再び精霊と出会うようです
ハジメとリナリーがコウのそんな叫び声のような、悲鳴のような声を聞き慌てて裏庭へと向かう。コウは扉を開け固まっていた。
「どうしたのです、コウ」
とリナリーが声を掛けるとコウは震えながら裏庭の方向を指さす。
「うっ」
とリナリーもコウの指さす方向を見て固まった。
「どうしたの?二人とも」
と言ってハジメも裏庭を除くとソシャゲの畑のように50m×50mの畑とその間にあぜ道が見える範囲全てに整地されている。そして向こうの方に青々と茂る木が1本生えていた。ここから割と距離があるがかなり大きな木である。ハジメが昨日枝を挿した辺りである。裏庭へ降り、
「まさか・・・航、あそこへ」
とハジメは呟くと航は頷き十数秒後には昨日の場所へ来ていた。屋久島の千年杉ほどの大きさがあった。下から木の頂上を見上げると首が痛い。
「ちゃんと育てたのー。この子も手伝ってくれたよ」
と舞が水色の子どもを紹介してくれる。子は少し照れたように頬を染める。肩まである髪は青く光っており、水色のタキシードを纏い、地面から少し浮いていた。
「新しい精霊のお友達?」
とハジメが2人に聞くと。
「「うん」」
と頷く。ハジメは二人の頭を撫でたあと水色の子の頭も撫でた。彼は満足そうに頷くと涙を浮かべる。ハジメは驚き、どうしたのと聞くと男の子は唇を一文字に結び下を向く。2人の顔を見ると2人も悲しそうな顔をしている。航が
「この子、もうすぐ消えるんだ。王様が言ったように・・・・。もう何人もの友達が消えている・・・・。消える前に人の役に立ちたいって言って僕たちを手伝ってくれた」
と言う。よくよく見ると足元やタキシードの裾辺りから徐々に形が崩れている。青色の男の子が涙を拭い微笑む。
「ありがとう。最後に手伝えてよかった」
と言い飛び立とうする。思わずハジメは彼の手を取り、ぎゅっと抱きしめる。すると彼は大泣きし始める。
「君の名は藍、だよ」
と呟く。舞と航は驚いた顔をした後笑顔を浮かべる。2人と同じように青く強く光り崩壊を止めたが2人のように成長はしなかった。ハジメは藍の頭を優しく撫でて
「これからもお手伝いしてもらおうと思ってね」
とにっこりと微笑んだ。藍は涙を浮かべながら頷く。
「それにしても大きな木だよね。これ昨日挿したやつ?」
と3人を見渡して言う。
「「「うん」」」
「これは精霊の木だよ」
と藍が胸を張って答える。
「精霊の木?」
「うん。精霊の木。周囲を良い感じにするの。精霊と自然がとっても喜ぶの」
と3人は手をつないで木の下で回っている。
「そっか、じゃぁトラブルはないかな。3人はここで遊んでる?」
と聞くと頷くので、ハジメは家に帰ろうと振り返る。そこにコウとリナリーが走ってきているのが見える。
「しまった・・・・2人を置いてきちゃった・・・」
「ご主人様っ。危険である可能性があるのに一人で行動しないでくださいっ!」
とリナリーに30分程怒られる、自然と正座をしていたのはハジメが日本人だから、それとも怒られると皆そうなってしまうのか。その状況を気にすることなく遊んでいる精霊3人組は空を飛びつつ鬼ごっこをしていた。怒られているハジメの頭上で・・・。
「・・・わかりましたか?」
とリナリーのお説教が終わりを告げる。ハジメは「ごめんなさい」と再度頭を下げる。
「わかって頂けたらいいのです。それにしてもこの木は・・・」
「これも畑をこうした人が庭に挿してって言われてね。なんなく中央が良い気がして昨日挿したんだよ。1日でこんなになるなんて俺も驚いているけど」
と言ってリナリーとコウと3人で木を見上げる。
「まぁもうこうなっちゃったし仕方ないよね。じゃぁ今日もお店を開けるか」
と2人の頭を撫でて家に3人で帰っていった。その時2人は呟く
「「まぁ、ご主人様ですから」」
朝のポーション購入ラッシュが終わり、午後からは住人が傷クリームを買いにちょこちょこ訪れるようになる程度のためハジメは裏庭の畑の家から見て一番左の上に来ていた。ハジメの目の前には舞と航と藍がふわふわと浮いている。ハジメは何か考えるとき手を顎に添える癖があるが、それを精霊3人組も真似して喜んでいる。
「じゃぁここ4面を薬草にして、その右に同じ面数で魔素草、そのまた右に爆裂草を1面かなぁ・・・。他にも植えれるものがあったらいいんだけどなぁ。畑も今ある以上は自分の家で消費できないしなぁ」
ハジメがこの場所に居るのは単に左端から順番に埋めたいという性格的なものである。ハジメがアイテムボックスから薬草と魔素草、破裂草を出すと航がそれらを畑に植え、藍が水を与える。そして3人で大きくなーれと声を合わせる。微笑ましい光景である。
「ハジメー。精霊の木の近くに池作ってもいい?あと、花畑も」
「花のタネは私が持ってくるー」
と水精霊の藍が言うと風精霊の舞が右手を上げる。
「じゃぁ、僕は池用の穴を掘るよー」
と土妖精の航も舞に負けじと手を挙げる。
「僕、泳ぐー」
とペン太も右手(?)を上げる。
「使い道が今のところ思いつかないからいいよ」
とハジメが許可を出すと4人とも嬉しそうにしていた。
ハジメは地下の調剤室へと降り、神器:水の祝福を使ってみる。3種類をそれぞれ1個づつ水を汲んでおいている瓶に入れてみる。すると瓶の水全体が青く強く一瞬光る。
「これで変わったのかなぁ」
ハジメはビーカーにその水を汲み
<鑑定>
精霊の水:精霊が好む水。神の力が溶け込んでいる。全てのポーションを作り出すことが出来る水。ポーション類に使用すると効果を300%上昇させる。現在では採取できる場所はない。買取不可
<鑑定>
魔力水:かなり美味しい水。精霊の力が溶け込んでいる。全てのポーションの8割を作り出すことが出来る。体力ポーションに使用しても効果は増強しないが、魔力ポーションに使用すると500%効果を上昇させることができる魔力ポーション特化型。現在では採取できる場所は限られている。買取不可
<鑑定>
清らかな水:ポーション類に使用すると効果を50%上昇させる。現在では採取できる場所は限られており、買取価格:10万S/リットル 販売価格:20万S/リットル
「これはマジでやばいかも・・・・。精霊の水と魔力水はアイテムボックスで死蔵決定かなぁ。清らかな水も特定の人だけ用に・・・あ、クリームの方用のポーションには使ってもバレないかも・・・」
因みに今までポーションに使っていた水は
飲料水:普通の水。ハジメが使用することですべての効果が5%上昇する。買取価格:0S 販売価格:0S
「取りあえず、勿体ないけどアイテムボックスで死蔵か。勿体ないから瓶ごと収納してと。後で新しい瓶買いに行かないとな」
このトラブル回避・・・というか問題先送りにより新たな能力に気づくことになるのだった。
ハジメが航の力で精霊の木の下へ移動した直後に時間が戻る。
リナリーとコウはとてつもなく早い速度でハジメが大きな木へと向かっている姿に驚く。
「ねぇ。コウ、ご主人様が詠唱していたか分かりましたか?」
と驚きつつもその感情を抑えて呟く。
「ううん。詠唱みたいなものを言ってなかったよ・・・・。それより追いかけないと」
とコウが走り始め、その後を追うようにリナリーも動き始める。
「ねぇ、この畑の事もあの木の事もどう聞いたらいいのかなぁ」
と呟くとコウは
「え?いいんじゃない?ご主人様ってことで。ご飯とか服とか俺ら奴隷なのに新しいのいっぱい買ってくれるし、部屋も1人1部屋だよ?聞いていた話と全然違うし・・・・。・・・・何より凄く優しいもん」
と笑顔になる。
「そう・・・そうですね。これからは『ご主人様だから』で済ませたのでいいわよね」
とリナリーもそう思うことにした。
ハンドブック 9項目目
9-7.精霊の木を育てよう!:Clear!
9-8.神器を使ってみよう!:Clear!