街作りをするみたいです
ハジメはスクナヒコに大森林の『始まりの地』に連れてこられていた。そこは10m四方の広場だった。広場の外は木々が所狭しと生えており、鬱蒼としていたがなんとなく居心地が良かった。ときどき聞こえる小鳥の歌は楽し気で、上から注がれる太陽の光はぽかぽかとしている。空気は澄んでいて冷たくもなく暑くもなくとても過ごしやすい。ハジメは目を閉じ、肺いっぱいに空気を吸った。
「うふふ。気持ち良さそうだね、ハジメ君」
スクナヒコから声が掛かる。
「えぇ。本当に素敵な場所ですね。今まで溜まってた負の気持ちが全部流れ出ていく気がします」
「あはは。やっぱりハジメ君も思うところがあったんだねー。スルーは流石にできなかったようだねー」
スクナヒコが笑いながらハジメに答える。
「やっぱり、私も人間ですから。流石に貰った領地返せとか言われましたらね。割と貢献してきたつもりだっただけに・・・。まぁでもここにいるとそんな気持ちもすっと無くなっていく気がします。本当に素敵な場所ですね」
「うふふ。そう言って貰えたらあの方も喜ぶと思うよー」
スクナヒコも深呼吸を始める。
「でも、本当にこんな素敵な場所開発してもいいんでしょうか・・・・?」
ハジメはスクナヒコを見る。
「問題ないよ。あくまでこの地は神々が最初に降りた場所ってだけだからね。謂わば空き地だから好きにしちゃってー。あ、でもハジメ君に着いてくる人の為に家だけは建ててあげないとね。あと、ここを中心に2㎞四方までは魔物ははいないけど、それより先は割と強いのが出るから城壁は必要だと思うよ」
スクナヒコはハジメを見つめて笑う。
「じゃぁ、あんまり時間もないから街づくりしてね。期間は1か月くらいなんだよね」
「1か月ですか?」
ハジメがその期間の短さに驚いて言う。
「うん。ハジメ君の船に積んでいる食料とかが1か月分くらいしかないんだよ」
「なるほど。じゃぁ急がないとダメですね」
ハジメがそう言うと、髪の毛に何かが巻き付く感じがした。
「たっつんも手伝いますぞー」
「ゼニーもいるんよー」
服の裾をひっぱりながら水亀も言う。
「たっつんに、ゼニーも来てくれたんだね。あぁ、紹介しておくね、この鳥が紅でこの白虎が白だよ。皆仲良くね」
子供のようでワイワイしていてなんとも和む。
「あ、ハジメ君、世界樹の移動は僕が声を掛けるまではしないでね。じゃぁ僕は船に戻るからね」
スクナヒコはそう言いながら手を振り姿を消した。
「よし、じゃぁ皆始めるよ。まずは城壁から作るかな」
そうハジメが言うと、たっつんが、
「じゃぁたつんが木を切るですぞー。風刃、思考読み取り」
ハジメたちの4方向へ風の刃が飛び、見晴らしが良くなる。
「・・・たっつん、あの境目が2km?」
ハジメが木が立っている場所を指して問うと
「そうですぞー。あそこから先は魔物が居るですぞー」
と答える。妖精もチートじゃないかとハジメは思った。
「主様、倒れた木は集めたので宜しいですか?」
紅がハジメの右肩で言う。
「そうだね。使うだろうから後で集めるよ」
と言うと
「私と白で集めます」
そう言うと紅は飛び立ち、大木を両足で掴んで1か所に集め始める。白は口に咥えて運んでいた。ゼニーは相変わらずハジメの服を噛んでぶらぶらしている。ハジメはなんだか和んだ。
「じゃぁ、俺は城壁作るろうかな。土生成、思考読み取り」
ハジメの意図を組んでまっすぐな中心地から西に土壁が競り上がり南北へ2㎞伸びる。
「固定、思考読み取り」
土壁が石のように白く変化する。表面も石を積み上げたようにデザインされていた。そうして四方が数分のうちに城壁によって囲まれていた。
ハジメは妖精が集めてくれた木を次々にアイテムボックスに仕舞って行く。2時間ほどで全てを収納し終える。
「じゃぁ、次は整地だね。整地、思考読み取り」
地面がゴゴゴと揺れ、大地は隆起したり陥没したりし始める。そして残った木の根は大地からスポンと抜けハジメの横に山を作っていく。10分ほど震度2くらいの揺れが続くと城壁に囲まれた大地は真っ平になった。
「まぁこんなもんかな、あとは大通りを作ってと・・」
ハジメは自分の考えを纏める時いつも口に出して口と耳で確認できるように独り言を言う。これは看護師になるために勉強していた頃に先輩から聞いた整理方法だった。多くのやらなければならないことを全て覚えておくのは無理だったし、不意に発生する事態に対応するとどうしても抜けてしまう。それを相談したところ、教えてもらったものだった。しかし働き始めて1年ほど経ち、後輩が入職した際に仕事量が莫大に増えた為、付箋を使ってタスク管理をするようになった。ミスは人の命を左右することが多く、抜けは笑って済ますことは出来ない。今は付箋なんてものはないから、依然と同じように声に出して耳で聞いてそれで良いか判断するというタスク管理をしている。
「汚泥、思考読み取り」
ハジメの立っている場所から東西南北に幅3m、深さ20cmほどの泥濘が城壁の直前まで伸びる。そしてアイテムボックスから舞と航によって作られた石畳を全部出すと4人の妖精にお願いし、そこへ敷き詰めてもうことにした。4人は白と紅が石を敷き詰めたっつんが上から風で押し、ゼニーが泥から水分を抜き固定するという方法に話し合いで決まったらしく頑張ってくれている。ハジメは嬉しそうに微笑んで暫く眺めた後自分はその泥に沿って西の城壁へと向かった。
「ここに扉を付けないとね。モノづくりの手、造形」
ハジメは扉を作る場所の石を手で触れて錬金術のスキルを発動すると、城壁はみるみると石で出来た観音開きの城門が出来る。扉は村側に開くようにした。そして扉の上の城壁を1mほど高くし、神像を作った後の残りの光の石で白をモデルとした像を2体作り、その城壁に狛犬のような配置で置く。そして残りの3方向でも同じように門を作っていった。そして北門の上にはゼニー像、南門には紅を置く。そして東門にはたっつんを・・・と思ったがタツノオトシゴではなんとなく抵抗があったので、龍の姿の像にした。光の石は4属性の魔力が溶け込むことでその色を白に代えて結界の属性を持つ石の事で、設置するだけである程度の魔物が近づかなくなる効果がある。これである程度の予防線を張れたことになる。そして次に城壁の四隅を2mほど高くし、物見のための井楼を作りあげた。
『まぁ兵なんていないから気分的なものだけどね』
ハジメは少し笑った。そのために井楼には階段などの上る手段はなかった。
「次は、歩道のスペースかな」
前のクーラでは歩道も馬車道も同じだったが、子供が轢かれることが割とあった。そのたびにポーションで治すことがあった。途中からは馬車が気を付けてくれては居たが、避けるに越したことはない。馬車道の左右に幅1mほどの歩道を作る。基本はここを歩くことにして横断歩道的な物を何か所か作っておいた。そして今日の寝床として馬車道が交差する場所の左上にアイテムボックスから取り出した家を設置する。
『人数減ったからこの家では大きいなぁ』
しみじみとそう思った。まだ西門へと向かう道は1/10程度しか出来ていない、このままだと1か月で道しか出来ないことになってしまう。そう愕然としながら布団に入るとふと助手が居ることを思い出した。
「あ・・・・。明日から手伝って貰おう・・・」




