人材が集まったようです
「ハジメ様、ここが一般メイド科でございます」
と案内をしてくれている先生が言う。この学校には一般科と選抜科があるらしく、選抜科は貴族が優先される。選抜科は、この地方を新しく治めることになった貴族様の屋敷に雇用されることが決まっているらしい。そうウォールの祖父フラップの事である。
「一般科といってもメイドの知識や技術、心構えは選抜科と変わりありません。違いは貴族の方々の歴史や考え方などを学ぶかどうかというくらいのものです」
と魅力的ににこりと笑う。一般科は1クラス10人で2クラスあるとのことだった。
「では、あの方とこの方・・・・」
と藍は人格に問題なく、優秀な新人メイドを選出していき、6人を選ぶ。今回雇うメイドは10人と決めたはずだったが、とハジメが思っていると。
「旦那様、あとの4人は武闘メイドを選ばさせて頂けたらと思います」
と陽が告げる。
「武闘メイド・・・」
とハジメが言うと先生は
「畏まりました。ではご案内いたします」
と言い、4人は外の建物へと向かった。そこはコロッセウムのような場所であり、この時間はそこで訓練をしていると言われた。階段を上ると闘技場全体が見渡せる一番上に出て見下ろすと対峙している2人の女性の姿と中央に静かに立っているメイドがおり、周囲にはメイドが8名ほど立って見守っていた。対峙している1人の女性の手には短剣が、もう片方は拳が握られており、中央の女性はただただ静かに立っている。素手のメイドは緩急を付けて蹴りを出せば、短剣のメイドは身をかわしている。最後の蹴りが顔面を捕らえそうになったとき、剣の腹を使って防いでいる。しかもその表情は笑顔を浮かべており寸分もその笑みは崩れない。暫くして中央の女性が何かを言うと2人は構えを解いた。その直後全メイドが綺麗なお辞儀をした。
「丁度戦闘訓練が終わったところのようでございます」
と先生が言う。4人がコロッセウムに降りていくと上からは分からなかったが獣人が多いようである。そこで陽は4人の戦闘メイドを選ぶ。兎族とオオカミ族、人族2名がハジメの戦闘メイドとなった。
「獣人族のメイドは普通のメイドでは雇われることが少ないのです。ですので戦闘メイドとして技術を磨き雇用される可能性を高める子が多いのです」
と見送りをしてくれた先生はそうハジメに説明したのだった。
10名の新人メイドたちは獣人族を除いて卒業後実家に1度帰り、1か月ほど家族と過ごした後ハジメの家に来ることになった。3名の獣人族は実家はチャタル国であり、往復だけでも5か月ほど掛かる為、辞退したのだった。そのうち帰省させてあげようとハジメは思った。親御さんは心配しているだろうから。
ハジメたちは馬車で帰っていたが、養成所で思ったよりも時間を使ったため、イブの街までの道のりを半分ほど進んだ時に日が暮れ始め、街に着く頃には大小の月が高い位置まで来ていた。その為、イブの街で一泊することになったのである。御者はイブの街のハジメの家の2階の空き部屋へ泊まってもらうことにした。藍はクーラの街に帰って貰った。何かトラブルがあった時に対応できないと困るのである。舞と航がいるので何かに襲われるということは考えられなかったが、いかんせん2人はやや脳筋的な行動をとりやすい。頭脳派が居た方がいいのである。
ハジメが家に戻った時、コウが歓迎してくれた。リナリーは泊りがけの仕事に行ったとのことであった。冒険者として頑張っているようで安心するハジメだった。しかしそうなるとなにかあった時の対応が困るなとハジメが思っているとそれを察したのかマーサが
「最近新しく領主になられた方が衛兵団を刷新されてね。毎晩数時間毎に見回りが来るのよ。凄く治安が良くなってるのよ。だからリナリーちゃんも外泊することも出来始めたのよ」
とハジメに告げた。ならば安心だなとハジメが思っていると
「あぁ、そうだハジメさん。私が出産したら暫くお仕事が出来ないと思うのよ」
と続ける。それを受けてコウが
「一人従業員を増やしたいんですが・・・」
と言う。ハジメはコウに任せるよと言い、明日コウと一緒に商業ギルドへ行くことにした。
翌日ハジメとコウは朝一に商業ギルドへ行く。到着後スムスが出てきたので、コウに人を雇うということを経験させたいと告げると、求人を扱う受付へ案内してくれた。
「通いで午前中だけでもいいのですが、給金は半日で給金が半金貨1枚で探しています」
ときちんと要望を伝えることが出来ているので問題ないだろうと思っているとスムスが
「コウさんは相場をきちんと理解しているようですね」
と言いハジメを見る。俺の価格可笑しいのかとハジメが冷や汗を出していると
「・・・それで、ハジメ様、人材の件ですが」
と声を続ける。コウと受付の女性に席を外すことを伝え、スムスの後に続く。
「ご足労頂きました。実は、料理人が見つかりました」
と応接室のソファーに座るとハジメに告げる。
「え?見つかったんですか?」
見つかる可能性はかなり低いって言っていたような・・・とハジメが思っていると、
「えぇ、実はこの街のレストランのご夫婦が負債を返済できなくて店を手放したんです。それで借金は返せたんですが、働き口が見つからないそうなんです。安くて量が多いレストランで、人気もそれなりにあったのですが・・・」
「それなのにですか?」
とハジメがスムスに言うと
「えぇ、実は息子さんがですね・・・」
と渋い顔で言う。
「雇うかどうか決めるにしても、なにがあったか知っておかないといけませんから、お伝えしますが、息子さんが窃盗をしまして捕まったのです。一般人のモノなら良かったのですが、侯爵家に納められるものだったようで。さらに悪いことに嫁入りする娘さんに持って行かせるアクセサリーだったのです。品物は帰ってきたようですが、一度盗まれたモノを嫁入りする娘に渡せないと言われ、拒否したんです」
ハジメはそれはそうだろうと思う。縁起が悪い。日本ではそれで済まされるのだ。しかも一度盗まれて戻ってくるなんて考えただけで”結婚”の場には相応しくはないだろう。貴族じゃなかろうが嫁ぐ娘に渡すものとして相応しくはないだろう。なんか離婚されて実家に帰ってきそうなイメージをしてしまう。
「まぁ、そうでしょうね。お嫁さんになられる方に盗まれたものを送ると言うのは親御さん的には避けたいでしょう」
とハジメが言う。
「えぇ、それは娘を持つ私もそう思います。それでそのアクセサリーは特注品でしたので、それはかなり高価なものでした。勿論盗みを働いていた息子に払える筈もなく、それで親御さんが支払ったのです。今までの貯蓄、家財、土地を売ってそれでも足りなくて・・・。ギルドへ相談に来られたのです。ご夫婦は誠実な方々でギルドでも知られていましたので、なんとかしようと言うことになりまして・・・・。ハジメさんに紹介してみようという事になったのです」
と申し訳なさそうに言う。ギルドという組織では収入の当てのない者にお金を貸すことは出来ない。もし例外を作ってしまうと次々にそんな人々が来てしまい、運営できなくなってしまう。だから今回お金を貸さなかったということは正しいのである。
「それで息子さんは?」
とハジメが聞く。ハジメ的には雇った後の不安材料は少ない方がいい。世の中に出てくる可能性があれ再び同じ罪を犯すことがあるかもしれない。そのたびに親だからと言って後始末をさせられるのは非常に切ない。
雇った以上はその人々が幸せであることをハジメは望んでいる。
「お金は支払われましたがそれはあくまで品物の価格ですので、謝罪料が支払われていませんので、鉱山奴隷に堕とされました。2ー3年#持てば__・__#いいところでしょう」
犯罪奴隷も一般奴隷と鉱山奴隷、戦闘奴隷に分かれる。一般奴隷はそこまで罪が重くなく、被害者に支払われる被害総額が半白金貨1枚、500万s以下の場合に限られる。普通に働いていれば一生かけたら支払うことが出来る金額である。鉱山奴隷は重犯罪、殺人・貴族に対する詐欺などを働き、被害総額が白金貨1枚、1億s以下の場合である。普通に働いても返せないが、鉱山奴隷ならば複数個の宝石の原石を掘り当てたり新しい鉱脈を見つけたりすれば返すことが出来る。しかし過酷な状況であるため長くて5年、短ければ半年で人生を終えるのである。そして被害総額がそれ以上の場合は戦闘奴隷となり、戦争の最前線に立たされ、死んだら奴隷から解放されるのである。奴隷の購入金額は後になるほど高くなるのだ。
「なるほど・・・。わかりました。一度面接してみようかと思います」
とハジメが告げるとスムスは
「ではすぐに呼んでまいります」
と言い、部屋から出て行く。え?ここに居るの?とハジメは思っていると、5分程して部屋にスムスが3人連れて入ってくる。
「・・・3人ですか・・・?」
とハジメが言うと
「えぇ、ご紹介させていただきますね。男性がバーナードさん、その奥さんのエイダさん、こちらが娘さんのベッキーさんです」
成程、息子が居ることはわかっていたが、娘さんも居たのかとハジメは思った。3人は今まで来ていた服も売ったのだろう今は奴隷が切るようなボロボロの服を着ていた。目は虚ろで覇気は無かった。妻と娘は泣いていたのだろう、目が赤く充血していた。
「バーナードさん、こちらがハジメ様です。雇ってくださる可能性のある方です」