3人の訪問者がくるみたいです
「まぁ孤児院の経営の事はまだ先の話だね。人でも足りないし。でも心置きなく対応して大丈夫ってわかったから良しかな。さてそれでみんなの事をコウとリナリーにどう紹介するかだけど・・・」
とハジメは藍の入れ替えてくれた暖かいお茶を啜る。
「藍は私の姪と言うことにしましょう。メイド学校を卒業してここへ就職のために来たという事にしましょう。航は新しい家の庭師で雇ったという形にしましょう。舞は新しい場所の警備責任者候補としておきましょう。幸い、コウとリナリーには街が出来てから伝えることにしましょう。それまでは3人とも姿を消しておいてください」
陽はコウとリナリーに”殿”付けを止め、対等に扱っている。公の場では付けてはいるが、そこには最初のようなハジメの付属としての様付けではなく、彼ら個人に対するちょっとした愛情が含まれ始めており、ハジメはそれが嬉しかったのだが、当の3人はあまりそれには気づいていない様子である。
「そうだね。そうしておこう」
陽の提案にハジメがのる。
「・・・それよりも旦那様。市場を作ると言うのはわかりましたが、その他になにか計画はあるのですか?」
と陽が言う。ハジメは
「これはアイデアノートみたいなものなんだけど」
そう言いながらテーブルに1枚の紙を広げる。
「・・・通路も広いですね・・・。この区切りが1店舗分ということでしょうか?それにしては奥行きが長い気が致しますが・・・。あら、奥行きも三等分されてますね」
とちらりと計画図をみた藍がそう呟く。
「そうなんだよ。奥行きの1/3が店舗、その次の1/3が住居、そして最後の1/3が倉庫って使えるようにしようと思ってね。流石藍。良く気付いたね」
とハジメは笑顔になって藍の頭を撫でる。航が
「でも、片方20店舗、両方で40店舗。そんなに店集まる?」
と言い、それに乗って舞が
「少なかったら寂しそうね」
と言う。
「そうなんだよね、始めは集まらないだろうけど、そのうち集まったらいいかなぁって感じかな。まぁ、足りないよりも余るくらいがいいかなって」
「確かに宿泊もできるなら商人は喜びそうですね」
とハジメの意見に陽が応える。
「そそ。気軽に店が開けるって感じ。ただ期間は長くて1か月までしかダメなんだけどね。それ以上になると店舗あり、土地を持ったとギルドが判断するみたいなんだよね。だから国から貰った土地を売ったって俺が怒られるみたいなんだよねぇ。怒られるくらいならいいんだけど、面倒くさいことになったら嫌だから44日を一区切りにしようと思ってね。その後は2か月以上空けて再度お店を出すならいいみたいなんだよ。国から土地を貰うって体だから、売ってはいけないみたいだからね」
とため息混じりに言う。
「あとは人材が問題と言ったところですか?」
と陽が言う。
「そうだね。圧倒的に人が足りないんだよね・・・・。孤児院はメイドさんを雇えばなんとかなるだろうけど、その他の仕事って話になると・・・」
「普通の雇用と言う訳にはいかないんでしょうか?」
ハジメの悩みに陽が問う。
「んー。それは難しいかもねぇ。この世界の人数は変わらないもん。今働いている人は仕事があるし、ハジメが高いお金で人を雇ったら、人は集まるだろうけど、へんな恨みも買うだろうしねぇ~」
と頭の上でペン太が呑気そうに言う。
「そうだよなぁ。そうなると人を集めるっていうのは難しいんだよなぁ」
ハジメは頭の後ろで手を組んで椅子の背もたれにもたれる。
「でも~そんなあなたに~。素敵な解決方法があるのだ~。奴隷を買えばいいんだよ~」
ハジメの頭を羽でぺんぺんしながらペン太が言う。
「・・・奴隷・・・かぁ・・・・」
「ハジメはそういうと思ったけど~。正直、ハジメに買われるならかなりマシだと思うよ~。ご飯も服も住むところもちゃんとしたところ用意するでしょ~?へんな人に買われるよりは絶対マシだと思うんだけど~」
嫌な顔をしながらハジメが言うとペン太がテーブルの上に飛び降りて言う。
「確かにそれがいいかもしれませんね。最初にお金は掛かりますが、後々要らぬトラブルを招くよりはいいでしょうし」
と陽が言う。確かにその方が周囲からの反感は少ないだろうなとハジメは思ったし、土地を売れないために長期の店はハジメ以外行うことが出来ず、独立した商売人を誘うことも憚られる。ハジメの部下として雇うか、奴隷と言う立場の人々しか長期で働いて貰う事は出来ないのだ。
しかし、その夜は答えは出ないままハジメは眠りにつくことになったのだ。
そして翌日の午後になり、エルムとソラがハジメを訪ねて来た。両目の下に大きな隈を作りながら。
「こんにちは、エルムさん。あんまり寝てないんですか?」
ハジメが心配そうに伝えると、ソラが
「あれから興奮しちゃってねぇ、ずっと作業してたみたいよ。『理想の家をつくるんだー』って言ってね」
呆れつつも笑いながらソラはそういった。ハジメと陽は2人を連れて応接室へ行く。入るとすぐにリナリーがお茶を持ってきてくれたが、エルムは一気にそのお茶を飲み干したので、彼女は笑いながらエルムのカップにお茶を注ぎ部屋を出て行った。
一息ついて、エルムが紙を広げる。そこにはかなり大きいお屋敷の見取り図が展開されていた。玄関を入ると目の前に大階段があり、その先は左右に分かれている。たとえるなら豪華客船のような感じだろうか。玄関に背を向けて左に6畳ほどのキッチン、30畳以上ある食堂がある。そして反対の右には商談室と使用人たちの部屋を作る予定だという。ハジメは使用人たちの部屋は別棟として建てる予定であることを伝えるが、そこは陽以外の精霊の部屋ということにした。大階段を左に上がると通路右にハジメの寝室として約20畳の部屋と同じ広さの書斎があり、通路を挟んで反対には警備隊の部屋が3つあった。一番大きい部屋を陽用にして、2部屋はコウとリナリーの部屋として確保しておくことにした。また、裏庭へハジメの部屋のベランダから外へおりるしか行けないようになっている。そして右に行くと通路の右には応接室があり、屋敷の正面に展開する庭が見えるようになっており、テラス席も作れるほどの広さのベランダも計画されている。そして応接室の隣には貴賓室を作るとのことであった。そして通路挟んで反対には来客者の御付きの人が泊まれる部屋が3つほど作られるようになっていた。
そして大階段の裏には地下室へ続く階段があり、そこはハジメの作業部屋となる予定であった。広さは屋敷の敷地面積全てであり、その広さは作業部屋でさえ50畳近くあり、その奥の倉庫を入れるとその大きさは300畳ほどの広さになりそうであった。基本的にハジメはアイテムボックスに作ったポーション類を入れるから要らないのだが、周囲からの視線を考えるとダミーを置いておく方がいいかもしれない。
そしてハジメの屋敷の隣に使用人棟を作ることにする。広さはハジメの屋敷の半分程度で、6畳1間の部屋に、お湯を沸かせるほどのキッチン、トイレを各部屋に付けることにし、1階に30部屋、2階建てを3棟建てることにした。これで180人ほどが生活できるようになる。お風呂は陽と航に頼んで使用人棟の裏に温泉を湧かせる予定であるので、そこを24時間いつでも入れるようにしておく。因みにこの世界のトイレは利用後に筒を通って溜める場所に入り、農家が取りにくるのが一般常識となっている。ハジメの畑は精霊たちの加護により肥料などは必要ないようになっている。だがハジメは薬草を育てているために周囲からは肥料として使っていると思われているため、周囲の目を誤魔化すために隔日で消去の魔法でその存在を消すことにする。
3人で相談して、明後日より取りあえずハジメの土地に市場とハジメの家、使用人棟を建ててもらうことにする。後は追々考えることにする。あんまり良くはないが先送りの作戦である。
ソラとエルムを見送り、おやつの時間になったころ、船大工のモーリーが大きいリュックを背負って来店してきた。彼は異常なまでにハイテンションである・・・・。どう考えても彼もまた徹夜組だろう・・・・。
ハジメはリナリーに客室を1つ準備するよう伝え、気分を落ち着かせるハーブティーを彼に飲ませるために準備するのだった。
彼を応接室に通そうとするとお客の居なくなったカウンターにリュックから船首から船尾までの長さ50cmほどの船の模型を取り出す。
「模型が出来たから持ってきてん。大きさはこれの1000倍やな」
「せ、1000倍・・・・?かなり大きくないですか・・・?」
とハジメがモーリーに伝えると、
「いやー、なんか久々に商船作るって言う仕事にテンションが上がってなぁ・・・。これは実際には水に強い水樹を使おうかと思う。そして船底には30室になっていて、それぞれの部屋に商品が100kgほど入れることができるようになっとる」
と胸を張って言う。そこで模型を弄っていたコウが船の側壁の四角の部分を指さし
「ここ上にスライドできるんですけど、ここは?」
と問うとモーリーは嬉しそうに破顔して
「そこは砲台やの」
「ほ、砲台・・・・?」




