コレラの脅威
ふと思い出した一太郎、コレラ大流行で10万人規模の死者が出るまで3年しかなかった。
ペニシリン大量生産を間に合わせるにはギリギリと踏んで急ぎ開発を始めるが・・・
コレラの脅威
小官は今、陸軍省に残して頂いた部屋に籠って青カビの培養をしている。
正月休みにミカンに付いて居た物を削ぎ落してシャーレーに入れて持ち帰ったものと、最近見つけた餅に付いて居たものを培養していた。
何で兵科技研じゃ無いのかって?
そりゃぁね、海軍からの出向兵も増えて来て手狭・・・じゃ無くて、人が多すぎてこんな物培養してたら捨てられるのが関の山だからですわ。
3年以内に大量生産が出来るようにしないと10万人規模のコレラ被害者が出る。
当然、今開発してるのはペニシリンですよ、一人でひっそりとね。
とは言え、コレラ菌が相手では実の所ペニシリンでも言う程の効果は期待出来るとは思って居ない、精々重篤化を抑える程度にしか効かないであろう。
何はともあれ、元々化学好きなので知識として製法は知っているが、実際に作った事は勿論無い、出来るだけ多くの青カビを培養して置かないと失敗した時にまた青カビを探す所から始めなければならなくなる恐れがある、小官にそんな時間は無い。
取り敢えずは天然ペニシリンを最も単純な方法で作って見ようと思って居る。
青カビ培養液から取り出す手法だ。
前世で医師がタイムスリップして幕末でペニシリン作るなんてのが有ったが、あれと同じような方法だ。
それが出来たら次は生合成を試してみようと思う、生合成迄出来るようならば量産の光明が見えて来る。
問題は小官が一人でここに詰めて居ると言う事は飯当番が折角作った昼飯が食えず小官だけ外食をする羽目になる事だな。
新宿に毎日通って居た頃に良く世話になった飯屋に入ると、以前小官が教えたラーメンが爆発的な人気メニューとなって居た。
今日は又新しいメニューでも落として行ってやろう・・・海軍連中が兵科技研にこれを初めて持ち込んだ時はうれしさのあまり狂喜乱舞したい程だった。
そう、カレーである。
余りの感激に早速海軍連中の情報をパパンに教えてスパイスが輸入出来るようにして貰ったものだ。
其の上スパイスが一般でも購入出来るように、〇井物産から独立してスパイスとハーブの専門貿易会社を立ち上げようという人物が現れたので、命名を御願いされたのだが、何で小官だったんだろう・・・つけた名前は、〇&B食品・・・赤い缶のカレー粉を取り敢えず発売するらしい。
本来の創業よりも60年も早く創業してしまった・・・やり過ぎたかな。
でもカレー食いたかったんだもん・・・
で、今日はその商品の赤いカレー粉のでっけー業務用400g缶を持ってやってきた。
「おやっさん、お久しぶり。」
「おお、益田大尉・・・ン? また昇格したのか、少佐だな。 久しぶりじゃねーか、今日は陸軍省に何か用事で来たのかい?」
「いえいえ、用事と言うより暫くこっちで無いと厳しい仕事が有りまして、暫く通わせて貰う事に成りそうですよ。」
「そうかよ、こっちゃぁ少佐のお陰でこの盛況だ、ありがてぇ事によ、今日は俺の驕りで良いや、好きなもん食いな!」
「ははは、それは有難いですね、でも、今日は一つ提案させて貰おうと思って来たんですよ、勿論昼飯は食って行きますけどね。」
「その提案っつーのは?」
「これなんですがね。」と言って業務用の赤い缶のカレー粉をカウンターに置く。
「何でぃこの変わった缶は。」
「これは中にカレー粉って言うのが入ってます。
今、海軍では週1回食べてるカレーライスって物に必要不可欠な材料です。
試しに食材も用意して来たので、作りますよ。 後はおやっさんのアレンジで美味い物にして下さい。」
と言って制服を脱ぎ、帽子も置いて厨房に入れて貰った小官は、手早く肉と野菜を切って一口サイズにして鍋に放り込む。
前世で一人暮らしが長いので割と料理の腕はあったりするのだ、ここのおやっさんには敵わないのだけどね。
隠し味にと、店のラーメンのスープと蕎麦のつゆを混ぜ、水と一緒に鍋に投入、具材にちゃんと火が通るのを見計らってから火を止め、ホンの少し冷ましてからカレー粉を入れる、のだが、缶を開けるとおやっさんが、「おお、何だこれ、初めて嗅ぐ臭いだが、これは面白いもんが出来そうだな。」
カレー粉をしっかり入れた後、もう一度火を入れてゆっくり攪拌させて完成だ。
で、おやっさんと二人して試食・・・正直言って小官が作ったものはソコソコは旨いと思うが、まだまだではあった。
おやっさんは、うんと一言頷くと、カレーの鍋にウスターソースを一回し程投入混ぜてから出してくれたのだが、小官の作った物よりも圧倒的に美味くなった。
「うまっ。」と一言いうと、「だろ?」
と返って来た。
で、小官は今日の所はラーメンを一杯ご馳走になって帰る事にした。
帰り際におやっさんは、「この粉のもっとデケェの無いか?これっぽっちじゃ俺の試作で終わっちまう。」
と言われたので、〇&Bに連絡して営業を向かわせて貰う事になった。 昨日創業したばかりだから喜んでいた、良かった良かった。
翌日、昼飯を食べに行くと、早速新メニューが出来ていた、なんと商魂たくましいおやっさんだろうか・・・
だが、食って見たらさすがの良い味に仕上がって居た。
たった一晩でここまで仕上がるとは、やるなおやっさん・・・
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おやっさんがあんな素晴らしいカレーライスを作り上げるに至ったのだ、今度は小官が頑張らねばいけないだろう。
おやっさんの店で貰って来た米の磨ぎ汁で培養出来る青カビの量も一気に増えた。
3年後のコレラ流行で10万人単位の死者が出る事に成る、それを何とか阻止する為には、一応は殺菌剤として感受性はあるとは思うがスルファニルアミドでは荷が重いだろう。
此方もさすがに特効薬と言う程では無く重篤化を抑える程度の効果しかないとは思うが其れでも無いよりもマシ、ペニシリンを間に合わせたい、ここで10万人救えれば日本は人的資源をもっと有効に利用出来る事に成るのだ。
そして3年後の流行時にはコレラ菌の原体を手に入れてワクチンを作ってしまいたい、二度と流行させない為には最善の策を取りたいのだ。
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青カビ培養液を濾過し、カビ部分は再利用に回し液体だけを使う、油溶性成分を取り除くために食用油を注ぎ良く混ぜて分離を待ち、分離して浮いた油を取り除く、次に、木炭を煮沸消毒して砕いた物をフィルターにしてもう一度濾過、炭の方に吸着しているペニシリン成分を取り出す為に、以前に洗剤を使わない掃除用にと自力でアルカリ電解水を作った事が有ったので、後に残って居た酸性電解水を残しておいたのでそれを使ってよく洗い流し、残った炭を今度はアルカリ電解水に浸す、すると炭からペニシリンが分離、アルカリ水に浸み込む、これを濾過してゆっくり加熱、水分を飛ばすと粉が残る、これがペニシリンになる筈、使う時は蒸留水で溶かして使うのだ。
実験したい為に、軍内部で食あたりをした者の胃液を採取、顕微鏡でブドウ球菌を見つけて培養してそこにペニシリンと思わしき粉を蒸留水で溶かした物を数滴垂らして時間経過を見る。
結果は、成功だった。但しまだ実験で少量だけ作った物なので同じ工程をもう一度、今度はずっと多くの培養液を使わねばいけないだろう。
新たに電解水も追加せねば・・・
電解水の用意が終わり、炭へ吸着させる所まで終わった辺りで、何だか体調が優れない・・・
丁度良い機会だから自分でペニシリン人体実験でもしてやろうと思って工程を進めて行くのだが、やたらと下痢、嘔吐が激しくなる。
脱水症状もかなりひどいものだ・・・まさか・・・
そうなのだ、そのまさか、3年後の大流行以外にも少しだけ流行した年も有ったのだが、其れにぶち当たって居た・・・
折角手に入れた原体を何とか補完しようと思い自分で血を抜き、シャーレーに作ってあった培養床に落とし、フラフラになりながらなんとかペニシリンを完成、自分で注射する、そのまま泊まる為に用意してあった布団へ倒れ込んで意識を失なった・・・・
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夢を見る・・・前世の、転生する直前の時の光景だった。
あの時のそのまま、問答無用で消滅させられそうになり、ハッと目が覚める。
どうやら峠は越えたようだった。
いやマジで死ぬかと思った。
恐らく浄水場や下水処理場がちゃんと整備されてないのが流行の原因だろう、水が怖くなり湯を沸かして飲む。
そのまま大急ぎで最寄りの大型病院へ行って見ると、やはり大量の患者が居た。
小官のような子供が言っても医師は信用しないと思うので中将閣下にお願いしてこの出来たばかりのペニシリンを、絶対数は足りないのだが近くの病院へと配る事にした。
どれだけ助かるかは判らないが無いよりはマシである、重篤化さえ疎外できれば煮沸消毒した水を常時飲ませる、もしくは生理的食塩水を点滴し続け水分補給を怠らないように患者を隔離しておけば・・・重篤化だけは避けられさえすれば何とか死者の数を大幅に減らせることが出来るはず。
もしかすると今年中にワクチンを作れる可能性は出て来たし、また作るだけなのでペニシリンは全部使っても惜しくは無かった。
結果、ペニシリンを投与した者は重篤化せず、隔離して水分を補給させて後は回復力に任せるだけでほぼ全員助かったらしい。
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