最低限の人材が揃うみたいです
~全体編 続き~
サル族の鍛冶師の名前はカカと言った。日用品の鍛冶を主に行っていたとのことで、鍛冶部屋へ案内し、農具などの改良や日用品を作って貰うことにし、彼をそこに残しオオカミ族2人を連れて畜産場へと向かう。
「こ、これは・・・・カプリンとブリントっ・・・・。これにあとコッコンがいれば・・・・」
到着するや否やトニーが呟き目を輝かせ、オオカミ族ドビーは
「この2種を育てられるのか・・・・」
と感動しているようだった。その時航が
「ハジメ殿ー。コッコン捕まえたでござるよー」
といいつつ大きな檻に10羽入れてやってきた。そして一番入口に近いスペースへ放つ。
「3種が・・・幻の3種が揃ったーーー」
とトニーの興奮は最高潮に達したのか空に両手を挙げたまま後ろに倒れていく。どうやら気を失ったようである。
コッコンは鶏とコカトリスの合いの子のようなもので、その嘴は山を崩すとまで言わるほどに硬く鋭いが、その産み落とす卵は栄養価が高く、その価値も高い。そして毎朝20個の卵を産むという凶暴さを外して考えると優秀な家畜なのである。
これで全員の配置が終わった。藍と陽はそろそろ野菜が届くかもとハジメの家に帰って行った。ハジメは宿屋へ向かう。宿屋の夫はハロルド、妻はアイリス、その父はアイザックである。
ハジメが宿屋の入り口をくぐると右手にカウンターが、左手にオープンキッチンがある。キッチンの前には50席ほどのキッチンの中にはコンロと窯が設置されている。その中の扉の向こうには貯蔵庫が2つある。奥の方は永久氷床が設置されており、長期保存が可能となっている。
ハジメが中を見渡しているとアイリスが受付カウンターに出てくる。
「ご主人様っ」
と言うと奥からハロルドとアイザックが顔を出す。アイザックとアイリスはハジメの手を取り頭を下げる。
「本当に、本当にありがとうございます。娘夫婦とまた一緒に宿屋が出来るなんて・・・・。感謝しかありません」
と涙を浮かべて言う。見ると3人の目に涙が浮かんでいる。話を聞くと、アイザックはパンを焼くのが上手くハロルドはパスタを得意としている。アイリスはケーキなどの甘味を主に作っていたと言う。食事は3人が協力して提供していたそうだ。
「まずは酵母作りから始めないといけませんが、ご主人様のお陰でまた家族で暮らせるんです。しかもお給金まで貰えるって・・・。本当に感謝の言葉しかありません」
とアイザックはまた涙ぐむ。ハジメは慌てて明日の朝からのメニューを伝える。酵母が出来るまではパンはイブの街から購入し、酵母が出来次第自家製で作っていく事にする。小麦粉は定期的に購入することになるため既にイブの商人から定期購入をすることになっている。
「・・・では明日の朝はパンと野菜のシチュー、目玉焼きの簡単メニューにしてと、お昼はお肉を中心にしたメニューにしましょうか。夕飯は歓迎会を兼ねて子供広場でバーベキューをしましょう。3人には忙しい思いをさせると思いますが」
とハジメが言うと
「1か月くらい何も出来なかったんで、張り切って料理させていただきます。ご心配ありません」
とハロルドが言い皆で笑う。
「ではお任せしますね、野菜は何が必要か牛族の3家族に伝えてくださいね。小麦粉はすぐにこちらに持ってきますので」
とハジメはお願いし宿を後にした。
「やっぱり御者と料理人が欲しいなぁ・・・」
昨日ハジメの私有地であるクーラに人が来て3日ほど経つとようやく人々は落ち着きを取り戻しつつあった。子供は公園で遊び始め、仕事をまだ開始していない人々はそれを見守っている。裁縫師たちは布団を全員分作り上げ、カーテンも女子棟を終え、家族棟も終わり、今日から男子棟を開始している。恐らく明日には終わるだろう。その後は空き部屋の分を作る予定になっている。作物も既に収穫を終え、種を撒く準備をしていた。
食事は宿屋の3人が頑張ってくれており、問題なく提供できている。食料の買い出しは陽が毎日イブまで買い出ししてくれており、食糧不足ということは起きていない。
そして今日は料理人と御者を探しにイブの街に陽と藍を連れてきていた。陽は食料を乗せてクーラへ戻っていた。ハジメと藍は商業ギルドに向かう。
扉を開け中へ入りハジメ専属の商業ギルド員のスムスを呼んでもらうことにする。暫くすると奥の扉が開き、彼が姿を現す。
「ハジメ様、おはようございます。どうぞこちらへ」
と丁寧にお辞儀をして応接室へと案内してくれた。ハジメたちは彼の後に続き、ソファーに腰を下ろす。
「ハジメ様、今日はどのようなご用件でしょうか?」
「スムスさん、料理人と御者の仕事が出来る人っていませんか?」
とハジメが尋ねると
「使用人としての料理人、御者ということで間違いないですか?」
とスムスが言う。ハジメが頷くと、棚から2冊のファイルを取り出す。
「それでハジメ様、条件を教えて頂いていいですか?まずは料理人の賃金はどうしますか?」
「賃金は月に金貨40枚で、住み込みでお願いしたいです。作るのは朝昼夕の3食です。まずは1人責任者を決めて、その後必要な人数を雇うという方式がいいと思うのです」
と答える。スムスは難しい顔になった。それを見てハジメは
「難しいですか?」
と聞く。スムスは眼鏡を上げながらハジメを見る。
「えぇ、通いなら何とかと言ったところです。料理人の方でギルドに登録しているのは基本的にどこかで働いていて、お金を稼ぎたい人が休みの日だけ手伝うとか、お子さんが学校に通っている間だけ働くという方ばかりなんです。ですので住み込みで、3食作るとなると該当 する方がいないのですよ」
と言う。それもそうだとハジメは思う。料理人とはそうそう食いっぱぐれることは無いのだ。ご飯を食べなくて大丈夫という生き物はいない。もし居たらそれはもはや生物外だろう。
「えぇ、ですので、奴隷を買い求める方が良いかと思われます。今いなくても予約しておけば、入荷すれば教えてくれますので。御者もやはり住み込みがご希望ですか?」
とスムスは言う。
「そうですね。何かあった時にすぐに馬車を動かせるというのが希望ですので、どうしても住み込みがいいですね」
ハジメとしては奴隷として雇った人が気軽にイブの街に来れるようにしたいというのが理想なのである。御者に関してはそんなに急いではいない。今は通いでもいい。陽が馬車を操縦するのは出来るのだから。しかしハジメの側を離れることを彼は嫌がるのだ。執事と護衛を兼ねているものの、護衛の方の矜持が出てしまうのだろう。まぁこれも時々思いもよらない危険を冒すことがあるハジメ自身のせいであるのだが。
「そうですね・・・・。やはり御者もその条件では無理ですね」
とはっきりとスムスは言った。以前の世界なら車や自転車、バイクがあるため御者としての仕事はかなり少ない。この世界ではタクシーと新幹線を含む電車、飛行機、バスなどの運転手やパイロット、荷物などの運搬業者などを担っているのだ。この職もそうそう食うに困ることはないのである。
「でもお給料はかなり破格なので、もしかしたら希望する人がいるかもしれません。求人情報として公開させてもらいます。可能性は低めであることは知っておいていただけたらと」
とスムスは言った。ハジメは「一応登録しておいてください」とお願いし、商業ギルドを後にした。そしてその足でもう一度奴隷商館を訪れる。
扉を開くと、受付に座っていた男性が立ちあがり、
「ハジメ様、いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
と応接室へ案内してくれる。ハジメは戸惑いつつも座って待っているとその男性従業員がお茶を持ってきてくれ、
「イヴァンカ様を呼んで参りますので、少々お待ちください」
と告げ頭を下げて出て行く。残されたハジメは藍に向かって
「なんか、こんな扱い疲れる・・・」
と呟いた。
「旦那様、慣れるしかないと思います」
と冷静に言われ、更に凹むハジメだった。そうこうしているとイヴァンカと受付の男が部屋に入ってくる。
「お待たせしました。ハジメ様」
と頭を下げハジメの前のソファーに座る。
「あの、実は料理人と御者が出来る人物を探してまして。商業ギルドに行ったんですが、こちらの方がいいだろうと言われまして・・・」
とハジメは要件を伝える。
「なるほど、確かにそうかもしれませんね。奴隷以外となると難しいので」
と言い、一緒に入ってきた男に目配せすると彼は部屋から出て行き、2冊のファイルを持って帰ってくる。そしてイヴァンカに手渡す。彼女はそれをパラパラと捲り、ハジメに顔を向ける。
「ハジメ様、昨日入ってきた料理人が5名いますが、お会いになられますか?」