二人の神童
二人の神童
1911年 4月
あれ以来、ますます勉強家になった修輔、そして修輔と同じ事をサラッと学んで行ってしまう美樹、この二人は父修一の頭脳を受け継いだ神童では無いかと噂されるようになった。
そしてこの年、ついに修輔と美樹は、同時に大学への飛び級が認められたのである。
実は、僕がケルビムの権能で、修輔に多少はアシストして居て知恵の祝福を与えて居るのだが、それにしても元の知能指数が高くなければこの速度で理解を深めて行く事は出来ないのでは無いかと思える速度で新たな学問を吸収して行く修輔を見て居ると何故だか負けたらダメと言う気がしてつい、ぴったりと修輔と同じものを学んで行くスタンスになってしまった、一瞬追い抜いてしまいそうになって我に返って追い抜かないよう調整して居たりもする。
そりゃぁ今の学問は僕の未来人としての知識がそっくりそのまま流用されて居る物だからやろうと思えば全部出来る訳だが、それでは修輔が腐って仕舞ったりし兼ねないし、それでは意味が無いのだ。
だが、妹が、本来天才的な飛び級速度で進学している自分と同学年になってしまうほど自分の頭脳に肉薄して居ると言う強迫観念のような緊張感が有る事でますます頑張って居るという感じだな、今の感じですぐ後ろにつける感じで行ってみよう。
修輔の優位性を演出する為に、たまに判らない所を兄に教わると言うスタンスで、あえて自分が教えているからすぐ後ろをついてきているのだと思わせるようにしている。
世間的に見ても兄妹で互いに研鑽を積んで行く盟友と言う縮図が出来上がっているのでは無いかと思う。
しかも、最近の修輔は、柔術まで習熟している。
やはり理由は、僕が以前に剣術を習ったのと同じで、ガキだと舐められいじめの対象になり得るからだ。
まぁ僕はと言えば柔術では無く今世では合気術を手習いにしている。
前世の剣術と合わせれば大概の場合は1対Ⅰならまず負ける事は無いだろう。
今世では女性の体で転生してしまったので、相手の力を利用して戦える合気術は有用だと思い、これを選択した次第だ。
そして修輔と僕は、早稲田大学理工学部への入学を果たしたのだった。
初日から案の定と言うか、ちょっとばかりお行儀の悪そうな生徒に絡まれた。
「ふん、益田修一の子だか知らないがそうそう神童が出てたまるかってんだ、どうせ金に物を言わせたんだろ。」
「何を言います、僕も兄もちゃんと就学証明を持っていますし、ちゃんと実力で飛び級しているので其処らの似非天才や秀才学生如きに負ける事は有りませんよ?」
「何だと生意気な口を利く小娘だな、お前のような生意気な奴がこうしてやる。」
と言って手を挙げて来たので、合気術で軽く投げ飛ばすと、何が起こったのかと言わんばかりに目を丸くして驚いている。
「美樹、弱い者いじめをしてはいけないんだよ、ダメじゃないか、投げ飛ばしたりしたら。」
修輔が茶々を入れる。
「しかし兄さま、兄さまを馬鹿にされた上に手を上げようとしたので正当防衛です。」
起き上がったと思うとかなり憤慨な様子で、
「こいつ!やりやがったな?」
今度は修輔が投げ飛ばす。
空気投げと言う奴だった、どんだけ強くなったんだ、修輔・・・
「危ないじゃないですか、気を付けてくださいね、廊下は走る所じゃありません、そのようなお行儀の悪い事だからそうやって転ぶんです。」
「兄さま、兄さまも大概酷いと思いますよ、起き上がって掴み掛ろうとしたからと言って逆に掴んで放り投げるなんて。」
「貴方も喧嘩はちゃんと相手を見て吹っ掛けた方が身の為ですよ?
学生なのだから学業で勝負するとかの方がずっと建設的だと思います、そうやって競う事で研鑽を積んだ方が将来の為になります。」
僕がこう言うと、何故か両の眼に涙をいっぱい貯めて逃げ去って行った。
ちょっとやりすぎたかもしれないなー。




