兵科技術研究所、陸海を超えた機関となる
相変わらず新技術の確立の為に邁進する一太郎、何だか苦戦しているようだが・・・
風向き自体はかなり良い方向に。
兵科技術研究所、陸海を超えた機関となる
ロータリーエンジンを開発し始めた。
前世では、20代の頃にロータリーエンジンのスポーツカーに乗って居た事が有り、あのエンジンが基本的に好きだったのだ。
わざわざ展開図も取り寄せて自分で整備をしたりもしていたので構造は完璧に覚えていた。
ただ、いざ図面に興したものを形にするのは中々難しい物ではある。
だが、エンジン自体の形は完成したのである、実際に動く・・・のだが・・・
冷却がうまく行かない、空冷では無理が有るのかもしれない、ピストン式エンジンよりも発熱量は少ない筈のロータリーエンジンだが、一度熱くなってしまうとどうしても冷却の方が今度は追いつかないのだ。
「あーもう!これでもダメかっ!」
残る手は、水冷・・・不凍液を作ってラジエターで冷却をする?・・・
この時代にそんなシステムを作る?・・・やってやろうじゃないか、面白い!
なんとしてもやってやる!水冷エンジンを作ってやる!そのまま勢いでスーパーチャージャーやターボにブローオフバルブ、DOHCとかも作っちゃうぞ!
最近このロータリーエンジンの開発の為にろくに寝て居ない所為だろうか、何だか妙にテンションが高くなって来た小官であった。
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余りにも妙なテンションになって来た事に自覚が出始めた小官は、流石にまずいと思い、休暇の申請の為に陸軍省にやって来た。
すると意外な事に、門兵から先に声を掛けられた。
「益田大尉でありますか?」
「そうですが何か?」
「は、つい今しがた、海軍大将閣下が陸軍省にお見えになっておりまして、益田大尉を呼び出して欲しいと・・・。」
なぬ?海軍大将だと?何だってのよ、設計図だけ丸投げで送りつけたのが気に入らなかったかな?
「で、今海軍大将閣下は?此方に?」
「はい、待たせて貰うとおっしゃって。」
ふむ、文句が有るのなら兵科技研迄怒鳴り込んでいても可笑しくない所だが、行き違いに成らなかったと言う事はどうもそうでは無いと見て良いだろう。
「了解した、ご苦労だったね。」
と労って中へ入る。
ここは馴染みのある中将閣下の執務室では無く、大将閣下の執務室に行くべきであろうか?等と悩みながら歩いていると。
「あ、大尉殿、こちらへ!」
と呼び止められる。
そちらに向かうと、其処は作戦立案室だった。
「益田大尉、参上いたしました。」
「入りたまえ。」
「は、失礼いたします。」
入室すると、途端に。
「おお!貴官が益田君か! 君が起こした設計図は凄いぞ! これまでの方式など問題にならん位の速度が出るでは無いか! 艦船の新時代が始まるそ!」
何だか無駄すぎる程の興奮した海軍大将閣下がそこに居た・・・
「いえ、小官はすでに数年前に考えていた物を図面に興しただけで有りますので。」
「なんと!そんな前から考えて居たのか、それなら貴官に頼みが有るのだ! 是非、大型戦艦の設計をお願いしたい! 出来るか!?出来ると言ってくれ!」
一人でみ~んな喋っちゃうよこの人・・・陸軍側の大将閣下も中将閣下も何だかタジタジ見たいで顔に疲労感が・・・ああ、この人こう言う性格の人なんだな・・・と思って少々げんなり。
こういう熱い人、前世でも居たなぁ・・・あまりにも熱く語りすぎる上に、オリンピックのレポーターとかで行った先で一度も雨や雪が降らないので太陽神の化身とまで言われた元テニスプレイヤーの人が・・・正直面倒臭い、苦手だ。
「は、大型軍艦で有りますか、ではこちらをどうぞ。」
情報漏洩の心配が無くなるので常に将校バッグに入れて持ち歩いていたディーゼルエンジンの設計図を広げてみせる。
「これは何だね?」
「はい、こちらの設計図は石油燃料で動かす発動機で有ります、ガソリンでは性能を発揮し切れないのですが、舟に搭載する場合、重油を燃料にすると非常に大きな推力を得る事が出来ます。」
こちらのピストンを26基も連動した物を作ればかなりの巨船も走らせる事が出来ると思います。
「ほう、そんなにすごいのかね?」
「はい、従来の蒸気機関では、炉を加熱して水を蒸気に変え、その圧力を利用して船を走らせておりましたが、こちらの発動機と言うのは、言い換えると内燃機関、このシリンダー内部で油を燃やす事で大きな爆発が生まれます、その爆発エネルギーをそのままピストンを動かす力とします、そしてそのピストンが動く事で動力を生み出します。 実際にガソリンで動かすタイプの内燃機関は出来ております、こちらに来るのに試作した自動車で来ていますのでご覧になりますか?」
外で待たせている井上曹長にまさかの出番である。
「是非見せてくれ、そんなにすごい力が出せると言うなら君の設計した物は全て採用したい! さぁ何処だ、直ぐ連れてゆけ!」
ああ、このテンション、やっぱりだよ、コノヒト・・・
「こちらが、我が兵科技研の自動車で有ります、運転は我が兵科技研の井上曹長です。」
「おお、本当に馬が引かないのだな、この前の目の様なのは?電球か?」
「はい、夜間でも道路を照らせるように取り付けた電球で有ります。 奥に鏡のように磨いた金属板を取り付ける事で明るさを増幅して光に指向性を持たせる事に成功しております。 今の時間では判り難いですがかなり明るい物になりました。」
実はフィラメント自体も既に新しい素材へと切り替わって居る。
〇井物産が全面的協力を申し出てくれたので(父のおかげで有ります。)普通にタングステンを輸入できるようになって居るのだ。
平成にLEDに取って代わられるまで当たり前に使われていたフィラメントなので最も信頼できると思う。
お陰で電球も様々な大きさの物が登場して居るのだ。
因みにこの電球のおかげで小官は軍の給料よりも大きな収入になって居るのだがそれはまた別の話だ。
大幅に脱線してしまったが・・・
早速海軍大将閣下が助手席に乗り込もうとしたので、
「閣下いけません、運転者の後ろの席にお座りください、万が一にでも事故が起きた時に一番安全と思われるのが運転者の背後ですので。」
「何を言うか!折角の自動車の力強さがそれでは判らぬではないか!わしはどうあってもこの席は譲らんぞ!さあ早く出せ!」
はぁ、予想通りと言うか、熱い性格の人はこの後何を言うかは大方見当が付くものの、そんな事が解ろうとも言い出したら何も聞かないので、扱い難さが変わらず最上級、何処までも面倒臭い。
「それでは、試乗の序でに、兵科技研の本部にご案内いたします。 海軍用の新装備に使えそうな設計図を幾つか用意してありますので。」
小官も我ながら大概だなと思う事が良くある、暇な時間が有るとコツコツ新しい図面を引いて居るのだから海軍向きな装備も中には数点出て来るのだ。
アサルトライフルよりも短い銃身で拳銃と同じ9㎜を使う自動小銃、所謂サブマシンガンとか、逆に車や船など乗り物に台座を固定しないと扱い難い、20㎜重機関銃とか、ついでで開発した物も有って、水面に浮いて機能する爆雷なんかも設計していた。
どうも以前に送り付けた設計図の中にあった魚雷がこの大将閣下のお気に入りらしく、車で移動中にそれはそれは熱く語ってくれた・・・ハァ・・・メンドクサイ
「到着しました。」井上曹長が車を停め、ドアを開けてくれる。
「何!もう着いたのか!早いでは無いか!」
いちいちエクスクラメーションマーク付けないと喋れんのかこのお方は・・・
兵科技研の執務室にご案内する間も何だか熱い想いを語り続けて下さった・・・うう、誰か如何にかして、この人。
「これはようこそお越しくださいました、海軍大将閣下殿。」
中佐殿が挨拶をするのもサラッと流すようにして早く図面を見せろと言わんばかりの勢いの閣下・・・やっぱ苦手だよぉ、この手の人・・・
後から苦笑いをしながら中佐殿や曹長達が続いてついて来る。
様々な設計図や化学式の置いてある小官のデスクの中から、何故か海軍大将閣下の目に留まったのが、書きかけのリチウムイオン電池の化学式や製法と、半導体の作成の手順表にPCを再現する為の基盤の配置デザイン表、この人、あながち只の太陽神の化身では無いような気がして来た・・・ まさかとは思うが未来人なのでは無いだろうか。
「何だ、これは日本には材料が無いのであろう? 良ければ海軍が全面的に協力してやっても良いぞ。」
うわ、こっちが何か言う前にリチウムとかシリコンが現在無い事を見抜かれた、絶対未来人だろこの人。
一寸だけ小官のこの御仁への評価が変わった。
面倒臭いのは変わらないが・・・
この方の協力が有ったらもしかすると大正頃迄には携帯電話を再現出来るかも知れないとか思える程に心強い。
なんにせよ他国の追随を許さない技術大国になってしまわなければ、2つの大戦を早期終結にして日本の地位を上げる事は出来ないだろう。
最終的には日本は、中立国にして国連のトップにのし上げたい。 世界の小競り合いの宗教戦争等を無くす事が出来るのは、政教分離があっさりと受け入れて行けた日本だけなのだ。
「すみません、未だこちらの物はただの机上の空論でしか有りません、ですが、材料さえ手に入れば何度も試作を繰り返していつかは完成させたいとは思って居ますが。 今はまだ理論値だけですので。」
艦砲の自動装てんのプランを持ち出し、それを見せて話を逸らす事にした。
「こちらをご覧になって下さい。」
「これは?」
「前回お送りした砲塔型の艦砲の自動装てん化をする為のプランです。 このように自動小銃のシステムを応用、自重で転がり次弾が装填できるようにすれば、連続砲撃でせん滅することも可能になり、その上兵の負担も軽減できると思われます。 また、暴発や信管の事故による砲弾炸裂が起こっても、人的被害は最小限に抑えられると思います。」
閣下は感心したように頷きながら隅々までしっかりと見た後、この図面を貰っていくと半ば強引に畳んで鞄に詰めた。
「大将閣下殿、もう一つ、こちらをお持ちください。」
トリプルベース火薬の製法と保管法を書いてあるマニュアル冊子を作ってあったのだ。
「これは、新型火薬か。 装薬かね?」
「いえ、炸薬にも流用して頂けます。」
「早速、作らせよう。 それとな、自動車をわしにも一つ貰えないかね?」
やっぱそうなるか、何となく未来人なのでは無いかと思って居たのだが、だんだん確信に近づいて来た。 動かし方を知ってるような口ぶりである。
「はい、宜しいのですが、閣下自らが運転されるおつもりなのですか?」
と聞くと。
「勿論そうだとも、この様な素晴らしい物自分で運転せねば面白みが無いだろう?」
「では、一度運転をして見て頂かねばいけませんね、先程運転していた井上曹長でも、エンジンを停めずに走らせられるようになるまで2~3時間掛かってましたので。」
「なぁに大丈夫だとも、所でお主にちょっと個人的に話が有るのだが、人払いして貰えぬか?」
やはり来た、絶対に未来人だ、間違いない!
「了解しました、中佐、申し訳ありませんが・・・」
と、人払いをお願いする。
一寸だけ怪訝な表情ではあったが、中佐殿は仕事も有るからと全員引き連れて部屋から出て行った。
「さて、と、君も気付いて居るのだろ?わしは未来から転生して来たのだ。」
「やはりそうでしたか、小官もであります。」
「堅苦しい話し方はやめんか、君は何年から来た?」
「はい、私は2020年、東京オリンピック真っただ中からです。」
「そうか、俺も2020年だ、オリンピック中継が全て終わった打ち上げの直後に事故で死んだ、ほぼ同じ時代を生きて居たのだろうからもしかしたら知ってるのじゃないか?オリンピックで暑苦しいレポートしてた元テニスプレイヤーだよ。」
ぶ!まさかのご本人かい!
「そうでしたか、多分私の思った通りの人なのでしょう、私も割と有名にはなったのでは無いかと思うので言います。 2020年に合衆国の某大学で起こった研究室の爆発事故、その場に居た日本人の臨時講師です。」
「はっはっはっは!知ってるぞ!覚えてる、うん、レポート中に臨時ニュースが入った覚えが有って覚えてるよ。」
「そうですあれで死んで、魔王に過去に生まれ変わることを条件に生き返らせて貰いました。」
「そうか、俺は生き返らせてくれたのは神様だったかな?」
「そうなんですか、何でまた過去に?」
「選べなかったからね、もう一回違う人生を貰えるらしいけど、戦争の歴史を変えろって言われたんでこうして。」
「そうだったんですか、じゃあ一つ、忠告しておきます、今年7月に、朝鮮とちょっとしたトラブルが起きるはずです、ですがそれを朝鮮側もこちら側もうやむやにしてしまうので、ちゃんと処理してやって下さい、日本が世界のトップになって戦争の無い世界を作る為には誠実で居なければいけないと思うので。」
「判った、覚えておこう。 あ、それからな、この機関は海軍も認める機関とする、こちら側からも兵を何人か回そう、好きに使ってやってくれ。」
「それでは此方からもなかなか言えなかったお願いが有ります、アメリカでシリコンバレーを買い取って日本の開拓地にして欲しいのですが、〇井物産の社長が我が父なのでうまい事利用してやってください。」
「やっぱりさっきの書きかけの物はパソコンを作る為の物だったんだね?」
「ええ、あれに注目されたので、私も もしかしたら未来人ではと思ってました。」
「リチウムも探しておこう、君にそうりゅう型をこの時代に再現して貰いたい。」
「はい、やってみます。」
こうして、海軍にも絶大な信頼を頂いて、この機関は陸海を超えた物になったのだった。