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心が疲れている時ほどやった方が良いこと

作者: 桂木 狛

 家に帰ったらやることは決まってる。靴を脱いだ勢いそのままに服を脱いで脱衣所に直行。脱衣所は服を脱ぐところであって脱いだ服を投げ込む場所じゃない気もするけど、まあどうでもいい。

 そのままシャワーを浴びて、髪をわしゃわしゃ洗う。

 ついでにガチガチに硬くなってる肩をほぐすストレッチをして、顔も洗う。

 何もかも、身体中に付いたものを落とすように洗っていく。

 ちょっと浴槽に浸かりたい気もするけれど、もう21時を回ってるから今日はなし。頭のてっぺんからシャワーを浴びて、それなりに温まったところで浴室を出る。

 洗ったら乾かす。身体も髪も乾かす。あ、顔だけはしっかり保湿しないと。

 そのままTシャツとふにゃふにゃのパンツをはいてキッチンへ。ブラは寝る前まで付けない。この家に帰ってから寝るまでの時間くらい、少しでも開放感を味わいたいから。

 キッチンにやることは一つだけ。夕飯を作るのだ。

 冷蔵庫から適当な野菜を引っ張りだしてまな板の上に並べる。タマネギ、ほうれん草、ナス、キュウリ。

 仕事して、夜遅くに帰ってきて、わざわざ料理を作る。自分のまわりにはあんまり料理をする人間がいない。こんな風にほぼ毎日夕飯を作ってるのなんて私くらいだ。

 もう趣味みたいなものなんだろうな。作らなかったら作らなかったで落ち着かないし。

 まな板の上に置いた野菜たちをざくざく切っていく。とりあえず食べやすい大きさに切れていればいい。多少大きさがバラバラだろうと、それはそれでいい。

 フライパンを加熱してオリーブオイルをかける。ナスを炒めるのにはやっぱりオリーブオイルじゃないと。サラダ油なんてひいたらナスが油を吸い込みまくってとんでもない高カロリー固形物が出来上がってしまう。

 ぱらぱらとフライパンの上にタマネギとナスを乗せて弱火で温める。火はできる限り弱く。そうするだけで失敗の可能性がぐっと下がるし、野菜が美味しくなる。

 ナスを火にかけてる間に冷蔵庫からレタスを取り出す。

 レタスは数ある野菜の中でもかなり好きな方だ。何より主張しないのが良い。ボウル一杯に盛っても何てことなく食べられる野菜んてレタスくらいかも。

 レタスは手で千切って食べられる大きさにする。千切ったら水にさらしてサラダボウルの中へ。結構水滴が付いてるけどそれはあんまり気にしない。料理をしてる間に勝手に蒸発してるさ。

 さてさて。火にかけた野菜たちはじゅーじゅーいってて香ばしい匂いがしてきた。飴色のタマネギに表面がこんがり焼けたナス。こうして見てるとチーズをかけたくなる。こんがり野菜とチーズの組み合わせは最強。粉チーズがあるからナスの一部をチーズ用にしようかな。ナスって和風にしても合うし洋風にしても様になるよね。

 ナスとタマネギが良い具合に焼けたところでほうれん草をささっと加熱する。ほうれん草は本当にちょっとだけの加熱でいい。あんまり焼いちゃうとただの干からびた草になっちゃうから。

 オリーブオイルをまとったほうれん草は表面がテカテカとコーティングされて食欲をすする見た目。もうこれはこれで出来上がりでいいかな。お塩とコショウかければそれだけで食べられそう。

「ふむ、我ながら適当な料理」

 焼いたナス、オリーブオイルとお塩で和えたほうれん草。このペースで行けばあと10分もしないうちにお皿が埋まるはず。そうすれば出来上がりです。

 冷蔵庫のもう一度開けてみる。今のところあるのは豚のコマ切れに鶏もも肉。大抵冷蔵庫の中に置いてあるいつもの顔ぶれ。

「んー、まあ鶏の気分かなー」

 何を作ろうかなんて計画はないから行き当たりばったりが通常運転。とりあえず鶏もも肉を取り出して塩とバジルをぱらぱらとかける。

 うーん、どうしたものかな。鶏肉に限らず肉はとりあえず醤油ベースのたれでこんがり焼いてしまうのが我が家のやり方。

 でもあんまりこれが続くというのはあまりに芸がない。まあ醤油ベースってだけで毎日食べれてしまうんだけど、たまには変わったこともやらないと。いつも同じだとご飯には飽きなくとも料理に飽きてしまう。

 鶏肉は早速フライパンに乗せて加熱することに。あくまで火は弱火で、蓋をしてじっくり蒸し焼きにしていく。

 肉を焼いている間は他の物を作るチャンスタイム。まな板の隅の方に転がってるきゅうりをおもむろに手に取ってじっくり眺める。

 中々艶が良い。ぶつぶつもしっかり付いてる。うん、これならあんまりあれこれ加工しないほうが美味しいかな。

 というわけで、きゅうりをざくざく切っていく。ついでに梅干しも切っていく。梅干しはミンチ状になるまで叩く。そして梅干しペーストをきゅうりに和える。これでほぼ完成。あとは食べる前にポン酢をかけるだけ。

 鶏もも肉に目を向けると中に火が通るまでもうちょっとかかりそうな雰囲気。その間に鶏肉用のたれでも作っておくとしましょう。

 さてと、今日はどんな味付けをするとしましょうか。

 ナスをちょっと洋風にしたから鶏肉も洋風で統一しようかな。まあ我が家ではトマトケチャップをかけても「洋風」になったりするんだけど。

 洋風な味付けと言われても最適な味付けはパッとは浮かばない。私の中では洋風といえばデミグラスソースなんだけど、今日はそういう気分じゃない。

「シンプルな味がいいなあ」

 洋風だけどデミソースのようにごてごてしてないやつ。いっそ塩とコショウだけでとも考えるけれど、それはあくまで最終手段。こうして考えるだけでは浮かばないので、シンク下の調味料置き場を覗いてみる。

 中にあるのは醤油、酒、みりん、三温糖、塩、だしの素、鶏がらスープの素、カレーパウダー、シナモン、ゴマ、レモン汁、鷹の爪。うーん、中々ピンとくるものが見当たらない。

 もうちょっと置くまで手を伸ばしてみる。

「何かないかな~」

 ごとん。がさごそしていると何か重ためな物が倒れた音がした。

 最近はスーパーで目を引いた調味料をどんどん棚に入れるから段々中身の把握が出来なくなってきてる。定期的に中身を覗いては使うようにしてるんだけど、残念なことに何か倒れた音がしても何が倒れたのか分からない始末。

「あ、これ」

 倒れたものを手に取る。小さなジャムみたいな容器には見覚えのある緑色のラベルが貼られていた。ジェノベーゼ用のソース。最近パスタ作ってなかったからすっかり忘れてた。

 いつ買ったやつだろう。賞味期限はまだ大丈夫だけど、今使わなかったら賞味期限が切れるまで使わない気がする。

 よし、決めた。鶏肉はこれで味付けしよう。

 今の今まで存在を忘れていた人間が言うのもどうかと思うけれど、ジェノベーゼソースは意外と使いやすい調味料。少量かけて香りづけにするのも良いし、なにより単体で味が決まるのが良い。これからはもっと使ってあげないとね、ジェノベーゼくん。

 火をかけていた鶏肉のふたを取る。ああ、なんと香ばしい豊かな匂い。これを嗅いだらどんなに疲れていても食欲だけは湧いてくる。

 料理をすることの利点って色々あるけれど、個人的にこの最高な匂いを嗅げるのはかなり重要。匂いがあるかないかで食欲の湧き具合が全然違う。小さな頃はかなり食が細かったけど、自分で料理をするようになってからはちゃんと食べられるようになったし。

 いきなり目の前にご飯を出されるのと違って、自分で料理をすると作ってる間にお腹が食べるモードに切り替わってる。冷蔵庫を覗いてメニューを考えて、野菜を切ったりしながら味付けを考えたりして。たまに変わったことにもチャレンジしてみたり。こんな夜遅くに自炊なんて物好きだと思われるかもしれないけれど、これだけしっかりと食べることに向き合う時間ってそんなに悪いものじゃないんじゃないかな。

 こんがりと焼き上がった鶏むね肉を食べやすい大きさに切って、ジェノベーゼソースを皮に塗っていく。きつね色にバジルの緑。黒いお皿に乗せると色のコントラストがすごく映える。

 メインのお肉の横にはナスとタマネギにほうれん草。タマネギにはちょっと醤油を垂らして豆板醤を添える。ナスはもうちょっと粉チーズかけよっと。

「ふう、できた」

 作り始めてから30分ちょっと。ご飯に鶏肉、野菜たち。汁物はインスタントの味噌汁で。なんとか栄養もありそうで食欲をそそる夕食ができた。

「いただきます」

 さっそく作った料理たちを食べ始める。しょうがないね、作ってる途中からお腹空いてたし。

 自炊をしてて気づいたけれど、なんだかんだ言って野菜がちゃんと食べられるのってすごく幸せだと思う。それに野菜って不思議だ。どれも個性があるし、人によって好きな野菜って違ったりする。私はナスが特に好きだけど、レタスも外せない。パプリカも大好きだし、ブロッコリーもずっとかじっていたい。

 ジェノベーゼに使われてるバジルみたいな香草も惹かれる。カレー好きとしてはスパイスの匂いも大好きだけど、香草の匂いも上品で素敵。

 ああ、どれも美味しい。料理の味そのものも大事だけど、自分で作ったっていう達成感があるから料理は好き。小さなことかもしれないけど、自分で作って自分で食べて幸せになれるってこんなに良いことそう無いんじゃないかな。

 いつもはラジオを聴きながらご飯を食べてるけれど、今日は目の前の料理に浸っていたい気分。むしゃりむしゃりと食べつくしたい。

 そういえば買ってきたキウイを冷蔵庫に入れてたんだっけ。これを食べ終えたら食べよっと。まったく、食べてばかりだね。ま、それで幸せならいっか。

 時間はもうすっかり夜更け。食べたら寝て起きる。そんな繰り返し。

 でもこうやって毎日何かを作り出してるんだって思うと、ちょっとずつ前に進んでいる気がする。どこに向かってるのかは分からないけれど、一歩でもどこかに向かっている感覚。それを感じたいから私は料理をするのかも。料理を作ってる間は嫌なこととか忘れられるしね。

 次は何を作ろうかな。なにか辛いものが食べたいな。色んなスパイスが入った普段口にしないような複雑な辛さのやつ。うん、それもいいかも。

 自炊と訊くととても大変なことのように思い人もいるかもしれません。

 自分で作ろうと思っては挫折したり。たまに作ってはいるけどあまりまともなものが作れていなくて心が折れかけていたり。

 今回のお話ではそんな人たちに自炊をする理由を一つ提示してみようかなと思い書いてみました。

 ただ、いきなり料理を始めてみようと思ってもどうやったらいいのか分からない人も多いと思います。そんな自炊超初心者向けの続きのお話があるので、料理に興味が湧いてきたという人や料理のアイデアが知りたいという人は下のリンクからどうぞ。


・料理のハードルを一気に下げる簡単手料理の始め方

 https://fantia.jp/posts/213730

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