番外編 パンデモニウム弐 ・ 留学生
久々の番外編です、本当はもう少し早めにアップする予定だったのだけど、残して置いて良かった、持病の調子が悪い子のタイミングで少しだけ書き足してアップする事が出来ました。
パンデモニウム 弐
「最近、リリスが姿を見せんな、お陰で静かでよい。」
サタンは最近人間界で見つけて一目惚れして揃えたソファーセットの長椅子に寝そべってポテチを頬張りながらつぶやいた。
そこにベルセブブが飛び込んで来た。
「サタン様、大変です!」
「何だいきなり、落ち着いて話さんか。」
「あぁ、失礼しました、それよりも大変な事をしでかしましたリリスの奴!」
「何だ?最近来ないと思って居ったのだが、どうした?」
「それが、ですね、益田の所に出現しました・・・」
「はぁ?何だと?一体どうやって過去へ?」
「そ、それがですね、時限神クロノスがどうも一枚噛んでおりまして。」
「何だと、あいつめ余計な事を。」
「と、兎に角、あちらで繁殖させて増やした我が眷属を一体あのアホ女の様子を見に行かせたので、映像出せますが如何致しましょう。」
「うむ、出せ。」
「は、畏まりました、只今。」
壁に投影を始めるベルゼブブ。
「なぁ、ベルよ、お前の眷属な、尾行バレてるじゃん、何であの女いちいち何かっつーとカメラ目線なんだよ・・・」
「そ、そうですね、何でかバレてますね・・・」
「敢えて判ってて放置してるって事はあれか、俺に見せる為にワザとやってるっちゅう事だな?」
「そ、そうみたいですね。」
「っておい!あいつ!わしの娯楽対象の益田に魅了仕掛けてやがる!」
何故か自分が怒られてるような気がして冷や汗ダラダラなベルゼブブ。
「ぶはははははは! あいつ、儂が見込んだだけは有るか、サッキュバスの女王のリリスの魅了を完全に掛かる直前に回避しおったぞ、リリスのプライド折れまくりだな。」
ホッとするベルゼブブ。
「おい、ベルよ、これなら心配は要らんのと違うか?」
「あ、一寸お待ちください、増田陣営に動きがあるようです。」
「ほう、益田め、中々面白い奴を子飼いにしておるな、一見美女の男の忍びとは、しかもかなりの手練れのようだ、情報網もかなりだな。」
「録画はここまでです、ここからしばらく、益田が忙しくなるようでリリスとは会わなくなります。」
「それじゃ今の直近の映像とか無いのか?」
「いえ、少し動きが出始めた様なのでこちらを。」
新たな映像を投影し始める。
「こちらが現在の映像です。」
修一がリリスを新築したばかりの家に招き入れる所だった。
「ほぅ?あいつめ、自ら招き入れるか、面白いな。」
「益田は何をするつもりなんしょうか、何かを企んでそうですね。」
リリスに食事を薦め、和やかな雰囲気で夕食が行われる、終始和やかな雰囲気である。
「ふむ、流石と言うか、増田め、旨そうなもん食ってんな、今度我も馳走になりに行きたい所だな。」
「同感です、かの者は非常にグルメですな。」
そして映像は修一がリリスの正体を問い詰める場面へ。
「ほう、そうか、あの情報網を駆使してそんな事を調べさせてたのか、やるじゃねぇか。」
「ええ、私も聊か驚いて居ります、リリスの魅了が効かなかったのも頷けますな。」
リリスがついに正体を現すと、サタンは拍手喝采だ。
「はははははは、あいつめとうとうやりおった、リリスを負かしたか、俺の見立ては間違って無かったな、リリスに本性を出させるとは驚いたぞ。」
「し、しかしリリスがこのままでは済ませないのではありませんか?」
「良く見て居ろ、あそこ迄出来る奴が正体を出した程度のリリスに負けると思うか?益田の方が一枚も二枚も上手だ。」
「って、リリスは騙されてますね・・・そんな弁天なんかと同一視で神格化されたら、逆に弁天に取り込まれるか、多岐津姫辺りに乗っ取られますよ?」
「道理で静かになった訳だ、これで当分は絡まれないぞ、良くやった、益田よ。」
ソファーに深く腰を下ろし直して溜息を一つ付いたサタンの後ろに、クロノス神が忽然と現れる。
「へぇ、おもしれー事やってんじゃん、ようサタン久しぶり。」
「テメェ何であいつを益田のとこに送りやがった、大事には至らなかったから良かったが俺の娯楽台無しにするとこだったじゃねぇか!」
「クロノスさん、貴方何故リリスに手を貸したのです?」
「まぁ良いじゃねぇか、お陰であの阿婆擦れに付き纏われなくなったんだからヨォ。」
「お前もしかしてこうなるって知ってたのか?」サタンが問い質す。
「いや、正直ここまでの展開になるとは思って無かった、サタン、確かにこの人間面白れぇな。」
「ふん、お前に見せる為に飼ってる訳じゃねぇよ。」
「まぁそう言うな、お前らさっき、一度会いに行って飯でも馳走になりてぇって言ってたろ? それ俺が居なきゃ出来んだろ? だから俺も混ぜろ。」
クロノス神の提案にサタンは二つ返事で答える。
「仕方ねぇな、まぁいずれお前の力も必要になるだろうし、遅かれ早かれお前抜きでは無理だから良いぜ、混ざれよ。」
「ありがてぇ、俺も退屈してたんだよ、で、どうする?ベル公の能力で映像だけ見てるよりも常にあいつの周りにいたらもっと面白くリアルタイムで見れるかも知れんぞ? 行って見るか? まぁ今は太陽フレアの影響でもしかすると今見てる時間帯に着けないかもしれんが。」
強引な提案をするクロノス。
「それは時間のラグがあるだけか? それとどの位の誤差が出る?」
「ずれは時間だけだ、誤差は・・・そうだな、せいぜいどんなに酷くても±1年は狂わないと思うが。」
「1年か、少し問題アリだが仕方が無い、益田の飯を頂きに行くとしよう。」
そのやり取りを見守って居たベルゼブブが口を挟む。
「ちょ、サタン様、宜しいのですか?面倒だから映像をと言う話だったじゃ在りませんか。」
「ん?何だベル、お前は行って見たくないか? あ、そうか、お前の場合眷属送り付けて有るからリアルタイムで体感してるのと同じなんだったっけか?」
「いえ、サタン様、我が主たる貴方様が動くのであれば私は何処までもお供させて頂く所存に御座います。」
「相変わらず硬てぇなぁお前は、まぁいいや、ついて来るんなら準備しろ。」
サタンはクロノスに向き直る。
「じゃぁクロノス、1時間後にこの部屋でな。」
「ベル、お前も向こうで使う体を探せよ、あ、お前は眷属のアストラルボディが使えるか。」
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「わたしはあちらで不自由は無いので、サタン様のお手伝いとしてあちらで使えそうな体を今眷属に探させております。」
「流石ベルだな、やる事がはえぇ。」
「あ、その、サタン様、先程サタン様がお気に召して居た人間がですね・・・」
「ん?何があった?」
「あの女性のような奴ですが・・・益田を暗殺しようとして居た者と相打ちになりました。」
「何だと?では奴の体を使わせて貰おうでは無いか。」
「は、今すぐ手配します、我が眷属総動員で確保致します。」
かくして浩江ちゃんの肉体を手に入れたサタンである。
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留学生
1899年 3月
吾輩は妻と共に横須賀へと来ている。
この港にアイリーン、もとい、この時系列でのイリーナが到着するからである。
イリーナは以前に日本へ来た時に日本語に興味を持ったと言う理由を付けて母国へ戻った後も勉強をしたらしい、お陰で流暢に日本語を喋れるようになって居ると言うので我妻とも仲良く会話が出来る事だろう、非常に楽しみである。
「修一さん、まだ少し寒いですわね。」
「あぁ、そうであるな、お腹の子に触るといかん、これを羽織って居なさい。」
と言って自らの羽織って居た外套を肩に掛けてやる。
妻は現在妊娠3ヶ月、一番大事な時期であったが、どうしても出迎えに着いて来たいと言うので連れて来たのだが、やはり留守番をさせておいた方が良かったかも知れん。
一応益田化学の”あったカイロ”を2つ程渡してあるので極端に体を冷やすような事は無いと思う。
其れより三十分もすると、船が港へと接岸を終えたとのアナウンスが流れる。
「ようやく接岸が終わったようだな、乗客の下船が終わるのは後20分程だろう、寛子、寒く無いかね?」
「お陰様で大丈夫です、楽しみですわ、修一さんの生徒に会えるだなんて。」
「吾輩の生徒と言っても、寛子と同い年なのだがね、とても賢い子なので、直ぐに君とも仲良くなれると思うぞ。」
そのような他愛の無い雑談をして居ると、そこへ。
「先生?お久しぶりです。」
イリーナが大きな荷物を抱えて寄って来た。
「おお、イリーナか、思った以上の美人になったな。」
「お世辞頂いても何も出ませんよ? それより、もしかして此方の方が奥様ですか? お綺麗な方ですね、初めまして、ドイツ帝国よりやってきました、イリーナ・ティルピッツです、父はアルフレート・ペーター・フリードリヒ・フォン・ティルピッツ海軍司令官です。 この度は私の留学のお手伝い頂いて有難う御座います。 ご迷惑では無いですか?」
日本人と然程も違わぬ様な見事な日本語を使って居るので流石に吾輩としては苦笑するに至る。
それにしてもちゃんと聞いて居なかったので気にしてはいなかったのだがドイツ海軍省のトップになる人物の娘として転生して居たのか・・・
「あ、そうだ先生、後日、日を改めて父がご挨拶に訪問したいと言って居りました、大丈夫でしょうか。」
「ああ、大丈夫だよ、此方も序でなので軍のトップ達との会食でもご用意して置こうか。」
「私としてはそこまでしないでもと思いますが、恐らく父は日独通商条約で事実上の同盟国の日本軍とは仲良くしたいと思ってますので望んで居ると思います。」
「だろうね、ではそのように、何時でも対応が利くように手配しておこう。」
執事がイリーナの荷物を預かり、車へと運んでいく。
妻とイリーナが談笑しながら執事と吾輩の後に続き、車へと移動をする。
「ああ、そうだイリーナ、何か食べたい物は有るかね?今晩は君の歓迎会だ、食べてみたい物とか、好きな物があったら言い給え、うちの抱えのシェフに用意させよう。」
「そうですね、お勧めの和食でも有ったら食べて見たいです、メニューはお任せしますわ。」
「それじゃぁ、すき焼きはどうかしら、修一さんが生食出来る卵を作らせているのでうちか卵を卸している今半以外では食べられない物ですよ?」
「そうなんですか?それは楽しみです、奥様は私と同い年とお聞きしましたが、お幸せそうですね。」
「はは、君は未だなのかね?」
「私は以前此方に来た時に知り合った合衆国の男の子と文通してますけど、進展は無いです、今の所。」
「ははは、相変わらず彼は奥手なようだね。」
「まぁ仕方ないです、彼はお父上の手伝いで忙しそうだし。」
「そう言えば彼の父君って・・・」
「はい、トーマス・エジソンさんですよ。」
やはりそうであったか、恐らく今頃彼は、トーマス・エジソン・ジュニアと名乗って居る筈だ。
「やはりトーマス・エジソン殿だったか、彼が日本へ来た時に、吾輩がお相手させて頂いた事が有るのだが、益田の名字を大層驚いて居たな、彼が必至で探し求めていた電球のフィラメントは吾輩が先に確立してしまって居たのを気づかないで素材探しに来日したのだが、現物を見せたら愕然として居たっけ、”君はゾロアスター教の英知の神、アフラマズダ-なのか?”とか言われたぞ。」
実際、彼はフィラメントを確立した後に電球にマズダと言う名を付けたと言われているのである。
吾輩が先に作ってしまったので電球は海外ではマスダと呼ばれているので殆んど呼び名が変わって居ない現状だ。
今ではそのフィラメントも竹からタングステンへと変貌を遂げているが。
車に揺られながら雑談に花を咲かせて居たが、我が家に到着したようだ。
「これが先生のおうちですか?まるでヨーロッパの貴族の居城だわ。」
「ははは、一応これでも吾輩も貴族なのでこの位はな、執事に君の為に空けた部屋を案内させよう、ベッドやティータイム用のイスとテーブルも用意してある、自由に使い給え、洗濯物等はメイドに預けてくれれば良い、それと、温泉では無いのだがちょっとした井戸水を沸かした温泉のような風呂も、男湯女湯で別けた大浴場が有るので何時でも使ってくれ、とは言え風呂に浸かる男は吾輩とそこの執事位の者だから心配には及ばんがな。」
吾輩はこの家を作る時に温泉でも出たら有り難いと思って深く掘ったのである、残念ながら出たのは温泉では無く冷泉であった為に飲み水として使う井戸水としても活用して居るが風呂には沸かさねばならなかった、ここは少し痛い所では有るが致し方ない、どうしても何時でも入れる大きな風呂が欲しかったのだ。
「お風呂にいつでも入れるんですか?素敵です、早速入りたいです。」
船の旅ではそうなるのも無理はない。
何時か航空機での旅が出来る時代を吾輩が作ってやろうと思う次第である。
皆さんのご意見ご感想など、お待ちしております。
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