依頼を無理やり押し付けられるみたいです
魔術師ギルドのNo.2であるエティのよる魔法講座は続く。
「魔術師はね回路が多ければ多いほどその有用性は高くなのよ。今はあなたは手からだけ魔法が出現しているはず」
確かにハジメは魔法を使う際手を前に出している。魔法を使う時に手を標的に向かって伸ばすのは照準を合わせるためというのもあったが、中二病の彼にとっては自然なことだった。
「つまり、回路が複雑であればどこからでも魔法を放てる・・・?」
「そう、その通り」
とハジメの呟きを頷きながら肯定するエティ。
「じゃぁ、血管か・・・・」
医療従事者であるハジメにとって回路を体中に作るというのは血管がイメージしやすい。幸いなことに魔力を生むメイン装置は心臓の近くにある。ならば、
「・・・まずはメイン装置から上方向に伸ばして、肺静脈を作って肺に接続、肺胞につないでそこから肺動脈にして、メイン装置へっと。よし、まずは肺循環完成。それでメイン回路から別の回路を作って、脳全体へ接続して、もう一回メイン装置へつなぐ・・・。その回路から手足へ・・・・おし、体循環完成っと」
エティの説明を上の空で聞きつつ、血管のように全身に巡らせていく。そして30分程で大まかな魔術回路は完成したのだった。
「・・・・ちょっと聞いてる?折角私の研究について話してるのに」
ハジメが夢中になって回路を作成し終わった頃、エティはかなりの怒りモードだった。
「あぁ、すみません。多分これで回路はできたと思うのですが・・・・」
「え?そんなに簡単には回路はできないのよっ。そこに正座しなさいっ」
とハジメの完成報告を無視して彼女は彼を座らせお局様のようにくどくどとお説教を始める。内容は魔法とは関係ないことだったので、秘儀『右から左へ聞き流す』を発動する。
『魔力操作は循環って言ってたから、取りあえず魔力のメイン装置からさっき作った回路を通すってことだよな。てことは装置を心臓の様に動かして送り出すイメージでいいかな。まぁやってみるか・・・・』
『心臓は不随筋だから、メイン装置の方も勝手に動くイメージでっと』
ハジメが心臓のイメージを魔力メイン装置に与えると鼓動のように動き始める。それは力強く新しく作った回路を流れ始めたのだった。
「・・・あ、出来た・・・」
ハジメは思わず呟いた。それにエティは「あぁーん?」と893のメンチ切りの様にハジメを睨みつける。生憎と心臓のイメージを付与した回路はハジメの任意で止めることはまだ難しく、どんどん流れている。
「・・・・あなたっ、何したの。なんでこんな短時間で習得してるのよっ」
魔力の流れを感じとったのか、魔術師ギルドの副ギルド長はハジメの両肩を掴んで叫んでいた。その掴まれた手を彼は#簡単に__・__#外したのだった。
「・・・浸透まで・・・。きぃぃぃぃぃぃぃっっっっ」
その後拘束時間の残り4時間、前世ではパワハラ、モラハラと呼ばれるような口撃を受けたのだった。まぁ、秘儀のお陰で全部覚えてはいないのだが。
「ふぅふぅ。ま、まぁいいわ。予定時間来たし。はぁはぁ。次は3階に行って実験に必要な”ジャイアントスパイダー”を生け捕りしてきて。10匹でいいわ。このコインを持って行きなさい。これがあれば2時間だけ3階にいることが出来るから」
そう言って彼女は1枚の銅で出来たコインをハジメに投げてよこした。ハジメはそれをキャッチすると部屋を出て行った。ハジメがドアを閉めるとエティの後ろに空気の揺らぎが出来る。
「んー。どうだった?彼」
「あら、姉さん。そうねぇ。正直この塔の中が最先端と思っていたけど、異世界ってすごいって思ったわ」
とエティが素直にそう言った。
「あら、貴女がそんなこと言うなんてね」
「私だってそう思ってたもの。でも流石にあの習得力は凄まじいわ・・・・。魔力回路の構築と魔力循環、そして魔力浸透・・・。それを30分もかけないで習得したわ。特に魔力循環と魔力浸透なんて無意識に出来てるし」
溜息交じりにエティは呟いた。
「うふふ。流石魔法のない世界からの転生者は予想以上の進化を見せてる・・・か」
「そうね。#科学__・__#って言ったかしら。あの人が本気を出せば簡単にこの世界を支配できるようになるかもね。気を付けないといけないと思うわよ。#プリマベーラ姉さん__・__#」
冒険者ギルド受付嬢のプリマべーラは面白そうに笑う。
「そんなことにはならないわよ。だってあの人本当にいい人ですもの。そんなこと微塵も思っていないわ。#外の世界__・__#でも奴隷に生きる目的を持たせてるって話ですもの」
エティはもう一度ため息を付く。
「あぁ、なんか簡単に想像できるわ・・・」
「さて、私は次の依頼準備しなきゃね。じゃぁまたね」
そう言ってエティを残してプリマベーラは姿を消した。
「はいはい。またね、冒険者ギルド長殿」
ハジメは魔術師ギルドを出て10分後、階段上り3階へ到達したハジメは草原の中にいた。少し離れたところに森が広がっている。
「なんでもありだなぁ・・・。この塔」
仕方なくハジメは森に近づく。ジャイアントスパイダーは蜘蛛の名の通り、木々の間に巣をつくり獲物を捕獲するだが、彼らはその巣を投げ縄の様に投げ捕食するアクティブな蜘蛛である。しかしお腹が空いていなければ大人しく、無駄に捕食行動に移ることはない。その糸は強靭で中級魔物くらいならば逃げることは出来ない。勿論人間も例外ではない。しかしその強靭な糸で服を作ればある程度の強靭さを持ち合わせることができるのでかなり人気があるのだった。
森に近づくと森の外縁に巣を張っている1匹のジャイアントスパイダーが見えた。
「・・・さて・・・どうやって生きたまま捕獲しようかなぁ・・・。10匹入る虫かごってないしなぁ」
ふむと座り込んで考える。
「あぁ、そうだ。虫かごと網作ればいいか」
と頷いて立ち上がる。火で作った檻は糸から引火し蜘蛛は焼け死んだし、土だと檻を壊してしまう。水だと蜘蛛は死んでしまった。選択肢的には風しかなかったのだが、風だけだと体を固定できず、ミンチになってしまった。そこでハジメは風の渦で周囲を囲み、中央に土で1本の柱を置いた。それが上手く行った。風が渦を巻いているので糸を自分と柱に結び付けたのだった。
そうして1時間30分ほどで10匹の蜘蛛を捕獲できたのだった。その檻を風でお手玉するようにして魔術師ギルドまで帰ってきたのだった。それにはエティも驚いてはいたのだが、依頼達成のサインを貰うことが出来た。追加報酬としてジャイアントスパイダーの糸を1巻分くれた。実はハジメ捕獲実験で死なせてしまった2匹から2巻分手に入れていたのだが、そこは内緒である。
「Aランクなったらもう少し集めてうちの従業員に制服作ろうっと」
そう呟きながら彼は冒険者ギルドの扉を開けた。
「はい。回復。依頼お疲れ様でした。こちらが報酬の金貨2枚で、Dランクアップです。さて次の依頼です。お願いしますね」
電光石火の早業で再びハジメをギルドの外に放り出した。
『条件を達成しました。錬金術のレベルが6になりました』
そうやってハジメは裁縫の依頼、鍛冶の依頼、討伐の依頼を次々にこなしていった。そうしてようやく冒険者ギルドでのランクがAに到達したのだった。
因みに裁縫・鍛冶の依頼でそれぞれのスキルが5まで上昇し、討伐の依頼では錬金術師のレベルが7まで上がった。
「次の依頼はこれです」
とプリマベーラはハジメに依頼書を1枚渡そうとしたが、ハジメは拒否した。3階に上がるにはAランクで充分なのだ。行方知れずの舞の事が気になるということもあった。
「大丈夫ですよ。最後の依頼はこの塔の攻略です。報酬は攻略した際にお渡しできるのでここまで戻ってこなくてもいいですし。受けておいて損はありません」
とにこやかに言って問答無用でハジメに手渡してきた。まぁそれならいいかとハジメが思ったもの大きかったのだが、承諾して彼は25時間振りに2階を後にしたのだった。




