番外編 終戦直後の技術開発省(後編)
番外編 終戦直後の技術開発省〖後編〗
暫く茶を嗜んで居ると、坂本少将が専用の参式戦で到着したらしい知らせが来る。
参式戦とは、賢明な読者の方ならばそう記憶に旧く無いであろう、ご存じ益田修一がやらかして作り上げてしまった、史実の零戦を凌ぐ性能に仕上がってしまったあの戦闘機である。
しかもその参式戦を、坂本少将は個人の趣味で専用機を所有しているだけで無く、チューニングが施されて居て更に最高速度が上がって居たりする出鱈目な機体である。
「思ったより早かったな、坂本君は。」
坂本君に連絡が付いた時は、この旅順港に寄港中の空母に用事があり此方へ向かう為の最後の給油を受ける為に対馬県総合基地にて給油の真っ最中だった筈で有る。
連絡の直後に給油が済んだとしてもどう見繕っても早すぎた。
まさか彼の専用機で単独飛行をして来るとは誰も予想だにして居なかったのだ。
「おお、此方にいらしたか、井上少将、お待たせしましたな。」
「随分と早かったですな、彼と話をしていて退屈しなかったよ。」
「よっ、久しぶり、すっかり出世しちゃったな、坂本少将殿。」
「お、お前は、佐藤じゃないか!久し振りじゃないか、息災だったか?」
「俺はお陰様でピンピンしてミサゴのパイロット教育に励んで居るよ、お主こそ息災そうで何より、出世しちゃってぇ~。」
「いやいや、益田殿のお陰でこうなっただけで、回転翼機の操縦がお前の方が上手ければお主こそがこう成ってたかも知れんぞ?」
「うん、回転翼機に関しては坂本の方が上手かったからなぁ、その差だな、しかし少将閣下になったと言うのに専用戦闘機で飛び回るってどんだけ変わらないんだ?」
「はっはっは、いいじゃないか、下手に輸送機で飛ぶとケツが痛くて嫌なんだよ。」
「お主らしいな、坂本、あ、いや坂本少将閣下。」
「佐藤と俺の仲じゃないか、そう言うの辞めてくれ、今まで通りため口聞いてくれよな。」
「まぁそりゃいいのだが、このような場でそれをするからホレ、周りの目が・・・な。」
「あ、そういう事か・・・すまん、俺の方が気が回らんかった。」
「さてそろそろ宜しいかな?本題に入っても?」
あまりにも懐かしさに花が咲いてしまって居るようなので良い処で切ろうと井上少将が割って入った。
「おお、これは失礼、井上少将、ご用は例のあれですな?」
「ええ、どうしても見つけ切れずにこの旅順港まで来てしまったのだ、困った事にこの地図ではどうにも・・・。」
坂本少将に例の地図を見せると、爆笑が起こってしまう。
「うははは・・・いやいや、ぷっ・・失礼、くくくく・・・益田閣下らしい・・・ぶははは。」
「らしい・・・とは、まさかとは思いますが。」
「ええ、そのまさかです、あの人地図だけは壊滅的に下手糞だったんですよ、幾何学模様のようなコンピューターの配線配列とかは芸術的に美しいんですけどね、なんで地図だけこうなのかいつも謎で・・・くっくっく、あ、言っときますけどあなた方に渡した封筒は中見て無いのでまさか私もコレが入ってるとは思ってなかったですよ・・・はははは。」
坂本少将は涙目になりながら腹を抱えて答えた、余程ツボに入ったらしい。
「ああ、なんか込み入った話のようだし、そろそろ昼休憩も終わりだ、それでは技術省の方々、坂本少将、これにて失礼します。」
居心地があまり良くなかったようで佐藤君は退席を宣言して立ち上がった。
「おお、佐藤、後で大本営勅命の辞令があるのでお主の在籍中の空母に伺う、又後でな。」
「了解、参番に停泊中です。」
「おう、ありがとう。」
挨拶を交わし、すっかり笑いも止まった坂本少将が踵を返し、井上少将以下技術開発省の面々に向き直った。
「いやすっかり笑ってしまった、失礼しました、ですが、実は私も地上側からどうやって入るのか知らんのです、マスターキーはお持ちでしたね、それでしたらこの基地でヘリをお借りして上から入りましょう、それならば座標は知っておりますので。」
「おお、そうですか、ではツインローターで乗ってきた車を積んで行きたいので手配して置きます、先に磐城への辞令の通達に行って来て下さい。」
「ええ、大急ぎで飛んできて少し疲れたので茶を一杯頂いてからそうさせて貰います。」
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ツインローターヘリを一機、借りることに成功した技術開発省の面々は、乗って来た車の搭載を完了し、アイドリング中のヘリの風に煽られながら煙草を嗜んで居た。
「いやいやお待たせ、では参りましょうか。」
坂本少将が用を済ませて来たようだ。
「閣下、小官が操縦出来ますが本当に操縦種は要りませんか?」
「うむ、わしが操縦できるので問題はない、むしろ今から行く場所は秘匿につきわししか今のところ場所を知らぬ故、佐官未満の者には頼めないのでな、すまんが降りて頂こうか。」
恐らく借りたこの機体の正規操縦手なのであろう、雲の上の存在のような上官にこう言われては自分の乗機であろうと降りるしか無い、少ししょんぼりして居る様だが、少尉程度で初見の者である事を考えると下手に連れて行ける訳も無いので諦めて貰うしか無い。
ガックリと項垂れてトボトボと営舎へと戻っていく少尉を尻目に、ヘリに乗り込み、秘匿基地へと飛び立った。
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「井上殿、例のカギを手元に出して下さい、おそらくスリープモードになって居るようで此処まで接近しても反応が有りません、押し釦が有ると思うので、開と表記されて居る方の釦を押して見てもらってもよろしいか?」
「こ、こうでよかったかな?」
「ああ、反応が有ったみたいです目印の赤灯が点き始めましたな、ゆっくり降下を始めます。」
「こ、こんな山の頂のような処でですか?」
「ええ、ですが良く降下ポイントを見て下さい。」
「や、山が動いている!?」
「いやむしろ山頂が割れているな・・・」
山頂部が割れるように開いたその隙間にヘリを滑り込ませると、明りが自動的に点き、そのドックが全貌を現わす。
「な、なんだこのとてつもない施設は・・・」
思わずあっけに取られて井上少将が声に出す。
その他の技術開発省の面々は、言葉も無く呆然とその巨大施設を見回して居た。
「まぁ、そうなるよな・・・」
これは坂本少将の独り言である。
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「ではわしはこれで、後は地上の出入り口を使用するも良し、ヘリを作って上を使うも良しですよ。」
「ああ、何だか未だ夢を見ているような気がして居るが、ありがとう助かりました、坂本殿。」
基地を後にするヘリを見送った面々がこの後どこへ行けばいいのかと思って佇んで居ると、一台の二足歩行ロボットが近寄って来る。
「な、何者だ!」
「ワタシハなびげーたーデス、名ハ未ダ有リマセン、井上様、山田様、本多様、種田様、デスネ、オ待チ申シ上ゲテオリマシタ、ますたーヨリ、新タナますたート伺ッテオリマス、此方ヘドウゾ。」
さすがに平成令和のアレにデザインが引っ張られているようで宇宙服のような出立のロボットだった。
一体全体、あの六年間の修一はどこまで強引な開発をしたのであろうか、ケルビムと同一化を果たした事で確かに知識の幅は大きく広がっては居た、だが良くもたったの6年でIRBMのみ成らずア〇モまで再現したものである。
まぁこの施設の管理をするコンピューター自体がかの京と同等レベルにまで進化して居たと言う事も手伝っては居たのだが。
そしてそれはあの日から更に7ヶ月程無人だった今でも、定期的にバッテリーの充電の為に発電施設を遠隔操作して稼働したり、マザーマシンや作業ロボットを稼働して機材のメンテナンスを行ったりもして居たのだ、既に令和の時代の技術のそれを超えて居るかもしれない。
ここまでになっているのだ、そりゃ明治時代の人々の想像等追いつく訳も無かった。
しかも彼らはまだ気づいていないが、このア〇モもどきの外殻は炭素繊維で出来ていたりするのだった。
資材やパーツ等の運搬や各パーツの組み立てにまで自立型のロボットが稼働するこの施設の案内をアシモもどきに案内された技術省メンバーは、終始開いた口が塞がらなかった。
既に益田修一の描いた図面を取り込んで検証をしていたスパコンによって単純な計算ミスの数値は修正されて居ただけでは無く、試作機が完成して居たのだった。
修一が与えすぎたAIへの権限がそこまでさせてしまって居たのだった。
そして彼らは、さらに驚愕の出会いをすることとなる、この5年後に・・・




