キャラじゃないみたいです
階段を上り切ったところに宝箱が1つ置かれていた。
【エキストラ以外の依頼クリアを確認。ステージ2クリア。宝箱2つを解放します】
ハジメが蓋を開けるとそこにはチャコマーカーと巻き尺が置かれてあったので、それをアイテムボックスに仕舞う。
【ステージ3、開始】
「さてと、上への階段を見つける前に従業員の服用のジャイアントスパイダーの糸を集めなきゃ」
そうやってハジメは森へ向かって走り始めたのだが、足が縺れて転んでしまった。まるで自分の体ではないかのようだ。森へ入るのを一時中止し自分の身体能力を確かめる。100mほど走ってみると今まで通りのスピードで着く。4回足が縺れてもである。ジャンプすれば森の木を見下ろしてるし、岩を殴れば砕けている。
「・・・なぜに?・・・」
ハジメは呟き、確認の為ステータスを開く。
名前:ハジメ
種族:人
職種:錬金術師 Lv.7 (2↑UP)
副職:なし
年齢:19歳
性別:男
体力:Lv.5 (+10)
耐久:Lv.5 (+10)
敏捷:Lv.7 (+10)
器用:Lv.10(MAX)
魔力:Lv.10(+10)
魔抗:Lv.10(+10)
幸運:Lv.10
スキル一覧
パッシブスキル
人外
・言語理解 Lv.∞
・魔力循環(異)
・魔力浸透(異)
Lv.10
・四百四病耐性
・匠石運斤
錬金術のレベルが上がっているのは知っている。アクティブスキルも変化はない。問題はステータスである。この+10とはなんなのかハジメには分からなかった。それにパッシブスキルの人外の欄にある魔力循環はまぁ分かる。エティに教えて貰ったのだから。でもその後ろの(異)とは何か分からなかったし、魔力浸透(異)も何のことか不明であった。
取りあえず知った時の精神的ダメージが少ないだろう魔力循環(異)を鑑定してみる。
魔力循環(異):異世界の知識で自動循環する。その動きは永久であり死ぬまで止まらない。魔力及び魔力抵抗のレベルが倍になる。MAX20レベルで10レベル時の5倍の効果となる。尚1レベル下がる毎に倍率は0.5倍ずつ減少する。
ハジメは固まった。10レベルの時でさえ鉄の針があったとは言え、暴風1発で1万強の蟻を屠れたのである。それの5倍ともなると、恐らく目の前の森を草原に変えることは容易であろう。体の変化に気づかなかったら蜘蛛3匹くらいなら何の迷いもなく暴風を使うところだった。
魔力浸透(異):魔力循環と共に体の全ての細胞に魔力を行き渡らせ、体力・耐久・敏捷の身体能力のレベルが+10される。MAX20レベルで10レベルの時の5倍の効果となる。尚1レベル下がる毎に倍率は0.5倍ずつ減少する。
「・・・・つまり、体力・耐久は10レベルの時の2.5倍、敏捷は3.5倍?」
ハジメは両膝と両手を地面につけ本気で凹んだのだった。ハジメ的には一般人でありたかったのである。「ふっ、どこを切っている」とか「それは最弱魔法だっ」とか「今何かしたか?」とか「その程度で俺は倒せんっ」などに代表される俺TUEEEEEはしたくないのだ。自分の性格上それは完全に無しだったのだ。それが気が付けば”脱人間おめでとう”状態だったのだ。それはマジ凹みしても仕方ないだろう。暫く嘆いているうちに”脱”脱人間おめでとうの方法を思いつく。まるで某魔術師の願いのようだ。
「……そうだ……。付与があるじゃないかっ、付与が!!付与で弱体化を掛けたらいいんだ…。アイテム作って肌身離さず装備してたらいい。指輪とピアスは邪魔だから、ネックレスにしよう。そうだそうしよう。こうなったら速攻で帰って作ってやる!」
ハジメはアンデットのようにふらふらと立ち上がり塔を攻略すべく走り始めたのだった。それから1時間ほどでジャイアントスパイダーの糸を50個ほど集め、階段を探して猛ダッシュしていった。こんな時も欲しいものはゲットするハジメだった。そして階段を見つけたのであるが、そこにいたのはゴブリンの軍団だった。その半数はゴブリンウォーリア、ゴブリンマジシャン、ヒーリングゴブリンなどの中位種であり、残りの軍団の半分はゴブリンナイト、ゴブリンソーサラーなどの上位種、そしてゴブリンの最上位2種である、ゴブリンキングとクイーンゴブリンだった。
「どけーーーー。俺は弱くなるんだーーーー」
と叫びながら体の前全面から風刃を放つ。それは今までのものと比べて、1つ1つが遥かに長く、不可視で、その数は数えきれないほどであった。そのほぼ初期魔法1つで3万ほどのゴブリンの軍団はその命を終わらせたのだった。
【ゴブリンの殲滅を確認。ステージ3クリア。宝箱1つを解放します】
裁ちばさみをゲットしたのだ。それをアイテムボックスに入れると、そのまま4階へと階段を昇って行った。そして彼の目の前に広がっているのはジャングルだった。
【ステージ4、開始。ここでは物理攻撃ができません】
と直接頭に響いてきた。
「問題なしっ」
そう叫ぶと、ボルテージマックスでジャングルを駆け巡る。木の上からはポイズンスネークが降り注ぎ、木の陰からファングタイガーが襲い、空からはサンダーバードが雷を纏いながら急降下をしてきたし、サル型の魔物ヴァナラも時折木の上から弓を放ってきた。しかしハジメは余裕で躱し、風針1発で確実に屠っていったのである。
勿論ポイズンスネークのドロップ品である『猛毒』『毒蛇の皮』、レアドロップの『毒の霧』、ファングタイガーのドロップ品『虎の牙』『虎の皮』、レアの『ブレードソード』、サンダーバードのドロップ品の『雷鳥の羽』『雷鳥の嘴』は勿論、レアドロップの『転移の翼』、ヴァナラからは『猿の皮』『猿の手』レアドロップ『猿弓』。そしてそれらのドロップ品は全て風魔法の収集で一瞬にしてアイテムボックスに仕舞われていく。
そして2時間後、ハジメは階段の前まで到達していたのだった。そして彼の前には大きな猿が1匹、袋から種のようなものを取り出し食べていた。その猿の名はギガントピテクス。地球上では既に絶滅してしまっている霊長類最強の動物とされる存在だった。ハジメに気づいた奴はぼりぼりと口を動かしながらハジメに襲い掛かってきたのだった。
ハジメは速攻で倒そうと風刃を放つが霊長類最強のギガントピテクスは咆哮1つでかき消してしまった。そしてびりびりと空気が震える咆哮を放つ。ハジメは慌てて風刃を放ちなんとか相殺できた。その後様々な魔法を放つが奴は咆哮一発で相殺してしまうのだ。物理攻撃は使えず、魔法攻撃も奴には届かない。お互い決定打がなくじりじりとした消耗戦が続いている。
「・・・あんまりしたくないけど、至近距離からの魔法攻撃しかないかも・・・」
そうして心を決め相手の咆哮を相殺しながら徐々に近づいていく。それに伴い咆哮を消し去る技術力も跳ね上がる。咆哮を完全に相殺することが出来ず、何度も音波で後ろへ飛ばされたのだが、なんとか距離2mほどまで近づける。奴に魔法が効くのかも分からない。ハジメが狙っているのは口の中。破裂丸も一緒に飲み込んで欲しいところであった。
その時ギガントピテクスが口を開け息を大きく吸い込んだ。それをチャンスとばかりハジメは破裂丸を風刃に載せて放つ。しかし奴は口からレーザーのような、ドラゴンブレスのような光を吐いたのだ。ハジメの視界は白に染まり、激しい痛みと共に視覚、聴覚が奪われる。なんとか右腕は動かせた。
「・・・やば・・・」
ハジメはそう呟きながらアイテムボックスに手を入れる。全身を巡るこの痛みが無かったら気絶していたのかもしれない。幸いなことに魔力浸透のお陰でギリギリ気をうしなわずに済んだのだった。取りあえずまだ距離があるので体力ポーション(真)を身体に掛ける。これで視覚、聴覚、疼痛も完全ではないが戻った。ポーションシャワーが終わった頃に猿は再度咆哮し、ハジメに向かって突っ込んできたのである。ハジメは風の刃で咆哮を打ち消し、爆風で猿をノックバックしようとしたが、ダッシュを歩くに変えたくらいしか効果はなった。ハジメはもう一本体力ポーションを取り出し飲み干す。その間ギガントピテクスはハジメを睨むように見て歩いているだけだった。
「なるほどね・・・・。竜巻」
ハジメと奴の間に竜巻を生み出す。この風魔法は発動するまでに少し時間が掛かるが、完成するとその効果時間は長い。『咆哮』は声と同じ仕組みなのだろう。そもそも咆哮は空気を振るわせているのだから、その波が発生しないように空気の流れを邪魔してやればいいのである。だから爆風で風の流れをハジメ側からギガントピテクスに向かって流した時に奴は咆哮を使うことが出来なかった。そしてもう1つ分かったことはあのブレスはどうやらインターバル、リキャストタイムが長いために連発することが出来ないことだった。ハジメは『咆哮』は魔法だと思っていたが、どうやら物理攻撃のようだ。物理攻撃が出来ないのはハジメのように攻略に来た者だけなのだろう。
竜巻はいくつかの上昇気流が偶然に合わさった時に発生する。風は回転しながら空へ上がり、高度が高くなれば回転の半径は小さくなっていき、風は強くなる。水でもそうだが、ホースの先を摘むと勢いよく飛び出すことはよく知られている。風も同様の原理が働くのだ。
「風刃乱舞、刺突」
竜巻から針のように変形した風刃が無数にギガントピテクスに向けて放たれる。竜巻が収まった時、大猿の姿はなく、そこにはドロップアイテム『大猿の皮』と『アイテム袋(中)』が落ちていた。ハジメがそれを拾っていると
【ギガントピテクスの死亡を確認。ステージ4クリア。宝箱1つを解放します】
と頭に響いた。そしていつも通りに宝箱を開けるとそこには『指ぬき』が大切そうに入っていた。




