畑を蘇らせるみたいです
豚獣人の彼の名はムジムと言った。彼はここから少し歩いたところにある獣人の村の住人で農家をしているのだが、
農作物が下の方から黄色くなり、茎は弱弱しく実をつけても少量のみで、村の死活問題になり、一番若かったムジムが下の階の猫族長老に使いに出されたという話だった。もうすぐ下への階段というところで何の気なしに蹴った小石がマルチビーに当たったらしく襲われたのことだった。
「ハジメさん。マルチビー倒せるのでしたら、お願いですから村まで連れ行って欲しいぶぅ」
偶蹄を合わせて懇願され時にハジメは彼を護衛することを決め、今2人で村に向かって歩いていた。偶蹄を合わせてお願いする姿はハジメのスルー力を持っても出来なかった。途中で残りの5匹中2匹に遭遇し、蜂蜜をゲットした以外特にトラブルなく護衛出来ていた。目の前に村が見えて来くると出入口に数人の獣人が居て、ムジムの姿を見て近づきたかったのだろうが、ハジメが隣に居るのでそれで躊躇っている様子だった。
ムジムは村の入り口まで来ると
「村長。ただいまかえりましたぶぅ。こちらはハジメさんと言いまして、マルチビーに襲われていたところを助けて貰いましたぶぅ。それでここまで護衛して貰いましたぶぅ」
とハジメを紹介する。すると出迎えた村人たちは安堵した顔になり、ムジムよりも少しだけ年上であろう男性が
「それはそれは。本当にありがとうございますぶぅ」
と頭を下げる。
「それで、猫族の長老から解決策は教えて貰ったぶぅ?」
とムジムの顔をまじまじと見る。
「・・・猫族の長老は分からないと言ったぶぅ。今までここでこんなことは起こったことはないと言ったぶぅ」
その途端村人は目を伏せ落胆を見せる。
「・・・そうかぶぅ。長老なら何か知っているかと思ったのだけどぶぅ」
「ムジムさん、作物の葉が下の方から黄色くなって実がなりにくいって言いましたよね?」
とハジメが言うと彼は「そうだぶぅ」と肯定する。
「見せて頂いても?」
と言うと村長が
「どうぞぶぅ。もし何かわかったら教えて欲しいぶぅ。人族のハジメさんなら何か分かるかもしれないぶぅ」
と畑へと案内してくれた。畑は1反が5つあり、10m×100mが5つ並んでいる。手前からトウモロコシ、大豆、菜種、サツマイモ、雑草が栽培されていて、その全ての畑の作物が下の葉から黄色くなっており、全体体に元気がない。茎の上にある葉は小さく葉脈は暗い紫色になっている。明らかかな窒素飢餓状態である。
「・・・この畑って雑草をそのまま混ぜて畑作りました?」
とハジメが村長に言うと
「・・・なぜそれを?そうですぶぅ。いつもそのようにして畑を作っていますぶぅ」
「いつもり多く雑草を混ぜたとか???」
ハジメは更に問う。
「えぇ。前回は全てマルチビーにやられてしまって実は出来なかったんだぶぅ。だからそのまま土を作ったんだぶぅ・・・」
「・・・やっぱり・・・。窒素欠乏だと思いますよ。ちょうどいい具合に大王イカがあるので、畑に混ぜてしまいまいましょう」
雑草などをダイレクトに土に混ぜると土中の微生物がそれらを分解させるために大量の窒素を消費してしまい、窒素飢餓、窒素欠乏の状態となる。前世では窒素肥料があったのでそれを混ぜるだけだったが、今はそんな化学肥料はない。そこでこの大王イカが役立つのである。このイカの筋肉には浮力を得るために筋肉に塩化アンモニウムが大量に含まれている。この塩化アンモニウム、塩安とも呼ばれ農業には必要な3大要素の1つになっている。この塩安は水に溶けやすく、植物が吸収しやすい性質を持つ。
この知識は高校の農業科で勉強したことである。因みにハジメは農業高校、大学法学部、看護師専門学校の流れで卒業しているという少し変わった学歴を持っている。
ハジメはアイテムボックスからダイオウイカの足を3本程取り出す。大王イカの足が1本およそ1トンほどでこれで濃度25%の塩安を5リットル程作ることができるので3本で15リットル程となる予定。
「分離、塩化アンモニウム」
ハジメは半分に切ったイカの足から塩化アンモニウムを下に敷いたシートの上に分離させる。粉状になったそれはハジメの想像以上に多かった。200kgで250mgの予想が8倍の200kgで2000mgはありそうである。1本の足で10000mgの塩安が取れ、40リットルの水溶性肥料が作れることになる。2本で80リットル。それだけあれば十分だろう。
水生成で生み出した水球に塩化アンモニウムを錬金術の親和で濃度25%に調整し、水魔法Lv10の思考読み取りで雨のように降らせた。
「取りあえずこれで様子をみましょう。多分大丈夫だとは思うんですけど・・・」
ハジメがそう言って村長を振り返るとムジムが
「葉の色がもとに戻ってきたぶぅ」
と叫ぶ。
「ムジムさん、それはいくら何でもは早すぎ・・・・る・・・・」
ハジメが再び畑の方を見ると青々とした葉が茂り、茎も先ほどの倍近くまで太くなっている。作物によっては既に花を付けている。
「えぇぇぇぇぇぇぇ」
ハジメは思わず叫んでいた。そうしているうちに花は散り、結実し始める。それを見た村長は
「有難やぶぅ。みな、クイーンが来る前に収穫してしまうんだぶぅ」
と号令をかける。ハジメが茫然としているうちに全体の半分ほどの収穫は終わっていた。
『ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ』
地面を揺らすような低い羽音が聞こえ始める。
「クイーンだぶぅ。女子供は退避、男は出来るだけ収穫するんだぶぅ!!」
村長が大声を上げる。女性と子どもは家屋へ避難して行き、残った男たちが必死に収穫を続けていた。暫くすると森の方から今までのマルチビーよりも2周りほど大きい蜂が姿を現した。
「クイーンだぶぅ!退避するぶぅ」
村長がそう叫ぶや否や大きな蜂は一気に加速して村へ近づいてくる。その蜂の後ろから2匹のマルチビーが追従している。
「風刃、巨大化、分裂」
ハジメは3匹のマルチビーの足元を狙い蜂の巣を地面に落とした。そして
「土箱、巨大化」
「土箱」
「土箱」
「水生成、巨大化」
「水生成、巨大化」
「水生成、巨大化」
大きい蜂とは言え大きな土箱で囲めば問題はない。こうして全てのマルチビーを倒し、蜂蜜を手に入れたのであった。手下の蜂からは今までと同じ蜂蜜が取れ、2周り大きいクイーンの巣からはローヤルゼリーが1トン採取できたのだった。
さくっと倒してしまったので、村長とムジムは驚いていたが、ハジメ的には一気に成長する農作物の方が驚愕度は遥かに高い。クイーンと闘っている間に1/10残っていたトウモロコシ・大豆は種が落ち、既に発芽している。もう少ししたら再度収穫出来そうである。
「なんですか、このとんでも農作物・・・」
「いやいや、ハジメさんこそ、クイーンに反撃されずに倒すなんて、なんなんですかぶぅ・・・」
と言う村長とムジムだった。




