宝船神宮参拝
自らの目で現状を把握する為に宝船神宮への参拝に行く事にした美樹。
それに付いて行く事になる修輔であった。
宝船神宮参拝
「僕はお父様に負けたくないので勉強してます、美樹だけ連れて行ってやって下さい。」
修輔はどうやら本当に真剣に勉強に向き合う決意を固めた様だ。
「そうかい?だけど、そのお父上の秘密が判るかも知れないよ、今から出掛けるのは君のお父上をお祀りしている神社だからね。」
太郎が修輔も連れ出そうと誘い文句を選んだ。
「え?父様の秘密?」
うん、食いついた、修輔も連れて行こう。
「では、行って来ます、お義姉さん。」
「ええ、この子達を宜しくお願いしますね。」
「お母様、行って来ます。」
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「さぁ、そろそろ見えて来るのでは無いかな?」
運転をしながら太郎が前方を指さして言う。
実際に、そろそろ横浜に差し掛かろうとして居るが、この付近からはまだ見えない筈、変に思って修輔の方を見ると、少し車酔いをしている様子だった。
成程、気を紛らわす為にあえてまだ遠くてもそろそろと言ったのか。
「お兄様、あれは違いますか?」
「う~ん、あれはお寺じゃ無いかなぁ?」
少しは気が紛れて居る様で何よりだ。
それにしてもこの新車、素晴らしい、僕の書き残したショックアブソーバーの構造図をとうとう完成させてくれたのだな、流石は僕が育てたMASUDAの技術職達だ、5年前の車とは乗り心地がまるで別次元だった。
シートベルトやクラクション、カーラジヲ迄付いて居るのにも驚いたのだった。
いつの間にここまでラジヲの小型化に成功したのだろう、一応小型化の為のプランを描いた配電図や設計図面位は残して行ったつもりでは有ったが、僕が居なくなって僅か5年と少し程で此処迄仕上げるとは、我が弟子達ながら大したものだと感心した。
そしてもう一つ驚かされたのが、国営放送の二つのチャンネル以外、いわゆる民放は僕が立ち上げた東京放送以外無かったのだが、この5年余りで3チャンネルも増えて居たのだ。
それ程にラジオやテレビが普及を始めていた証拠であった。
陛下と有力代議士達へ残した遺書も効果を示したのでは無いだろうか。
因みにその内容とは、1907年に日露戦争の余波として訪れる大恐慌を未然に回避する為の政策についてである。
史実では、ロシアが中々賠償金の支払いに応じない為に税制に不安を感じた日本政府は国造紙幣を発行、税制の補填をする為に先ずは国民生活を保護しようとした。
所が国造紙幣が発行されて間もなく、ロシア側が賠償金の支払いに応じた為、発行してしまった国造紙幣が逆に弊害となる。
そう、円の価値が大暴落してしまい、最悪のインフレに陥ってしまい、例えば喫茶店でコーヒーを一杯飲む為にジュラルミントランクケースに一杯の一円札が必要と言った状況に陥るのだ。
しかしそこは歴史を知る未来人である修一であった。
その大恐慌を危惧した修一が、益田基金より無担保で国へ資金を貸し出す代わりに国造紙幣の発行を差し止めさせ当面の国家財政を保護し、大恐慌の原因を元から叩き潰すと言う力技があって初めて実現出来るものであった。
実際には1905年までは続いて居た日露戦争は1904年6月の隕石により終息してしまうので実際に大恐慌に陥り掛けるのもおよそ一年早まって居るので1906年となって居た。
しかし、修一の極端な政策は思いの外うまく機能した。
益田基金によって支えられた大日本帝国は、戦後、大幅に国内のインフラ整備を推し進め、なんと驚いた事に民間空港を開設し国内の移動や物資供給等を円滑にしようと言う所にまで着手を始めていた。
海洋、鉄道に関しても同じで、大型貨物や長距離鉄道による輸送、自動車による長距離移動の為の専用道路の開設等を始めとした近代化がすすめられていた。
これは兵站の重要性を説いた増田修一の意志を汲み取って考えられた政策だったらしく、歴史的政策となり後世に益田政策と呼ばれる事と成るがそれは又別の話である。
ロシア新政府は、元のロシアにより虐げられた社会主義参加国家達が挙って資本主義へとシフトした為に、当然のように民主資本主義となるかに思えたが、テストケースとして社会主義をそのまま継続する形とはなって居たが、どちらかと言うと中国のそれと近い、社会資本主義と言うスタンスになって居た。
そしてその姿はむしろ中国と言うよりも王制を発展させた今の大日本帝国のそれと非常に似通って居るかも知れない。
清国に至っては、既に孫文により王制資本主義のような体制へとシフトをし、国名も中華人民資本主義連邦国となり、慶州、満州、南洲、長州、四川州等の11国から成る連邦国となって居る。
その様子は既に中国と言うよりもむしろアメリカ合衆国の様であった。
そして英国により統治が行われ始めていた香港市に関しては、100年後は中国へと返還されるのでは無く独立国家として再編される事が約束される事と成ったのだった。
これだけでもかなり益田修一として僕が成し遂げた世界再編は有意義な成果を上げて居たと言えよう。
だが、まだ油断をしてはいけない、俗に言われる歴史の修正力と言うのは、SF小説等で良く描かれる程強引かつ強烈な力では無かったが、確実に存在して居た、それが僕の結論だ。
確実に世界大戦は、発生するのだと思う。
むしろあの世界大戦によって人類は次のステージへ上がる事が出来たのだろうとも思って居る、だから、世界大戦は全否定はしないが、あれ程の大き過ぎる被害を出さずとも早期収束をさせる事で世界を次のステージへと引き上げる事は出来るのだと思って居る。
むしろ、そうしないといけないのだと思う。
余談だが、あのミサイルによりクレーターとなって居たモスクワには、海水が流れ込み、巨大な塩湖となって居る。
流石にあの酷い有様は僕の所為では有るので多少の罪悪感が有るが、この罪悪感が同一化したケルビムの持つ罪悪感なのか僕自身の物なのかは判らない。
だがしかし、それは今となっては神とも同一化を果たしてしまった僕からすると些細な事でしか無かった、神には善悪の違いが無いからだった。
そう考えると、僕が逆行転生する羽目になったあの始まりの事件に関しても、神としては悪とも思えないが、逆に人の成した事を何故悪と決めつけたのだろうかと言う疑問にも行きつく、これは永遠のジレンマであろう。
だが、少なくとも僕には人としての意識も同時に存在して居る為、神の犯した罪に関しては断罪させる事はやぶさかでは無いと思って居る。
しかし今はとにかく、人の体を持った今できる事を成して行く事が重要なのだろう。
太郎の車で移動中に様々な事を考えたが、前回の僕、修一の生まれたのが11月だった事も、もしかすると日本の神が出雲に集う神無月で他の地域に目が向いて居ないタイミングだった事からサタンが最善の方法を取ったのかも知れないと迄思いが行き付いて居る。
因みにその当の本人である所の浩江ちゃんはこの車の背後をずっと付いて走っているバイクであると僕は気付いていた。
後でコッソリ背後に廻って驚かしてやろう、今の僕には出来るのだ。
真意の程も確認して見たいしね、まぁそれは又別の話に成るだろう、閑話にでもしてみようかと思う。
「さぁ、到着したよ。」
太郎の声で僕は思考を一旦中断する事にした、どのようになってしまって居るのか、何となく感覚で判ってはいたが、自分の目でどうしても確かめたかったからね。
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鳥居をくぐると、空気が一変したのが良く解る、圧倒的な聖域と認識できる荘厳な雰囲気にガラっと変化したのだ。
それ程の信仰を集めて居ると言う事でもある。
暫く参道を歩いて居ると、どっかで見た事のある爺さんが複数のお付きの者に囲まれて車いすで居た、天皇陛下である。
持病の糖尿病の進行が史実より少し早いようだ、国が史実よりも豊かになって居た為かも知れない、御免ね、陛下。
「待って居ったぞ、お主等が来ると言うのでな。」
「へ、陛下、この様な所にご足労下さるとは、お体を冷やします、ご無理なさっては・・・」太郎が陛下の身を案じて発言をすると。
「何、構わぬ、風の噂で聞いて居るよ、この子が美樹、修一の生まれ変わりであろう?」
凄い情報網だ、と言うか多分浩江ちゃんとかが報告して居たんだろうけどね。
「お初にお目に掛かります、陛下、修一の長男の修輔です。」
お、ちゃんと挨拶出来るじゃ無いのお兄様。
「お久しぶりです陛下、美樹です。」
「はっはっは、お久し振りと来たか、相変らず飄々とした奴だな、修一よ。」
「いえ、修一は父、私はあくまで美樹です。」
「これはすまん、懐かしいのう、話したい事は山ほどあるが、それは又何れな。」
「そうですね、私もお話したい事が御座います。」
「うむ、何れ、屋敷にお邪魔しようと思う。」
「あ、いえ、こちらから出向きます故、使者の方をお寄越し下さいませ、ヘリを利用すればすぐですから。」
「そうか? ではそうさせて頂こう、今日はしかと自分の目でお主が成した結果を確かめて行くが良かろう。」
そして陛下が同行する事になった為、非公開の御神体迄が拝見できることとなったのであった。
ん?益田家なら問題ないのでは無いかって?そうかも知れないけどここは陛下が居るからって事にしといた方が当たり障りが無いからに決まってるだろ?取り敢えずこう言った場合は陛下が居るからって事で責任推し付けとけば良いんだよ、そのつもりで陛下もわざわざ病を押して出て来てくれたんだろう、その御厚意は存分に使わせて貰うに限るのだ。
「コチラが、宝船神宮に新たに設置された素戔嗚尊像で御座います、更にこれが、日露戦争を終結させたと言われる6本の火柱を表した絵画となります。」
案内を買って出て下さった神主が資料館内を案内して周ってくれる、これも陛下のお陰、と言う事にしておこう。
そして奥殿へと誘われた我々は神主より驚きの話を聞く事になった。
「コチラが当神宮に奉納されている三種の神器です、此方の勾玉は伊勢神宮より寄贈された物で御座います、そしてこちらの鏡は陛下によって新造され寄贈されました、そしてこちらの剣は、代替りで人としてご降臨され、国をお守りになられお帰りになられた素戔嗚尊様より寄贈された、二振り目の草薙剣、天叢雲で御座います。」
ん?今なんかとんでもない事言ったな、確かに今は素戔嗚と同一化して居るが、奉納した時は未だケルビムすら同一化して居なかった筈なのだが?
こりゃぁ完全に神格化されて居るのだな、僕は・・・叢雲だって人の打った刀だと言うのに・・・。
後から聞いた話、アノ刀を討った本人は勲一等を賜った上に人間国宝に指定されてしまったらしい、御免ねと言う所なのかおめでとうと言った方が良いのかは判らんが。
前世の僕のした事の結果とは言え、やらかした感が余りにも強すぎてこっぱずかしい。
完全に生前から素戔嗚と言う事になって居た・・・えぇ~っと・・・こういう時はあれだ、誤魔化しておくに限る、これでどうだ!・・・テヘペロ・・・ダメ?
修輔はと言えば、あまりの展開に付いて来れず終始口を半開きにして目を点のようにしていた、連れて来たらもっとやる気出してくれるかと思ったんだけどなぁ、刺激強すぎたかも・・・
皆さんのご意見、ご感想など、心待ちにして居ます、何でも良いから書いてってください。
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