役所に呼ばれたようです
クリーム状のポーションが売りに出され1週間後、食器屋の夫婦の旅立ちを迎えた。
ハジメは見送りに参加していた。そこにはアーヴィンやアベルも来ていて、割と盛大な見送りだった。それだけ街の人との関係性が素敵だったのだろうと想像できる。夫婦はハジメに何度もありがとうと言い、頭を下げた。ハジメは二人の手を握って、体力ポーションクリームを5個とポーションを2本馬の餞として渡した。ありがとうと嬉しそうな顔をしたのがハジメには心地よかった。夫婦の住む新しい街はここから歩いて1か月ほどかかるそうで、米という作物を育て始めたばかりの場所なのだという。
「こ、米が出来るんですか!!!!」
と興奮気味に言った。
「あちらに着いたらハジメさんに送らせていただきますね」
と奥さんが言った。
「収穫量が多くなってきたら、買いたいので教えて欲しいです」
と食い気味に言うと夫婦は笑いながら「わかりました」と言った。日本人であるハジメにとって米の情報は何より有難かった。2人は皆に惜しまれ新天地へと向かっていった。皆はそれを見えなくなるまで見送った後それぞれの日常に戻って行った。
その後数日で夫婦の家は解体され、整地された。その土地の周囲にアーヴィンは約束通り背の高い木の柵を立ててくれた。通りから見える範囲では家庭菜園がリナリー主体行われることになり、表から見えない場所で薬草と魔素草、破裂草の栽培を行うことにした。既に家で使っている野菜は全てリナリー製のものになっていて、ハジメたちの食卓を賑やかにしている。そのため3つの草を交代で育てていたのだが、これからは気にせず育てることが出来そうである。それでもまだ開いている土地は残っている。農地は3倍になっているのだからそれは仕方ないかと諦める。
コウとリナリーには土地を衝動買いするなんてっと怒られたりしたが、買ったものはしょうがないのだ。ハジメにしては人助けに似たものであったがそこは言わなかった。買った土地を畑にすることを伝えるとリナリーは怒りつつも嬉しそうであったので問題はなさそうである。コウにも何か育てるか聞いてみるとペン太用に果物を育ててみてはどうかと言われバナナと梨・蜜柑の種を埋めてみることにした。世話はコウがやりたいと言うので任せることにした。こうして大人になるのかなぁと親の気分を味わっていたが、羽をバタつかせて喜んでいるペン太によって邪魔されてしまった。果物の木は家の周囲を囲むように植えることにした。理由は気温が高くなれば木陰になって過ごしやすいと考えたのだ。ペン太が食べれるようになるには数年はかかるだろうが、楽しみが増えるのは良いことである。
ポーションの値上げをし、新しいポーションクリームを発売して2か月ほどが経ったとき突如役場から呼び出しがかかった。ハジメはいつかは来るだろうと思っていた税金の話かと考える。この街に住み始めて商売をして約1年。税金を徴収されるのかと思いハジメはいくら課税されるのか少し不安になりながら町役場に向かおうと準備している。そこへかなり慌てた様子の商人ギルド長のエヴァとベスパがコウに案内されて入ってきた。
「ハジメさん、役場から呼び出しがかかりましたよね?」
とエヴァは息を切らしながら聞いてきた。
「えぇ、税金のことだと思うのですが、なぜエヴァさんが知っているのですか?」
と答えると、
「改めて払う税金はこの街にはありませんよ。この街の税金はギルドに所属している者はギルドが年会費として徴収したもののなから払っているのです。ハジメさんが払う税金はもう私たちのギルドが払っているのでそんなことはないですっ。そんなことじゃないんです。今回ハジメさんが呼ばれているのは」
一息でそこまで話すエヴァは少し怖かった。
「取りあえず間に合ったようなので、よしとします。さて、3人で役場に乗り込みますよ。たぶんハジメさんでも無茶苦茶不機嫌になると思いますけど」
とエヴァが言うとベスパが
「恐らく凄いことを言われると思いますが、心穏やかにお願いします。交渉は私たちがしますので」
と続けて言い、外への扉の方を睨んだ。リナリーは
「コウ君、家の物を片付けていつでも逃げれるようにしておきましょうね」
と怖い顔でコウに言っている。
「うん。分かったよ。3人分の荷物まとめてくるねっ」
と言い放ち2階へ駆けあがっていった。
「大丈夫です。その為に私たちが来たのですから」
とベスパとエヴァは意気込んでいた。