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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
103/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~3

                  セイルとユリアの大冒険 3


                 第一章・旅立ちの三部作・最終編



                     ≪昔と今≫




セイル達一向は、この国立農場定住民区域の北側に在る問題の屋敷へと向かった。 この国立の農場でも一番新しく開拓された区域の近くに向いて、その大きな寄宿舎は在った。


「ふぁ~・・、デカ」


デ~ンと姿を見せた寄宿舎に、ユリアはポカンと一言。


そろそろ昼間となろう頃。


楽観視するセイルとアンソニーは、遠めに街の人も見ている中で。


「アンソニー様、居ますね」


「うん。 凄い数だ。 100人・・200・・いや、もっと居る」


霊気を感じる事が出来ないクラークは、セイルに。


「セイル殿、幽霊がそんなに居るのか?」


「はい。 もう、なんか~足の踏み場も無いぐらい」


ユリアは、肩に居るサハギニーと見合って。


「幽霊って、集合するのね」


「ユリア~、それでも居過ぎだろー」


しかし、4人が話していると・・。 “バン”と、突然に勢い良く扉が開く。 大きい引き戸の玄関ドアが、独りでに開いたのだ。


驚くユリアやクラーク等とは別に、セイルが。


「凄い効き目だぁ、アンソニー様の事を感じたのかな?」


アンソニーも。


「の、様だね。 閉じ篭る敵意の様な気配が、急に薄らいだ。 中に入ろうか?」


「ですね」


アンソニーとセイルが、二人並んで開かれた扉に一歩足を踏み入れると・・・。


入った処で二人が止まった。 ユリアとクラークは、鈍い陽の光が差し込む入り口から中を覗き込むと・・・。


「うわっ、ユ~レイが敬礼してるぅぅぅ~」


と、驚くユリアと。


「ふむぅ」


と、唸ったクラーク。


先に入った二人の視界には、土下座して床を埋め尽くす幽霊の姿が無数に見えていて。 その一番前にて、敬礼の姿勢を取る兵士らしき者の亡霊が居た。 皆、死んだ直後のままなのだろう。 平伏の体勢から顔を上げている者は、大怪我をした顔だったり、また衣服に血をベッタリ付けていたり。


敬礼を見せる半透明の亡霊と思われる兵士姿の者は、片目を血みどろにしながら。


「おっおお・恐れながらっ!! さるっ! 高貴なっ! 方とっ!! わっ・我々はぁっ・・この・・こっ・この場に住まう者達でぇぇぇぇぇありまーーーすっ!!!」


上ずり、緊張をしているのだろうか。 そのアンソニーに対して言う幽霊の言い方は、何とも滑稽な喜劇を見ている様な雰囲気が在った。


幽霊に対して、恐怖心を微塵も湧かないセイルは、横のアンソニーへ。


「アンソニー様、お願いしま~す」


と。


「うむ、解った」


と、了承したアンソニー。


「ああああ・・・」


脅え出した幽霊達は、一歩踏み出したアンソニーが恐れ多いと震え上がったのである。


ユリア曰く、“ヘンタイ王子”と云われるアンソニーだったが。 その行動は、王子らしい物だった。 平伏していた幽霊達を見回すと。


「皆の者、私は、訳在って不死の王と成った者だ。 だが、心は人として生きている。 即ち、我が此処に来た目的は、そなた達の話を聞き。 そして、何か解決の糸口は無いものかと模索しにである。 皆の者を、我が配下に加え様と云う趣では無い」


こうして始まった話し合いである。 話し合いと成ったら、幽霊達の態度は更に仰々しいものに変わり。 奥間の広間に椅子が並べられ、話をする名代として一人の中年の男が現れた。


頭に酷い怪我を負い、片足が千切れそうに成っている中年男性である。 そのボロボロの衣服を纏った生前の姿をする者は、椅子に座ったアンソニーに対し床へ平伏し。


「恐れ多きながら、不死王様。 私は、古い昔に奴隷民の長をしておりました者で、名をセドリックと申します。 不死王様に、申し上げます。 我々は、此処がまだ製糸工場で在った頃に、この場で働かされていた者達であります」


「うむ。 その様だな」


「は。 我々は無慈悲な仕打ちの上、仲間が倒れて死んでいきました。 その我らが遺体すら放置され、此処から大規模な病気が蔓延いたしました。 我々は、奴隷として貴族が密かに連れ込んだ不法の民でした。 我々の存在が公に成りそうな頃、貴族達は発覚を恐れて・・地下の奴隷民の住居を爆破して、崩落で埋めてしまったので御座います。 我々は、死んでも死に切れず、こうして亡霊に成った次第で御座います」


「なるほど・・。 だが、この様な長い時間存在し続け、全くモンスターに変異しなかったのは何故か? 見た所、邪気も少ないが」


「はぁ。 我々の死を哀れんだ過去の高僧が、埋め立てて新たに此処に建物を築く際、鎮魂の慰霊碑を作ってくださいまして・・。 最近新しくこの屋敷を買った貴族は、我々の慰霊碑に毎日僧侶の祈りを捧げて下さいました」


「ふむ・・。 では、今にこの屋敷に立て篭もるのは、理由が在ると?」


「はい。 我々の慰霊碑と、この屋敷を取り壊し。 此処を台地にすると・・。 我々にとって、骨身の埋まる此処は、慰霊碑は、未練の原点で御座います。 この床の木を剥がしっ、埋め立てられた土砂を掘り返せば・・・骨が無数に埋まっております。 せめて・・せめて慰霊碑だけでも残しっ、骨身を埋葬して欲しいと・・・」


「ふむ・・。 そうゆう事ならば、私に良い考えが在るよ」


アンソニーは、度肝を抜く様な提案を出した。


それは・・。


この農場区画に、真昼間だと云うのに恐怖が走った。 それは、数百体のスケルトンが出現した事である。 皆を外に出したアンソニーは、暗黒魔法で死んだ皆をスケルトンにすべく。 魂を戻して、甦らせたのであった。


ユリアとクラークが、この区画に立つ幾つかの寺院に居る僧侶を呼びに行って戻った時。 もう、屋敷の周辺は騒然としていた。


だが、スケルトンとして甦らせたアンソニーは、遣って来た僧侶達に細かく事情を伝え。 その骨を分割して粉にして埋葬し。 其処に、それぞれの慰霊碑を作る様にと指示をだしたのである。


最初は発狂しそうに驚いた僧侶達であったが。 可哀想なのは亡者達であり。 彼らをゴーストや死霊にさせない事は、必要だと悟ってくれた。 何より、幽霊に困っていたのは、定住区の僧侶も同じ。 どうにかせねばと、話し合っていた所でも在ったとか。


さてそれは、異形の者の進行だった。 誘導され始めたスケルトン達は、整列して農民達の街中を歩く。 騒ぎに出て来た兵士達も、セイルがテトロザの名前を出したので、驚きながらもスケルトンの整列の見張りとして平行した。


住民が一旦は家に入ったものの。 危害の無い亡者と云う事に、今度は怖いもの見たさでまた外に出て行進の後を追うと・・。 先ず一つ目の寺院の敷地内に入った夥しいスケルトンは、一糸も乱れず整列して待つ。


セイルとアンソニーが寺院の責任者と面会して、慰霊碑の建てられる場所で敷地の一部を見繕って貰った。


穴を掘るのは、ユリアだ。 土の精霊を呼び出し、やや深い穴を開ける。


アンソニーは、レクイエムが唱えられるので、自身も苦痛を味わう中でも、顔色乱さずに。


「では、散骨してゆく。 皆の者、ご苦労であった。 ゆるりと、この地で眠るが良い」


と、一体一体スケルトンを穴に飛び込ませ、呪術を解いて骨の粉に変えていった。


うろ覚えながら、セイルやクラークも祈りとレクイエムを歌う。


いつの間にか騒然とした街が、厳かな雰囲気へと変わり。 鎮魂の為と、慰霊に遣って来た街の住人は、蝋燭の明かりを捧げて祈ったり。 また、供物代わりの野菜を捧げに来ていた。


3つの寺院に散骨を終える頃は、もう暗い夕方だった。


最後に飛び込むべく残ったセドリックと云う亡者は、アンソニーと街の住人に一礼を示し。


“憎しみで残ったはずでしたが、何時しか生きていたいと錯覚する様に成っていました。 もう少し・・もう少しと思って、ズルズルと・・・。 ロンザリンド様が亡くなられたと聞いて、亡者ながら後がどうなるか不安で・・。 ですが、こうして正しく・・多くの人に弔って貰えるとは思いませなんだ。 人の心を残した不死王様。 このご恩は、死人ながら一生忘れません。 ははは・・、今にして思うと、何があんなに憎かったか・・。 忘れてしまった様な気が致します・・・”


こう言い残しては、穴に飛び込んだセドリック。


骨の彼を見下ろすアンソニーは、王家の者として哀悼の意を示す姿勢を示し。 そして、彼を粉にした。


不思議な空気に驚く人々を残し。 セイル達は、役人の主任を伴ってロンザリンド邸を訪れた。 夜とは少し非礼になるが、事の終結に対する報告をした。


そして、セイルは・・。


「もし、よろしければ。 慰霊碑の建設に一役買って頂けませんか? 死んだ幽霊の方々も、亡くなった御当主に感謝をしておりました。 土地をどうするのかは自由ですが、手に入れた者として、一つの区切りの勤めに成ると思いますよ」


変わらぬ喪服姿のアローズ婦人は、


「そうね。 家督を譲る上でも、それは必要ね」


と、云った。 そして、セイル達に重ね重ねのお礼を述べた。


さて、この日。 最後に向かうのは、テトロザの元である。 迷惑を陳謝し、事態の収拾の報告をした。


テトロザと云う人物は、リオンと似た所が在る。 曲がった事も嫌いだし、物事に真面目だ。 アンソニーの表れに畏敬を示し。 もと国のしでかした不始末の収集に、酷く感謝を返した。


一緒に来た役人の主任は、テトロザと対等に話すアンソニーやセイルなどに肝を潰し。 今回の一件に、冒険者の手伝いながら兵士が協力した事に対して、一言の賛辞を送ったテトロザを見た。 頭を下げられた主任の役人は、もう生きた心地のしないぐらいの恐縮と驚きを受けた。





               ≪衝撃と共に、忍び寄る悪意≫




その日は、仕事をこなしてから一日を置いた日である。


「はぁ~、4000か。 大して身体を動かしてないケドさ~。 結構大事だと思うんだよね~」


晴れ間の見える冬空の下。 斡旋所から出て来たセイル一行の中で、ユリアがボヤく。


クラークは、駆け出しらしい仕事を経験していないユリアへ。


「ユリア殿、この程度の報酬なら、4人で分ければ一人1000. まずまずと云う所ですぞ」


「つぅ~かさぁ、コレなら、上の一般依頼で良かった気がするけどぉ~」


ユリアは、金云々より、依頼のレベルが気に入らないらしい。 何とも、偉そうである。


苦笑するセイルへ、アンソニーは寄り。


「しかし、この数日何も無いな。 どうやら、尾行のあの者の死で、曲者たちの目晦ましには成った様だね」


と、言うのだが。


セイルは、少し顔ゆきを曇らせ。


「一応は・・」


「ふむ・・、、まだ心配かね?」


「と、云うより。 あの宝物を狙った依頼の元が、尾行者の死で断たれた訳では有りません。 寧ろ、どうゆう風に此方へ辿り着くか・・。 それが心配ですね」


「なるほど」


「僕が一番危惧しているのは、ハレンツァさんです。 全ての情報を知っていますし、事件の解決に動いています。 相手方にとって、一番の目障りで情報源・・。 リオンが居るから大丈夫だと思うけど、狙われる危険性が大きいと思います」


「確かに、それは云えるね。 怪しい動きが権力層の中に居るのが不気味だ・・。 恐らく、首謀者もその近くに居るのだろう」


「はい。 恐らくですが、僕たちに何か危害が及ぶとするなら、何か悪い知らせや前触れが在ると思います。 そうならないまま、リオンが来て。 笑ってこの街を去れれば・・いいのですけれど」


犯罪を請け負う組織に狙われたセイルだ。 祖父のエルオレウが直に手を下して、孫のセイルの誘拐を阻止した以上、その手口やしつこさなどの現実を知るのだろう。 ユリアやクラークには見られない不安を、彼は持っていた。


その予想は、的中していたのである。


夕方。


軍事施設のテトロザへ、昼夜を強行してきたリオンの手の者が密かな面会を求めて来た。


そして、夜の事だ。


食事を宿の方で終えたセイル達は、アンソニーを残してマーリの元に来た。 やはり、一日一回は顔を見せて、安心を得て何かを話し合いたいからだ。


さて、セイル達が解決した冒険談を聞いたマーリは、


「ナルホド。 それは、凄い解決の仕方だわねぇ・・。 でも、同じ国の貴族として、逆に感謝だ。 一応、お礼を言わせて欲しい。 ありがとう」


と、セイルに頭を下げた。


ソファーに座るユリアは、肩に光の精霊であるセーラ・シェリールを乗せながら。


「マーリさんがお礼を言うのって、なぁ~んかヘン。 結構古い昔の事だし、別に頭下げなくても良くない?」


だが、マーリは、ユリアへ。


「いやいや、そうゆう風に割り切れないよ。 貴族なんて、周りが遣ってると、自分も大丈夫だと感化される風習が今も強い。 ウチの当時のご先祖様がどんな人物か解らないが・・。 記録には、昔から政府の割り振る事業には関わってた。 もしかしたら、似たような事に首を突っ込んでいたかもしれない」


クラークは、そう言うマーリへ。


「この頃は、もうマーリ殿のお家も侯爵で?」


「そうだね。 ウチは、公爵筋の分家だから。 結構古い。 3・400年前なら、バリバリの侯爵だったと思う」


頷いて了承を示すクラークの後を、またマーリは受けて。


「大体、未だに事なかれ体質や、感化されて貴族の身分を傘に着たお偉方主義を貫く貴族も多い。 アタシも、今まで随分と筋の通らぬそんな風習や醜態を見てきた。 今に、セイルへお礼の一つしたって、誰も悪く言わないよ」


と。


しかし、そんな語らいが中断を余儀なくされるノックが在り。 マーリの応答に合わせて、執事の男性が入って来た。 その足取りは些か速く。 セイルやクラークは、少し緊張をしたのだが・・。


「マーリ様、失礼を・・」


「ん。 どうしたの?」


「は。 只今、王宮騎士団の近衛副騎士団長に在らせられるテトロザ様が、此処へお見えに・・」


「え゛っ?!」


と、驚くマーリとは別に。 セイルは、執事へ。


「あのっ、もしかして僕達に面会ですか?」


執事は、セイルの読みが鋭いとばかりに。


「はい」


クラークと見合ったセイルは、少し俯き。


「何か有ったんだ・・」


と、呟く。


マーリは、急ぎの事だと悟り。


「テトロザ様を此処へ。 それから、この部屋の周りに誰も近づけるな。 兵士や雇いの見張りじゃなく、アタイの居るチームに見晴らせて」


「は、畏まりました」


急激に訪れたテトロザの訪問は、風雲急を告げるものと成る。


足早に入室をして来たテトロザは、アンソニーの姿が見えない事に先ず触れ。 そして、マーリと入れ替わりで主の席に座ると。


「セイル様、心して聞いて下さいませ。 ハレンツァ様が、一昨日にお亡くなりに成られました」


その一言を聞いた一瞬、時間が止まった様に皆が固まった。


「嘘・・嘘でしょっ?!!」


と、驚くユリア。


クラークも、テトロザに身を近付け。


「殺害されたのですか?」


と、話に踏み込む。


「はい。 あの此方に運び込んだ宝物と、セイル様他、皆様の居場所を聞き出そうと曲者が、ハレンツァ様の下に押し入った様で御座います」


「嗚呼、何たる事だ・・」


クラークは、あの王国の盾と云われ、自分達と一緒に墓地で曲者と戦い。 一歩も引かなかったハレンツァが死ぬとは、正直に思っても居なかった。


だが、セイルは・・。


「ダーク・チェイサス・・」


と、俯く。


クラークやユリアの視線がセイルに向かれると、テトロザも。


「知っておいででしたか・・」


「はい。 昔、僕が幼い頃に、今回と同様の犯罪組織に狙われた事が在りました。 その中でも、暗殺者に似た技能を有する者と、その組織された“闇の追跡者”(ダーク・チェイサス)は、集団性が強く厄介だと・・。 ハレンツァ様は、剣の腕も確か。 高が曲者の集まりでは、そうは簡単にやられませんよ・・。 最悪だ・・、何であの宝物を欲しがるのかが、全く解らない」


セイルは、苦悩するように犠牲者が出た事に気を落とした。


テトロザは、近くに立つマーリへ顔を巡らせ。


「ミカハリン卿、これからは一層の警戒を持って頂きたい。 もしもと在らば、一度あの宝物を軍部に移動する事も考えねば成りませぬぞ。 リオン様は、どうやら何か犯人に対しての覚えが在るとの事ですが・・。 何せ、相手も貴族とか。 調べは慎重に慎重を重ねる事に成り、今暫くは、気の抜けぬ日々が続くかと思います」


執事と見合ったマーリは、


「私の事だけなら、その心配も突っ撥ねる所だけど。 博物館には、毎日大勢の見物人が来るからね。 確かに、柔軟に対策を考えた方がイイ」


「はい・・」


「だけど、移すにしても。 仰々しく移すのは、イイ事じゃ無いと思う。 どうにか、こっそり移さないと」


「それなら、良い場所が御座いますぞ。 軍部には、私とリオン王子と、腹心の派遣された近衛騎士の分隊しか知らぬ隠し倉庫が在ります。 其処に移せば、宝物は安全かと」


セイルは、テトロザに、リオンが何の覚えが在るのかと聞た。 テトロザも、リオンから来た言伝をそのまま教えた。


“セイル。 この一件は、裏の調べが済めば早く解決出来よう。 だからセイル達には、少しだけ我慢をして欲しい。 ハレンツァ殿の遺言では、一連の曲者達と200年前の事は関連が在る様だ。 だから俺は、もう少し王都に残って、アンソニー殿や兄上殿のした粛清の一連を洗ってみる。 200年前の事件だが、それほど時間も要さず調べか着くだろうから。 それまで、待ってろよ”


言伝を聞いて、考え込むセイル。


マーリとテトロザは、宝物の安全確保に向けた話に入る。


とにかく、ユリアとクラークは、アンソニーへこの事を伝え様と云う。 セイル達は、戻ってアンソニーへこの事を伝える事にした。


妙に温かい風が吹き、寒い空気をかき混ぜる夜の外。


靄の中でセイルは、薄曇の夜空に浮かんだ月を見上げては、呟く様に。


「態と、追っ手を誘導した方が良かったのかな・・。 ハレンツァ様、せっかくアンソニー様に謝れたのに・・・」


そんなセイルを見るユリアは、心根の優し過ぎるセイルを理解していた。


「セイル、悲しいけどサ。 後の祭りは、意味無い」


「うん・・」


闇の中で、セーラは消え。 代わりに、闇玉が現れていて・・。


「クソっ!! 何だってあのジイイサンが殺されるンだよっ!! ユリア、オイラは、犯人達を許さないぞっ!! ギッタンギッタンにしてやりたいゼっ」


「うん。 闇ちゃん」


クラークは、一時なりとも行動を共に出来た事を誇りに思う。 だが、後悔が消えない。


しかし。


セイルは、宿の正面入り口が在る大通りの前まで来た時に。


(えっ?!)


と、通りの左右を急いで見た。 霧とも靄とも云える中で、往来を行く馬車の馬蹄の音が響き。 馬車にぶら下がったカンテラの明かりだけが、遠くに、近くにと見えている。


「セっ・セイル?」


「どうされましたかな?」


クラークとユリアが、突然に慌てる様な素振りのセイルに驚くのだが。


セイルは、街灯の並ぶ夜の靄が、霧に代わり始めた通りを何度も確かめる様に見る。


(何だろうっ。 凄く怖い気配がしたっ)


通りに出るか出無いかの所で、背筋を舐められる様な悪意を感じたのである。


「あああ・・、ユリアちゃんっ」


声を上ずらせるセイルは、背後を行き交う馬車にも眼をくれず。 ユリアに掴み掛かる様に振り向くと。


「ねっ、この左右の道の隅に、人のオーラ感じないっ?! 霧の中でも、人の生命波動は違って見えるでしょ?! ねっ?」


「えっ?! うわっ、いきなり言われてもっ」


慌てるユリアは、闇玉に。


「ヤミちゃんっ、何か感じる?」


すると、闇玉は右に細い線の様な指を向け。


「今、向こうに人が居た。 スゲー近くに。 でも、走ってる。 波動が感じられないぐらいに、早く遠ざかってるゼ」


セイルは、その話に。


「嗚呼っ、馬車か何かだっ」


と、力を落とした。


その意味は・・。


早急にアンソニーと会ったセイルは、いそいそと宿の方に戻るシンシアとは入れ替わりだった。 すっかり痩せて来たシンシアの麗しさには、ユリアやクラークも疲れた上に呆れ気味である。


間借りしている屋敷に入れば、上着のボタンを適当に留めるだけのセクシーなアンソニーが居て。 居間のソファーに彼を見たセイルは、ユリアやクラークとは様子が違う。


「アンソニー様。 今夜は、もうシンシアさんは来ないですよねっ?」


と、鋭く聞く。


「ん? ・・あぁ。 彼女が・・何か?」


事態を知らないアンソニーだが、ユリアは少し苛立ち。


「アンソニー様ってホントバカっ。 遊びで居る訳じゃ無いのに・・」


と、ソファーへ座る。


「? 怒っているのかい?」


どうして怒っているのかが解らないアンソニーだが・・。


セイルは、クラークに目配せををすると。 クラークは、心得ているとばかりにカーテンを閉め。 自身一人で外に顔を出した。


この間にセイルは、アンソニーに小声で。


「アンソニー様、中央から知らせが来ました。 残念ですが、ハレンツァ様が殺されたそうです」


突然の訃報を受け、カッと見開いた眼をそのままに。 背凭れに伸ばしていた手を引いたアンソニーは、みるみる変わった真剣な顔で。


「“殺された”だと? 一連の曲者か?」


「恐らくは。 どうやら、宝の行方を知りたがった者の襲撃らしいと・・。 今、マーリさんとテトロザさんが、宝の移動を検討している所です」


「なんだとおぉ・・、おのれぇ」


アンソニーは食い縛り、眼に魔力のオーラが燃え上がる。 本気で憤怒したのだろう。


セイルは、更に。


「アンソニー様。 今さっき、宿の手前で明らかに見張っていた者が居ました」


アンソニーは、セイルにグッと迫り。


「してっ、相手は?!」


「霧の中で、馬か馬車を使われました。 恐らく、僕たちの捜索をしている手の者が、間近に動き回っていると思います。 何れ、此処は近い内に引き払わないと、いざとなったら迷惑が・・」


アンソニーは、セイルへ。


「暫し様子を見るのはダメか? 我々なら、返り討ちも出来る。 誘い込むには、見つかったままの方がいいのではないか?」


セイルは、ハレンツァの死で塞ぎ込むユリアを一瞥してから。


「それは、危険な賭けに成りますよ」


「どうゆう事だ?」


と、アンソニーが聞き返す所に、クラークが戻り。


「簡単な事です。 相手方は、一度は我々と戦っている。 そして、恐らく一度は、尾行を撃退した事も理解している・・。 そうゆう事です」


アンソニーは、セイルとクラークをみて。


「つまりは、次の襲撃は大掛かりなものに成ると?」


頷くセイルは、とても緊迫した顔付きで。


「それだけでは・・。 人質を捕られたり、下手すれば凶悪な殺し屋や暗殺者を差し向ける可能性も、視野に・・。 ハレンツァ様が殺されたのです。 それなりの実力を持った誰かが、今度は相手ですよ」


「うぬぬ・・、そっ・そうかっ。 それは不味い」


「何より、今回の首謀者は、王侯貴族の内部に手を回せる誰か。 資金や権力にも、困らない者かも知れません。 とにかく、テトロザさんと打ち合わせをして、リオンが来るまでは小康状態を保たないと。 被害を一般に出しては、取り返しが付きません」


アンソニーは、自分に頭を下げたハレンツァを思い出し。


「おのれぇ・・、何者かっ?。 彼の様な者を殺めるなど・・、王家に敵対するのも同じだっ」


と、怒りを吐き出す様に云うのだ。


処が。 セイルは、その一言にハッとして。


「あっ・・、そうか。 リオン・・だから少し・・・」


セイルの反応には、ユリアやクラークも目を向ける。


アンソニーは、セイルへ。


「何の事だ?」


冷静に成ろうとするセイルは、アンソニーの飲んでいた紅茶のカップを持ち。 そしてグッと飲んだ。 そして、大きく深呼吸してから。


「いいですか、テトロザさんの下に着いたリオンの言伝ですと・・」


“セイル。 この一件は、裏の調べが済めば早く解決出来よう。 だからセイル達には、少しだけ我慢をして欲しい。 ハレンツァ殿の遺言では、一連の曲者達と200年前の事は関連が在る様だ。 だから俺は、もう少し王都に残って、アンソニー殿や兄上殿のした粛清の一連を洗ってみる。 200年前の事件だが、それほど時間も要さず調べか着くだろうから・・”


「と、云って来たそうです」


俯き鼻水を啜るユリアは、それはさっきも聞いたので。


「グズ・・。 それは、さっきも聞いた」


クラークも、怪訝な顔で。


「それが・・何か?」


セイルは、皆を見ながらアンソニーに指を向け。


「今の、アンソニー様の言葉です。 “王家を敵に・・”」


アンソニーは、今一に気付けず。


「それが、どうかしたか?」


「はい。 リオンが、何でアンソニー様の昔を調べるのか。 それは、ハレンツァ様が言った最後の言葉だと・・。 恐らく、ハレンツァ様同様に、後々で王家に許されて戻った貴族の誰かが、曲者を差し向けた可能性が在るのでは?」


ユリアは、肩のサハギニーと見合って。


「そうなのかな? でも、戻された貴族って、みんなハレンツァ様みたく心を入れ替えたんじゃないの?」


しかし、クラークは、そうとも思えない。


「だが、あのヘンダーソンとか云う貴族といい、我らを案内したりした太った貴族といい。 王家に忠誠を誓っている様に見えて、ハレンツァ殿のしようとしていた事には、どうも否定的な印象を受けました。 リオン王子とも親密に成るハレンツァ殿に対し、ああも強気で居るヘンダーソンと云う貴族は、どうも胡散臭い気がしますな」


アンソニーも。


「いや、セイル君の推理は、強ちズレてもいない気がする。 グランベルナード王も云っていたがな。 貴族の一部には我々の頃の様な・・と云うべきか。 王家より、貴族や王国政府に強い権力を持たせる事を再復興する。 そんな未来を理想とした、主権移譲を画策する一派が居るとか。 戻された一族だけでは無く。 我が兄によって追放された一族の末裔が、密かに現存の貴族に入り込んでいる可能性も捨てきれない」


「えっ、そうなの?」


何だか良く解らないややこしい話で、困惑したユリア。


セイルは、アンソニーへ。


「あの。 追放された貴族の方々は、どの方も高位な爵位の方だったのですか?」


「ん? あ・・あぁ。 全て、侯爵か・・伯爵階級だ。 権力的には、当時の高位の政務官や大臣クラスの者ばかり。 内の一人は、王の交代後。 数年は王に付き従って、王の命令に口出しの出来る“後見大臣”も居た」


クラークは、未だに自分の国ではその大臣席が在り。 閑職と云うか名誉職ながら、それ相応の権力誇示をしているだけに。


「それは、確かに怪しい・・。 して、その一族は?」


「ああ、“チェロキナージュ家”と云う一家で、古い王家筋の侯爵だった」


セイルは、直に。


「明日、テトロザさんに会って、その一族を含めて内情を聞きましょう」


「あぁ・・、そうだね」


冷静を取り戻したアンソニーだが、顔を抑え。


「しかし何てことだっ、彼を死なせるとは・・。 せっかく、マリーの憎しみを、彼を許す事で捨てようとしたのに・・。 まだっ・・、犠牲が必要なのかっ?!」


アンソニーの怒りは、彼にとって良い事では無い。 負の感情が強過ぎれば、モンスター化が進行してしまうかも知れないのだ。


「アンソニー様、今日は休みましょう」


と、云ったセイルは、ユリアにも。


「ユリアちゃん。 もう、今日は寝よ。 明日は、彼方此方に動いたりするかも知れないから」


「うん」


セイルに付き添われて立つユリアは、逸早く部屋に・・。 でも、閉めたドアの向こうから、ハレンツァを悼む余りに我慢し切れず、嗚咽の様な声を出し。


「ユリア~、仇討とう。 なぁ~」


と、サハギニーが云っている。


セイルは、短い期間だったが、知り会えたハレンツァを殺めた相手が許せない。 ユリアまで泣かせ、悔しさに握る拳が在った。


一方。


「一杯飲まないと、眠れ無さそうです」


と、クラークがブランデーを取りに行く。


「・・」


云って動いたクラーク。 彼の背中を見つめたアンソニーは、酒の仕舞われた戸棚の前でクラークが止まり。 ジッと一点を見つめ出したのを見て、彼も本心は怒鳴り上げたい衝動があるのだと解った。


(この諍いは、負けに出来ぬ。 何としても、暴かねば・・)


アンソニーは、セイル達と居る今なら、それも出来ると思った。



ハレンツァの死の悲しみは、リオンや王家の者だけは無く。 彼を知る者や、下に居て習った騎士達も同様だった。 だが、まだまだこの事件はうねり、暴挙を孕む。


その結末がどうなるかは、事件に向かう者達に委ねられていた・・。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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