お誘いするみたいです
翌日の朝、買ったばかりの馬車に乗り、クーラへ向かう。馬車が通る道を浄土の精霊である航が平らにし、固めてくれていたので1時間ほどでクーラの街に到着する。街の建物は既に完成しており、あとは住人を待つばかりになっているのだが、建物がだけで人がいない状況はなんともゴーストタウンのようである。
到着すると神風の精霊舞と航が出迎えてくれる。
「おかえりなさい」
と2人が微笑む。ハジメは二人の頭を撫でで
「ただいま」
と告げた。
「ハジメ殿、畑は出来ているでござるよ」
と航が言う。街の中の畑もハジメの薬草畑も完成していた。昨日買っておいた野菜の種を持って教会の裏の畑に巻くことにする。本当ならば奴隷はもっと後で購入する予定であったが、購入したのだから仕方ない。ハジメは種を舞に渡すと彼女はそれは空に投げ、風で等間隔で蒔く。その後航が土を被せ、藍が水を撒く。そして陽光の精霊である陽が照らす。すぐに発芽しすくすくと育ち、花が咲き、散る。そしてトマト、トウモロコシ、ニンジン、玉ねぎが実りが出来始める。今でも収穫できそうである。
「じゃぁ、次の畑だね」
そういってハジメ一行は海の側の畑に行くと同じように野菜を実らせる。海側の畑は塩害に強いジャガイモ、大根、キャベツが実る。
そうやって牧草地、木を育て、公園には芝生と花壇を作る。
「よし、これで取りあえず最低限の準備は出来たかな・・・。さてと、じゃぁあとは現世の教会かな」
と呟き、出入口近くの教会へ向かう。ハジメは教会に入り正面にある一番高い台座へスグラドの像を設置する。生憎と現世の神はスグラドしか知らないので、1体だけである。その後4か所の温泉に行く。教会の像よりは2周り程小さいが、スクナヒコの像を設置する。因みに男湯には小〇スクナヒコタイプ、女湯には調剤をしているタイプで瓶から水が出るタイプで家族湯は頭のてっぺんからお湯が出るタイプになっている。公衆浴場は寝そべったスクナヒコの体の下からお湯が出るタイプとなっている。彼ならばきっと面白いで許してくれるだろう。因みに調剤タイプは瓶の周囲についてる魔石を、家族湯のは左右の手を、男湯なら両足を触れば適温の湯が出てくる仕組みになっている。
そもそもスクナヒコは医療と温泉の神なのだ。適材適所だろう。ハジメが納得していると、
「ちょっとー。僕の扱い酷くない?一応これでも神様なんだけどー?」
とスクナヒコの声がする。
「面白いでしょう?これで人気者になるんじゃないですか?少なくてもこの地に住む人には大人気になるんじゃないですかねぇ」
とハジメがスクナヒコに向かって言う。
「絶対そう思ってないでしょ?口元がつりあがってるよ?面白がってるでしょ?」
とスクナヒコががハジメの右口元をくいくい引っ張る。
「しょんあことあいですよ」
とハジメが弁解すると、
「まぁ面白いからいいか」
とスクナヒコは納得する。じゃぁ始めから文句を言わなくてもいいんじゃないかと思っていると
「取りあえずサービスしとくね」
と言うと指を鳴らすとお湯が沸きだしたのである。
「天然温泉だよ。ここから遠くにある地下にあるところから引いてるから気にしないでね。お湯も1万年以上使ってもなくならないくらいあるから」
と言うとウインク一つ残して消えていった。ありがたく頂戴しておこう。
「あとは・・・」
「お昼過ぎにアーヴィン様たちが到着する予定ですよ、旦那様」
と陽が言う。家具一式をアーヴィンの家具屋に注文していたのである。大量の注文はアーヴィンの弟子たちによってつくられることになっており、少し安く購入することが出来たのである。既にハジメの家と使用人棟、教会には家具は入っている。今日持ってくるのは家族棟と孤児院の家具を設置する予定になっている。
ハジメは藍の作った昼食を食べ終わり少しすると、外から、モーモーと言う声がして騒がしくなった。ハジメが外に出ると牛とバッファローの合いの子のような動物が10頭ほど入った檻を航が片手で持ち上げ畜産場に運んでいる途中であった。
「カプリンですね。お肉も美味しいし、ミルクも美味しいんですよ」
と藍が嬉しそうに言う。
「カプリンてわりと凶暴なモンスターじゃなかったっけ?」
とハジメが額に汗を浮かべて言うと
「そうですね、雑食ですので、毎年何人か食べられているはずです。おや、舞はブリントですか」
と冷静に陽が言う。
「ブリントのお肉も美味しいですよね」
と藍が目を輝かせる。ブリントは豚とイノシシの合いの子のような姿をしている。
「ねぇ・・・」
「えぇ、ブリントも雑食ですね。口にある牙でに刺されて死亡することが年に1,2回ある程度です。そのせいか人の間では高級食材となってるはずですが」
とハジメが聞く前に陽が言う。
畜産場はその広さを3等分されており、それぞれの真ん中に水飲み場を設置してある。2精霊は奥にブリント、真ん中にカプリンを放ったようである。2種は暫く泣きわめいていたが、その後は静かに牧草を食べ始めていた。
「ねぇ、明日には家に働き手がくるの覚えてる?」
とハジメが呟くが精霊たちが答えることはなかった。ハジメが茫然としていると
「おーーーいハジメーーー」
と下から声が掛かる。下に視線をやるとそこにはアーヴィンが手を振っている。ハジメは手を振り返し下に降りていく。
「2週間でこんなになるのかよ」
とアーヴィンはあきれ顔である。その間にも家具は家族棟にどんどん運び込まれている。
「ところでアーヴィンさんはなぜここに?今日はお弟子さんだけじゃなかったでしたっけ?」
とハジメが言うと
「あぁ、暇だったんでな。監督役としてきたんだ」
と答える。その後玄関前の庭園でお茶をしながら久しぶりの会話を楽しんでいると、
「ハジメさん、親方、運び終わりましたぜ」
と白い歯を見せて汗を拭き拭き弟子の一人が呼びにくる。彼は最初にアーヴィンの店に居た時からいるお弟子さんである。
「お疲れ様でした。皆さんお時間良ければお茶でもどうぞ」
と藍がテーブルにお茶を並べる。弟子は「ありがとうございます」と頭を下げ、他の弟子たちを呼びに行った。
「・・・アーヴィンさん、彼の紹介も兼ねてということですか?」
とハジメが言うと
「バレたか、奴は俺の5番弟子なんだ。1-4番目はもう一人立ちしてるんだが、そろそろカイルもって思ってたんだ。腕は確かなんだか気弱なんだよ。ハジメの申し出を使って奴に自信をつけさせたくてな」
と頭を掻きながら言う。
「わかりました。では、お茶の時間を少し伸ばして貰ってもいいですか?彼を案内したいところがあるんで」
とハジメが言うとアーヴィンは許可を出す。皆がお茶を飲んで一息ついた頃、ハジメはカイルを連れ出す。10分程歩くと作業場へ着く。
「あの、ハジメさんここは?」
とカイルが言うので、中へ入るよう促す。カイルが入るとハジメも続く。
「ここは作業場となっています。こちらは炉を2基設置しています。そしてそちらの扉の向こうは木工所になっています。どうでしょうカイルさん、ここで働いてみませんか?」
この作業場3つの区画に分かれている。手前が鍛冶などの炉を使う作業が行えるようになっており、その隣が木工所、その奥は陶磁器を作れるように窯が設置されているのである。
「うーん。少し考えさせてください」
とカイルの返事はあまりよくなかった。ハジメは無理かなと思いつつそれ以上誘うこともしなかった。
「まぁ、考えてみてくださいね」
と言い、皆の待つ庭へと帰っていった。そしてその後アーヴィンたちにお礼をして見送る。
「作戦2でお願いします」
とハジメはアーヴィンにそっと耳打ちをした。すると親指を上にあげ、了解のサインを出したのだった。
ハンドブック 13項目目
13-4.温泉を引こう:Clear!




