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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
100/222

ウィリアム続編・新たなる魔域 6

ウィリアム編




「右だっ!! 右から来てるぞっ!!!」


カタニスが叫ぶ。


「クソっ!! またかっ?!」


焦るリネットは、倒したカニのモンスターの脈打つ臓器に刺したスピアを引き抜く。


森林峡谷では無く、此処は山の奥。 峡谷を形成するのは、山の中腹を切る河の跡。 その山側の中に分け入った最終日。 流石にモンスターが蔓延ったと云われるだけあり、モンスターが多い。


まだ陽の高さは、昼まではまだまだと云った所。 それなのに、もう5度も戦いを強いられ。 6度目は長い戦いに成った。


真上を見上げなければ上が見えない様な太い木々が、やや間隔を開けた形で育つ森の中。 初日にも遭遇したカニのモンスターが、此処ではワラワラと。


(何でっ、くっ!!!)


内心に焦って舌打ちするのは、リネットである。


此処に居無いウィリアムは、樹香を採るべく木に登っている。 もう、モンスターを排除してから・・など悠長な状態では無い。 採取をウィリアムに任せ、その間にモンスターを排除しなければならない遭遇頻度。


森に入る前。 ウィリアムは、リネットへ。


“モンスターを倒せば倒す程に、大きな音を上げる程にモンスターを引き寄せます。 問題は、守りと攻めのバランスを考える事。 リネットさん、戦うにしても、仲間との距離感を考えて下さい。”


自分に斬り込み役を任せてくれた事を喜んだリネットだが。 いざ戦うと、直にモンスターを迎えに行ってしまう。 距離が開けば、仲間の応援も難しく。 開いた距離の間に新手が来たら、自分を心配しなければ成らない仲間に迷惑を掛ける。 正しく、今はその状態。 逃げたモンスターを深追いして、離れた距離の間に新手が入った。


「下がるダスよっ!!!」


木の陰から姿を現したは、マラザーフであった。 リネットに向くカニのモンスターの背中を、彼の得物である特注のショーテイルで押し潰す様に斬り潰した。


「すまないっ」


日陰でジメジメした場所を好むらしいカニのモンスターは、この白い肌をした巨木の密林を巣にしていた様だった。


その一方で。


中々渋い事をするのは、ラングドン。


「フン、そいっ」


ストーンヘリンジと云う岩を生み出す自然魔法を唱え。 その岩を以ってしてカニの攻撃を防ぎ。 岩を存続させたままにバリケードを作ったり。 スティールは、その内側で侵入するカニを倒し。 アクトルは、その外側でリネット達と迎え撃つ。


ロイムは、魔力の消耗を少なくする為に、カニの甲羅を砕く魔法にのみ専念。


其処へ、上からウィリアムの声が響く。


「皆さんっ、数量が多く取れましたっ!!。 このまま、南西方面の林の方に移動しましょう。 左へっ」


と。


ウィリアムの指示を聞くラングドンは、


「よしっ、ワシが魔法で壁を突き出す。 一気に逃げるぞっ」


と、皆へ告げて。


「大地の力よ、我を護る石壁をっ」


戻ったリネットとマラザーフの後ろ辺りで、地面がガリガリガリっと隆起し、人の倍を超える高さの石壁が現れた。 二人を追って来たカニの一匹は、その岩の隆起に巻き込まれて飛ばされる。


逃げ出すロイムやクローリア。 二人を護る様に、スティールとカタニスが走る。


「ラングドンさんっ、逃げるダスよっ!!」


「おうっ」


一気に西側の低い木々が疎らに生える場所に逃げ込む。 林になる場所にて、2・3匹のカニを撃退すれば、カニもそれ以上は追って来なかった。


「よっと」


北側から合流して来たウィリアムは、やや膨らんだ小袋を二つ肩に掛けていて。


「大丈夫でしたか?」


と、皆に。


スティールは、


「おう。 土産とか有る?」


と、軽い事を云う。


「無理です」


と、返したウィリアムへ、ラングドンは森を見返しながら。


「しかし、しつこいカニだったわい。 だが・・此処までは、何で来ないのかの?」


下枝に手が届く棘の在る木を、ウィリアムは指差し。


「この木、柑橘系の匂いを出すらしいんですが。 どうもこれが嫌いみたいですね。 今、俺が降りた所に向かって来たカニが、木に近付いた途端に急に嫌がりました」


爽やかなレモンの様な匂いがするので、アクトルは木を見ながら。


「ほぉ~。 こんなイイ匂いなのに、勿体無い」


その意見にロイムは、やや非難がましい目を向け。


「助かりましたよぉ~。 はぁ、少し休みたい」


仲間同士で辺りを見回したり、怪我の有無などを確認するそんな中。 ウィリアムは、柑橘系の匂いがする木を見て。


「でも、この木の実も、樹液も、実は猛毒ですからねぇ~。 モンスターも、毒は嫌いなんでしょうね」


と、言う。


匂いの良さに釣られ、思いっきり木を触ってみたスティールは、その話に驚き急に離れて。


「早ぉ言えっ!! うわぁっ、毒付いたかなっ?!」


と、両手を見たり、服で擦ったり。


ウィリアムは、一人で慌てるスティールを見ながら。


「休むのは、もう一踏ん張りしてからだね」


と、云うと。


「カタニスさん、楓などの紅葉樹の樹香を探しましょう。 そこは、恐らく二人でも探せます」


「解った。 此処からなら、北西だ」


「解りました」


カタニスの樹香や薬草の知識は、やや一般的な部類に偏りが在る。 広葉樹の樹香は一般的なので、種類と量を見込めると判断したのである。


まだ探すと知ったロイムは、ブーたれた顔で。


「はふぅぅぅぅぅぅ」


と、剥れると。


其処へスティールが、ノッシノッシと遣って来て。


「このワガママ子供、俺の手を喰らえ」


と、手を向けて来る。


「うわぁぁ~っ」


逃げるロイムは、まだ元気そうである。


代わって、リネットは考え込む。


(・・解っているのに、どうして一人でっ)


モンスターが一匹二匹なら、今のままでいいのだろう。 以前は男ばかりのチームの中で、一人だけの女で在った。 バカにされたくないからと、敵しか見て来なかった。 いざ、こうして纏まりの在るチームに入ると、自分の欠点が丸見えである。 捨てられた意味が解るから、尚更悔しくで力む自分が居た。


毒を持つ木は、尾根と成る日当たりの良い一部分にのみ群生するのみ。 その先には、落葉広葉樹の森が広がっていた。


枯葉や折れた小枝が足場を埋め尽くす上に、朽ちた倒木なども在って移動が面倒である中で。


「ん・・いい樹香が在った」


と、カタニスが上を見て云うと・・。


行く先の木陰に、ウィリアムは動く影を見つけ。


「カタニスさん、あの高さならお一人でも十分ですね? モンスターが居ます」


「何っ?」


カタニスも、ウィリアムに見る先を見た。


もう戦う気構えに入るスティールは、カタニスの肩を握って。


「上に上れ。 下は、俺達が受け持つ」


「あ・あぁ」


上り易い木なので、カタニスは急いで木に跳び付いた。


森の奥をウロウロしているのは、紫色の傘に黄土色の斑点模様を持つ茸である。 ウネウネと身体をくねらせながら、白い茎の身体で歩いている。


少し脅えているロイムは、ウィリアムに。


「ね・ねぇ・・。 怖い顔とか・・無いよねぇ?」


「無いよ。 ただ、今は見えないみたいだけど、突き刺さる触手を持ってる。 身体から出る強い酸で獲物を溶かし、その解けた液体を吸うみたい。 問題は、茸の傘は粉状の神経毒を持ってる。 近づいて戦うのは、凄く危険だね」


魔法を先手にと思うラングドンは、杖を握り直し。


「ならば、此方から攻撃を・・」


しかし。 ウィリアムは、何故か手を翳してラングドンを制す。 茸の姿をしたモンスターが、此方に気付いて居無い様子なので。


「いえ。 向こうから気付いて、此方に近付いている訳じゃ在りません。 周囲に居るモンスターに居場所を知られたく無いので。 このまま、様子を見ましょう」


ウィリアムの言う通り、茸のモンスターはそのまま左の奥へと消えてしまう。


そこへ、カタニスが上から。


「この先の木にも、樹香が見える。 リーダー、登れるか?」


ウィリアムは、周りの木の密集具合から。


「此処は、戦うに面倒ですね。 皆さん、戦うのは極力控えましょう」


と、言い。 四方八方を注意しながら周囲を警戒する様に言って木に登った。


しかし、それでもモンスターは遣って来る。 少しづつ進んで採取を繰り返すうちに・・。


木々の密集する隙間の様な場所で、スティールやアクトルなどに護られる様に居た魔法遣い達。


その中ロイムは、


「わっ!!」


と、声を上げた。 マラザーフの脇に生える木に、上から何かが降りて来たのを見て驚いたのである。


同じ方向を見ていたスティールは、狭い間合いの中で切羽詰るままに。


「マラザーフっ、左だっ」


「んダっ?」


驚きながらマラザーフが木を見上げると。 急に姿を見せたのは、牙の様な棘を口に持つ蛭のモンスターである。 擬態に近い能力で、木の幹に色を似せて近付いて来たのだった。


犬ぐらいの頭なら丸呑み出来そうな丸い口を開き、マワザーフに飛び掛ったモンスター。


マラザーフは、ショーテイルを盾にする様に宛がうのだが。 かなり重いモンスターの身体を、そのまま預けられる様に飛び付かれた為か。 勢いに押されて、バランスを崩してもんどり打つ。


倒れてハッと前を見ると、目の前には蛭の開かれた口が。


(ヤバイダスっ!!)


思うと同時に出来たのは、左腕を庇う様に動かす事ぐらい。


しかし、その直前。 逸早い反応で走ったスティールが、抜き打ちにその長いミミズの様な身体の頭部を斬る時。 振り返り様で最も近かったリネットが、スピアを反射的に蛭の口に刺し込むのと同時。


マラザーフの顔を目掛けて伸びた蛭の口は、スピアに刺されて伸び切れないままに。 そして伸びる首らしき部分の付け根を、スティールに斬り飛ばされた。


「・・」


首を斬られバタバタともがくだけの太く伸び縮みする胴体が、マラザーフの上からゴロンと落ち葉の地面に転げ。 マラザーフは、間一髪の危機を切り抜けた。


「た・助かった・・ダスぅ~」


刺した首を遠くへ投げ飛ばすリネットは、


「間に合って良かった。 先程の借り、返せたかな?」


と、言葉を置く。


剣を杖にして身体を起こすマラザーフは、


「あぁ、助かったダスよ」


と、安堵に満ちた顔を見せた。 だが、直に顔にヒリヒリと痛みを覚えるのである。


「あっ・痛っ・・。 ヒリヒリするダス」


木の上から降りて来たウィリアムは、マラザーフに歩み寄りながら。


「マラザーフさん、。 顔に付いたモンスターの体液を、直に拭き取って下さい。 そのモンスターは、体液に微弱な酸の毒を含みます」


「えっ?! あぁ、道理デ~」


腕で拭うマラザーフだが、ベロりと薄皮の皮膚が一緒に剥がれた。


ウィリアムは、クローリアを指で呼ぶ。 消毒をしてから、魔法で傷を小さくするのだ。


その後。


「うほっ、コイツがドラゴンかよっ?!」


赤々とした身体の大きなワニの様なモンスターに、スティールは驚いた。 首が蛇の様に成っていて、頭には一本の角が在る。 大型の亀の様な丸みの在る甲羅と、ワニの皮の様なゴツゴツとした皮膚の外観を持ち。 見てからにタフそうなモンスターだった。


「歩行竜種のレッドシェラーですっ。 顔や背中の鱗は非常に硬いので、足の付け根や首の付け根をっ!! 弱点は、腹ですっ!!」


然程に大きいモンスターではないが、それでも体長はクローリアなど軽く超えるし。 体高など、ロイムの胸元に届きそうなくらいである。 木の上から言うウィリアムに、スティールはモンスターの噛み付きをかわしながら。


「こんなのが裏返るのかよっ?!」


と、慌て気味。 頭を狙ったが、非常に硬く剣が弾き返されたのだ。


「このっ」


「ソ~りゃぁぁっ!!」


リネットとマラザーフが両端に回って挟み撃ちに、四肢の付け根を狙いに行くと・・。


“ガツンっ!!!”


火花を上げて、甲高い音が響く。 モンスターは、急に膝を曲げながら足を縮めたのだ。 甲羅の様な背中に武器が当たり、火花を上げたのである。


密集した戦いで、ロイムもラングドンも魔法の使用を躊躇った。


其処へ、アクトルがモンスターの後ろに回ると、戦斧の柄を地面に刺し。


「うおおおおおおおおりゃぁぁぁぁーーーーーっ!!!!」


モンスターの尾っぽを捕まえ、自慢の怪力で引き摺り出したのである。 


驚いたのはモンスターであろう。 ニュっと四肢を出して、踏ん張った。


こうなれば、リネットやマラザーフも遣り易い。 左右からモンスターの四肢の付け根を刺したり、斬り付けたり。


手足をやられ、ジタバタし出したモンスターを見るアクトルは、モンスターの踏ん張りが甘くなったと感じて。


「スティィィィーーールっ、しくじるなよぉぉぉっ!!!!!!」


と、倒木の根元にモンスターの尻尾の付け根を引き乗せ、一気に裏返そうと捻った。


「おぉっ、ゴれはぁっ」


マラザーフは、自分の方にやや傾く様に背を向けたモンスターを見て、絶好の好機だと確信。


「リネットっ!! 首ダスーーーーっ!!!」


と、モンスターの腹に剣を捨てて飛びつく。


「解ったっ」


声掛けられたリネットは、マラザーフに向く長いモンスターの首にスピアを突き込み、その動きを牽制。


そして、クルンと裏返りにモンスターが成る時。 白く柔かい腹目掛けて、スティールは飛び込んだ。 グサリと剣が深深と突き刺さり・・・。


「くたばれぇぇぇぇぇっ!!!!」


スティールは、一気に首の方に剣を動かし斬り裂いた。


絶命の叫びが上がる。 モンスターは、赤っぽく半透明でドロドロした体液を流して、次第に動かなくなる。


「ふぅ・・」


と、一息付くスティールは、剣を引き抜き。


「何てカッテー身体だよっ」


と、剣を見た。 少し刃が曲がっている。


お互いの腕力を認め合うアクトルとマラザーフの脇で、自分に驚くリネット。


(か・身体が勝手に・・動いた)


マラザーフの声に、逼迫した緊張感の中で反射的に反応した自分が居た。 なによりも、必死に一緒に戦おうとしていた自分が居たのは、確かである。


その時。 大型のイタチに似たモンスターが、皆の方に忍び寄っていた。 モンスターの頭上から飛び降りたウィリアムは、首筋を切断して着地。


“ドサ”っと云う音に驚き、その方を見た一同は・・。


「随分と此処もモンスターが多いですね。 樹香の採取・・控えた方が良いのかも知れません」


と、言い。 反りの在るダガーに拭いを掛けるウィリアムが見えた。


だが、スティールは、真面目な顔を向け。


「ウィリアム、量的にどうだ? 思う量までは、頑張ってイイぞ。 こんな場所、あの斡旋所に居るチームには無理だ。 俺達でも、ギリギリに近いんだからな」


アクトルも、スティールの意見に同調する頷きを見せて。


「そうだ。 なるべく、お前とカタニスの解る種類は集めよう。 もう少しなら、奥までも行ける」


やや厳しい顔のウィリアムは、二人の意見も良く解る。 だが、仲間の疲れ具合や、戻る事を考えてしまって言葉が出ない。


其処に、リネットが。


「リーダー。 もう少し採取したらどうだ? アタイなら、まだイける」


「・・。 では、もう少し採取しますか。 では、向こう。 大きな古木が、何本か見えます」


木の上に上がって見えた景色を考え。 ウィリアムは、樹香の在りそうな木の方を指を指してそう言った。


その直後。 結構高価な値のするレッドシェラーの角を、この状態でも採取するのを忘れない彼。 皆、危険の中でも逞しき若者だと思った。


ラングドンが不安で見上げた昼頃の日差しは、曇り始めた雨雲の影響で遮られ始めた。




                      ★




昼下がりまで粘ったウィリアム達。


転がる岩の様に獲物へと近付くナメクジのモンスターや、ゼリー状でドロドロした膜のモンスターなどを何とか切り抜けた。


ウィリアムは、やや遅れたものの、やはり雨が来ると解り。 一旦、寝泊りする洞窟へ戻る事決める。


だが・・。 本当の危険は、此処に待ち構えていたのである。


小雨が降り始めた中で、洞窟までもう目の前と云う丘の上。 スティールは、見慣れぬ影を指差し。


「う・ウィリアム・・、ありゃ~何だ?」


ゴロゴロと雷すら鳴る中で、長い胴体をした生き物が天を見ている。


問われたウィリアムは、その生き物がモンスターだと直に解るのだが・・。 薄暗く成り始めた夕方で、色が判らなかった。 しかし、ピカっと稲妻が走った時、その光を受けてモンスターの体が光った。 その光を見た瞬間、ウィリアムの顔が俄かに変わり始めた。


「えっ?!!! 今の緑がかった・・金色? あ・アレって・・。 いや、そんな・・まさ・・。 本物・・凄いっ! グリーンドラウネスの大元に成る古長寿種・・“オールドヒュペリオン”かもっ!!」


ウィリアムの学者気質が出た様だ。 皆に見られながらも、戦う事を一瞬忘れていた彼。


まだ夕日の明るさも少し残る中で、その長くしなやかに動く身体は金色。 双頭の顔は、蛇と云うよりは竜らしき感じだ。 そしてその目は、眼球と云うより宝石の様な黒い眼。 長くしなう髭は、長首竜種特有のモノであった。


ーウガァァァァーーーーっ!!!-


稲光が光る天に向かう様に、咆哮を上げたモンスター。 ビリビリとした威圧感を感じる皆である。


ウィリアムは、洞窟の在る方にイタチに似たモンスターが見えているので。 現状を分析して、


「待ち伏せされてた・・。 初日に戦ったモンスターの血の臭いで、此処まで徘徊してきたんだ・・・」


と、独り言の様に言う。


その時、カタニスが。


「不味いっ、向こうの空にも影が見えるぞっ」


と、森林峡谷の方に指を向ける。


危険な戦いに成ると感じたクローリアは、焦る様子で。


「一旦、洞窟へ逃げましょう」


と、ウィリアムに言った。 戦いで、皆が疲れ始めて居るのは、怪我を治す彼女が良く心得ていた。


しかし、ウィリアムは、


「いえ、モンスターを全て排除しましょう」


と、返すのだ。


「ほんき・・ですの?」


「はい。 あのドラゴンは、今日戦った種とは違い、非常に知性が高い・・。 前に本で読んだ記述では、咆哮を上げてモンスターを呼び寄せる習性が在ると・・。 しかも、獲物が死ぬまで、絶対に見逃さない狡猾な行動をするとか」


「ですがっ?!」


と、焦り出して言うクローリアだが。


直に口を差し挟むラングドン。


「ワシは、リーダーに賛成じゃ。 この嵐の中なら、咆哮も邪魔されて遠くに届かん。 前にも、モンスターを呼び寄せるヤツで、危うく全滅し掛けた経験が在る。 今、此処で見たモンスターの量なら、ワシ達でも切り抜けられるっ」


と、濡れる顔を拭った。


アクトルは、これでこそ冒険だとばかりに緊張の笑みを見せ。


「スティール、血が踊るなぁ」


「当然っ」


返すスティールも、濡れる前髪を掻き上げた。


覚悟を決めたのか、ウィリアムは、カタニスに樹香の袋を渡し。


「俺とロイムは、カタニスさんとクローリアさんの逃げ道を作ろう。 他の皆さんは、オールドヒュペリオンと飛んで来るモンスターへ。 更なるモンスターの合流が追い付いて来る前に、殲滅を狙って下さいっ!!!!」


と、指示を出した。


「おいさっ!」


「やるかぁ」


と、走るアクトルとスティール。 続くリネットの後ろから、マラザーフとラングドンが追って行く。


大型のイタチの様なモンスターの前へと進むウィリアム。


「あのモンスターは、早く逃げる獲物ほど狙います。 樹香を長く湿気に晒せませんから、ゆっくりと洞窟に急いで下さい。 クローリアさんは、怪我人の為に洞窟内で待機を」


と、此方を窺うイタチの様なモンスター数頭と、4人の先頭に立って対峙する。


結界の張られた洞窟の近くから、ウィリアム達の方に歩み出したモンスターの群れ。


一方では、もうオールドヒュペリオンと戦闘は始まっていた。


大岩すらも巻き付けようかと云う長い胴体に、細く鳥類の様な3本の指を持った四肢を持つ。 稲光で光沢を見せる鱗は、薄っすらと緑がかった金色。 確かに、見るだけでも威圧感を感じるモンスターである。 此方から近付いた事で、オールドヒュペリオンは警戒し始めた。 体の鱗が、脈打つ様に鈍く光り出したのだ。


オールドヒュペリオンに向かった面々は、相手が警戒をし始めた所で止まった。 凡そ、十数歩手前。


アクトルは、森林峡谷の方から“キィキィ”とモンスターらしき声を聞えるので。


「ラングドン、空から来るモンスターを頼めるか? 俺達じゃ・・」


アクトルが其処まで言うと。


「皆まで言うな。 空から来るモンスターは、ワシが全て潰してくれよう。 お主達は、あのドラゴンを見事倒せ」


スティールは、オールドヒュペリオンの左に回り込む様に歩き出しながら。


「ジイサンっ、俺の背後を一緒に。 森林峡谷側に回り込むまで、護る」


了解と頷くラングドンは、スティールの後ろに回った。


アクトルは、マラザーフとリネットを見て。


「どんな攻撃するか解らねぇ。 しっかり見て攻めろよ」


頷く二人を見てから、


「んじゃ、向こうもおっぱじめたし、こっちも行こうかぁっ!!」


と、双頭のドラゴンへと踏み込んだ。


先に、引けない間合いへと踏み込んだアクトルやスティール達が、強烈な威厳を見せ付けるオールドヒュペリオンと戦い始める時。


クローリアとカタニスを護るウィリアムに向かって、二匹のイタチに似たモンスターが襲い掛かった。 “シーカーボルボン”(這い寄る毛)と云う名前で、前足の爪が鋭く。 顎の牙など犬の比では無い。


「うわっ!!」


いきなり走って来て、ウィリアムに飛び掛るシーカーボルボンに、ロイムは焦って魔法を唱えられなかった。


だが。


驚くロイムを始めとした面々が見ている中で。 モンスターの飛び掛りに合わせて、背中を後ろに深く反ったウィリアム。 ウィリアムの上向いた対面上を飛び越すシーカー達が、着地を待たずして絶叫と云っていい悲鳴を上げて地面に落ちたのだ。


身を元に戻すウィリアムの皮のプロテクターには、飛沫した血の様な跡が見て取れる。


其処で3人が目にするのは、喉元から腹に掛けて綺麗に引き裂かれたシーカーボルボンだった。


ウィリアムは、左右の手にカタールダガーを手にしている。 そして、ジリジリとにじり寄るシーカーとの距離を縮める為に、自ら間合いを詰め出し。


「今の内に、洞窟へ」


と、洞窟の方へダガーを持った左手を伸ばした。


「行くぞっ」


「はい」


カタニスとクローリアは、伴って洞窟の方に逃げる。


ロイムは、ウィリアムと対面するシーカーを一掃しようと。


「い・一気にっ」


と、無数の飛礫を生み出す。


ウィリアムは、其処で。


「ロイム、俺の右真っ直ぐの森が揺れてる。 多分、モンスターが飛び出してくるよ。 魔法は、そいつの出会い頭を狙って」


「う・うん」


魔法を放とうとしたロイムは、急に言われてグッと腹に力を込めて踏ん張った。 意思を緩めただけで、魔法が狙ったモンスターに飛び出してしまいそうだった。


(向こう・・向こう・・・。 出て来た・・瞬間)


心を落ち着け、魔法をどうするかのイメージを再想像する。 中々骨の折れる事で、集中が足らなければ魔法が消滅したりする。


だが、ウィリアムもギリギリで言ったのは、背後でリネットとマラザーフの呻きを聞いたからである。 見て現状を確かめたかったが、間近に迫った素早い動きのシーカーを侮れない。


同時の時。


「うわぁっ!!」


「んダァァァっ?!!」


大声を上げて、ヨロっと後退したリネットとマラザーフ。 オールドヒュペリオンの鞭の様に撓う、平たい尻尾の攻撃を食らいそうに成った為。 咄嗟に武器を構えて宛がったのだが、防いだ尻尾が当たる瞬間“ビリィ!”っと、痺れる様な痛みを感じたのだ。


声に驚いたアクトルは、防いだ二人が武器の構えを外して、手を小刻みに振り回す素振りを見て。


「どうしたぁっ?!」


と、双頭の片方を牽制する。


「し・痺れたダスよっ。 コイツっ、尻尾に帯電してるダスっ!!!」


其処で、もう片方の頭に炎を吐かれ、大きく飛び退いたスティールが居て。


「アチチっ!!!! ウハァーーーっ、ハンパねぇ!!」


と、受身を取りながら喚く。


髭を鞭の様に撓わせ、アクトルに集中してくるオールドヒュペリオン。


「ほっ、そりゃっ」


斧を小回りに振り払って髭を弾き、刃を上向きに素早く突き入れるアクトルだが。 右の頭を退かせた直後、口から煙を上げる左の顔が自分に向く。


(マズっ!!)


相手の攻撃の強打が来ない半歩以上に飛び退き。 更に吐き出された炎を避けるべく、大きく右へと飛び退いたアクトル。


「リネットっ、行くダスっ」


「解ってるっ!!」


アクトルですら余裕の無い相手だ。 自分達が頑張らなければと思った二人だったが・・。


二人は、大きく一歩を踏み出した所で、下から鈍い光を感じた。


「ぬわんダスっ?」


「えっ?」


見れば、自分達の武器が淡い白色の光を帯びていた。


マラザーフが後ろを見ると、其処にはクローリアが居る。 杖を構え、目を瞑っていた。


「何が起きた?」


と、マラザーフを見たリネットへ、目を開いたクローリアが。


「“護の淡光”です。 魔法の効果などを緩める神の赦しです」


二人は、これで痺れを軽減出来ると頷き合い。


「助かったダスっ」


「必ず勝つっ」


と、アクトルに攻め込むオールドヒュペリオンへと向かった。


「クローリアっ、早くっ」


洞窟の入り口付近で言うカタニスへ、クローリアは向き。


「もう一人に魔法を施しますっ。 早く、樹香を洞窟へっ!!」


と、今度はスティールに向かう。


さて。 アクトルに向かったオールドヒュペリオン。 そして、その後ろに回ったスティールは、その自由自在に動く尻尾に苦戦していた。


鋭い尻尾の先端を刺し込んできたのを避け、隙を突いて掬いに斬り上げるのだが。 クネクネと不規則な動きで避けられる。 やや胴体寄りの尻尾が繰り出す押し込む様な体当たりを受け、剣で防ぐと・・。 “バシュっ”っと、感電する様な衝撃を受けてしまうのだ。


「うわぁっ!!」


全身に針を刺す様な痛みに驚き、ただ後退するハメに。 其処へ、一気に伸びて来るのは、尻尾の鋭い先端を突き刺す攻撃が、また。 痛みに耐え、身を捩って回避し。 何とか握る剣を片手に、攻撃の来ない間合いまで逃げるだけに成る。


「助太刀ダスっ」


「クローリアに魔法を掛けて貰えっ!!」


と、マラザーフとリネットが合流し。 スティールは、危なきを脱した。


「ふぃ~、痛ぇぇーっ!! 何だよっ」


喚いたスティールは、特に衝撃を受けた痛い右手を振る。


其処へ、クローリアが来て。


「スティールさん、剣を。 あのモンスターは、身体の一部に帯電する体質を持っている様です」


「“帯電”だってぇ? カァ~、ウィリアムはそんな事・・・」


真剣な顔のクローリアは、子供染みた非難だとばかりに。


「戦った事の無いモンスターを、知熟するなど無理ですわ」


「そりゃそうだ・・」


剣を差し出す中で、スティールはラングドンを見ると・・。


「大いなる風よっ! うねりっ、食らう一陣の竜となれぃっ!!!」


帯状の風を呼びては、丸で生きた生物の様に操り。 コウモグラの集まりを次々と打ち落とす。 風の襲撃を食らって、翼膜をズタズタにされてしまっていた。


(流石なジィサンだぜ)


感心して、今度はウィリアムを見ると。 新手として、森から現れるブッカーやワームのモンスターを、ロイムが出会い頭の所を魔法で倒し。 ウィリアムは、シーカーの応援を含めた数頭の群れを、一人で相手にしている。


(・・アイツ、マジだな)


スティールは、動き出すウィリアムが一瞬だけ消える様な感覚に襲われ、暗殺の術を使っていると解る。 無理無く攻撃を避け、背中に乗り掛かる様に首を攻め。 噛み付きを避けながら、ダガーを急所に突き入れ相手の動きを封じる。 目を潰されたり、四肢を斬られてしまったモンスターは、ウィリアムの敵では無くなる。 暗殺闘武を会得するウィリアムの、本領発揮と云った所だ。


「スティールさん、施しました。 皆さん共々、ご無事で」


云われたスティールは、アクトルなどを見て。


「おう。 終わったら、熱いキスでもしてくれよ」


と、軽口を叩けば。


洞窟に行くクローリアは、


「貴方だけは、犠牲でも構いませんよ」


と、言葉を置いて行く。


(カァーっ! ウィリアム以外は、男要らないって事ですかい)


取り付く島も無いような気分を捨て、スティールは、オールドヒュペリオンへと向かった。


三方で始まった戦いだが。 何処も直に決着が着くとは行かない。


ウィリアムの所には、陸路で森を移動し忍び寄って来たモンスターが次々と。 シーカーボルボンは、群れる上に嗅覚がいい。 倒すと、ロイムの居るほうに新手が来たりと、頭数が減ったり戻ったりの繰り返しだった。


一方。 ラングドンの所には、空中を飛んで来るモンスターが押し寄せていた。 早く曇った御蔭で、丁度餌を探しに出て来たモンスターの群れが呼び込まれている。 面倒なのは、鮫の様な頭を持つ鷹のモンスターで。 高々と獲物を狙って旋回する。 その様子を見て、羽根を持つ猿のモンスターや、コウモグラが集まる。 魔法で一気に倒せる半面、強い魔法を遣う為に音が出る。 峡谷は、その地形から音が響き渡り易いので、自分から居場所を知らせている様なものでもあった。


稲光が繰り返され、雨が降り続く。


ラングドンは、水の細い矢を生み出す魔法を唱え、空に飛び上がった鮫鷹を殲滅させた。


「ふぅ・ふぅ~・・」


中級の魔法を連発するなど、最近では無い事だった。 疲労感に、気が抜けそうに成るのを堪えるラングドン。


しかし、一匹のコウモグラが、ラングドンの右脇に回り込んでいた。 峡谷の崖を手前に、少しだけ離れて魔法を唱えていたラングドンにとって、注意の反れているこの状況は危険だった。


洞窟内部に樹香を置いたカタニスは、クローリアを残して雨の降る外に出て。 ラングドンへ応援に行こうとしたので、そのモンスターが見えて居た。


「ラングドンさんっ、右っ!!!」


その不意を突く声に驚いたのは、寧ろラングドン本人で。


「あっ、あぁっ?」


と、右を向けば。 バッサバッサと羽ばたくコウモグラが、その鋭い鉤爪を振上げて居た。


「なぬっ」


焦るラングドンだが、彼の経験としての判断は、確かなものが在った。 若い頃は、運動も嫌いでは無く。 魔法遣いと云えど、早歩きながらに一日を歩くのも出来る方。 この緊急時に、経験が身体を動かせた・・。


「ぬぐっ」


杖の太い頭を握り、迫るコウモグラ目掛けて刺し出した。 間に合うと見切るには至らないが、咄嗟の防御行動としては、上出来だった。


コウモグラの鉤爪は、ラングドンの顔の額を薄く斬った。 しかしそれは、極めて薄皮一枚だけ。 代わって、コウモグラの片目辺りに、突き出された杖の先端が刺さる様に押し込まれている。


「あっ」


驚くカタニスの視界の中。 よろめいて後退するラングドンと、濡れる草むらに落ちて暴れるコウモグラが・・。 ラングドンの額から出た血が少し飛び散ったのを、ハッキリと見たカタニス。 矢を矢筒から抜きながら、急いで走り始める。


しかし、幾度も窮地を潜り抜けた場数の豊富なラングドン。 血が額から顔へ流れるも動じず。 その場に屈むと、指二本を草むらの地面に刺し。


「大地の力よ、穿うがてっ!!!」


と、目を凝らす。


刹那・・。


暴れるコウモグラの居る地面が、ブルブルっと揺れたかと思うと・・。 長剣ほどの尖った岩が、コウモグラを突き刺しながら一気に伸び上がったではないか。


「・・・」


コウモグラを見ながら立ち上がるラングドンへ、カタニスが駆け寄り。


「大丈夫かっ? さ、傷を治しに」


と、云うのだが。


ラングドンは、峡谷の方に向き直り。


「まだ、モンスターは来る。 ワシだけ、この場から逃げられん」


「何を云ってるっ、アン・・」


ラングドンの対面側に回ったカタニスは、ニヤリと笑うラングドンを見て、思わず言葉を止めてしまった。


「な・・何が・・、笑ってるぞ?」


すると。 暗雲垂れ込めた空の遠くに、飛行する影を見つけるラングドンは、あの二日前に戦った翼竜種のモンスターだと確信して。


「御主は、楽しいと思わないか? 冒険者として、これほどに全力を出し尽くす場所も滅多に無いわい。 痛みより・・モンスターを前に、心躍る自分が居る。 さぁ、あの獲物は、ワシの相手だっ!」


追い込まれた中で興奮すると、ラングドンと云う人物は、戦闘愛好的な思考に偏る傾向が在った。 その故に、駆け出しの冒険者などを中心に、普通の他人には嫌われる。 だから、中年に差し掛かる頃は、一人狼であった。 生死を掛ける戦いでは、寧ろ嬉しいと思える彼故に。


だがそれは、ウィリアムも同じなのかも知れない。


「・・」


ブッカーの背後に忍び寄り、ロイムに向かおうとするモンスターの急所を斬る。 戦う術を手に入れ、この差し迫った場所で全力を尽くす事に、悦びを見出しているのかもしれなかった。 モンスターの血を顔に飛沫かせ、その毒で皮膚がヒリヒリと痛むだろうに。 顔や体の所々に、薄い掠り傷を作る彼は、微塵の苦痛すら浮かべないままに、次のモンスターへとスタスタと向かう。


近くのロイムは、と云うと。 また、森からカニのモンスターが4・5匹出て来たのを見つけ。


「もぉぉぉぉっ、うっざいんだよぉぉぉっ!!!」


と、無数の剣を生み出し、自分の手前に進み出たモンスターの集まりに落とした。 魔法を身体に受け、その衝撃波を食らって8匹近いモンスターが蹴散らされる。


ウィリアムは、大きく肩で息をするロイムに近付き。


「ロイム、森が動かない。 気配をオーラで感じてて」


「はぁ・はぁ・・うっ・ウィリアムはぁ~?」


オールドヒュペリオンを見たウィリアムは、歩き出しながら。


「決めて来る。 もう、終わりにしないと・・。 俺も、疲れた」


「・・絶対キメてよぉぉぉ~。 魔法、もう撃てないぃぃ」


この期に及んでロイムは、リーダーとして信頼しているウィリアムに駄々を・・。


ウィリアムは、親指を立てて了解した。


呼び寄せられたモンスターが、もう現れなくなった。


それは、ラングドンが受け持つ空中も同じ。 やや翼の破れては居るが、一昨日よりガタいの大きいテイルバウストを、再度相手にする事に成ったラングドン。 高等魔法を遣わず、ストーンヘリンジを幾つも生み出しては、身の周りを回らせる。


ーシギャアアアアアッ!!!!ー


咆哮を上げ。 ラングドンに襲い掛かるテイルバウスト。


しかし、怪我をしたハズのラングドンは、冷静そのもの。 その長い尻尾の一撃を、二つに並べたヘリンジで受け止め。 隙を見ては、別のヘリンジの一つをテイルバウストの腹に打ち込む。 一撃を喰らって咆哮を上げるテイルバウストが、得意である強酸のミストを吐こうとすると・・。


「待ったぁぁっ」


と、杖を押して、ヘリンジを開かれた口に突っ込ませる。 カウンターの様な間合いで一撃を喰らい、大きく仰け反ったテイルバウスト。 その隙を見逃さないラングドンは、守りを捨ててヘリンジを全てモンスターの近くに浮かせると・・。


「フンっ、そりゃぁぁっ!!」


横一列に並べたヘリンジで、テイルバウストに激突させる。 ぶつけた魔法を更に存続させるのは、生中の魔法遣いでは出来ない。


最後は、


「止めじゃぁぁーーーーーっ!!!!!!」


強烈なダメージを受け、グッと下に落ちる様に下がったテイルバウスト。 その頭上に二列に整列させたヘリンジを、一気に下へと落としたラングドンだ。 カタニスが見守る中で、“ズバァァ”っと轟音を上げて、何かが裂ける音がした。


ーギャワァァァァァァーーーーーーっ!!!!!!!-


テイルバウストの大絶叫が、峡谷を揺るがそうかと思える程に響いた。 左右の翼が、ヘリンジに因ってこそげ取られる様に千切られ、空を飛ぶ能力を奪われてしまったのである。


「おぉ・・す・凄い」


見ていたカタニスは、そのまま谷底へと消えるテイルバウストを見て呟いた。


だが・・。


「や・やったか・・」


その言葉のままに、ラングドンはバッタリと倒れる。


「なっ、おっ・おいっ!!!!」


大慌てのカタニスは、ラングドンを洞窟へと連れて行く事しか頭に無くなった。


さて。


一番の苦戦は、オールドヒュペリオンを相手にしていた4人だろう。 双頭以外の胴体は、常に帯電し、生半可な攻撃は硬い鱗が弾く。 片方の頭は、前に突き出た槍の様な角を有し、炎のブレスを吐く。 別の片側の頭に生えた角は、後頭部に向かって二本生え。 その口からは、放電をする。 四肢は細く短いが、掴み掛かる力は非常に強い。


こんなモンスターを相手にするなど、アクトルとスティールが居なければ自殺行為かもしれない。


現に。


アクトルと一緒に連携攻撃をしていたリネットだが。 ブレスで左右に分断された上に、片側の頭と1対1を強いられる。 そして、鋭い一本角を激しく突き付けられ、脇腹の鎧を掠り破られてしまい。 角が脇腹をも直接舐めて、斬られる様な傷を負った。


「うぐっ!!」


ヨロめくリネット。


「リネットっ!!!」


慌てたアクトルが叫び。 同じく慌てた男達が、オールドヒュペリオンの注意を、リネットから逸らそうとするのだが・・。


草むらにスピアを捨てて転がったリネットは、更に炎で追い討ちされて、片足を焼かれるハメに。


「ギゃぁっ!!!!」


滾る様なリネットの絶叫が上がった。 金属の具足を穿いているが、熱を防ぐなど完全には無理だ。 繋ぎ目に炎が入り、火傷の痛みが烙印を押される様に染み付く。 濡れる草むらに、リネットは更に更に転がって苦しんだ。


さて。 残る男性3人だが。 挟み撃ちにはしている格好なれど、やはり冒険者として腕が鈍っていたのだろうか。 マラザーフも、尻尾の打ち付けを食らい転んだ所で、特注のショーテイルを尻尾で絡め取られてしまう。


「このっ」


と、振り解こうとするマラザーフの全身から、急に靄が立ち上り。 微かにマラザーフも震え出す。


それを見たスティールは、微弱ながらに感電し出していると解り。


「剣を離せっ!!!」


と、マラザーフに叫びながら、捨て身に近い間合いまで斬り込む。


アクトルの武器は、運良く森と大地の精霊の加護を得ていた。 だから、雷の力を相殺出来る。 しかし、他の面々は、武器をオールドヒュペリオンの身体や尻尾に当てるだけで、感電から来る痺れの痛みを受ける。 クローリアの魔法でも完全に相殺出来ない為に、徐々に攻撃の手数が減ってしまっていた。 そしてその隙を突かれて、二人がまともな戦力に成らなくなってしまったのである。


しかし。


(くそぉぉ・・、こ・此処まで来て・・負けるのかぁぁぁぁっ?!!!!!)


痛みと悔しさから、雨で濡れた顔に涙を流すリネット。 スピアと、ショートソードを杖代わりにし、自分を庇う様にして戦うアクトルを見た・・。


が。


(あ・・・)


オールドヒュペリオンの向こう側に、ウィリアムが見えた。 しかも、彼は自分を見て、片手で上に投げる仕草をしている。


(スピア?)


リネットは、杖代わりに近いスピアを揺すってみた。


“コクン”と、ウィリアムは頷く。


リネットは、ウィリアムに何か考えが在るのだと解り、頷き返すと・・。


「それぇぇぇっ!!!!」


自分が転ぶのも厭わず、左腕の有りったけの力でスピアを宙へ投げた。


後ろに引きずって下げたマラザーフの前に出たウィリアムは、投げられたスピアに合わせて、一気に走り出して飛び上がった。


転んだリネット。 そして、斧の側面で、ブレスを吐こうとしていたオールドヒュペリオンの片方の顔を、必死でブッ叩いたアクトル。 二人は、空中でスピアを受けたウィリアムが、双頭の左へ目掛けて落下して来るのを見た。

 

それは、轟く稲妻の音に負けない音で。


“ザシュっ!!!!”


凄い音を立てて、双頭の左をスピアで貫き。 そのまま地面に刺し止めてしまったウィリアム。


「貰ったぁぁぁぁっ!!!!!!!」


痛みに大きくつっぷした右側の頭は、アクトルの攻撃を見る余裕など無かったであろう。 低い位置に引き戻された右の頭部へ、一気に踏み込んだアクトルの戦斧が、渾身の一撃とばかりに叩き込まれ。 破竹の如く、右の頭を真っ二つに斬り割ったのである。


(か・勝った・・・)


濡れた野原に砕ける寸前の体勢で見ていて、頭を草むらに寝かせたリネットは、そう確信した。


一方。 顔を横に野原へ寝かせ、“アフアフ”としか云わないマラザーフは、剣を弱弱しく2度叩いて拍手をして見せる。


雨に濡れたが、何とか死人を出さずに済んだ。


ウィリアムは、皆が歩けるまでは洞窟で休む事に決める。 戦い抜いた誰もが、動ける状態では無かったからである。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、ありがとう御座います^人^

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