潜水艦第壱号
念願の潜水艦がようやく完成するとの報告を受けて呉へと出向いた一太郎、結果は?
潜水艦第壱号
1887年6月
遂に水圧に耐えうる物が完成したとの報告を受けた小官は、呉に来ている。
試験航行に同乗したいと思ったのだ。
海軍大将閣下、彼にもこの場に来て欲しかったのだが、どうも最近床に伏せがちになって居て大事を取っている。
もう長くは無いかもしれない・・・
彼は転生して来て、池田屋事件直後の亡くなった筈の坂本龍馬へと憑りついたらしい。
つまり、坂本とは名乗っては居ないが体は坂本龍馬本人である。
元々生きている筈の無い人物であるが故にこの年に亡くなった将校等は居なかった筈だが何時亡くなっても可笑しくは無いだろう。
ふと逆に思ったのだが、小官がもしも子供から転生せずに彼と同じような転生がしたいと思った場合如何なって居たのだろうか?
気には成るが魔王と話が出来る訳でも無いので確かめたければ2回目の転生時にそのようにしたいと願って見るべきであろう。
いずれにしても、小官は益田太郎冠者の死産した兄君の体に憑りついて生まれた訳だし、死ぬ人物に憑りつく事で成り代わると言う方法で無いと転生出来ないのだろうと思う。
まぁ良く考えれば肉体の無い所に魂だけ持って行っても肉体の無い魂がそこにあると言うだけだ。
復活は出来る筈も無いので当然と言えばそうなのかも知れない。
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最近何だか妙に、誰かに見られている様な気がしたりするのだが、恐らくは小官を狙って自国に拉致しようと言う輩では無いだろうか。
去年あれだけ派手に世界中から人を招待したので、諸刃の剣を抜いたのだと言う自覚はあるのだ。
だが、こと加工技術に関しては日本の職人に勝るクオリティーを叩き出せる人種を小官は知らない、もしも他国に行って同じ物を発明しようともこの時代の技術レベルで再現出来るとは到底思えないのだ。
唯一近い物を再現出来るとしてドイツ、ってとこかな?
なのではいそうですかと一筋縄で連れ去られる積もりも無い。
あの後、英国女王陛下より天皇陛下へ向けて親書が届いたと聞く。
内容は、同盟迄は行かなかったが仲良くしましょうみたいな内容だったらしい。
元々我が軍の海軍は英国海軍と仲が宜しく、帝国海軍の名物、カレーライスは英国海軍より齎された物らしい。
これで我が国の仲間・・・と言うか擁護してくれそうな国は、アメリカの他にイングランド王国、そして、ハワイ王国、そして南米コロンビアは貿易相手として非常に良い関係が築けている、勿論ベトナムは我が国に対して恩を感じて居る様で、どちらかと言うと此方寄りである。
そして他にも、以前に捕らえたスパイを無傷で強制送還させた事と、フランスと仲が悪かった故か、ドイツも最近此方寄りに成りつつある。
アメリカとドイツは元々彼らが転生して居るのでどちらにしても仲違いはしたくない。
アメリカに関してだけ言えば日本贔屓の大統領が常に立ってくれる事が望ましいがそうも行かないであろうと思われるので、出来る限り歴代大統領とは仲良く出来る方法を試行錯誤せねば成らないだろう。
より一層外交は神経を使う仕事となるな、外務卿の方や公使館員様方、ご愁傷様です。
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それはさて置いて、ドックへと案内された小官は、遂に完成した潜水艦とご対面である。
最大のネックとなった浸水対策であるが、金属製の外郭を継ぎ合わせるに当たって隙間が出来ないように精密に組む工程が一番手間も時間もかかっている。
僅かでも隙間が出来てしまえば水圧に耐える事は出来ないのだ。
その集大成で完成した美しい曲面で構成された潜水艦が眼前に現れた。
あまりの美しさに感動迄覚えた小官であった。
内部の構造も小官のデザインとアイデア、持てる知識の集大成である。
当面、潜水中の推進用バッテリーは、リチウムイオンバッテリーにはもう暫く掛かりそうなので自動車に搭載して居るの同じ鉛蓄電池を大型化した物を60基程積んでいた。
それでもせいぜい60分の潜航が限界であろうと思われる。一基当たり1分、まぁそう言う単純計算な訳では無いがそんな物だろう。
現在位置を確認する事が出来る電磁式座標表示機も細かい修正で何度も呼び出されたなぁ・・・魚群探知機の要領で海底の水深と地表の様子が映し出される海底レーダーもちゃんとうまく機能するだろうか、等と感慨にふけって居ると、背後から声を掛けられた。
「君が益田君だな? 大将閣下から噂はかねがね伺って居るよ。」
「は、小官が益田少佐で有ります。」
そこに立って居たのは呉の造船ドックの責任者、階級は少将であった。
「素晴らしい研究者であると共に素晴らしい技術者であったな、お陰で我々も、こいつの制作で苦労させられたぞ、がははははははは!」
「いえ、素晴らしい仕上がりですよ、あまりの美しい船体に小官も感動を隠し切れません。」
「後は貴官の肝入りのこの様々な電気機器がしっかり機能してくれさえすれば完璧だな。」
「ええ、小官も一番心配してる所であります。」
「細部の点検をして、進水式は明日に成る、今日はゆっくりして行き給え。 貴官の為に宿も取ってある、温泉にでも入ってゆっくり過しなさい。」
「温泉で有りますか、わざわざこんな小童の為に有難う御座います。」
「ここから少し移動するようだが、自動車に乗って行けばそんなには掛からん、湯坂温泉郷の一番の老舗を用意した、貴官は菅原道真公の生まれ変わりではとか言われて居るようだが、その菅原道真縁の宿らしいぞ、楽しんで来たまえ。」
「ははは、菅原道真公でありますか、小官がそうで有るとは思っては居りませんがせいぜい懐かしんで見ましょうか。」
「がはははは、君は冗談も優秀のようだな。」
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本当に何もかも素晴らしい待遇だ、同行した山田准尉、種田伍長も、あまりの良い宿に大感激だった程だ。
彼らは小官の護衛兼副官と運転手で付いて来たのだが小官よりも寛いでる気がするのだがその辺は気にしない事にしよう。
特に運転手をしていた種田伍長などは小官と一緒に湯に入った筈だが小官が出た後1時間近くも戻って来なかったが、気にしたら負けである。
驚いた事に14世紀に発見された温泉らしいが、ラドン温泉だった、ラドンが地中に埋まってるのか、素晴らしい・・・
温泉も非常に宜しかったし、食事もかなりの良いものだった。
満足して明日に備えてゆっくりと旅の疲れを癒す事が出来た。
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やはり種田伍長の運転は問題だ・・・
ゆっくり出来て疲れもすっかり取れた筈なのにドックまでの道のりを移動しただけでこの疲労感は一体何たる事だろう・・・
帰りの広島駅迄は山田准尉に運転を御願いするとしよう。
進水式が始まった。
船首にぶつけて割る酒だが、これは小官が父にお願いして特別に仕入れて頂いたドイツの高級品の赤ワインだ。
2次大戦でアメリカを苦しめたUボートのドイツにも肖っての一本だ。
まあまだ起きて居ない出来事なので何故と聞かれても返答には困るのだが・・・
序でにここの職員達にも味わって頂こうと1ダースで持って来て居るので後で酒盛りでもして頂こうと思い、後の11本は少将殿に預けておいた。
そうこうしている間にも進水式は進み、見事にワイン瓶が割れてゆっくりと海へと潜水艦が進んでゆく。
これが小官の持てる知識と現在の技術の最高峰の粋を集めた集大成だと思うと感慨深い。
桟橋へと移動した潜水艦が専用クレーンで固定され搭乗が可能になった。
海兵達に誘われ小官達兵科技研3名が乗り込むと、固定ロックが解除され航行を開始する
艦橋上部に立って進んでいく様を確認しつつ更に感慨に耽って居ると、潜行試験をするので中へと誘われた小官達は管制室へと赴いた。
「各部異常なし、管制機器も異常なしで有ります。」
「では、潜航を開始せよ、バラスト注水開始、斜角-8度、微速潜水開始。」
「深度5m、潜望鏡深度です。」
「よし、給水停止、深度其のまま、斜角ゼロ、巡航速度。」
安定している、潜望鏡深度まで潜れれば、この時代なら普通にこちらを発見する事は容易では無い筈だ。
これだけでも十分だとは思うが、どこまで潜れるかも問題である。
「これより潜行深度試験を行う。バラスト再注水開始、深度計確認。」
「は、現在深度10m、11,12・・・・・20m超えました。」
素晴らしい、十分だった。
このまま技術を積んで行けば2次大戦までには500mを超える水深に耐えうる物が出来るだろう。
「さらに深度下げます、30・・・・40。」
この辺に来ると船体が水圧に押されるキシミ音の様な物が聞こえはじめる。
「船長、十分です、ここまで潜れたら他国の艦船には発見出来ないでしょう。」
と、潜航試験の終了を告げる。
「判りました、潜航停止、バラスト排水開始、斜角5度、微速上昇。再び潜望鏡深度で上昇停止する。」
次は魚雷発射試験だ、魚雷管を開いた時に浸水してしまうようではダメだし、ちゃんと発射出来ないのでは話に成らない。
廃棄予定の旧戦艦を敵に見立てて魚雷を発射する。
「雷管内排水開始、1番、2番魚雷装填せよ。」
通信菅より声が帰って来る。
「1番、2番雷管、400㎜装填終了しました。」
「よし、1番2番、雷管開け!」
船長が潜望鏡で照準を合わせる。
「右4度回頭微速前進。」
岸からも見て居る者達が沢山居る、400㎜魚雷の威力を見て驚くぞ・・・と、こっそりほくそ笑んでいる。
「1番2番、同時に発射!」
雷管に海水が注がれ、空回りしていた魚雷のスクリューがシュルシュルと音を立て、シャッと言う音と共に魚雷が発射された。
暫くすると、ドーンと言う轟音が2発たて続きに響き、歓声が上がる。
小官も思わず「たーまやー」と言いたかったが辞めておいた。
心の中では叫んでました。
艦長が小官に握手を求めて来たのでそれに答える。
「成功です、ありがとう! 最高の艦だ!」
「こちらこそ有難うで有りますよ、小官の夢物語な知識をここまで再現して下さった技術者達と、この様な世界初の言わば未知の艦船をここまで見事に操船出来る船員や艦長殿に敬服の限りで有りますよ。」
恐らく、相当訓練をしたのだろう。
一発本番でここまでしっかり操って見せるとは恐れ入ったものだ。
帰り間際に、潜水艦の訓練に使った模擬管制室を見せて貰った。
見事な物でこれにも驚かされたのだった。
ともかくこれで、潜水艦も就航した、これでどこにも負ける気はしなくなった。
後は今のうちに大量の物資を備蓄し弾薬を確保する事が急務となるだろう。
2か月後には、潜水艦第壱号は横須賀へ入港する。其の時は是非に大将閣下をお連れしたいものだ。
因みに小官に名前を付けて欲しいと言われたのだが、悩んだ結果、昇龍と名付けたのだが安直過ぎたか?
だがこれから成果をグングン挙げて行く艦船なのだから昇龍は縁起が良いと思うのでこれで良いだろう。
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あれから2か月、横須賀に入港する昇龍を見る為に、病気がちの海軍大将閣下は是非連れて行けと小官の元に無理を押して駆け付けたのだ。
いつも楽しみにされている方々、有難う御座います。
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私自身の勉強にもなりますのでよろしくお願いします。
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