店の装備を整るようです
オースティンの店に入って行くとジェーンが売り物の埃を掃っているところであった。
「あら、おはようございますハジメさん。今日の分の買い取りですね。ご主人様ハジメさんが今日の納品に来られましたよ」
とカウンターの裏に向かい声を掛けると暫くしてオースティンが出てきた。
「おはようございますハジメさん」
笑顔でオースティンが言った。
「おはようございますオースティンさん。実は今日店舗兼家を購入しましたのでその報告がてら来ました。背中を押してくださってありがとうございます。また保証人になって頂きありがとうございます。ご迷惑はおかけしないようにしますので」
ぺこりと2人に頭を下げると右肩にいたペン太もハジメに倣って頭を下げる。
「いえいえ、気にしないでください。私はハジメさんなら大丈夫と思っての事ですので」
と言い、左肩をぽんと叩き続けて言った。
「それだけでいらっしゃったんじゃないでしょう?」
「えぇ、実は家具屋とかご存知でしたら教えて頂きたいのと、ポーションを入れる瓶や調合用の大きな瓶を買いたいのですが」
とハジメが下げた頭を上げながら言った。オースティンは
「あ、遅れましたが店舗を持たれておめでとうございます。では私の店での買取は今日が最後ですかな」
と寂しそうな顔をしてハジメをみた。
「いえ、これからもお願いしたいのです。支払いもあるので。借金まみれです」
と苦笑いで答えた。オースティンはあははと笑った。
「そうですか。良かったです。効果が高いって言って午前の早い時間にハジメさんの作ったポーションは売れてしまうので、助かっているので」
と笑顔で言われ、ハジメも笑顔になった。
そしていつも通り体力ポーションを買い取って貰い、ポーション用の瓶を100個、調剤用の大きな瓶を4つ買った。
ポーション用の瓶は買うと100Sであった。オースティン曰く、持ち運んだりする手間を考えると150Sでも構わないという人が多いとのことであった。調剤用の瓶は1個1000Sであった。
ハジメはオースティンから聞いた家具屋に向かう。
場所はハジメの店舗の一本奥の通りにあった。1階の店舗部分は柱が数本立っているだけで壁はなく転生前のオープンなガレージのようになっていた。一番手前の柱にトンカチのマークの入った看板が掛かっている。2階に相当する部分が事務所のようになっている感じであった。建物の奥には広い屋根付きのガレージがあり、そこに丸太が乾燥のため所狭しと並べられていた。事務所の下には筋肉質な男たちが2人で引く二人挽き鋸で丸太をぶつ切りにしていた。その隣の作業台では3人の男が木を鉋で綺麗に削っていた。その光景は清涼飲料水のCMが似合いそうな雰囲気である。したたる汗、きらめく太陽、踊る筋肉・・・いや、気の迷いかも。やっぱり、したたる汗、きらめく太陽と青空、端正な顔立ちのスポーツマンの方が購買意欲を掻き立てる。そう明後日な方向の考え方をしていたハジメ。家具屋の敷地の一番手前にカウンターのような場所があり、男たちの作業の様子を見ている作業員よりも一回り年配の男が立っていた。その男がハジメに気づき声を掛けてくる。
「兄さん、なんか家に用事かい?」
テノールのいい声であった。
「すみません、オースティンさんの紹介で来ました」
とハジメが伝えるとカウンターにいたテノール声のずんぐりむっくりの髭もじゃの背の低い男が
「いらっしゃい。オースティンの紹介か。で何が欲しいんだい」
と愛想よく声を掛けてきた。
「ここの一本手前の通りでポーション屋を開くことになりましたハジメと申します。店舗と家で使う家具、調剤用のテーブルが欲しくて訪ねてきました」
「あぁ、そうかい。依頼ってことだな。俺はアーヴィンって言うんだ。ここの店長だ」
と言う。それが聞こえたのか汗を拭いていた作業員が
「て、店長って。。。親分じゃん」
と言って笑い始める。親・・・いや、店長は
「お客人の前でなんてこと言うんだっ。俺の顔じゃシャレにならんだろうが!」
と言いながら作業員の頭に拳骨を落とした。落とされた作業員は頭を押さえつつ「親分の拳骨は殺人できるよ・・・」と言っていた。なんとま仲が良い職場だなーとハジメは嬉しくなった。
ハジメが取り急ぎ必要なもの布団と調剤机であった。なのでベッドやタンスなどは急がなくてもいいのだが、この世界では完成された家具は売られていないらしく、オーダーメイドでの作成が主であるとのことで、早ければ2-3日、遅ければ数か月、有名な家具屋になると数年単位で待つ必要があるとオースティンから聞いていたハジメは店舗から近い家具屋へ最初に来ていたのだ。
ハジメが依頼を伝えようとした時、2階の玄関が開きいかにも執事ですと言う服を着た男が降りてきて、その後を追うように眼鏡を掛けたいかにもインテリという容貌の店主よりも小さなドワーフが
「そ、それは困ります。もう完成しているんですよ。今日納品の予定だったじゃないですか、急にそんなことを言われても」
と慌てて声を上げている。執事は
「ご主人様の言伝は今お伝えした通りです。亜人如きがわが主人族のバルザック子爵のお考えなど分からないという事ですか。本当に困ったもんだ」
とかぶりを振りながら淡々と言い放ち家具屋の前に止めてあった馬車に乗り去って行った。それを見ていたアーヴィンが
「ドル、どうしたんだ。バルザック子爵っていやー今日納品する相手だろ?」
と執事を追いかけて降りて来たドワーフに声を掛ける。
「親分・・・・。テーブルのキャンセルが出ました。今の執事がそれだけ言って帰って行きました」
「せめて親方と呼べといつもいってるだろ。俺の顔じゃシャレにならんだろうが!」
と店長は怒鳴り、右手でドカっと拳骨を落とした。ひどく鈍い音が響いた。ハジメは脳挫傷や頭蓋内出血を起こしては大変だと慌てて手持ちのポーションをドルと呼ばれたドワーフの頭に振りかけた。ポーションは飲んでよしかけて良しなのだ。飲むと体全体が回復するが負傷箇所に直接掛けると飲むよりも高い回復力を発揮するのだ。今回頭部を殴られたので直接振りかけたのだった。少し残ったので、さっき叩かれたドワーフの頭にも振りかけていた。
「店長さん、ダメですよ。頭をあんなに強く叩いたら。脳が壊れたり突然死ぬこともあるんですよっ」
とぷりぷりしながらハジメは怒った。それが伝わったのか、右肩に乗っていたペン太もぴーぴーと泣きハジメに続いた。
「す、すまねぇ」
恐らく事の重大性を理解していないが温厚そうなハジメが血相を変えて怒り始めたため頭を下げた。それを見ていた周囲の作業員たちは
「・・・す、すげー。親分が大親分以外に謝った・・・」
「何者なんだろ・・・」
と口々に話していたが、ハジメは元40歳のスルー力で華麗に聞こえない事にした。その時作業員の後ろからのんびりとした口調だがハジメが今まで感じたことのない殺気が出現した。
「あらあら、大親分って誰の事かしらー?」
一瞬にして周囲の空気が変わった。
「お、お、大親・・・いや店長の奥さんっ・・・・」
作業員たちは顔面を蒼白にしながら後ろを振り返った。
「あなたたちこっちでお話合いしましょうね♪」
と笑顔でいい、左手で屈強な男5人の襟首を持ち丸太の後ろへ去って行った。茫然とそれを見送った店長とハジメは数分後
「「「「「ぎゃーーーー、ごめんなさいーーーーー。もう言いませんーーーーーー」」」」」
と聞こえたがここもスルー力を発揮させておいた。
男たちの声が聞こえなくなり数分後店長が
「ド、ドル。あの貴族のクソガキからの依頼だった机か?今できたばっかりのやつか?」
と右頬に汗を垂らしながら腕を組み言った。
「は、はい。そのテーブルです」
と肯定したドルのこめかみにも一筋の汗が浮かんでいた。ハジメは
「あ、あの、取り込み中のようなので出直しますね」
と早期撤退を試みた。
「あぁ、すまねぇな。貴族のガキが調剤するって親に強請ってものらしいだが、もう飽きたんだろうな。クソっ」
と吐き捨てるようにいった。そしててったぃ・・・帰ろうとしているハジメの肩を持ち
「そういや、お客人、調剤するテーブル買いに来たんだったよな?」
と言いニヤリと笑った。逃亡を阻止されたハジメは焦りながら
「値段次第ですよ。俺そんなにお金ないんで。ベッドとか家具も必要なんで」
と告げたが、店長とドルに前後を挟まれ逃げることが出来ず犯罪者のように机がある場所まで連行されるのだった。
今ハジメの前にあるテーブルは彼の嗜好に合っていた。木目の綺麗な天板にしっかりとした脚。テーブルの四隅は曲線になっており安全設計であると同時にテーブルの素敵感を出していた。またヘリは上にすりあがっており、零れた薬剤が床に落ちないようになっていた。形状はアイマスクのような感じでテーブル中央が中心に向けて凹んであり、アルコールランプを設置できるようになっている。また天板の左隅にはロート台をはめ込めるようになっていた。本当に調剤に特化したテーブルであることが分かった。ハジメは心を奪われ、
「これいくらですか?」
と店長に向かって聞いていた。
「本来なら150万Sなんだが材料費のみの60万Sでお願いしたい」
と親方が言う。60万Sというと、ハジメの現在の貯蓄の1/4以上になってしまうのである。しかし本来150万Sなのだ。貯蓄の3/4の品物が1/4・・・・悩むところである。なんせ収入はある程度見込めるのだ。ローンも月々60万Sとなっている。悩んだが出した答えは
「これからベッドを買ったりやご飯食べたりと生活しなければなりません。借金もありますので、厳しいです」
ハジメは正直にそう言う。なにかあったときの事を考えれば断るしかなかった。店長は
「借金ていうのはなんの借金なんだ?」
と訝し気に聞く。
「家を買ったんです。買ったばかりなので家具が何もないので」
と答えると、店長は
「このテーブル買ってくれたら10万Sでキッチンと店舗、1部屋分の家具を作る。買ってくれないか?」
と提案してきた。
「買います」
その提案にハジメは即決していた。それほどこのテーブルが気に入ってしまったのである。
ハンドブック 5項目目
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