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神々の依頼、面倒なんですけどっ!  作者: はなを
第1章 旅立つ
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家族が一人増えたようです

昨日(さくじつ)コウが襲われたのは原因があった。ハジメは商人ギルド長エヴァの部屋の片付けのバイト代は全てコウのお小遣いとなることを決めたのだが、コウはご主人様のものですと言いハジメの口座に振り込むようにエヴァに頼んだ。しかし勝手に口座への振り込みは出来ないとエヴァに言われ、現金で受け取り家へと急いでいたのだ。そのため現金をギルドのカウンターで貰っているところをたまたま依頼のために来ていた3人に見られたことが発端であった。そのため今のところはハジメが送迎することにした。コウはそんな手を煩わせるのは申し訳ないと言ったが、


「コウは僕の奴隷なんだから、財産なんだよ」


と言うセリフで沈黙した。ハジメ的にはこんな言葉は使いたくなかったが、コウを納得させるために仕方がなかった。早くこの制度どうにかしたいとハジメは真剣に考え始めていた。またコウは奴隷であるためギルドに登録は出来ず口座は作れないのも問題であった。


数日後ハジメは店を休みとし、コウと共に奴隷商会に来ていた。戦闘が出来る奴隷を買うためである。色々悩んだが、コウの安全には代えることはできなかった。新たに購入する奴隷は基本的にコウと共に行動することが多くなるため相性が重要であると考えたハジメはコウを連れて来たのだ。


ふぅーと息を吐き覚悟を決めると奴隷商会に入った。中は清潔そうになっており、作りは2つのギルドと同じような作りになっている。違うのは入り口から遠いところに檻が設置されており、人が入っていることくらいであった。ハジメは顔を顰めながらカウンターまで来ると男が一人立っていた。その男に奴隷を買いに来たことを伝える。


「いらっしゃいませ。あそこには今入荷した奴隷が居ますよ。見てきてはどうですか?」


と先ほどの檻を指さし言った。


「いえ、色々条件があるのでそれに合う人をお願いしたいのです」


「わかりました。では性別と年齢、種族はどうしますか?」


「性別・年齢・種族は特にこだわりはありませんが、戦闘ができて店番が出来る人材が欲しいのですが」


「わかりました。案内しますのでこちらでお待ちください」


と奥へ消えた。不安そうなコウとコウの頭に乗るペン太と3人で待っていると一人の女性を連れて戻って来た。


「こちらのスタッフが2階の部屋までご案内します。そこで3人ずつお連れしますので決めていただければと思います」


と言うと奴隷の証であるリストリングをした女性が2階の部屋へと案内してくれた。そこにあったソファーに座り、テーブルにあったお茶を2人で飲みながらしばらく待つとドアが開き部屋へ案内してくれた女性とは別の女性を先頭に4人が部屋に入って来た。先頭の女性は


「私は契約や販売を担当するものです。よろしくお願いします」


と言い、始たちの前の椅子に腰を掛けた。


「まずは最近犯罪を犯し奴隷になった人間の男性です。以前は冒険者ギルドに登録していました」


コウがハジメの腕を強く握った。どうしたのかとコウの顔を見ると強張っている。何事かと思い奴隷を見るとセドルだった。次にはルドルフ、その隣にドルトが並んでいた。女性に


「申し訳ありません、その男とその隣の男、その隣の男の3人はうちのコウに乱暴をしたので外してもらっていいでしょうか?」


と伝えると3人は俯いてしまった。話さないことに不思議に思っているとそれに気づいたのか女性が


「あぁ、話せないのはリストリングによって声を出さないように強制されているんです。そしてそんな理由があったのに3人を紹介しようとしてしまい失礼しました」


と謝罪した。


「あなたのせいではありませんよ」


と言うと3人を退室させた。


「では、最後の1人だけご案内させてください。彼は狼の獣人族で18歳です。街で盗みを繰り返して奴隷になりました。戦闘能力はそれなりにありますが計算などは不得意です。リストリングの効果で凶暴性は制御されています。お値段は10万Sです」


商売が始まったことに対してハジメはやはり人身売買に対する忌避感が芽生える。気持ちが悪くなる気がし、早く出たかったがコウの安全を買うのだからと思い直しぐっと我慢した。


その後エルフやドワーフなど多種多様の種族を含め3回ほど面接をしたがこれという人材には会えなかった。担当の女性は


「次が最後です。1か月経てばまた変わっているので今回ダメならまた来月来られるといいですよ」


と言って笑った。ハジメは出来ることならもう来たくはないとは言えず笑顔を作って誤魔化した。

最後として入って来たのは年齢が10-13歳くらいの女の子が1人だった。人数には限りがあるため1人になる可能性は充分にあったが、彼女の纏った雰囲気が虚無だった。表情は笑っているのだが目は死んでいる、そんなアンバランスな雰囲気にハジメは飲まれそうになる。


「彼女は元商人の娘で、親は盗賊に殺され、その復讐で盗賊全員殺しました。その時囚われていた一般人を誤って殺害してしまい、奴隷になった経歴を持っています。戦闘力もあり、元商人の娘なので計算や商売なども可能かと。ハジメ様のご希望には沿っているかと。お値段は20万Sとなっています」


と女性が話した。10代初めで人を殺したというところが彼女の凄まじさを感じたが、ハジメはこの少女が気になって仕方なかった。コウの表情を見るとコウも嫌な顔はしていない。少女の種族は人間でコウと同じくらいの身長であり、痩せていたがガリガリと言うわけでなく、歳相応の体躯だった。淡いピンクの髪色で瞳もうっすら赤みがかかっていた。体には数多くの傷がついていた。


ハジメは少女と話してみたいことを伝えると、案内してくれた女性は「どうぞ」と許可をしてくれた。


「初めまして、私はハジメ、こちらはコウと言います。あなたにはコウと一緒に商売とコウの安全をお願いしたいのです。貴方はこの仕事をしてくれますか?」


人間はやると自分で決めた仕事と押し付けられた仕事では熱量が変わってくるのだ。始は看護師の仕事をしているときも思ったものだ。好きな患者さんには丁寧にそして細かい部分まで気にかけるが、そうでもない患者にはそこまでは見られない。看護師だった#始_・__#はそれはダメなことであったが、#彼らは人間__・__#である。

ハジメが自己紹介すると初めて彼女の瞳に色が付いた。


「私には仲の良い弟が居ました。その弟のようです」


と言い涙がはらりと落ちた。直観的にこの子は優しい子だと感じた。優しさ故の犯行。コウとも上手く姉としてやってくれるだろうと思った。盗賊への恨みを晴らせたために生きる目標がなくなり、瞳が死んでいたのだろう。彼女の感情のある笑顔はコウに向けられたものであった。


ハジメはこの少女と生活することを決めた。奴隷の制限は主人によって変わる。その制限をリストリングに登録することで奴隷をコントロールすることができるのである。

ハジメは人を殺さないことのみを制限とし、少しでも瞳の虚無がなくなればいいかなと思っていた。


彼女は名無しである。それは奴隷になる際に名前は全て破棄され、新たな主人によってつけられるかどうか決まるのが普通であったからだ。使い捨てだと思っている主人は名前を付けることはせず、奴隷と呼ぶことが多かった。ハジメは少女にあえて名を聞くと、


「両親からはリナリーと呼ばれていましたが、ご主人様が決めて頂ければ幸いです」


と目を伏せて答えた。20万Sを支払い、リストバンドに魔力を通しながら制限を流し込み、名前も登録するのである。それが終わり、ハジメはコウと少女に


「コウ、リナリー。家に帰ろうか」


と笑顔で振り返った。

3人はリナリーの着替えを買い家に帰った。3人の生活が始まったのだった。

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