性捜査官の気遣いも浅くかわし、案内された遺体に向かう。


「この御仁か」


「はい。 商業区の中央から少し外れた小道で、屋根から滑り落ちた雪に上半身を埋没させたままに倒れておりましたとか」


リオンは、もうフードを取られて、仰向けにされている半裸の遺体を備に調べ見ては・・。


「死因は、この項に在る刺殺痕の様だが・・・。 他に傷の無い所を見るに、暴行などは受けてないな」


「その様で。 もし殺されたとしたら、逃げる後ろからナイフか、ダガーを投げ込まれたとも。 突き立てられたとも・・」


リオンは、その傷口を見て。


「ナイフの様な薄いものでは無い。 これは、投擲に適したダガーの類だ。 それから、恐らくだが投げ込まれたのだろう」


「解りますか?」


「傷口に抉った様子は無く、刃物を引き抜く時に付いた線上に成る皮膚の裂け方。 手に持って刺したら、もっと傷口が深くなるし突入角度が違うはずだ。 腹立たしいが、この投げた者は中々の技量を持っていると視た」


「そうですか。 剣の達人で在らせられる王子が言うのでしたら、確かかも知れませぬ。 して・・、このご遺体はどうしましょうか?」


立ち上がったリオンは、


「そうだな。 取りあえずは・・このままで事件性を探るのがイイだろう。 犯人が解りそうなら、直ちに俺へ連絡をくれ。 もし、危険な使い手が相手だと、捕り方である此方に死傷者が出る。 私が、密かに手伝う」


「え? 王子が・・ですか?」


「ん。 今回の俺が調べる一件は、かなりの権力層に通じる可能性が在るのだ。 警察役人の皆だけでは、相手が悪いかも知れぬ。 俺が証人で居れば、誤魔化しが効かぬだろう」


「・・・解りました。 では、連絡は・・・ヘンダーソン様で?」


「それは、不味い」


「では、どちらに?」


「直接に私で構わぬ。 私が居無いなら、ルシャルルム殿にでも繋ぐと良い」


「えっ?!!! セ・セラフィミシュ・・様へですか?」


「あぁ。 恐れる必要は無い。 私の片腕だ」


「・・・は」


リオンは、死んで顔の筋肉が緩んでいるのだが、無骨者と云う印象を受ける中年男性の遺体を見て居ながらに。


「では、手を洗わせて貰えるか?」


「はい、直ぐにぬる湯を用意致します」


男性捜査官は、先に出口に向かう。


リオンは、死体の中年男性を見下ろしたままに。


(被害は・・ハレンツァ殿だけで十分なのだ。 何故、誰かに頼みを知らせぬのだ・・)


と、踵を返すのだった。


その後。 彼の持ち物であった短剣を借り受け。 そして、アッシュが収容しておいた遺体も検めたリオン。 二人が持っていた短剣は、隠密組織に遣わされる一品の類で。 一度、柄の底を火で炙り、刀身に文字や言葉を暗号にした物が浮かぶ。 それを鏡などで反転させれば、浮かび上がった物は紋章で、ハレンツァの下印(古代文字に因る略式印)だった。


リオンは、死んでいた二人をハレンツァの手の者と断定した。


(やはり・・か。 彼等を狙って、何者かが動いている。 恐らく、その狙っている輩は、ハレンツァ殿を殺害した者達。 そして、この一連の首謀者へと繋がっている。 どうにかして、其処へ辿り着きたいものだが・・)


まだ、胸の内を駆け巡る不安が収まらない。 この犠牲が何処まで増えるのか・・・。 リオンは、その広がりを最小限に留めたいと願った




                       ★




王の不意を突く様な命令が繰り返され、乱れた王宮内と王国政府だが。 一夜が明けると、徐々に落ち着きを取り戻し始めていた。


やはり、ポリアの兄の政治的な采配が細部に向かって伝わり始めた事。 そして、国王の態度に帰順して、ハレンツァの喪に服す貴族が多く出た事が要因だろう。 中立で、家柄や格差で差別しなかったハレンツァに気遣われ、王国政府の隠然たる上下関係が根強く残る中を安らげた者も少なくないらしい。


ハレンツァの様な人物は少ないが、上に立つ者に居るのは在り難い。


年末に向け、もう10日も無いと云う最中。 出仕する貴族の数が半減近くなり。 寧ろ政務官などに通達を出せばある程度根回しが効く訳で。 ポリアの兄も、その辺は上手く動いている様だ。


さて。


ヘンダーソンが老人と会ったままに姿を消した。


彼は、馬車を変え衣服を変え、道を変えて行方を晦まし。 今は、貴族区と住居区の境で、王都の外れにある石積みの基礎から作られた隠れ屋に居た。 其処には、ラヴィンの残した悪党集団の頭であるモジューロゥも居る。 そして、こっそり遣って来たクシャナディースも。


昼前の鈍い朝日の様な光が、雪雲の幕を通って王都を薄暗い程度に染める。


隠れ屋の二階。 大した家具らしい物も無い中で、家屋部分の木の壁に凭れるクシャナディースは、悪党集団の頭であるモジューロゥが地下に行っている中で。


「ヘンダーソン。 御老にはお伺いを立てたのか?」


と。 顔に被せる様にフードだけを被り。 軽装の鎧と貴族の衣服はマントで覆い隠す井出達だった。


すると、木箱に布を掛けただけの椅子に座るヘンダーソンが、衣服の上から着るローブのフードを深く被った様子で頷き。


「昨夜に。 クシャナディース殿には、このまま普段通りに。 御老は、あわよくば5大公爵決定に伴い、貴殿の公爵階級の格上げも考えて居られる。 事無きままに、早く御子を儲けよ・・・との命令だ」


クシャナディースは、繰り返される事で苛立ち。


「解って居るっ。 ・・とにかく、年明けにはなんとか孕ませる」


ヘンダーソンは、顎だけが見える顔をクシャナディースに向け。


「苛立つのは構わぬが、姫を壊すなよ。 クシャナディース殿・・・、いや。 御主に在る価値は、然程に高くない。 子供が出来て、初めて高まる御身の価値・・、妻に感謝して接するが良いわ」


クシャナディースは、ヘンダーソンの物言いにカァっと来た。 やっと公爵の地位を手に入れ、あの老人の意向に従う道を大きく進んだ。 下爵に成ったヘンダーソンに、こうも身の程を弁えろと云わんばかりの注意を受けては、気に入らないにも程が在る。


「・・・」


黙るクシャナディース。


其処へ。


「おいおい、殺気が溢れてるな。 お互い仲間なんだ、ヨロシクやろうゼ」


と、声がして、部屋の奥に在る階段から誰かが上がって来た。


二人が見れば、短い髪をした中年男がそうだった。 頬に刺し傷の古傷を見せ、左の眉が皮膚ごと削ぎ落とされた様な傷跡を残すのみ。 その影響か、左の目は異様に細目である。 少し身体の厚みが在るガッシリした人物。 黒皮の交錯したベルト鎧に、ヨレた衣服の上下を着た如何にも怪しいと云った様子である。


ヘンダーソンは、声も冷ませ。


「余計な拍子取りは要らぬ。 それより、ハレンツァの手下を二人ほど殺ったのは、確かなのであろうな?」


モジューロゥは、ワインの瓶を片手にニタりと笑い。 カーテンの掛けられた小窓に、いい加減な足取りで向かいながら。


「あぁ~、確かだ。 アンタ等二人の事を嗅ぎ回ってるなんざ~、その死んだジジィの手下ぐらいだろう?」


ヘンダーソンは、あくまでも冷静に。


「そうか、ならいい。 但し、無用な真似をするなよ。 派手に暴れられては、此方も手が回せぬ」


ワインの瓶を傾けたモジューロゥは、左腕で口を拭いながら。


「余計なことぉ?」


と、窓の前に背を向け、寄り掛かった。


「そうだ。 狙うのは、我々の周囲を嗅ぎまわる輩だけでイイ。 無用に、死んだハレンツァの家族を探るなっ!!!」


これには、クシャナディースも何事かと。


「どうゆう事だ?」


と、両者を見る。


かなり暗い部屋の中だが、薄っすらとお互いは見える中で、モジューロゥは無視する様にワインを呷る。


だが、ヘンダーソンは、厳しい口調を崩さず。


「先日。 セラフィミシュロード様の旧本邸付近で、怪しげな人物がうろついていると見回りの兵士が報告し。 王都警備隊が出動する事が在った。 ラヴィンは、その様な不手際は起こさぬ。 お前が手下を不用意に差し向けたのであろうっ?!」


モジュールゥは、あやふやな態度で、“さぁ”と手を上げるのだが・・。


ヘンダーソンは、モジューロゥを睨み。


「良いか。 もし、万が一にもあの大貴族の屋敷に手を出そうものなら、お前は組織を裏切ったと報告するからな」


と、まで云ったのである。


モジューロゥは、どうも大袈裟だとばかりに。


「おいおい、国家を覆すなら、アンタ等以外の貴族なんざ~どうでもイイじゃないか」


すると、流石に重大さを解るクシャナディースが、背中を預けるのを止めて。


「バカを申すなっ。 あのセラフィミシュロード様の一族は、世界の貴族と縁の在る最古の貴族だぞっ?! 一国の王とて、あの貴族の家には手も出せぬ・・。 国に爵位を送られて養われる貴族とは違い、あの家は王家に寄り添い協力すると古の碑にまで記述が在るのだっ!!」


と、声を荒げる。


ヘンダーソンは、今一事を飲み込めて居無いモジューロゥへ。


「いいか。 もし、あのハレンツァを保護するご一族が叛旗を翻せば、言い分に因ってはそれだけで国家が覆る可能性も在る。 もし、モンスターなどが世界にまた蔓延る様な事が在り。 あのご一族が世界に討伐の檄文でも飛ばせば、各国の騎士や貴族が馳せ参じるだろう。 各国の王、世界を動かす商人とも対等以上に接する事が赦された唯一の貴族。 それが、かのセラフィミシュロードなのだ。 お前が身勝手に手を出して見ろっ。 世界の腑抜けに成りつつある貴族が、名誉だの権威だのを誇示して、各国の議会すら動かすわっ」


と、云うのである。


流石に驚くモジューロゥ。 そんな話は、聞いた事が無いとばかりに。


「おいおい、マジか?」


「当たり前だ。 毎年、アハメイルに逗留した貴族は、誰に逢うのを名誉に思うか? アハメイルの祝賀を取り仕切るセラフィミシュロード当主よっ。 我が国の王都は、国王が。 アハメイルは、かのご一族が当地せしめた事情からも、その立場が対等であると解ろうがっ。 アハメイルの歴史には諸説在るが、年末年始の祝賀をし、病気や盗賊の影響で荒れていたアハメイルに根を下ろし。 健全たる国家を支える都市を築くと、総帥として志状を認めた過去のセラフィミシュロード当主のご意向は、今のアハメイルの繁栄に繋がっているのだっ!! 馬鹿者がっ・・。 世界の貴族と、我が王より頻度多く面会するのだぞ? どちらに、人気が在るか・・一目瞭然ではないか」


ヘンダーソンの話を聞き。 クシャナディースは、公爵格上げ後に一度だけ拝謁したポリアの父親である当主を思い出す。 剣術に秀でて、その厳格たる威厳はリオン以上。 50を過ぎ、60に届こうと云う頃合いなれど、その偉丈夫としての趣きや存在感は圧倒と云って良い。


(・・、大丈夫なのか?)


今に思えば、老人とヘンダーソンは、あの一族を旗頭に持ち上げ。 自分やヘンダーソンなどの一族で過去の絶対貴族主義圏を再確立し。 そして、王を象徴に戻すとしている。 だが、自分の逢ったポリアの父親は、王の前ながらに言った。


“良いか。 公爵とは、王族を間近で護る血族の壁だ。 王と国を護れぬなら、貴族など要らぬ。 新たなる公爵に成った以上、共に血を飲む覚悟で拝命した爵職を全うせよ。 御身が不埒な事をせば、我ら貴族全てが堕ちたと思われる。 努々、忘れる事無い様に頼む”


この言葉を受け、クシャナディースは対面を終えた。 だが、全身にびっしょりと掻いた汗は、その威厳から受けた重圧感を物語る。


(俺は、このままで大丈夫なのか? もし、あの一族が我らと対峙する事に成ったら・・、勝ち目は?)


ヘンダーソンの説明を受け、クシャナディースはポリアの家が何故に別格なのかを知る。 だから、怖くなった。 今の王や王子をポリアの家が遠ざけているならまだしも、近き間柄にある。 老人は、絶対的権力の魅力は、全てを人間を魅了し離さないと云うのだが・・。 果たして、そう上手く行くのだろうか・・・。


クシャナディースは、まだ老人が自分に落ち度が見えないと称して、急ぎに子供を儲けろと云っているのだと思って居るのだが。 だがヘンダーソンが云ったのは、上手く行った場合の流れを繰り返しているだけに過ぎない。 ヘンダーソンは、クシャナディースに全てをおっ被せる事も視野に入れ、彼を不安がらせない様に云っている。


しかし、実際はクシャナディースを切り捨て計画を中断させるか。 続行するかの瀬戸際に来ている。 ラヴィンがもし王子の権威を示す何物も持ち帰らない場合は、計画は宙に浮く。 ハレンツァを暗殺せずのままで在るなら、其処から違う方向性も考えられよう。 だが、ハレンツァを殺して、予想以上の騒ぎに成った。


正直、老人やヘンダーソンも、一度追放を受けたハレンツァが国葬にされるとまでは思わなかったのだ。 国王が、国の意で追悼の儀式を行うぐらいだろうと思っていたのに・・。 王子達、他の貴族からも、国葬に対しての異論が出ず。 騒ぎ過ぎと王に申し出たヘンダーソンは、回りから見ても浮いた存在である。


その様子を傍観したクシャナディースは、どうもヘンダーソンが浮き始めたと不安を持った。 ヘンダーソンの近親者である執務官でも、ヘンダーソンの言う事に順じなかったからだ。 


ヘンダーソンの話とこの悪党達の無礼極まりない動きには、到底着いていけないと思うクシャナディース。 此処から、今直ぐにでも立ち去りたくて。


「とにかく、嗅ぎまわる犬の始末は、事を荒立てない程度にして貰いたいな。 それから、我らが夫婦の事は、此方に任せて貰いたい。 以上だ。 下手に長く留守にしては、返って怪しまれる。 俺は、此処で失礼する」


クシャナディースは、今更ながらに自分のしている事に自信を持てなくなりそうで困った。 此処に居て、気が休まる事等無いだろう。 だから、足早に戻る事にする。


「・・・」


「・・・」


見ていたヘンダーソンとモジューロゥ。


クシャナディースが下に降りて、裏手の扉から出て行く。


窓のカーテンを少しずらし、クシャナディースが隠れる様にして遠ざかって行く所まで見たモジューロゥは・・。


「あのダンナ、随分とビビっておいでだぁ~」


すると、それまで黙っていたヘンダーソンが。


「今更怖気づいた所で、ヤツには何の対抗手段も持ち合わせて居無い。 それより・・、いざと成ったら、あの男を殺す。 お前達に、出来るか?」


ワインを汚く傾けたモジューロゥは、顎をクシャナディースの去る方へ向け。


「あのダンナ、腕は中々だ。 殺るなら、手段は選べないぞ」


「そうか・・。 ヤツの新妻は、高貴な貴族の血筋だ。 出来るなら、その時は逃がしたい」


すると、カーテンを閉めたモジューロゥは、ニタニタと笑み。


「そいつはぁ~難しいなぁ。 俺達は、もう一月以上も女や遊びに行けてねぇ。 そんな初々しいオンナ見たら、興奮して手を出さずには居れ無ぇ~ってさ。 うへへへ」


ヘンダーソンは、耳を疑った。 命令を無視するかの様な云われ方で、どうもラヴィンとは違うのが困りものだと思う。


「チィっ、意地汚いカスがっ」


吐き捨てる様なヘンダーソンの言葉に、


「何とでも云えよ。 俺達を長く雇いたいなら、それなりの犠牲は覚悟して貰わにゃ~困る。 好き勝手してきたゴロツキが、今更に統率も統制も取れた軍隊って訳には行かねぇさ。 ま、その新妻ってのと、ダンナの家のオンナ全部は、可哀想に・・・させて貰う。 それが飲めないなら、あのダンナを殺るのは難しいゼ?」


と、モジューロゥはワインを貪る。


「何だとぉ? キサマ・・・雇い側に楯を・・・」


流石にヘンダーソンが苛立つと。


口を腕の衣服で拭ったモジューロゥは、


「おいおい、勘違いしなさんな」


と、少し意味深に返すのだ。


「何がだっ?!」


「悪いが、あのダンナを、この大きな街中で殺すと成ったらよ。 前にダークチェイサスの奴らがジジィを殺した様に、人気の無くなる夜を狙うしか無ぇ。 だが、貴族の居る場所は兵隊の見回りも在るし、俺達盗賊の集まりだけで遣るなら、それなりのエサが必要なんだ。 腐った手下共が、それこそ欲望の虜に成って無我夢中に成るぐらいのな・・。 そうしないと、一人二人が斬られただけで、強い相手にしり込みする」


「・・・、その欲望を焚き付けるエサに、貴族の娘を差し出せと?」


「おうよ。 普段なら手が出せない高嶺の花なら、多少の危険も仕方なしと思うさ。 ま、殺すと成りゃ~毒も使うが。 俺が見立てても、あのダンナを殺るまでに手下数人は失う覚悟をしないとな。 失うと踏んだ手下の取り分と、野郎共を狂わすエサ・・・。 もしもの時は、手を打って貰いたいねぇ~。 へっ・へへへへ・・・」


汚らしい笑いを漏らすモジューロゥ。 根っからの盗賊らしいこの男は、全身が欲望で出来ているらしい。


黙ったヘンダーソンは、困った。


(うぬぬ・・、あの娘には色々と利用価値が在る。 クシャナディースが死んでも、子供を孕ませれば公爵筋の隠し子として利用も・・。 多額の金を払って、このゴミ共のエサに払い下げるのは我慢成らぬ)


ヘンダーソンは、貴族と云う地位に異常な価値感を持っている。 その彼にとって、例え、物の様に手に入れた女性でも、あの姫と云える女性を差し出すには、相当にプライドが揺らぐ。


「・・・その件は、決定して居無い今は保留にさせて貰おう。 それより、リオンの手下も動いている。 気取られ、足元を掬われるなよ。 お前達には、組織の方に多額の金を毎年送っている。 その事、忘れるなっ」


モジューロゥは、交渉が芳しく無いと思いながらも。


「ヘイヘイ、解ってる。 俺達も、今回は特別な召集で来てるんだ。 命令には、ちゃぁ~んと従いますってモンさ」


「フン。 どうだかな・・」


立ったヘンダーソンは、ラヴィン以外の悪党が此処まで荒んでいるとは思わなかっただけに。 このモジューロゥの態度には、些か気分を害した。 こんな者達を相手にしている自分が、一貴族として恥ずかしいと思える。 逆に言えば、それだけラヴィンは上下関係も弁えられる存在であり。 頼りに成った。


(こんな輩を頼らねば成るまいとはな・・。 クシャナディースよ、上手く事を運べ)


ヘンダーソンは、国王にも敵意に近い悪態を思いながら、この塒を後にした・・。

どうも、騎龍です。^^


PCの調子の関係で、一日遅れての掲載と成ります。 済みませんでした。


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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