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神々の依頼、面倒なんですけどっ!  作者: はなを
第6章 新しい国
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神様が降り立つみたいです

呆然と人々が空を見上げていると神々の中央にいた少し幼さが残りつつもひときわ神々しさを携えた女性が一歩前に出る。それと同時に左隣りの神以外は騎士が主に対して行う敬意と服従を示すとされる片膝を立て畏まる。これにより現在立っている2柱の神が神々の頂点にいることが分かる。


「あのお方は・・・」


フラップはバルコニーで平服しながら呟く。


「ハジメさんの教会にあった、アーシラトさま・・・?」


商業ギルド長のエヴァが同じ体勢で頬に汗を掻きながら独り言のように呟く。


【人の子等よ、騙し、傷つけ、奪い合い、私欲を肥やさんとする汝等の行いは目に余る。大を助けるため小を犠牲にするという営み・・・・人が生きていくには必要なこととは言え、我らも、我ら神々の愛する使者も疲れ果た。それ故二度と姿を現さないだろう】


美しく透き通り暖かみを感じる声が全てが凍てつくような言葉を紡ぐ。


「・・・ハジメ君が神々の使者だったと?」


冒険者ギルド長のセバスチャンが呆然と呟く。


アーシラトの左隣りの神がその神託を続ける。


【世界樹が根付いた今、1つの大地であることで争いが起こるのならば、分けることにする。これは決定である。汝らの陳情は聞かぬ。使者の身内たる者たちへの慈悲にて今こうして告げているだけである。我々神も二度とそなた達に姿を見せることはないだろう。加護は全て消え去るが技術は残るようにする。汝らの国というものがどうなっていくのか我らは関与せぬこととなる。汝らの行いにより、神の奇跡は二度と起こらぬ。創造神スクラドの名においてそう告げる】


激しい言葉が人々に降りてくる。


戦闘(いくさ)神コンバトールの名のもとに、加護を返してもらう】

【魔法神サージェリーの名のもとに、加護を返してもらう】

商神(あきないがみ)の名のもとに、加護を返してもらう】


【全ての管理者ワーデンの名のもとに許可する】


その瞬間両ギルド長の体から光の粉が飛び出し、神々に向かって飛んでいく。フラップたちはそれを目で追うと、世界中の至るところから同じような光が神々の手に戻っていっていた。


【人の子等よ。加護は失われた。己の力量を(たが)えぬよう忠告しておく】


ワーデンが少し柔らかい口調で告げる。


【【世界は生まれ変わる】】


アーシラトとスクラドがそう言い、杖を頭上に上げると、世界に激震が走る。地面は激しい振動し、体に伝わってくる。しかし木々は揺れておらず、古い建物も壊れることなく存在していた。木々も風に揺れ、場違いな鳥たちの穏やかな歌声が響いてくる。しかし確かに体は揺れを感じていて、立つことも出来ない。左右で平服している両ギルド長に視線を送ると彼らの体はぶれて見えている。ただただ人のみが揺れているだけという事なのだろう。


『・・・神の御業(みわざ)・・・』


フラップはそれを実感せざるを得なかった。1分だか10分だか、それとも1時間だったか。揺れは唐突に終わりを迎えた。


「・・・私たちは使者様を切り捨ててしまった・・・」


フラップが呟く。


「被害の確認をしてまいります」


エヴァとセバスチャンはそう告げると領主の家を出る。



~冒険者ギルド~


ギルドに戻ったセバスチャンは経験豊富かつ戦闘力が高い冒険者チームに街の外四方へと向かってもらい、登録したばかりの冒険者たちには町の被害状況の確認に向かって貰った。結局イブの街には混乱した住人たちが居るだけで建物などには全く被害がなかった。その日の午後クーラ方面に向かった冒険者たちからは特に変わりはなかったとの報告があっただけだった。しかし、翌日の午後西の大森林方面に向かった冒険者たちからは大森林は()()()()()()()()()に小さくあったとの報告があった。

そして更にその数週間後に北の帝国と南のダス国の間に海が出来ていて、対岸が小さく見え、海流も早く、とてもじゃないが泳いで渡ることは出来ないとのことだった。


「島になったということか・・・。神々の言われた1つの大地を分けるというのはこのことだったのか」


誰もいないギルド長室でセバスチャンはそう独り言を呟きギルド長室を出て1階の受付へと向かった。それを見た受付嬢の一人が


「ギルド長、どうかされました?」


と聞いてきたので


「今は少しでも情報が欲しいところですね。受付で冒険者たちの声を聴くことにしました」


と告げる。彼女は「なるほど」と頷き席を譲り、他の受付嬢の書類整理のサポートを行うことにした。


「お、ギルド長が今日は受付なんです?」


冒険者の1人から声が掛かる。


「えぇ。情報を得ようと思いましてね。それで魔物はどうでしたか?」


「なるほど。少し生態系が移動しているって感じかな」


とギルドに居た冒険者たちはそう言う。


「そうですか・・・・。これはまずいですね・・・。ポーラ、受付を代わってください。私は領主様の所へ行きます」


そう言って1時間もせずに受付を後にしたのだった。



~商業ギルド~


帝国から来たキャラバンからエヴァとベスパは話を聞いていた。彼らは神々が姿を現した時、丁度国境の検問所を通過している最中だった。


「私たちは10人の商人のキャラバンなのですが、私と後2人がアヴァ国に入ったとき、神様たちが降臨されたのでございます。そしてあの揺れが起こった時、検問所の途中から大地がみるみるうちに離れて行きました。私たち3名以外は帝国領と一緒に離れて行きました・・・」


彼らによると検問所も刃物ですぱっと切ったように中央で割れたが埃1つ落ちてこなかったらしい。


「ということは全ての国が島となった可能性が高いということ・・・?」


エヴァは思わず言葉を紡いだ。


「では、私たちはこれで失礼します」


「えぇ。情報ありがとうございました」


商人の言葉にベスパが答える。そしてその数分後、ギルド長室の扉が激しくノックされる。ベスパが怪訝な顔をして開けると受付嬢が慌てた様子で立っていた。


「ギルド長!!契約が、契約が出来ません!」


「え?なんですって!!」


3人で1階の一番奥の神殿へと向かう。元々、契約書を神に捧げることが出来る像は王都の商業ギルドにしかなく、最近までは王都に契約書を送付して神に捧げ、誓約となっていたが、魔力ポーションと体力ポーションの中心地となったイブの街はいちいち王都に送付するのは時間の無駄と言うことで、特例的に商神(あきないがみ)の神像が設置された。それによりいち早く契約することが出来るようになっていたのだが、受付嬢の話では今は出来ないらしい。以前の契約書は生きていると受付嬢に説明を受ける。


「契約の誓約を伏して願い奉る」


エヴァが神像の前で畏まり契約の儀式をすすめる。本来なら神像が光り、契約書に神の印が付くのだが、今の神像はまったく無反応だった。勿論神の印も浮かばない。


「神の奇跡は二度と起こらない・・・・。以前の契約が生きているのは神の慈悲か・・・」


エヴァの呟きにベスパと受付嬢は沈黙するしかなかった。


「王都の商業ギルドへ向かう。決まるまで契約は仮としておくように。ベスパは領主様へこのことを報告して」


エヴァはそう言ってギルドを、イブの街を出て行った。


ベスパが領主のもとを訪れたのはそれから30分くらい後であった。彼女が執務室へ続く廊下を進んでいると前にセバスチャンの姿が目に入った。ベスパが声を掛けると


「エヴァさんはどちらに?」


セバスチャンがそう問う。ベスパは


「領主様と一緒に報告させてください」


と話し、2人は執務室へと入って行った。


「まずは商業ギルドから報告させてください。契約が出来なくなりました」


そう告げると2人はぎょっとした顔をする。


「商神様が私たちにお応えしてくれなくなりました。ギルド長は『二度と神の奇跡は起きない』と宣言されたからだろうと言っておりました。彼女は今王都の商業ギルドで対応をどうするかの相談に向かっています」


あまりの出来事に2人は言葉を発しない。


「これからの契約については神の誓約は得られないでしょう。そうなってくると相手を信じるということしか出来なくなるでしょう・・・・」


あまりの報告にベスパ自身が困惑気味に告げる。


「・・・これは・・・」


フラップは思わず「こんなことあんまりだ」と大声で言いたくなった。自分の決断のせいで神々の力はあてにならなくなったのである。多を助けるために小を切り捨てる、それは貴族階級にとっては当然の選択である。しかしその小の中に神々の使者がいたのだ。ただそれだけだったのに、と彼は思ってしまった。


「冒険者ギルドとして報告します。魔物の生態系は変わっておりません。ですので街の安全は問題ありませんが、中級以降の魔物の素材は入手困難になります。また大森林がありませんので、様々な薬類は入手が困難になることが予想されます。神々の降臨の際大森林に居た冒険者もこの国へ弾き飛ばされたとのことで、10袋程度しかクスリとなる草はありません・・・」


淡々とセバスチャンは報告する。


「なんということだ・・・。なぜこんな目に合わなければならない・・・」


思わず飲み込んでいた思いが口を付く。


「仕方ありません。私たちは街を守るために神々の使者であったハジメさんを切ったのです。知らなかったとは言え、その責は私たちにあります。今はどうやって経済を回すか考えなければ・・・。金貨や銀貨は今ある数しかありません。この国はそういった生産はありませんでしたから。まずは貨幣となり得る鉱石の発見が優先されると思われます、おじい様」


ウォールがフラップの肩に手を置く。


「ベスパさん。今商業ギルドにある貨幣はどれくらい残っているのですか?」


「金貨・半金貨がおよそ50万枚、銀貨が100万枚、半銀貨と銅貨が500万枚くらいです。ハジメさんが資産をほぼ全額降ろしてしまったので1/8になっています。これでハジメさんが国外へと出たというのであれば、他国との交易が容易くない今となっては早くて数か月、遅くても1年程度で貨幣の価値が変わってしまいます」


その回答に絶句するフラップ。ベスパの答えを単純計算すればハジメの預貯金は56億(シード)、白金貨560枚近くあった計算になる。つまり、ハジメにお金を借りれば王弟に支払う白金貨500枚くらいは払えたということであり、そしてなにより今回のこのような大陸の分断は避けられた可能性があったということである。


「おじい様っ」


ウォールの声で我に返る。


「冒険者ギルド、商業ギルドに鉱山の捜査を領主として依頼する」


フラップはそう告げた。


『おじい様は自分の責任をハジメさんに転嫁しようとしているのか・・・・』


ギルド長2人と共に部屋を出ながらウォールはそう思った。

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