二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~3
セイルとユリアの大冒険 3
第一章・旅立ちの三部作・最終編
≪ポリアの居場所≫
ポリアは、今だにこの王都に残っていた。
さて、Kに語ったポリアの名前の一部は、非業の死を遂げた悲恋の女性剣士のものである。 一族の者のサードネームを摩り替えたもの。 正式には、ポリアンヌリファール・アルネクリス・セラフィミシュロードが正式である。 “セラフィ”家とも略されるが、その意味は“天の仕の加護”の意味で、ミシュは、“最高位”の古代文字の略。 ロードは、言うまでも無い王侯貴族の最上位の称号の呼び名の一つ。 ポリアの一族は、王族の中でも世界最古であり、存続する王侯貴族の中でも最古の大貴族である。
つまりは、古代の魔と神が入り乱れた大戦でも活躍した戦士の末裔でもある訳だ。
そして、今。 様々な大臣などを歴任したポリアの父親は、去年からアハメイルで行政権を持っては、リオンの片腕として政務をしている。 だが、その家柄の信頼から与えられた軍事的権威は、将軍を束ねる総帥の権限と同じもの。
もし、仮に現国王や時期の王と成るトリッシュ。 それに近衛騎士団長と総軍指令の肩書きを持つリオンに、何かの事態が在り。 軍事権限を行使出来る最高権限者が不在に成った場合が出たとする。 すると、ポリアの家を継ぐ当主がその代行を行えるのだ。 王の一族。 若しくは、その座に近き者を借りの王に立てた上で、総軍を動かし戦争まで行える。 万に一つ。 王に相応しい者が王族の生存者に存在しない場合は、5大公爵が話し合いを設け。 其処で異論が少なければ、ポリアの家の誰かが王に即位できる。
このポリアの代々の家督には、長男だから座れると言う訳では無い決まり方が在る。 過去には、男子の血を残らず絶やし、女子の血筋に婿を迎えた事も在るほど。 つまり、ポリアの家に生まれる事は、他の貴族とは違う意味合いを持つ。
その旧屋敷は、王都に幾つか在り。 母方の屋敷が貴族区の中央に一つ。 父方の旧本家と成っていた大屋敷が、王城に間近な場所で広大な土地を有して聳え立つ。
この旧本家屋敷は、借りと云う格好でポリアの兄が二人住んでいる。 だが、この屋敷の所有は、もはやポリア名義。 ポリアへ強引な結婚をさせようとした父親だが、去年に舞い戻ったポリアが結婚をド派手に蹴り。 そのゴタゴタでポリアの帰る場所の無くなるのを心配した兄弟3人が、父親の威厳を無視してこの屋敷の名義をポリアに変えた。
新しく中央の王都へ召還され、大役のお役目に就く事と成った兄弟達は、母方の家と仲良くしながら旧本家を護っていた。
ポリアの父親は、もうポリアに対して父親らしき権威を失っている。 妹狂いの兄弟に軒並み反発され、奥方に支えられながら自分の仕事をするのみの生活だった。
ま、その経緯は、後日に何処かで語ろう。
さて。 まだ、リオンの話を受け、国王がハレンツァの喪に服すと離宮に引き篭もった日の夜である。
夜も随分と遅くなってから、ポリアの兄の次男だけが馬車で騎士二人を引き連れて帰った。
長い敷地内の石畳の道を戻って来る馬車。
そのカンテラの明かりを見て、執事以下使用人達が出迎えに待つ用意を・・・。 と、何時もの形式的な出迎えが始まると思いきや、出迎えに出て待つのは、執事と数人の用人やメイドのみ。
一方。 その広さだけで、下手な小さい屋敷など入ってしまいそうな・・・。 そう思わせる広い空間を占めるロビーへ、中央の大階段を降りるのは、ポリア。 普段着の白い衣服ままだが、剣を腰に帯び。 イルガを従えて階段を降りて来る。 執事達が門を開いたりする音を丁度聞き、兄を出迎えようかと気が向いたのである。
しかし、それまでの使用人全員が起きての仰々しい出迎えを無くしたのは、ポリアの一言。
“一々寝てる使用人まで起こす必要在る訳?”
ポリアの睨みを受けた兄弟は、即刻見送りや出迎えを簡易的に変えた結果が、たった数人の出迎えである。
エリウィンの家族他、ハレンツァの一家全てを護る為に、自分の屋敷へと招き入れたポリア。 悪党に何人も傷付けさせない為に、自身も仲間とこの屋敷に逗留する事を決めていた。 偶に気付けば、こうして兄の帰りに出迎えるが、仲間やハレンツァ一家の気兼ねはさせない。
さて。 表の大扉前に馬車が到着し。 門へと上がる階段に横付けされた馬車から、ポリアの兄妹で次男のルシャルルムが降りる。 知的で喰えない策士の様な苦味走った色男の彼は、齢20歳で王国法律や外交制約などをを全て諳んじ。 更には、あらゆる裁判にも立ち会う権限を持つ。 その物事を冷徹なまでに読み解く所から、冤罪になりそうな事件を白紙に戻し。 再捜査を発令する事も平気で厭わない。
“歪みを許さぬ法律の申し子”
等と囁かれる冷血漢とも。
「・・・」
降りたルシャルルムへ、執事の老人が一礼し。
「お帰りなさいませ。 直ぐ、食事も湯も用意出来ます」
と、言えば。
「そうか。 では、湯を先に。 それから、お客が居る。 ポリアンヌに会うから、用意を」
と、全く感情の篭らない冷たい声で言い放つ。 知らぬ人が見たら、何と醒めた口調の人物かと思うのだが・・・。
「ルシャ兄様。 私に客ですか?」
ポリアが、丁度階段を上がった扉の狭間に出た所で言う。
すると、
「んっ? 嗚呼っ、ポリアンヌぅ~っ!!!!」
突然に、ルシャルルムが色めき立った声を上げ、執事を無視して跳ね除けようとばかりに動き出す。
(は・始まった・・)
使用人達一同の落胆に似た思いが、声に成りそうな程に一つに成って上がる。
馬車を降りたルシャルルムは、礼服に似た正装にシルク地のマントを靡かせた姿で階段を2段飛ばしで駆け上がり。 ポリアの前に来ると、ポリアの身体を見回して。
「大丈夫だったかいっ?! 御腹空いて無いかい? 夜はしかり食べたかい? 眠くないかい? イルガはちゃんと言う事聞いたかい? 外を出歩いたりしてないよな? 誰か、変な男に色目を使われたりしてないかい? これから一緒に、何か食べるかい? 云々・・・」
凄まじい勢いで、思うままに話し始めたルシャルルム。
「・・・」
見るに耐えない兄の情け無い姿に、目を細めたポリアは頭を抱えた。
後ろに控えるイルガは、こうなったらポリアの声以外は聞こえなく成るルシャルルムに疲れ。
(う~ん。 久しぶりに見ても、う~ん・・・)
だが、長男はもっと凄いから、一人なのがまだいいと思えた。
ポリアは、細めた目で兄を睨み。
「あ~に~う~え~」
と、声を低くして威嚇する様に言うと・・・。
殺気じみたポリアの気配を感じ、ハッとしたルシャルルム。
「あっ、ああああ・・・・、済まぬぅぅぅ~」
と、その場に頭を抱えて蹲る。
使用人や騎士などは、通常のルシャルルムの姿とは明らかに違うその様子に呆れるばかり。 誰か別人を見ているみたいで、身動きすら出来ない。
ポリアは、変わり果てた兄へ。
「所で? お客って誰?」
「あ、おぉっ、忘れてた。 お前を見たいという同僚さ」
ポリアはおろか、イルガですら、この夜中に間近の頃合いに、そんなどうでもイイ用事で客が来るなど失礼にも程が在ると思うのだが。
ルシャルルムは、馬車の脇で腕組みをする黒いローブの何者かを見て。
「彼だ。 ま、私の心許す同僚だから、快く会ってやって欲しい」
と、言う。
ポリアとイルガは、その顔をフードに隠した人物を見る。
(何と云う・・、この様な夜更けに顔を見たいなどと・・・)
不満と云うか、無礼を嫌うイルガだが・・。
案内をされ、頷きと共に腕組みを解くその人物は、大扉前の階段を上がり出した。
(あ!)
ポリアは、その身のこなしや背丈などで、誰か直ぐに解った。 そして、諦めた顔色をし。
「ま、ルシャ兄さんの“ご友人”なら仕方ないわ。 別室で、ゆっくり話ししてあげるわよ」
と、デレデレする兄を見返す。
「あぁ~ポリアンヌ、何と優しい妹だぁ~」
今にもポリアへ抱き付きそうなルシャルルムだが、ポリアはさっさと翻り。
「イルガ、お客さんと会うわよ。 奥の特別な応接室で接待してあげるから、熱湯持って来て」
「はぁ?」
イルガは、一体何事かと思うのだが・・。
ポリアは、歩き出しながら手を振り。
「いい? 熱湯よ。 冷たい厨房の竈に掛かってるヤツを、そのままだからね。 沸かすの面倒だけど、到底直ぐに飲めない不味い紅茶出してあげるわ」
何とも意味の解り難い事を言うポリアの後を、ただ着いて行くローブの人物は、ガックリと肩を落とし。
(おいおい、俺が猫舌だって知ってるだろうに・・。 本当に、煮くらかした紅茶を出すんじゃあるまいな?)
この人物、ポリアと好みを知り合う仲なのか?
ポリアは、無用心にも面体の解らない人物を連れて、正面の大階段の脇を通り過ぎ。 裏手左の扉から廊下へ。
だが、流石は世界最古の大貴族の筆頭であるポリアの屋敷だった。 廊下に出れは、正面の壁一面がガラス窓。 雪化粧した中庭を見れ。 廊下に敷かれた一枚絨毯も黒い最上質の一級品である。 天井の高さや、古い様式のレリーフが天井や柱に描かれ、屋敷そのものが美術品の様な物である。
ポリアは、廊下を左に折れて応接室に。 一緒に後を着いて来た面体の解らない人物を一室に通すと、ポリアに従う様に着いて来た別の年配使用人に。
「もういいわ。 今夜は、寝て。 後は、私とイルガがやるから」
「え? あ・・ポ・ポリアンヌ様、お一人で・・お会いに成られるのですか?」
「大丈夫よ。 変な真似したら、裸で外に追い出すから」
「あ・・・はぁ」
初老に入ろうかと云う使用人は、面体の解らないローブ姿の人物を怪しんだのだろう。 何せ、ポリアの美貌は二つ並べるのが難しい程。 マルヴェリータの様な魅力的な大人びたのも素晴らしいが、ポリアの綺麗さはずば抜ける。 だけに、毎日貴族が御近付きに成りたいと面会に来るし。 それを追い返している彼らからするなら、心配も一入だろう。
「では、今夜はこれで・・」
渋々の様に引き上げてゆく彼を見送ったポリアは、部屋の中に戻った。
ドアの在る部分以外の四面を本棚に囲まれ。 然程に広くも無い部屋なのだが。 入って来た奥の手の本棚に行くポリアが。
「一国の王子様が、態々下々の家に来るのに変装するの?」
と、言うと。
「バレてたか」
と、ローブのフードを脱ぐのはリオンである。
ポリアは、本棚の中列。 黒く重みの在りそうな本を奥に押し込みながら。
「身体つきで解ったわ。 リオン。 私が12から16まで、アンタとも修行してたのよ? 最も、普通に子供時分から付き合い長いしね」
と、言えば。
微笑んだリオンは、一つ頷いて。
「言えてる」
だが。 其処で、本棚がゴリっと動いて奥に引っ込む。
「ほう。 隠し部屋か?」
少し驚いたリオンは、そう言うと動いた本棚の方に向かった。 見れば本棚がずれた間には、人一人通れる暗い廊下が広がっていた。
ポリアは、壁掛けのランプ一つを手にすると。
「そ。 この下は、地下街に出るの」
リオンは、“街”と聞き。
「地下・・街?」
「そうよ。 このお屋敷の地下は、硬く厚い岩盤で出来た避難用の地下街に通じてるの。 使われて無いけど、むか~し戦争時の避難場所としてのね」
「其処で・・・話すのか?」
「あ~、私が14歳の時に偶然見つけてね。 イルガと二人だけで、その一角に秘密基地みたいな隠れ家作ったの。 心配しなくても大丈夫、キレイだから」
リオンは、ポリアが随分と自分の来た意味を理解していると思う。
「秘密の話をしに来たのは確かだが・・・、凝るな」
「なぁに言ってんのよ。 ウチの使用人の下男二人は、雇い入れ先がヘンダーソンの口利きなのよ」
リオンは、ヘンダーソンの名前が出た事に驚いた。
「本当か?」
「兄さん達の話だと、このお屋敷に上のアル兄さんが住み始める時に、向こうが遣わしてくれたみたい。 要職に就く兄さんだから、連絡係と云うか取り込み口だろうって」
呆れたリオンは、相手の目論見を解っていて許したのかと訝しげ。
「解ってて、そのままに?」
「うん。 その二人を逆に見張れば、色々と好都合なんだって。 ヘンダーソンとの間に波風を立てると、変な因縁を王様や王妃様に言うでしょ? 甘んじた様に見せ掛けて、逆に利用させて貰っているってさ」
「なんと・・、流石に冷静沈着が有名なアルフォンヌらしい」
「ホ~ント。 アレで、私に対してもっと醒めてるとイイんだけれどね~」
暗い廊下に向かうポリアとリオン。
ポリアの話では、今さっき返した初老の使用人の下に成るのが、その遣わされた二人とか。 あの返した初老の使用人の話を聞けば、勝手に動き出すかも知れないからと。
もう、この屋敷を護る剣術に秀でた何人かの用人が、二人を絶えず見張っているらしい。 此処最近のヘンダーソンの要求は、アルフォンヌとルシャルルムも何かと煩く思っていたとか。 何か裏が在るのではないかと、二人で話し合って居た所なのだとか。
さて。 狭い石の階段を伝って地下に降りると。
「此処は・・・」
リオンは、急に外に出た様な開放感を覚える。 シーンとした静寂と暗闇が支配をする夜の外へ出た様な・・。
「リオン。 こっちよ」
潜り出た壁沿いに歩き出すポリアで。
後を追い出すリオンだったが。 直ぐに此処が外では無いと解った。 空気に動きが感じられず、薄く見える足元のしたには、白い埃の様な堆積物が見える。 だが、右手に広がる空間に、何か塔の様な歪みを見たので。
「もしかして、ポリアンヌ・・。 此処が計画で作られた“アマントシェルティタ”(潜る格納庫)かい?」
「そうよ。 このまま向こうに行けば、王城の方にも行けるみたいね。 ただ、街の方はもう崩落で潰れて、その後土砂を入れて埋め立てたみたい。 此処は、上に乗っかってるのが蓋って云うか、屋根代わりの我が敷地のみだから」
「・・、初めて足を踏み入れたよ」
「へぇ~。 王都一の探検家だったリオンでも、まだ知らない所在ったのね」
「あぁ・・。 だが、あの黒く聳える影が彼方此方に見える感じがするんだが?」
「それは、建物よ」
「建築物が在るのか?」
「うん。 岩の柱の中を刳り貫いて、上を支える柱で在りながらも、人が入れる部屋に成ってるのよ」
「ほう。 ん~、一回見て回りたいな」
「凄い広いわよ。 向こうの奥に行くまでって、此処から王城の表門を通って、ヴィクトリーロードに行くまで在るぐらいに長いもん」
「なんだ? キミは行ったのか?」
「えぇ。 イルガと二人で、何度かに分けて探検しちゃったわ」
「チィ。 教えてくれればイイものを・・・」
ポリアは、子供みたいな事を言うリオンに呆れ笑いを見せて。
「リオンと剣術を練習してたのって、南のアハメイルじゃない。 こっちに来るのを偉い嫌ってたの・・・誰だっけ?」
「う゛・・それは」
リオンは、テトロザと共にその頃は指令副長官か何かの肩書きで、アハメイルに赴任。 兄に王の座を渡すと云う意思表示も在るが、見合いの様な晩餐会やパーティー三昧の腑抜けた日々を毛嫌いしていた頃だった。 アハメイルから王都アクストムに帰るなど、仕方の無い国式行事の年末年始の式典ぐらいで。 格段の用件でも無い限りは、冒険者として旅をするか。 副指令の肩書きで、軍事訓練を乱発するか。 とにかく、暴れん坊の名を欲しい儘にした彼だった。
ポリアの家の土台とも云える石の壁が左手に消える時。
「ホラ。 正面に見えたアレ」
「ん?」
リオンが前方を見ると、薄っすらと影が立体的に凹凸を見せる。 何か、建物が在るのだろうか。
「屋敷か何かか?」
「そうよ。 有事の際は、あそこがうち等5大公爵及び王族が集まって、対策を話し合ったり命令を発する司令場と成る別邸なんだって。 まだ、モンスターが襲来してた頃から計画だから、年月はとんでもない経過をしてるだろうけどね」
近付くにつれて、それは宮殿の小さなものと解る。
「こんなものが・・な」
「最近、ウチの書庫でその文献を兄さんが見つけてね。 この前に文献で調べたら、何度か地下都市の目的用途が変わるに当たって、密かに改造の工事してたらしいよ」
外壁を潜り抜ける大門前に立つポリアは、
「此処・・・王都に来た時のアタシの避難場所だった・・」
と、しみじみと云う。
リオンは、強引な逢引を強要され掛かったり、犯されそこなったりと、女身故に、変な危険も多かったポリアの片意地を張った生き方を見て来ている。 あの兄で在る二人が今もポリアを心配するのは、その悪い手が幼い頃からのものだったからだ。
(ポリアンヌの苦労もまた、俺達王族と変わらないな)
過去にリオンはその手で、ポリアを連れ去ろうとした貴族の息子を斬って捨てた事もある。 生じ剣術が好きなポリアなだけに、その身を連れ去ると成ると大掛かりに成ろう。 イルガも傍に居るから、本当の力付くか、卑劣な策謀で。 美貌が際立ち過ぎて、年配・の男性からも変な好まれ方もした彼女だから、仲の良かったリオンでも妹の様に心配した。
確かに、特にこの王都では、ポリアは別格である。 リオンの父親である国王クランベルナードがポリアを欲し、養女にしたがった経緯がその原因。 しかも、リオンやトリッシュとも平気で会えるポリアは、権力拡大を狙う貴族からするならこの上ない存在。 正直、家を飛び出して冒険者などしているなんて、口だけではどう転んでも信じられない所なのだ。
リオンは、ポリアを在る意味本当に妹の様に思っている。 一緒に剣術を磨いた間でもあるが、父親である王が娘を欲していた所も在るだろう。 もし、ポリアの身に何か在れば、単身で火中にでも飛び込める。
不思議な魅力を持った妹の様なポリアだから。 リオンやトリッシュも頭が上がらないのである。
さて。
大門を潜ると、石で出来た宮殿の一角に明かりらしきものが。
ポリアは、
「さ~すがはイルガ。 理解してるわ」
と、云った。 扉の無い宮殿の入り口を潜り。 埃の体積した謁見の広間を抜けて、右手の扉の枠を潜る。
「ほお・・、これは」
リオンは、寒いながらに声を出した。 今まで見えていた白い息が伸びるのが、見えなくなる。 宿屋の5人部屋に相当する部屋に、ソファーや椅子が置いてあり。 奥間の古い竈には、火が入れられていた。
「ポリしゃんっ、此処ってすっごごごぃいいーっ」
先に座ってたシスティアナが、子供の様に輝かせた目で云って来る。
システィに微笑んで頷いたポリアは、
「イルガ~、みんなも連れて来てくれたのね?」
一方。 竈の前に立つイルガは、
「はい。 此処に来る前に、庭で皆に見つかりまして」
と、言ってから。 顔を見せているリオンへ。
「ようこそ。 汚い所ですが、ソファーなどは綺麗ですから。 空いている所へどうぞ」
ポリアは、急に温かいこの部屋に仲間が全員揃っているので。
「みんな、リオンよ。 私に態々会いに来たみたいだから、な~んか話在るみたい。 事に因ったら協力するから、一緒に聞いて」
と。
壁際の一人席に座るのは、深緑のスカーフベールを頭と肩に回す魅惑の美女マルヴェリータ。
「イルガ。 顔の見えないお客って・・リオン様だったの?」
「みたいだ」
イルガは、今解ったのでそう返した。
他には、鎧などは脱いで剣だけ持って来たゲイラーも居て。 システィアナとヘルダーの間にて、大き目の三人で長掛けのソファーに座っていた。 リオンへ頭一つ下げた後に。
「しっかし、こんな凄い秘密基地かよ。 ポリア、スケールがケイみたいだ」
横で頷くヘルダー。
天然の岩盤を刳り貫き。 手を掛け宮殿に仕立て上げたこの建物。 部屋数も多いが。 一階の部屋の所々にベットなどを置いて、ポリアは休憩場所として遣っていた。 いや、貴族の習慣が色濃いこの王都で、此処がポリアの逃げ場と云うか。 居場所だった。
システィアナは、秘密基地を鵜呑みにしており。 何故か、興奮している。 もし暇を持て余そうものなら、この宮殿はおろか地下都市の方まで行ってしまいそうなソワソワ感を見せているのだ。
イルガがお湯を沸かし。 ポリアは、紅茶の茶葉が入った入れ物をイルガの脇から取りながら。
「リオン。 その一人席にでも座って」
「あぁ・・、大きな椅子だな?」
木で作られたその椅子は、普通の椅子より二周りは大きい。
「うん。 父方の祖父のよ。 少し壊れてたから、バラして直したのを此処でイルガと組み立てたの。 凄い時間掛かったわよね?」
イルガは、一つ頷き。
「ですな。 釘も必要ない組み立て方なのに、お嬢様が釘を・・・」
そんな話に、
“そうだったかしら?”
と、言わんばかりに首を竦めるポリアであり。
見て呆れ、肩を竦めたリオン。
座ったリオンに、ポリアは言った。
「そのよゆーの顔を見る限り。 姿の見えないエリウィンさんとかに、何か危険が在った訳じゃなさそうね?」
「あ? あぁ。 実は彼には、国葬の夜からハレンツァ殿のしていた仕事を引き継いで貰った。 父親の敵を討つ事にも成るから、必死に成ってるよ」
マルヴェリーラは、心配する家族を見ていただけに。
「それなら、もっと安心の出来る一報でも下されば・・」
だが、そこにポリアが。
「ハレンツァのおいじちゃんが受けたって・・。 もうあの人は、引退した騎士とかが席を置く老院に入ったハズでしょ? それって、アンソニー様の一件に関係有り?」
リオンは、流石に王族とも気兼ねの要らない付き合いが出来る姫君を見て。
「ご名答だ、ポリアンヌ。 父上が、信頼の出来る数少ないハレンツァ殿に頼んだのだ・・。 兄トリッシュの理解者であるハレンツァ殿だからな。 権力にがめつい貴族の中では、あの方は中立で在るし。 何より王族を、そして兄を第一に考えるからな。 確かに、俺から見ても適任者だ」
と、言い。 更に、ハレンツァの一族が、嘗てはアンソニー王子とその兄である国王に追放された一件を語って聞かせた。
話の最中ティーカップに紅茶を注いだポリアは、石質感丸出しの低いテーブルに運び。 リオンの話が終わると。
「そっか・・、じゃ~極秘の仕事だったんだ」
「あぁ。 此処だけの話だが。 セイルに護らせた宝物の中身に、アンソニー殿の身分を示した物を全く残してない。 だが、暗躍する何者かは、在ると思い込んでいる。 宝物を欲する何者かを極秘に調べ、首謀者を動く手下から手繰って行こうとな。 ハレンツァ殿が、密かに私の元に王子の証などを持ってきては、そう話し合った」
紅茶を手にしたポリアは、イルガと座るソファーに腰を下ろし。
「その所為で、自分の命を落とした・・」
最悪の事態に至っただけに、リオンは言葉を繋げず、黙った。
だが、ゲイラーが少し憤り気味に。
「王子、そこまでする必要が在ったんですか?」
と、問うと。
「・・・、全ては兄上の為よ」
マルヴェリータが直ぐに。
「時期国王に成られる?」
「あぁ。 父は、数年以内に王位交代を考えている。 兄上は、内面は別にして、表はひ弱そうに見えるし。 人の話を聞く穏健派・・・。 国難になりそうな不安要素は、出来るだけ父の時で減らしたい。 我が一族の総意・・・。 無論の事、ハレンツァ殿も我々と同じ様に思っていた」
ポリアは、平和に成った今で。
「今の平和は、商人の台頭で少し混乱も在るけどね。 結構・・、悪くないと思う。 でも、それを覆したい誰かが居るのね?」
「恐らく」
と、言うリオンは、更に続けて。
「と云うか、今は王族に強い権限が在る。 だが昔は、有事の際以外は王族は象徴であって、代わりに貴族が国政運営全ての権限を持っていた。 一部の強権主張派には、その返り咲きを期待する者も・・・」
「なんか、すっごい下らない・・・」
そう言うポリアが、世界最古の貴族出なのが皮肉に成るかもしれない。
だが、リオンは、ポリアへ。
「ポリアンヌ。 今、エリウィン殿に兄上が協力し、過去の事を洗っている。 ハレンツァ殿は、エリウィン殿を逃す前に言った。 “過去の追放された貴族を調べろ”と。 あの兄上が、自分から協力をして来た。 父上は、その全てを知って、俺達兄弟に王宮の全てを預け。 そして、キミのお兄さんにその舵取りを任せた。 もう・・、こうなっては後には退けない。 ハレンツァ殿を殺害した者を含め、その首謀者も潰す。 どうか、その事が片付くまで、エリウィン殿のご家族を預かって欲しい」
ポリアは、短く。
「解ってるわ」
リオンは、ポリアの仲間一同にも頭を下げ。
「皆にも、迷惑を及ぼす事になるが、この通りだ」
ゲイラーやヘルダーは、一国の王子が自分達の様な者に頭を下げるなど在るのかと思う。
リオンの様子を見て、マルヴェリータは、
“男は勝手だ”
と、つくづく思うのだが。
ポリアは、リオンへ。
「もういいわ。 それより、調べは何処まで進んでるの?」
リオンは、ポリアに事を隠す気に成らなかった。
ハレンツァの言っていた追放を受けた貴族の内、今に残るのは2家となり。 ハレンツァにヘンダーソンとクシャナディース卿が圧力を掛けた事等を話す。
ポリアは、話にヘンダーソンの名前が出て。
「ヘンダーソン・・ね。 ホント、名前聞く度に嫌に成るわ」
と、嫌悪を目に露にした。
システィアナが。
「ポリしゃん、その人ってわる~い人?」
と、聞けば。
イルガは、飲みかけた紅茶の手を止め。
「お嬢様が、初めて決闘を挑んだお方だ。 “試合”だの、“手合わせ”じゃない。 本気でな・・」
リオンは、結構古い話で思い出し。
「あぁ・・、ポリアンヌと彼は、ある意味因縁の間柄だな」
と。
更にその意味を尋ねたマルヴェリータやゲイラーで。 リオンやパリアが話すその内容は、こうだ。
ポリアが8歳ぐらいだろか。 幼い頃に謁見した国王に気に入られ、気儘に王都の王宮を動き回れたポリア。 この頃から剣の使い方を父方の祖父に頼んだり、リオンの兄のトリッシュと居るハレンツァに頼んだりしていた頃だった。
さて、こんな元気なポリアが宮中に居る間、ポリアが好んで世話をせがむメイドが居た。 アメリス婦人と云う40歳を優に超えた女性で、でっぷりとふくよかな容姿をした大柄なメイドだった。 確かに、お世辞にも美しい人物では無かったが。 大病を患い寝たきりに成った夫を抱えながらも、宮中で働き。 その大らかで慈しみ深い母性愛は、当時のポリアには何より嬉しかったものだった。
ポリアを護り続けるイルガは、この女性と大変に仲良く。 何度もポリアの我儘に困ると、アメリス婦人に相談した程だった。
二人の子供を産んだアメリス婦人は、活発で片意地を張るポリアの心を和ませる数少ない人物だったと言っていい。
だが。
彼女が仕事に追われ、背後を通ったヘンダーソンに気付かなかった事が起こった。 ヘンダーソンは、王族の目の前ではその成りを潜めるが。 貴族と一般の者の線引きを異常に拘る所が在った。 そのヘンダーソンの付き人は、気付かなかったアメリスを怒鳴り叱責した。
アメリス婦人は、必死に謝ったらしい。
だが、彼女を首にすると言い放ったヘンダーソンへ、彼女は縋り付いて許しを請おうとした。 その時、慌てて手を伸ばしたアメリス婦人の爪が、掴もうとしたヘンダーソンの手を薄く切った。
血の滲む手を見て激怒したヘンダーソンは、人目の無い場所だった為に暴力を振るったらしい。 殴られたアメニス婦人は、鼻血を出して壁側に片付けられた椅子の群れに突っ込んだ。 運の悪い事に、片目に椅子の足が・・・。
ポリアは、二月程してから王都でアメニスが死んだ事を知った。 大怪我をしたアメニスを、ヘンダーソンは放置したらしい。 怪我が酷く、瀕死に近い様子で連れ込まれた寺院で、即座に魔法で傷を塞いだのだが。 折れた椅子の木片が残っていた傷は、その後に化膿したらしい。 魔法で傷口は塞げたが、目の奥で化膿した膿までは治せる訳も無く。 寝たきりのままに半月で、アメニスは息を引き取った。
ポリアの性格からして、ヘンダーソンを許すなど到底在り得ない。 宮中の中、ヘンダーソンを国王の目の前に呼び出し。 クランベルナードを見届け人として、ポリアは勝手に決闘を申し込んだ。
ヘンダーソンも、たかが幼い少女とポリアをそれまで見ていたが。 剣を抜き払い、引き止める王や王妃にハレンツァも居る中で、自分を斬る気構えで居たのには心底驚いた様だった。 泣き叫び、自分の刑死も厭わないと暴れたポリアの悲しみは、如何様だったか・・。
結局、アメニスが家族に話した事実は、証人も居無いので証明が出来ず。 ヘンダーソンは、メイドが勝手に転んだと主張しぬいた。
しかしこの瞬間より、ヘンダーソンがクランベルナードに見えぬ距離を置かれたのは、事実である。 ポリアの気構えを理解し、ヘンダーソンの言い訳を国王が信用し切らないが為だろうと、密やかに噂が立ったほどだった。 ヘンダーソンは、専ら王妃の御傍用人として存在する事に成る。
以来、王宮に来たポリアの前に、ヘンダーソンが姿を見せるのは極稀で。 ポリアも、ヘンダーソンだけは長年の仇敵の様に対峙して、何時までも歩み寄りを微塵も許さなかった。
さて。 アメニスの子供は、実は二人とも女性で。 彼女の夫の面倒にと、ポリアが自分の持ち金を出した事も在る。 ポリアの面倒見の良さは、この出来事で芽を伸ばしたと言えよう。
そして何を隠そうか。 アメニスの長女は、ポリアの長兄に使え、王宮に従う執事の奥方に成っている。 今でも厨この屋敷の房を仕切る料理人の一人だった。 ポリアへ要望を告げたり、世間話や相談をし合える関係で。 メイドなど使用人女性の中でも、チョット格上の存在なのである。
そして、その次女は才色兼備であり、ポリアの兄を通じて貴族に嫁いでいる。 一般の女性が貴族に嫁げるなど、チョットした出世の様なもので。 ポリアとポリアの兄三人の身の回りを世話していた次女は、ポリアにも意見を静かに言える有能なメイドであった。 今の旦那に成る貴族の男性に見初められた彼女だが、分を弁える上で結婚を幾度も断る。 その結婚を決める前と云ったら、もう相手に土下座を幾度させたか。
アメニスの二人の娘は、非業の死を遂げた母親を思いながらも。 ポリア一家には、母親譲りの穏やかな態度と礼節を以って接した。 ポリアが、貴族ながら一般の人を差別しない目を養ったのも、これが大きな要因の一つであった。
アメニスの事を思い返したポリアは、リオンへ。
「リオン。 私、ヘンダーソンを獄中にぶち込めるなら、どんな協力も惜しまないわよ。 アイツに泣かされた宮廷仕えの人、ホントに何人居たか・・・」
「俺も、それには強く同意したいね」
そう言ったリオンは、紅茶を飲んだ。 王家の一人として、ヘンダーソンを快く思って居無い言い回しである。 人や相手の位で態度を帰るヘンダーソンは、王子達も好まざる相手だった。
だが。 その後に渋い顔をするリオンは、カップを見ながら。
「しかし、正直な所だ。 ヘンダーソンとクシャナディースの繋がりが、今一解らんのだ」
と、いい。 クシャナディースが何処からかの影響を強く受け、公爵に成った事や。 その口利きに、何人かの貴族が関わっている事も云う。
ポリアは、こうゆう事を突き止めるのに敏いリオンを知るだけに。
「解ってないの? リオンにしては珍しいわね」
「本当に、申し訳ない。 それが、影武者や馬車の替え玉などが巧妙なのだ。 あの二人、何処からか帰って来るのは目撃させるクセに。 行く場所を特定させない配慮だけは、相当に気を遣ってる」
「目星は?」
「ん。 挨拶回りや・・祝賀の席などで交際をする貴族を絞り込んだのだが、どうもな。 一人、別格で怪しい人物は居る」
「誰?」
「ミグラナリウス卿のご隠居だ」
するとポリアは、ヘンダーソンの時よりも更に嫌な顔をして。
「わぁ~、あのモンスターか」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も・・。 ねぇ、イルガ」
ポリアに言われたイルガは、何とも難しい顔で。
「えぇ・・」
リオンは、イルガに。
「イルガも知っているのか」
「はい・・。 もう、15年以上前に成りましょうが。 或る祝賀の席で、お嬢様の護りをしていた頃に・・一度だけですが」
「たった一度で、今まで覚えているとはな・・。 随分と印象の在る出会いだったか?」
するとイルガは、主であるポリアを一瞥してから。
「いえ、一番嫌な印象で御座います」
と、リオンへ
「ん?」
興味を引かれたリオンが聞き返す素振りを見せれば、其処へポリアが。
「あのオジイチャン、まだ10歳ぐらいのアタシに言ったのよ」
“ポリアンヌ姫、御家の当主に成る気は御座らぬのか? 貴女の様な強い当主は、貴族界でも面白きこと。 その気在らば、私に声を・・。 ・・ふっ、ふぁふぁふぁ、冗談じゃがの”
何とも気味の悪い話で、リオンは目を凝らし。
「フム・・」
「あのオジイチャンだけは、ソッコー死んで欲しかったわ。 今に思い返すと、凄く欲望を掻き立てる言い方するの。 私は気味悪かったケド、野心の強そうな貴族とは仲良かったみたい」
「そうか、そんな事が在ったのか」
「だって、あのとき・・。 記憶が確かなら、あのオジイチャンが私に、自分の孫と結婚しないかって言った後よ。 ホラ・・今年の春先に刑死した5大公爵の・・え~~っと・・・」
「オグリ公爵か?」
「あっ、そうっ! その人が、態々あのオジイチャンに慇懃な挨拶に来たのよ」
リオンは、オグリ公爵に繋がる匂いを感じて、妖しい繋がりを思って目を細める。
イルガも。
「あぁ・・、確かに。 その公爵様も、お嬢様にご子息をご紹介しましたな」
「うん。 あの一家は、親もバカだけど子供も一緒。 初めて顔を合わせた私に、その公爵の息子が何て言ったと思う?」
リオンは、あえて困り気味に首を竦める。
“俺の子供産みたいか?”
ポリアがそう言った瞬間、リオンは目頭を押さえ。
「フッ・・フフフ・・・」
と、肩を揺らす。
「笑い事じゃないわよ」
と、嫌がるポリアだが。
「いやっ・・くっくっく・・。 ポ・ポリアンヌに・・そんな・・・。 いの・命知らずも・・いい所」
と、リオンは笑い出す。
ポリアの気の強さは、幼い頃からだ。 年上の男相手だろうが、ポリアにそんな事を言ったら蹴飛ばされるだろう。
リオンは、余程に面白いのか。 腹を抱え。
「キ・キミに・・くっくく・・・。 それで・・ど・どうんた・・どうしたんだ?」
リオンに笑われ、気に入らないポリア。 目を細めてはリオンに、
「身体で教えてあげようか? あの時以来、バカ息子は二度と来なかったわよ」
目に涙を浮かべたリオンは、
「悪かった・・。 あ~、面白い」
と、云う。 だが、涙を拭くと・・。
「少し笑って、気が晴れた。 外に出れるとは、何とも有り難い事だ」
と、続けるのだが・・。 ポリアを再度見る目は、もう仕事をする目で。
「だが、兄上とエリウィン殿が調べている事は、この事件の真相に直結するとは限らない。 多分、まだケリが付くまでには時間が必要だろう」
「・・、それはイイけど。 宝物を運んだセイル君達は大丈夫なの? 中身を知ってるのは、彼らも一緒よ?」
「あぁ。 その点は、大丈夫だと思う。 ハレンツァ殿の国葬の前に、ワダルの街へ早馬を出させる手配を取った。 今頃は、テトロザが彼等を護っていると思う」
すると、ポリアは俯く。 今回もアノ、例の犯罪組織が絡んでいる。 北方の都市で、昨年の始めまで大勢の犠牲者を出した事件に関わっていただけに、心配は消えない。
ハレンツァとセイル達が、墓場で襲われた時に捕らえた者は、何故かその後に自決をされていた。 リオンが見張りの役人へ直々に問い質しても、彼らの猿轡を取った者が解らない。 ポリアが北の古代都市で出遭った組織の輩と同じである。
ポリアの祖父と親交が深かった学者アランが殺され、その他に大勢の死人が出た事件。 彼らの手口は、凶行を平気で行える集団も用意出来る。 その結果、北の街では人質を多く奪われ苦戦し。 今回は、ハレンツァが殺された。
「ポリアンヌ・・どうした?」
と、問うリオンへ、マルヴェリータが。
「王子、私達も・・北の古代都市で同じ犯罪者組織と対峙しました。 その・・、犠牲者は侯爵様だけで終わりましょうか?」
リオンは、前にもポリアから聞いていた事だし。 自分も暗殺者に狙われた経緯が在る。
「あぁ。 表立った犠牲者は、これ以上出無いと思う。 一部・・・危惧する事は在るが・・」
ポリアは、Kの力を借りて前は切り抜けただけに、同じ犯罪組織が相手と思って気を引き締めた。
どうも、騎龍です^^
ご愛読、ありがとうございます^人^