二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~3
セイルとユリアの大冒険 3
第一章・旅立ちの三部作・最終編
≪第二の犠牲。 戦うべき見えぬ影に対峙して・・≫
ハレンツァの死が、セイル達に伝えられた次の日。 悲しむ暇も無い様な慌しさが、セイル達を襲った。
アンソニーも加えた4人は、出された朝食も残して。 シンシアに手配して貰った馬車にて、マーリの屋敷に向かったのだが・・。 博物館の周辺は、開館前の朝から人が多く集まっていた。
理由は、簡単且つ、衝撃の事態。
昨夜。 マーリの営む博物館の外で、兵士の惨殺された。 収容された遺体の身体には、切り刻まれた痕も在り。 相手は、非常に凶悪な犯人だと推察される。
兵士の死に際の大声が上がった真夜中の頃には、まだ館内にテトロザとマーリが打ち合わせで同席しており。 テトロザに付き従う騎士3名が、マーリの仲間である冒険者4人と一緒に死体の転がる現場へと駆け付け。 その直後には、テトロザとマーリが到着。 斬られた兵士は、息を引き取ったばかりであった。
巡回の他の兵士の証言に因ると。
“何も知らぬっ!!! お・・お前達な・などに・・。 ぐわぁっ!!!!”
と、叫ぶ兵士の声を聞いていたとか。
朝に合流したセイル達。 テトロザは、セイルやクラークには位の上の態度を崩さず、ユリアには親愛なる対等の姿勢を示し。 そして、アンソニーに至っては・・。
限られた一部の関係者だけが揃う場。 昨夜に、ハレンツァの死の経緯が告げられた応接室である。 マーリと執事。 テトロザと腹心の高位騎士一人。 そして、セイル達のみと云う中で、テトロザはアンソニーへ臣下の態度を見せ。
「アンソニー様。 此度は、この様な事件まで及ぼし、真に情けなく。 このテトロザは、何とお詫びをすれば良いか。 宝物は勿論、この館も厳重に警護致します」
膝を折り、叱責も覚悟と云う姿だった。
アンソニーの身分をまだ知らぬマーリや腹心の高位騎士は、テトロザの態度に驚いた。
だが、アンソニーは、リオンの剣の師であるテトロザへ。
「テトロザ殿。 その様な態度をされるな。 それより、死した兵士は何を聞かれたのだ? 宝物の事しか思えないが」
と、自らも腰を落とし、テトロザの眼を見て聞く。
「はっ。 詳しい事は解りませぬが。 殺された兵士3人共、何か折檻された形跡が・・。 一連の流れから考えまするに、宝物の事かと」
「そうか。 この犯人を炙り出す為に、我々は一部の王家の品に関して口を閉ざした。 相手方は、リオン王子に因ってその縁の品が始末された事を知らぬ。 此処まで来て探したいのだ。 真犯人の狙うのは、我が身に預けられていた王子の印字と軍事命令行使権の有する紋章だと思う。 あぁ・・、兵士の家族に何と詫びればいいか」
「は。 兵士達は、階級を上げ。 家族には、特別任務に対する恩賞の支給を致します。 説明は、この私が直に行きますので」
「そうか・・。 過去の時なら、この私が行かねば成らぬが・・。 今は、それは迷惑だな。 しかと、頼む」
「はっ」
ユリアは、今にアンソニーの心の広さが見えた気がする。 末端の兵士の家族の心配をする王子など、リオン以外で始めて見た。
(口に出さないだけなんだ・・。 みんな、セイルみたいに考えてるんだなぁ・・)
さて。 宝物は、もう移動の手筈を整えた。 お偉方の乗る馬車に見せ掛けた馬車で、軍部に運び込む手筈である。
博物館の閉館を2日間決めたマーリは、テトロザへ。
「テトロザ様。 運び込んだ宝物の事、世間に内緒のままで? 人の多い頃合いに押し込まれでもしたら、それこそ・・」
すると、其処にセイルが。
「あの~、何処かに運んだ事にしましょう。 そして、其処に我々が居ればいいのではないですか?」
テトロザは、ギョっとして。
「セっ・セイル殿っ。 まさか・・囮に成る気で御座いますか?」
と、セイルの魂胆を知る。
マーリは、ピンと来て。
「そうか。 其処に兵士の見張りを付けて、それらしくすれば・・犯人を捕まえられるかも」
アンソニーは、セイルに。
「来るか?」
セイルは、即座に返し。
「からくりがバレなければ・・恐らく」
と、云い。 ユリアやクラークを見た後で。
「思うに、これからが情報戦を含んだ相手方との心理戦に入ります。 それなら、大掛かりに嘘をでっち上げ、細かな嘘を隠して行かなければ・・。 それに、昨夜。 僕達の行動を探る気配が在りました。 見られた以上、このままあの宿に居ては・・・」
テトロザは、急激に事態が動く気配を、音が聞える様な思いで感じた。
「何と・・。 無理に兵士を回しては悟られると思い。 宿には兵士を回しませんでしたが・・、もう」
アンソニーとセイルは、互いに見合い。
「セイル君。 偽りの運び込む場所は、どうしたら良いか?」
「それは、地元の名士でも在るマーリさんに頼みましょう。 隠れて手配されている様に見せ掛けないと・・。 宝物を運び出す時には、二重に三重に欺く手を回します。 我々は、一旦姿を消す形で、その場所に・・」
「うん。 では、今、此処で作戦会議だな」
「はい」
クラークは、見えぬ敵に対し、決闘も望む所とばかりに勇躍し。
「此処から、これからが正念場ですな。 我々を嗅ぎまわる輩を何としても捕まえねば・・。 此処で捕まえれば、リオン王子の働きにも追い風に成りまするし。 その全ては、ハレンツァ殿への敵討ちにも成りましょう」
ユリアは、“ハレンツァの敵討ち”と聞いて。
「うん。 狙われているのが私達なら、私達が囮に成るのが一番だよ。 もう、他の人の犠牲は嫌だ。 ハレンツァさんと兵士さん達で十分っ。 セイル。 絶対に負けたくないよっ!!!」
ユリアの声は、セイルの心の引き金を引く。 頷くセイルは、テトロザへ。
「テトロザさん、今回で決着を着けてください」
全てを踏まえ、この街にいる犯人を誘引する準備の道具は揃い始めていた。 テトロザとて、こんなチャンスは二度と無い事だと理解出来る。 だが、一方では。 セイルやアンソニーの素性を知る自分なだけに、この二人他4人を囮にするのには気が引ける。
(嗚呼・・、この様な賭けをせねば成らないのか。 もし、セイル様やユリア殿に何か有ったら・・、取り返しが付かぬ)
鉄の忠義と、平和に対する信念の意思を持つテトロザだが。 セイルとユリアを相手には、その意思が揺らぐ。 クランベルナード王の友人でも在るし、あの世界最高の商人の孫で在るセイル。 しかも、幼い頃からリオンと親友で、リオンが全く気兼ねしない弟妹の様な二人だ。 ハレンツァの死で、リオンも悲しみを持っただろうに、これ以上の悲哀を続ける訳には行かない。
だが、アンソニーは、黙っているテトロザへ。
「テトロザ殿。 今は、隠れて動く時だ。 気にするな。 このセイル殿の仲間は、強い」
この一言は、テトロザの心の天秤の傾きを促した。
「・・・はっ。 ならばこのテトロザ、全力でお手伝いをいたします」
貴族のマーリにして見ても、テトロザの態度は異質。 だが、セイルやアンソニーの気品は、何処か常人離れしたものが在る。 この様子を見て、深く詮索する事より他のすべき事を見出せた。
「ウソの隠し場所なら、任せときなさい。 人気の少ない旧貴族区の一部に、使ってないアタシの一族の廃屋が在るの。 掃除や・・運び込む為の準備に2・3日掛かるだろうけど、用意はさせる」
準備の為の道具は、全て揃った。
★
その頃。 リオンは、ハレンツァの末っ子で一人息子のエリウィンと共に、内密に調べを推し進めていた。
“二百年前の追放された貴族の内情を調べろ”
ハレンツァの云った意味を理解したリオンは、嘗て当主を斬首の刑に処され。 追放を一時受けた一族の全てを調べていた。 正式に王家に許されて戻ったのは、侯爵家3家と、伯爵家が1家。 だが、今に続くのは、その内の2家だけである。 他は、全て何処かの家に吸収されて行った。
セイル達に、ハレンツァの死が報告された夜の事。
一般の立ち入りが禁止された場所。 特別封印書庫の書斎に篭るリオンとエリウィンは、膨大な家系図の仕舞われた書庫の中で、一つ一つ調べて行った。 一つの問題を、エリウィンが教えてくれた。 それは、何の理由でか解らないが。 ハレンツァに圧力を掛けに来たヘンダーソン侯爵と、クシャナディース公爵の事である。
リオンは、商人の一面も持った衛星都市の貴族であるクシャナディースが、たった数年で一気に公爵まで上り詰めた事が気懸かりであった。 流暢な気品高いデザインの机に向かっていたリオンは、顔を上げ。
「エリウィン殿、少し宜しいか?」
エリウィンは、父親の死で気が立ってたのだろう。 殆ど休みも無く、調べを進めている処だった。
「はい? 王子、何でしょうか?」
頬杖をするリオンは、家系図の巻物を横に置き。
「うん。 実は、ハレンツァ殿圧力を掛けたと云うクシャナディース卿の事だが」
「あぁ、はい」
「彼は、元々軍人系の一族に列する子爵であった。 偶々、剣の腕と馬術を買われ、そこそこの軍法律令にも明るいので、先陣を切って攻め込む部隊の長に・・。 だが、其処で示された爵位は、“伯爵”だ。 彼の軍隊は、特殊な部隊でテトロザが鍛える。 何の働きも見えない彼が、その後に侯爵を受けたのは・・どうしてだろうか?」
「あぁ、王子はクシャナディース卿の事を知らないのですね? 表向きは、地方都市の財政を立て直すのに一役買い、地方都市の教育や・・貧困者救済に尽力したとか・・。 ですが、内情はウソに近く。 王の側近の貴族大臣の幹部を買収した様です。 何でも、相当の金銭が撒かれたとも・・」
「何だとぉ? 地位を・・金で買ったと申すのか?」
「噂では・・その様に。 ですが、皇族のお嬢様をを娶った事には、父も首を傾げておりました。 あの大貴族の御当主と、下級貴族の側室との間に生まれた姫君は、別の方に嫁ぐ予定が在ったとか・・」
「誰だ?」
「はい・・、確か・・・。 公爵家10氏の方々の中で、序列8番目のロイヤリマナフ卿のご子息だと思いましたが・・」
リオンは、真剣に一点を見つめ。
「ヘンだな。 私は、今年の年始挨拶で、彼の御当主エォロワーク殿にお会いしたが、ご子息のそんな話は聞かなかった。 輿入れの日取りなどは、噂に?」
「いえ。 両家のお二人は、まだ18歳同士で、ロイヤリマナフ卿のご子息は、まだ勉学の学習院をご卒業していませんでした。 御結婚の日取りが決まるのは、ご子息が何かのお役目を頂く年末が過ぎてからだろうと・・」
「フム。 なのに、その姫君たる令嬢は、クシャナディースの妻に成った。 そして、公爵の足掛かりが出来上がり、オグリ公爵の一件で格上げか・・」
「はい。 ですが、その辺でも相当の金が動いたと噂も」
「真か?」
「はい。 その噂を裏付ける様にか、娘をクシャナディースに出した序列最下位の公爵家ハルツベリモント卿は、随分贅沢な暮らしをし始めた上。 元手が何処からか出たのでしょうが。 高価な宝石や貴金属を扱う商人を、そのままそっくり買収したとか」
「それはまた・・。 金額にしたら、相当な額だろうな」
「はい。 結構羽振りの良い店だったとかで、一部のお噂には、1千万シフォンを超えていたとも・・」
「なんと云う額だ・・。 ま、それは噂の事で、現実には数百万だろうが、それでも異常な額だぞ。 クシャナディース殿の下に行った姫君とやらは、随分な乗り換えをしたものだ」
「いえいえ、それが輿入れの祝賀も開かれて無い様です」
リオンは、その形式に拘る貴族なら、位に関わらず大抵は通る道を外れたと云う事を聞き。
「まさか・・、強引に?」
「可能性は・・。 父が圧力を受けた事を聞き、私もそっと周囲に聞いてみました。 すると、そのクシャナディース卿の奥様は、一度も外に出られてお顔を近所に見せた事が無いとか・・。 お隣の方だった勇退騎士で在られる貴族の方の話では、泣き声が聞えた夜も在ったと」
リオンは、難しい顔のままに。
「貴族の内情を公に調べるには、何かの口実が必要だ。 益して、公爵の一族とも成れば、明確な口実が必要と成る」
「ですね。 しかし王子、私も質問して宜しいでしょうか?」
「ん? 気兼ねは要らぬ。 自由に聞いてくれ」
「は、では。 ヘンダーソン卿は、どうしてあのお役目に?」
「あぁ、彼か。 彼は、母方の親戚なのだ。 前に居た老人の親戚が病気で倒れてな。 その後、母と従姉妹に当たる一族の甥にも成る彼が推挙された。 確か・・、ミグラナリウス侯爵家のご老体からだ」
「ミグラナリウス卿ですか・・。 確か、もう恩年90に届くお方でしたよね? 父とは、浅い付き合いが在る方でした」
「うん。 あの一族は、母の祖父に当たる曽祖父とも付き合いが在った御仁だ。 だが、俺は好かぬ」
「どうしてですか?」
「あの老人は、本心を明かさぬ不気味さがある。 しかも、未だに息子へ家督を譲りながら、彼方此方へ遣いを出しては付き合いを広める。 何処かの席では、俺に、出しゃばりはお控えなされとか言うたらしい。 父が、何とも腹の読めぬ相手だと苦笑していたわ」
エリウィンは、後ろに並べられた家系図の書庫を見返し。
「では、ミグラナリウス卿の一族も調べてみましょうか?」
「あぁ。 今夜も、朝まで掛かりそうだ」
「王子。 いざと云う時は、王子が指揮されませぬと困ります。 調べ物等は私に任せて、少しお休みくださいませ」
「はっ。 毎日徹夜を続ける御主を置いて、寝所に戻れようか」
「ですが、そろそろ王子も身を固めませぬといけません」
月並みな説教を持ち出され、呆れた笑みの困り顔をするリオンは、妻帯者には勝てぬ。
「全く、父と似た事を言われたな。 俺の様な突き進む者には、家族など危ない人質を抱える様なものだ。 テトロザとて、過去に何度も家族の危機を招いた事か・・」
すると、エリウィンは真っ直ぐな顔付きでリオンを見返し。
「ですが、励みにも成ります。 孫の出来た事を知った父の笑み・・、未だに鮮明にと思い出せますから」
リオンは、ハレンツァの顔を思い出し。
「そうか・・」
エリウィンは、葬儀の直後からこの場所に入り浸っている中で。
「王子」
「ん?」
「父のことは、今はこの王都だけの話ですか?」
「いや」
「何処に、お達しを?」
「ワダルの街に居る腹心の経由で、テトロザの元に。 恐らく、今夜辺りに知らされると思う」
「宮廷魔術師の方のご協力で?」
「うむ。 こんな時の為に、迅速に情報を伝える方法を用意しておいた。 アハメイルには、ハレンツァ殿とは縁の在る者達が居るからな」
「? そんな方が?」
首を傾げるエリウィンへ、リオンは素直に。
「ハレンツァ殿が、父から受けた命で知り合った者達だ。 一人は、ハレンツァ殿やそなたの一族の過去を知る者も居る」
「その様な方が・・今に居るのですか?」
「・・・」
黙ったリオンだが、手伝って貰うからにはアンソニーの事も知っていて貰いたい。
「・・、エリウィン殿。 実はな・・・」
≪動く闇の手・・・≫
セイル達とテトロザやマーリがこれからの作戦を考える同時期。 あの老人の下には、ラヴィンと云う曲者達の頭目の他に、もう二人の男が一緒に面会をしていた。
玉座の様な椅子に座った高齢の老人と思われる人物が鎮座し。 座の在る壇上から降りた脇に、控えて床に膝を折るラヴィンが居る。
老人の前、低い石段3つほど降りた所に、冒険者風体の長身の偉丈夫が一人。 その後ろやや右に、礼服をしっかりと着こなした中年の紳士が一人居る。
片方の偉丈夫は左の腰に長い長剣を佩き、上半身は厚手の金属鎧を着たままだし。 下半身は、金属と皮からなる腰当や具足などで武装していた。 顔は、細かな斬られ傷痕が多く、鋭い目付きは凶暴そうな印象を受ける。 何より、肌は垢染みていて、生活の堕落振りが窺える。
一方の紳士は、シルクハットにマントを着込み、左片目に眼鏡を掛ける小顔のインテリ風で。 鼻髭を流暢に生やしている。 この紳士、然程に背も低くなく見てくれも悪くないが。 その笑みや視線を窺うに、随分と狡猾そうな喰えない表情を有していた。
ラヴィンは、鎮座する老人へ。
「御主、向かって右手の前に立ちますのが、“ジェノサイダー”のリーダーでレプレイシャス殿で御座います。 左手の奥の方は、マーケット・ハーナスの商人で、闇の方の取引も出来るソルフォナース殿で御座います」
老人は、この日の昼前に思っても見ない客二人を紹介され。 今、初顔合わせの二人を見ては・・、フードの被った頭をやや擡げ。
「そうか・・。 では、お話を聞くとしようかな」
と、先ず冒険者風体の偉丈夫、レプレイシャスに。
「どうやら、我々の提示した報酬が気に入らないらしいのぉ~。 何度連絡を入れても、報酬を変えろとか。 焦れて、直接交渉に参った次第かな?」
すると、レプレイシャスはラヴィンを一瞥してから、老人と思われる人物に向かうと。
「全く意味が解ってねぇ~な」
「フム。 と、云うと?」
「我々の望むのは、安住と権力。 だから、相応の褒美を遣せと云っている」
この一言を聞き、老人らしき人物は理解に往った。
「ほほ~ぅ、そうゆう事か。 お前達の望みは、爵位か役職と云う事か」
ラヴィンは、その話に眼を見張った。 殺し屋等のお尋ね者で、地位や権力など無縁である。 暗殺者の様な秘められた者達ならいざ知らず。 平気で一般人を殺す殺し屋に、地位や役職等と云った日の目など居られる場所では無い。
レプレイシャスは、腕組みして鎮座する相手を見る。
「やっぱり、アンタの方が読みが深い。 俺の仲間ってのは、言うなれば只の狂人だ。 人を殺し、その血を啜る事も平気で出来る。 だが、俺ともうの一人ブレインの男は、元々は宮廷仕えの貴族だ。 普通の殺し屋とは、そのなり方が違う。 もう一度・・もう一度っ、日の目を向かえ。 濡れ衣で貶められた地位を、我が手に取り返したいのだっ」
鎮座する人物は、身を少し崩してゆったりさせると。
「そうか・・。 だが、問題は多いぞ。 先ず、他の仲間をどうするか。 更には、御主を引き上げたとしても・・我々の望みが叶うまでは、手下として手を汚し続ける事になるぞ? 第一、今までの罪をどう拭い去るか・・・。 その全てが決着に至るまで、影に身を潜めて貰わねば成るまい。 一年・・二年は、自由を奪われたままに成るぞ?」
レプレイシャスは、ぞんざいに上向き。
「フン。 今まで、14年を汚れた家業で生きて来た。 一・二年ぐらい、大した長さでは無い」
「そうか。 だが、何故にその事を直接伝えなかったのだ?」
「バカ云え。 俺の仲間は6人居るが、別の一人を抜いてこの家業から足を抜く気の奴は居無い。 俺の本心を知ってるのは、一人だけだ。 そんな仲間が居る前で、本当の言えるか? 回りくどい言い方だろうが、誰かに解ると思ったんだがな」
「なるほど・・、だが、此方の手配した交渉の相手も、お前の仲間と同類だった様だな。 その様な要求とは、露も気付かなかった様だ。 私に届く声は、もっと値を吊り上げるばかりだと・・」
「フン・・、身分も脳みそも使えないアホウは、言い回しも気付かないらしい」
鎮座する人物は、見えている皺の刻まれた口元を緩ませ。
「フフフ、どうやら見込みが在るな。 レプレイシャスとやらよ。 貴族に成る為、この王国の大儀を復興する為に、我に力を貸してはくれまいか? 先ずは、アハメイルに持ち去られた過去の王族の遺品を、見事持ち帰って貰いたい。 その褒美は、御主を行く行く取り立てるものに成ろうぞ」
「解った。 だが、今回は派手にやるぞ。 その相手も殺すし、俺の仲間も殺す。 成功の為に、犠牲も出すからそのつもりで居ろよ」
「おぉ、それは構わぬ。 何事にも、犠牲はつき物。 あのクランベルナードに加担し、博物館を営む貴族の娘も、何もかも葬れ。 どうせ、目撃者など面倒の種じゃ。 一般の市民だろうが、役人だろうが、邪魔に成る者は全て殺せ」
レプレイシャスは、国に仕える貴族の言葉では無いと思い。
「恐ろしいジジイだな。 貴族のクセに」
「うははは、この王権制度の国は腐っている。 腐った制度の腐った民も、腐った制度の腐った役人も、我にしてみれば使えぬゴミ同然。 その様な輩達は、死んで当然だ」
「アンタ、まさか国家の転覆でも狙ってるのか?」
「・・・そう問われるなら、“半分は”と、答えて於こうか」
「チィ、まぁ立身出世が見込めるなら仕方ないが。 アンタみたいな輩が居るんじゃ、この王国も長くねぇな」
「フン。 抜かせ、小悪党。 さ、十分に働いて、取り立てる手柄を上げよ」
鎮座する人物は、横に顔を向け。
「ラヴィン。 レプレイシャスと細かな打ち合わせを済ませよ。 どうなっておるか、後で聞く」
「は」
レプレイシャスは、ラヴィンが立ったのを見ると。
「良いか? 俺を見縊るなよ。 この覆面の野郎ぐらい、一人で訳も無い。 裏切られた時は、死ぬまで暴れてやるからな」
と、言い残す。
ラヴィンに連れられて下に消えるレプレイシャスを見送ったフードの人物は、足音が遠ざかったのに合わせて。
「怖い怖い、フフ。 さて・・・」
と、今度はソルフォナースに顔を向ける。
「どうも、ご面会が出来て、嬉しゅう御座います」
まるで白粉を塗った様な顔に赤い唇をしたソルフォナースと云う紳士は、大形な挨拶をして見せた。
鎮座する人物は、声を平静に戻し。
「はて? ワシは、御主の事を良くは知らぬが?」
「でしょうな。 ですが・・。 近年で、北方のシュテルハインダーで、別の悪党を雇い。 古の財宝を探させた経緯を知る私めには、ご老体のお噂は・・死んだホローよりかねがね」
鎮座する人物は、静かに成った。
★
別室に移動したレプレイシャスとラヴィン。 地下の倉庫の様な場所で、右手の先には陽の光も差して来ているが。 倉庫は薄暗く、カビ臭さと共にワインの匂いが満ちていた
レプレイシャスの脇には、黒いフードを被った何者かが居て。 その二人と対峙する形でラヴィンが居る。
ラヴィンは、黒い影の樽に腰を預けながら。
「今、宝物を運んだ奴らの足跡を追っている。 見つけたら、余計な真似をせずに待てと言って在るがな。 今回の配属された盗賊などは、どうにも手柄を焦り過ぎる。 面倒な事を起こさねば良いが・・・。 さて、アンタと会うのは、これで二度目だが。 まさか、地位を求めるとはな」
腕組みし、辺りを窺うレプレイシャスは、下らないと思い。
「今までは、雇い主が俺の求める要素を持ってなかったか、阻止されただけだ」
「ほう」
「前には、スカイスクレイバーの奴らに事件を暴かれた事で夢が頓挫したし。 その前は、“P”とか名乗る謎の男に阻止された」
ラヴィンは、眼を驚かせ。
「おいおい、それってあの闇の解決人の“P”(パーフェクト)か? 良く、生き残れたな」
「幸いさ。 その男は、当時の加担してた悪事を暴いた際、雑魚を役人に任せて、元締めの貴族の方に行ったんだ。 偶々別件で動いていた俺達は、ソイツに当たらず逃げれた」
「そうか・・、しかし、な。 殺し屋の身分から出世を求めるなど、気狂いとしか思えない。 面が割れて居るのだろう?」
「それは、ソレだ。 良く似た誰かを殺せばイイさ」
「・・・」
黙ったラヴィンは、幾ら何でも此処まで無理な夢を見るバカを初めて見た気がしたと思うのだが。
先に口を開くレプレイシャスは、ラヴィンを上からの目線で睨み付け。
「所で、相手はガキも混じってるとか。 そんなの相手に、お前等が出し抜かれるのかよ。 世界に轟く裏組織が、聞いて呆れるゼ」
「見た目だけならな。 だが、面子は凄まじく強い」
ラヴィンがそう言ったので、レプレイシャスと云う人物は言葉を停め。 彼の眼を確認した上で、
「本当か?」
と。
頷くラヴィンは、墓地で剣を交えたセイルを思い出し。
「先ず、リーダーの若者は、あの剣の腕で世界に轟いた剣神皇エルオレウの孫だそうだ。 俺も直に剣を交えたが、実力も応用もアンタと互角レベルだと思う。 アンタに勝てる要素見出すとするならば、経験・・・だな」
「なっ・・・」
言葉を失ったレプレイシャス。 だが、直に眼を輝かせ。
「面白い。 なら、そのガキを殺しただけでも箔が付く」
「あぁ。 しかも、一緒のガキの女は、精霊遣い。 凄いのは、その異能だ。 一般の精霊遣いには、それぞれ個人に合った属性が在り。 また、呼び出せる精霊の種類にも限りが在るのだとか。 だが、その女のガキは、全ての精霊を呼び出せる要素を持った逸材ならしい」
「へぇ」
「他、あの有名なエンジェル・スターズのリーダーだったクラークも居る。 後、謎の人物で、高位の魔想魔法を扱う格闘の達人もな」
「おいおい、そいつぁ~凄ぇ相手じゃないか」
「あぁ。 情報が確かなら、今、この王都に滞在してる“ホール・グラス”、“グランディス・レイヴン”の二チームに、実力を比べられる面々だそうだ。 結成から数日もしないで、王に謁見まで果たしているしな。 強ち、噂が先行しているだけとは思えない」
説明を受けたレプレイシャスは、個性の光が眩い者達が集まったチームだと理解し。
「そいつは、確かに攻めあぐねるな」
「ん。 相手が相手だ。 我々も、宝物の情報を聞き出しにくい。 だから、ヤツラの居る場所の周囲に手を回し、宝物の在り処を探し出そうと考えている。 お前達が協力してくれるなら、ウチの殺し屋部隊と共に押し込める。 是非、協力願いたい」
「・・・、いいだろう。 そんな強い奴が相手なら、暴れ甲斐が在る。 仲間を抹殺するのにも、ソレぐらい強い方がいい。 アイツ等は、タガの外れた獣同然だからな」
黒いフードを被る何者かは、静かに頷いた。
ラヴィンは、これでセイル達に真っ向からでも挑めると目処を付けた。 このレプレイシャスの率いる悪辣なチームは、世界でも指折りの凶悪な冒険者達。 過去には、騎士の率いる一個大隊を殺した事も在るのだ。
セイル達に忍び寄る魔の手もまた、その力を増し始めていた。
どうも、騎龍です^^
遅ればせながら、更新です^^。
ご愛読、ありがとう御座います^人^