家具が揃うようです
支払いを済ませたハジメは
「あの、布団てどこで買えますか?」
と店長に聞くと、
「俺の嫁さんが裁縫師やってるから紹介するよ」
と言われ右手ですぐ手前の場所を指すと、いつの間にか丸太の奥に言った店長の奥さんが立っていた。いつの間に出現したのか分からなかったハジメの右頬に一筋の汗が浮かんだ。
「本当にありがとうございます。布団はベッドと一緒に持って行くようにするからね」
と薄いグリーンの髪を持ち一見普通のいでたちだのアーヴィンの妻が笑って言った。
「あ、布団は今日から使いたいんです」
とハジメが言うと
「あらあら、大丈夫ですよ。今直ぐにうちの店長とその弟子がお宅へお邪魔しますからね」
と言い店長とボロボロになった弟子たちを振り向き見ると、6名の男たちは無言でコクコクと首を縦に振った。アーヴィンの妻の顔はハジメの位置からは見えなかったが、『世の中には知らない方がいいことがある』と思いスルーした。大人の男はスルー力必需なのだ。
直ぐに親方と弟子の3人でテーブルをハジメの店の地下へと運び部屋の中央に設置した。続けて親方は
「ここに置くなら壁に材料や出来上がったポーションを置ける棚を4つほど作るか」
と言い、採寸をしていった。採寸後弟子の2人は棚を作るための材料を加工するために会社へ帰っていった。そしてキッチンをみるために3人がちょうどオースティンの店で買ったポーションの瓶100個と調剤用の瓶が届いたので取りあえず店舗へと仮置きした。
「なるほど、販売用の棚はあるんだな。キッチンにはテーブルと椅子を6脚ってところか」
とハジメが対応している間に採寸が終わっていた。そこで残った弟子が1人店に帰って行った。親方と2人でハジメの部屋の家具を見に上がった。ハジメは一番奥の部屋を自室にすることにした。すべての部屋をみたが、一番奥が一番広かったというのと、窓が2面あり採光も充分であったためである。ちょっとしたベランダもあり、椅子と小さな机を置いて夜風に当たることが出来そうだった。
親方は採寸し大きさを決めた。ベッドの他にテーブルとタンスを作ってくれることとなった。ハジメは感謝を述べ1階に降りてきた。
カウンターまで来ると、ハジメは親方にカウンターの右端を跳ね上げ式に出来るようにならないか聞くと、
「それは簡単だぜ。ベッド持ってきたとき作ってやる」
と言い、彼は店に戻って行った。
夕方近くになってベッドと布団、ダイニングテーブルセット・食器棚が運び込まれた。タンスなどの少し小さな家具と地下の棚は明日持ってきてくれることになっている。ベッドはセミダブル程の大きさでマットレスも程よく硬くハジメ好みであった。アーヴィンの妻シラトの裁縫師としての腕前はとてもすごいとしか言いようがなく布団もふかふかで適度に重さもあり、何より軽かったのだ。触り心地もよく、地球の頃よりも寝具は良いものが揃えられたと思う。アーヴィンの家具も丈夫そうで見栄えもするものであった。彼らの実力はとても素晴らしかった。
カウンターの跳ね上げ扉もすぐに作ってくれ、
「余った材料で看板も作ってみたぜ」
とがははと笑い、体力ポーションを型どった看板を玄関の上に取り付けてくれた。
彼らが怒涛のように去って行ったあと、ハジメは全ての窓を全開にし、
<微風>
と唱え店舗の中央に中心が来るようにそよ風を魔法で起こす。店内の塵を中央に集め、ちり取りと箒で全て集めた。明日にでも水拭きすれば2-3日後には営業できるだろう。既に2階の自分が使う部屋とトイレは掃除を終わらせている。ハジメは自分の店を眺める。商品棚にポーションを10個設置することにした。しばらくはお客は来ないであろうが、オースティンに卸す5個のポーション代金が入るため無収入ではない。そのことが彼を少し安心させる。人間は些細なことで安心が出来るのである。ハジメは近々始まる新しい出来事に心をウキウキさせながらペン太をモフりながら暫く店内を見渡したのだった。ペン太も満足そうに眼を細めていた。
次の日ハジメはオースティンの店でいつも通り体力ポーションを卸すと自分の店に帰り、午前中を使って水拭きを行った。新築のようにとはいかなかったが、満足のいく仕上がりとなった。その後昨日買いそろえたキッチン用品や生活用品、食器などを仕舞っていった。キッチンでサラダとパンで軽くブランチを摂り、午後からは地下で新しい机を使い、調剤をすることにした。ペン太と離れるのは躊躇われたが今日はアーヴィンが家具を持ってくるのでノックが聞こえないのは困るのである。ペン太にアーヴィン達が来たら教えて貰うように頼むと
「おっけー。果物でいいよー」
と報酬を要求されたが、勿論二つ返事で「おっけー」と答えた。元本であるペン太が食べ物を食べていいのかわからなかったが、本人が食べると言っているのでオースティンの店からの帰りに市場で買ってきている。皿に乗せテーブルに置いておいた。そしてハジメはいつも通り調剤を始めた。
使用してみて本当にこのテーブルは使いやすい。ロート台も動かないし作業場所も広い。脚もしっかりしているので乳鉢で薬草を磨り潰してもガタガタせず、スムーズにポーションを作ることが出ている。本当に作業しやすい。調剤瓶5本分を作り終わり、もう少しで6本目が一杯になるであろう時ペン太の声がする。
「誰か来たよー」
ハジメは手を洗い拭きながら階段を上がって行った。ドアを開けるとアーヴィンの弟子2人がタンスと板を抱えていた。ハジメの部屋のタンスを作って持ってきてくれたのである。タンスは5段であり、半畳くらいの横幅でハジメの持っている服は充分に入る。むしろ3段分入っていない。
「ハジメさん、もし良かったら地下に今から棚を作らせて貰っていいですか?板持ってきましたし、もう一回取りに帰りますがそれで棚4個作っちゃいますね。作業始まったら3時間くらいかな」
とのこと。ハジメはお願いしますと答え、その間にポーション作りを終えてしまうことにした。
ハジメが地下に降りていくと丁度調剤瓶に入り終わったところであった。地下にも手洗い場があり、片づけることが出来る。全てアイテムボックスに仕舞い1階へと戻っていった。
15分程経つと弟子2人とアーヴィンが扉をノックした。
ハジメは3人を地下へ案内し、自分はペン太をモフっていた。
3時間後「出来たぞー」というアーヴィンの声で下に降りていくと棚が4つ階段を下りて右側に並んでいた。かなりの収納力がある。
ハジメは礼を言うとアーヴィンは
「今後は金貰うからな。よろしくな」
と笑い帰って行った。
「これで準備は一応終了だな。あとは借金返済しないとな。取りあえず風呂に入ろうかな。ペン太―。一緒に風呂入る?」
と聞くと
「入りますぅ。お風呂―」
と返事があった。元は本だが大丈夫らしい。ペンギンなのに熱いお風呂が好きなようだ。
風呂場に着くとハジメは、
<水生成>
水素と酸素を結合させ、それによって作られる熱で湯を作りだした。風呂や家事に使える魔法であり、戦いには向かない家事魔法。異世界物では生活魔法って言われるかな。この魔法、短時間で水を作れば熱い湯が、時間を掛けると温い水を生み出すことが出来るという応用力のある魔法なのである。
今回は風呂であるため中間の時間で作成することにした。溜まった水に手を入れると少し温めであるが充分に入れる水温であった。
「ペン太―。風呂入ったよー」
と声を掛けるとドアに体当たりするような音がした。
「開けてー」
とペン太の可愛い声がし、ハジメはにやりと笑うのであった。
勿論ペン太を愛でるのは良い気分であったが、風呂はそれ以上に気持ち良かった。風呂に入って温まっているとペン太が
「ご主人、5頁目のクエストが全部クリアになったみたい。報酬が奴隷みたいだよ。賑やかになるねー」
とペン太が水をパシャパシャしながら言った。
「・・・・奴隷?・・・・」
ハンドブック 5項目目
5-7.看板を掲げよう。:Clear!
5-8.店を開店させよう。:Clear!
5-9.風呂を沸かそう:Clear!
5-10.風呂に入ろう:Clear!
5-11.報酬:奴隷




