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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
106/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~3

                  セイルとユリアの大冒険 3


                 第一章・旅立ちの三部作・最終編



             ≪突き詰められて行く真実は その影を留める≫




セイル達が隠れる。 そして、その姿を追う者達が暗躍する。


だが。 一方では、リオンとエリウィンの調べは、遅々としながらも一つの真実へ向かい始めた。


その一端が発したのは、セイル達の下にハレンツァの訃報が届けられた翌日。 夕方が近付き、外が夜にもう変わっていた頃であった。


「ふぅ」


特別な権限が必要な書庫に戻ったリオンは、父親や兄を気遣って戻った。


「王子、お疲れ様です」


一人で調べ物を続けていたエリウィンが、リオンの訪れにそう言った。 かれこれ数日此処に篭るエリウィンだが、家族と共に父親の喪に服せず。 また仕事の極秘性から外出も出来ない。 渦中の中心に近いエリウィンが家族の居るポリアの屋敷と、此処を往復するリスクは途轍もなく大きい。 其の為、彼は自ら進んで隠れたままにしている。 家族には、一応別件の仕事が有ると言って置いた。


リオンは、手に持つバスケットを持ち上げ。


「うむ。 ホラ、食べ物を持って来た。 疲れただろう? 少し休憩しよう」


エリウィンは、座した状態から頭を垂れて。


「お気遣いありがとう御座います」


「まぁに、気にするな。 此処は、メイドや下々を入れられん。 それより、父上の気落ちが心配だ。 兄上は、意外にも気丈に振る舞い出しているがな」


「陛下が・・。 トリッシュ様には、王に就く前の試練ですね。 しかしながら、我が父の事を、そこまで・・」


エリウィンは、恐れ多いながらも嬉しい様な・・、また悲しい様な・・。 複雑な思いに、押さえていた憂いが溢れ出そうに成った。


リオンは、父親の死に直面しながらも、涙を隠して調査に加わっているエリウィンも心配だった。


「そなたには、今回の頼みは辛いな・・。 他に適任者が居無い・・、協力に感謝する」


と、エリウィンを見る。


エリウィンには、厳しくも甘い父親との思い出が棟に詰まっている。 今、泣いては、父に叱責を受けるだけと解っていた。


「・・いえ。 今は、父の出来なかった事を致すに邁進するのみで御座います。 父が殺された今、その犯人とその策謀を明るみにしなくては・・・」


リオンは、頷くだけで。 パンとミルクの入った瓶を入れたバスケットを、静かにテーブルに置いた。


エリウィンは、悲しみを紛らわす為にも、と。


「王子。 今朝方から調べていて、とても不可解な事が有ります」


「ん? 何だ」


「えぇ・・」


エリウィンは、何枚かの古い家系図を出し、それを右から順番に並べると。


「先ず、一番右手に有りますのが、サージネル様の家系図です。 始祖は、初代王家のご一族に繋がる分家で御座います」


「あぁ、我が血筋に近いはずだが」


「問題なのは、ミグラナリウス卿の方。 先ず、サージネル様の459代の御当主に成るダイイム様ですが。 何故か奥方のエミリア様の素性が、全く解らないので御座います」


リオンは、キナ臭い匂いが出て来たと片目を動かし。


「ほう」


「そして、このお二方のご息女が、ミグラナリウス卿の家に養女として入ります。 そして、他国の・・ステロイザス家のご子息を夫に迎えて、家を存続させているのです」


「・・・」


リオンは、ミグラナリウス家の家系図を見て。


「不思議だな。 その頃に、本家には男子二人に娘も居る。 早期死亡の事も書かれて居無いと云う事は・・、態々養女を貰い。 その養女に家を継がせた?」


エリウィンは、しっかりと頷く。


「はい。 しかも、ミグラナリウス卿のこの頃は、丁度あの例の事件が起こった直後で。 我が一族も含めた数家の貴族が、当主は斬首の上に一族は国外追放の刑を受けた直後なのです」


「ほう・・・それは、興味深い」


エリウィンは、もう色褪せた歴史の中でも、丸で謎のまま黒く残る暗部にブチ当たったと思い。


「王子、如何いたしますか?」


「調べたいな・・。 だが、そんな昔の事を、一体これ以上にどう調べるか・・」


リオンは、首を傾けて考える。


エリウィンは、家系図を見ながら。


「王子」


「ん?」


「何処まで解るかは解りませんが。 一つ、手掛かりを探り進む方法は御座います」


「本当か? して、その“方法”とは?」


「はい。 今日までの王国の歴史の詳細は、この後ろに有る歴史書鑑と言う物に書き残されています。 王暦史実の年度史には、お役目に就いていた全ての貴族の事柄も書き記され、有った出来事も。 その辺から調べて、人物の繋がりなどを書き出して見るのです」


エリウィンの話を聞いたリオンは、回りくどいが確かな狙いだと。


「なるほど・・、現実的に解る事柄と、当時の貴族の影響や関係を図解にすると?」


「はい。 数日は作業に必要でしょうが。 当時の事を理解出来れば、ある程度の推論なども出来ようかと・・・」


「そうか。 ならば、調べよう」


「は」


リオンは、随分とこうゆう調べ物に詳しそうなエリウィンを見返し。


「しかし、驚いたな。 エリウィン殿が、こうゆう事に長所を持つとは」


「いえいえ、父の教育です。 寧ろ、トリッシュ様の方がもっと・・」


「何? 兄上がか」


「はい。 トリッシュ様は、一見するとひ弱そうに見えますが。 歴史を正しく見捉える勇気は、人一倍だそうです。 父は、幼きトリッシュ様が取り巻きの文官に捻じ曲がった事実を吹き込まれ、正史との食い違いに悩んで居られた時に、助言をしたとか。 それ以後、トリッシュ様はご自分で正史を暗記し。 一人で史実を書き記しては、自分だけの正史録を御作り上げたと云ってました」


「・・・兄が、なぁ。 知らなんだ、そんな事・・」


「リオン様とトリッシュ様は、ご趣味からしても、事実に向かっての動き方が違いますからね。 リオン様は、身体を動かして知り。 トリッシュ様は、出来事から読み知る。 父が申して居りましたが、私もトリッシュ様は王に相応しいと思います。 リオン王子がどうこうでは無く。 トリッシュ様は、その器に有りますから」


リオンは、自分の知らない兄の側面を彼らが見ているのだと知り。


(兄上も幸せ者だ・・。 なら、我は兄を護る剣に成るのみだな)


エリウィンと共に作業を続けるリオンは、嘆く父と兄をそうさせ。 そして、王国の大切な家臣を奪った首謀者を、絶対に逃がす事は許されないと思った。


だが、明くる日の午前。


人とは、何処かで誰かと繋がる。 況して、エリウィンなどは繋がりも多い。


リオンの申し出を受けて、密かに作業に没頭するエリウィンだが。 ハレンツァの子供であるその姿は、常に相手方からも探される。 家族や、付き合いの有る貴族からも。 エリウィンが帰って来ない事を心配した家族は、折り良く居合わせたトリッシュ王子に掛け合った。


“済みません。 当主であるエリウィンが、何か仕事が有ると戻ってきません。 安全なら、手紙なり何なり連絡が欲しいのですが”


と・・。


実は、エリウィンの出仕する姿が見えない事に脅えるクシャナディースが、ヘンダーソンに相談し。 ヘンダーソンが手を回し、喪に訪れた文官に進言させた事でこうなった。 つまりは、彼らもエリウィンが何処に居るか、今は何をしているのか知らないのである。


ハレンツァの息子で、ハレンツァ以上に真っ直ぐなエリウィンだ。 もし、彼に自分達を疑われたら、面倒な事だと二人も思っていたのだろう。


ハレンツァの家族は、ポリアの一族の家に預けられている。 近く埋葬されるハレンツァの遺体も、まだ預けられているハズだ。  その傍にエリウィンが居無いのは、どう考えてもおかしい。


それは、遺体と家族を預かるポリアでさえ、エリウィンが喪に服す期間を留守にするのが変だと思っていた。


ポリアも、エリウィンに面会したいので、家族が申し出に伺うのには賛成したのである。


柔らかな金髪を肩や背中に回す頼り無さげの青年が、王宮を歩き回って居た。 メイドや貴族に会うと、エリウィンの事を聞いて回る。 リオンと似た背丈ながら、その身体は細く華奢な印象であろう。 青い上質のズボンに、王国の紋章が背に刺繍された制服の様な上着を着た知的な美男。 これがトリッシュである。


王宮のメイドなど女性達からすれば、護って貰いたいならリオン派。 護ってあげたいなら、トリッシュ派と云う具合に、この王子二人は宮中の女性の人気を二分している。 普段から穏やかで、おっとりした性格のトリッシュなのだが。 今は、ハレンツァを失った悲しみから、少し気が落ち着かず仕舞いであった。


「あらっ、王子」


出仕していた女性貴族の文官は、仕事をしている部屋に入って来たトリッシュに驚く。 黒い礼服のドレスの裾を靡かせ、トリッシュに向き直っては一礼を示した。


「あ、エリウィンを見なかったかい?」


「えっ? あぁ・・、ハレンツァ様のご不幸からは、御見掛け致していませんが」


「そうか・・、」


彼方此方を訪ねては、エリウィンを探し回るトリッシュ。


トリッシュのこの動きは、クシャナディースやヘンダーソンには有り難い事だろう。 トリッシュが探すので、丸で王宮にハタキを掛け回って居るのに等しい。 エリウィンも、これでは出て来ずには居られないと思った。


クシャナディースの王宮私室にて、ヘンダーソンは暗がりの外を窓から見て。


「どうですか? あのトリッシュの慌て様」


すると、ぞんざいな態度で椅子に座るクシャナディースは、その広い私室の天井を見上げ。


「愉快だ。 エリウィンも補足して、ほとぼりを待って脅しを掛けねば・・」


「ですな。 ですがエリウィンは、両王子とも仲が宜しい。 少し手を回し、遠ざけてからが望ましいですな」


「ん。 だが、エリウィンが生き残ったのは面倒だ。 どうにか、始末出来ないものかの」


物騒な事を平気で言うクシャナディースである。


ヘンダーソンは、


「クシャナディース様、それは御口が過ぎますぞ。 その様な態度は、努々表に出されるな」


「・・解って居る」


ヘンダーソンは、ミグラナリウスの老人が、何故にこのクシャナディースを選んだか解らない。 扱い易いが、軽薄で粗暴な面が目立つ。 もう少し貴族として品が有ればいいのだが、どうも気性的に貴族でも、宮廷仕えの似つかわしくない人物だと思っていた。


(ま、コイツもあの御老からするなら、使い捨ての駒だろうがな。 だが、我々の計画の中でも、トリッシュを思う様に出来るまでは、公爵の権威を保って貰わねば・・。 当面は、私が支えるしか無いな)


ヘンダーソンは、あの老人の計画に当初から参加していた。 途中から選ばれたこのクシャナディースには、不満が多々。 だが、他に言い成りになりそうな者が居なかった。


最初、計画に引き込む貴族の名簿には、あのオグリ一族も有った。 だが、本人も家族もバカ揃い。 クシャナディースは、知らされずに名前を挙げられた貴族の中では、比較的イイ方なのだ。 つまり、それだけ大概の貴族が王家に忠誠を誓っていると云える。


窘められ、少ししょ気た様に黙るクシャナディース。


ヘンダーソンは、目下の外の廊下を行くトリッシュを窓から見ながら。


「所で、ご子息の出来は如何か? せっかくの姫君です。 早く認められた子供を御作りなさいませ」


と、云う。


一気に不満在り在りな顔をするクシャナディースは、


「解って居るっ。 そのうち、・・それなりに作るっ」


と、押さえた声音で吐き捨てる。


脇目にクシャナディースを見たヘンダーソンは、噂は本当だと確信した。


(やはり・・、か。 夜な夜な襲って居るのだろうが、お体の強くない姫君だったからな。 こんな粗野な男に襲われては、出来るモノも出来ないと云った所か。 昼間は、泣いて過ごす奥方と云うが・・、当然かも知れぬ)


ヘンダーソンの恐れるのは、このクシャナディースの爵位格下げである。 クシャナディースの格上げは、もう公爵の娘を娶った事を楯にしたゴリ押しで。 方々に金を掴ませては、なんとか格上げにこじつけした様な処。 もし、大金を叩いて輿入れさせた奥方が、病気や自殺で子供も出来ずに死んだら・・・。 クシャナディースの爵位は、直ぐに取り下げられる可能性が強い。 いや、今となっては、リオン等にハレンツァの脅し件でクシャナディースの事が耳に入っているなら、確実に追い込まれるかも知れない。


(リオンめ・・。 昨日、コイツ(クシャナディース)の格上げについて、私に内緒で隠れて調べまわっていたとか云ったな? 早くこのバカの子供が出来なければ、後々で面倒が起こりそうな・・)


ヘンダーソンは、実務的にあの老人の手足として動く。 だけに、出来の悪い駒は困る。 クシャナディースは、そうゆう意味では非常に出来の悪い駒だった。


窓に立つヘンダーソンは、自分の身が危うくなりはしないかと内心では心配だった。 無論、計画に当初から加わっているだけに、自分が切り捨てられるとは思っては居無い。 何か、失態などの落ち度が無い限り、老人が認めた後継者を後に支え。 最終的には、自分が影の黒幕に代わるとさえ目論んでいた。


ヘンダーソンの視界から消えたトリッシュ。


(頼む。 我々の傀儡として、十分に働いてくれい。 トリッシュ王子、頭の良い御主だけでも・・な)


ヘンダーソンは、身近で過ごすだけ在り。 トリッシュの理知的な性格は理解していた。 利用するなら、そうゆう人物が良かったと思った・・。






               ≪虚偽と焦りの狭間で、兄弟は一つに≫





ヘンダーソンの応援も有ってか、ハレンツァの死が暗殺でも有るから。 トリッシュの周りの付き人までが、エリウィンの存在を求めて王宮を探し始めていた。


リオンとエリウィンも、其処は理解している。 だから、極秘の捜査を誰にも教えなかった。 リオンの配下のたった数人だけが知っている事で。 その者達は、王都内に出払っていた。 内々にしてきた事が、此処に来てマイナスに変わる。


王宮の離れに在り。 王家の者とその許しを得た一部の者が立ち入れる区域から出て来たリオンは、寝不足の祟った疲れ目を擦り。 食事を取りに王宮の表に出て来た処で、エリウィンを探すメイドに出くわした。


「あっ、リオン様っ」


「おお、元気だなぁ」


「それ処では御座いませんわっ」


「ん? 一体どうした?」


「それが・・。 先日お亡くなりに成られあそばしたハレンツァ様のご子息が、最近見当たらないと・・。 ご家族が、喪に服さず何処に居るのかと心配されています」


「なぁっ・・、それで探し回っているのか?」


「はい。 トリッシュ様は、お昼前にご家族と面会をされて、所在の解らないエリウィン様が非常に心配だと・・。 今、王宮の中をお探しに回っておいでです」


(これはっ)


リオンは、しまったと思った。 ハレンツァの事を調べる上で、そちらに夢中に成り過ぎた。 こうゆう事をテトロザ等に任せきりなので、いざとなると手が回らない処が出て来る。 誰かの手回しで騒いでるとは思えなかったが。 それでも、ハレンツァの死から4・5日近くは経過している。 エリウィンが家族に何かを伝えたにしろ、多くは云えないから心配されても仕方が無い。


リオンは、し様に困った。


メイドが行き、廊下を歩くうちに兄のトリッシュと会う事に。


「あぁ、リオンっ」


血相を変えたトリッシュと、どうして良いか解らず困ったリオン。 二人が出会った。


近付いてきたトリッシュは、


「リオン、エリウィンは何処だろう? 国葬の夜から戻らぬままだとか。 何処を探しても居無い・・。 まっ・まさか、彼も何か危うい危険に巻き込まれたのではないか?」


と、リオンへ。 その顔からしても、相当に心配している様子だった。


ヘンダーソンとも親交の深い取り巻きの付き人が、トリッシュの後ろに控える手前。 リオンは、本当の事を此処では云えないと思って迷う。


(どう致すべきか・・。 兄に知られるのは構わぬが、外部に知られるのは不味い)


リオンは、ハレンツァを失っている。 このまま、もしエリウィンをも失うのは、兄や父に深い深い衝撃を与えると嫌う。 だが、此処でリオンも逆に、何かを犠牲に差し出す必要が有ると思い。


「・・。 いや、兄上、俺は良くは知らぬ。 只、ハレンツァ殿は、父の命で何かを調べていた様だ。 エリウィン殿も、その事を心配していた。 彼は、何かを調べて回っているのではなかろうか。 ハレンツァ殿の敵討ちに・・」


トリッシュは、顔を悔しさと悲しみに歪め。


「あぁっ、ハレンツァを殺めた相手をかっ?! ならっ、私もっ」


トリッシュの今までなら、こんな事を言うなど有り得ない事だろう。 だが、トリッシュは、ハレンツァの死が堪えていた。 そして、王国の盾と自分を称したハレンツァを殺された事は、王家の一員として恥ずべき事だと思っていたのだろう。


そんな兄・トリッシュの憤る顔を見たリオンは、逆に思う。


(兄上なら、もしかすると・・・)


リオンは、トリッシュの後ろに付く御付の者を見て。


「済まぬが、兄上と二人にしてくれい。 必要なら、父上にも会わねば成らぬし、少し二人で話をする」


と、云った。


ヘンダーソンから、トリッシュの傍を離れるなと命令が出ていた。 当然、二人はトリッシュの身柄を護ると云う仕事を盾に拒否する訳だが・・。


リオンは、二人に鋭い視線を向けると。


「何だとっ?! 王家の者に盾突くかっ?!」


と、叱責する。


驚いたのは、トリッシュだろう。


だが、トリッシュが取り繕う暇を奪い。 リオンは、更に。


「己ら、ヘンダーソンの回し者では在るまいな?」


と、云う。


トリッシュは、王室御用取次ぎ役の一人でも在る用人のヘンダーソンの名前が、リオンの今の口から出た事で混乱した。


「リオンっ、ヘンダーソンがどうしたんだ?」


「兄上、実はな。 ハレンツァ殿が、父上に命じられて、と或る事を調べてるに当たっていたのだが。 何故か、ヘンダーソンとクシャナディース卿が二人揃って、突然に圧力を掛けて来た事が在ったらしい。 それも、ハレンツァ殿が殺される2・3日前だとか」


「なっ、それは・・真かっ?!」


「あぁ。 エリウィン殿から、国葬の夜に聞いてな。 俺も独自に聞き回ったら、その事を見たメイドや騎士が居た。 内容を良く解らぬウチに、俺から表沙汰にはしたく無かったが。 何か変だ。 俺は、その事を含めて直々に調べをしたいのでな。 近い内に、父上に許可を貰おうと思っている。 エリウィン殿が見つかり次第、彼も同席の上でな」


リオンの話に、トリッシュは衝撃を受けた。 そして付き人の二人は、ヘンダーソンと昵懇の二人だと知っていたので。


「何だっ? ハレンツァとヘンダーソンは、何を話したっ?!」


と、慌てるままに振り返り、二人に尋ねる。


「えっ」


「いや・・我々は・・・何も」


口を濁す中年の小男と、ノッポの太い付き人。


リオンは、トリッシュに。


「兄上、その話もしたい。 俺の私室で、話せぬか?」


と、云えば。


「解ったっ、今直ぐにでも」


と、トリッシュが応える。


これは、リオンの賭けだった。 その話し合いが予断を許さないと内容と思わせられたなら、こうする事でヘンダーソンやクシャナディースが動くのではないかと思ったのだ。 無論。 もう二人には、優秀な見張り付けてある。


トリッシュは、二人の御付き人へ。


「とにかく、二人はエリウィン殿を捜しなさい。 私は、リオンと話をするから」


と、命令を出す。


「はははっ・はいっ」


「了解致しましたぁっ」


二人は、この場の居心地の悪さに、逃げる様にトリッシュの歩いて来た廊下を逆に歩いて行く。 その慌てた駆け足の様な姿を見送るリオンは、この二人の行き先は大体読めていた。


二人と成った処で、リオンはトリッシュへ。


「兄上、お耳を・・」


「え? なんだい?」


エリウィンの居場所を聞いたトリッシュは、全身の力を抜く様に肩を落とし。


「何と・・その様な処にか?」


「うむ。 だが、さっき言ったのは、嘘では無い。 だから、彼と二人で調べていたのだ」


「それなら、そうと・・」


「言えない。 ハレンツァ殿を殺めた者が、何処に居るか解らぬしな。 それに、色々と面倒な事が在るのだ。 とにかく、俺の私室に。 俺は、彼の分の食事を持って来る」


何とも不満ばかりが募るトリッシュは、リオンに。


「リオン・・お前は、何処までも・・・」


「王家を護る為なら、俺は剣に成る。 ハレンツァが居無い今は、剣と盾だ」


と、歩き出すリオンだった。



                      ★ 



ランタンの薄明かりが広がる書庫にて。 リオンの案内によりエリウィンと逢ったトリッシュの顔は、何と言えば良いか。 男ながら涙を流し。


「無事だったか・・。 そなたに何か遭ったら・・・、ご家族に何と言えばいいか解らなかった」


と、零し。 リオンの用意した椅子へ腰を崩した。


直立し挨拶をした後のままに、その光景を見たエリウィンは、恐れ多いながらも自分の不肖を詫びた。


リオンとエリウィンの二人から、亡きハレンツァの関わった出来事を聞くトリッシュ。 アンソニーの事件に然り、今回の王家の遺品を巡る騒動に然り、何か不気味な働きが在るのは一目瞭然であった。


そして、ハレンツァが調べて途中で途切れた事件の経緯を、残された証言や詳細を綴った書面で読むトリッシュは、リオンへ。


「リオン。 そのセイル殿達の御一行は、大丈夫なのか? 話からして、未だ王子の印字や紋章の入った遺品を処分してしまった事を知らない犯人だ。 必ず、その方々を狙うだろう」


「兄上、テトロザに頼んであります。 只、相手がどう出てくるか・・。 我々も含め、誰も安全とは言い切れません」


「そうだね・・。 なら、今・・解決すべき問題は、リオンとエリウィン殿調べている事の答えと・・。 後は、どうにかご家族を安心させる事だ」


と、エリウィンを見る。


迷惑を掛けたエリウィンだ。 それには、先ず手を打たなければ成らない。


リオンは、直ぐに。


「兄上、今・・・思い付いた。 ポリアに頼もう」


「え? ポリアンヌに?」


トリッシュが彼女を呼び捨てにするのには、色々と幼い頃からの経緯がある。 ある意味、リオンとポリアは兄妹の様だが。 トリッシュとポリアは、弱い兄とその兄を仕方なく助ける強い妹の様で。 二人は、どうもポリアには頭が上がらない。


リオンは、ポリアは信用出来るので。


「そうだっ、彼女が居たっ! ポリアンヌなら、人目を気にせずに自由に動けるし。 あぁ、何とも打って付けだっ!!」


トリッシュは、女性の、しかも妹の様なポリアの身の上を心配した顔をして。


「おいおい、リオン。 彼女まで巻き込むのかい?」


「大丈夫。 彼女自身も強いが、仲間も強く信頼が出来るっ」


と、リオンは太鼓判を押す。


一方で、心配をするのはエリウィンで。


「リオン様。 聞く所に、ポリアンヌ様の仲間とは冒険者とか・・。 お金で買収とかされませぬか?」


これには、リオンは憤るより吹き出し。


「ふっ。 エリウィン殿、それは在り得ぬ。 ポリアンヌの仲間は、仲間の為なら身体を張れる。 正直、冒険者なんかにしておくのが勿体無い程だ」


と、言った処でリオンは、トリッシュに。


「兄上、此処の作業は、兄上に任せたい。 俺は、やはり動く方が性に合っている。 ポリアンヌと連携して、ハレンツァ殿の配下の者も引き入れ捜査をしたいのだ」


トリッシュは、そんな弟を見返し。


「一度言い出したら聞かないリオンだ。 “ダメだ”と云っても、無駄だろうね」


と、困った顔をしてみせる。


「兄上、頼むっ。 ハレンツァ殿の仇を討たせてほしい」


と、頭を下げたリオンだが。


「リオン。 ハレンツァは、我々王家の親愛なる友人だ。 お前一人で討とう等とは、思い上がりもいい所だよ。 大体、お前は何時も私をのけ者にする。 王家を、王国を護るのは、王族の使命だ」


叱られたリオンは、兄を見て。


「・・済まない。 だが、国王になるべき兄上は、危険には晒せない」


すると、トリッシュは、直ぐに。


「兄は、弟を犠牲にして王と胸を張れるかい? 自分だけ綺麗で、何も感じない僕かい?」


「う゛っ、そ・それは・・・」


言葉に詰まるリオンなのだが。 言ったトリッシュは、エリウィンの調べ書き留めた紙を見るなりに。


「リオン。 捜査とポリアンヌへの連絡を頼む。 それから、僕の事は“閉じ篭り”にして。 後、父上には話を通した方がいい。 父上の協力が在れば、僕の仕出かしてしまった騒ぎも鎮められよう」


と、言うのだ。


リオンは、トリッシュが大人びた顔をしているのに驚き。


「あ・兄上・・」


「うん。 此処は、僕とエリウィン殿に任せなさい。 但し、ハレンツァの仇は、僕も一緒に取るからね。 僕の・・師だ。 彼は、僕の人生の師なんだ」


何時もは優しげでおっとりとしたトリッシュは、微笑を崩さない。 だが、今の彼は真顔だった。


(兄上・・本気なのか?)


自分が護ろうとする兄が、急に強く見えた瞬間だった。


トリッシュの言葉を受けたリオンは、弟としてこれからは兄の下に成る事を思い。


(“王子”としての兄弟は、此処で一旦お預けだ。 よし、見ていろ。 俺達に、付け入る隙が在ろうと、易々とは挫かれぬ所を見せてやるっ)


トリッシュから受けた言葉を、“命”として受け取ったリオン。 直ぐに部屋を後にし。 昼下がりの微かに残った薄陽が木漏れる空の下で、慌しさが溢れ返る王宮に戻った。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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