7.突如、手を引かれる。
マキちゃんの声かけで、同じゼミの子たちとカフェに行くことになり、向かって歩くわたしたち。男の子たちは互いに話すことなく、ただ付いて来ているみたいだった。他の女の子たちもどうすればいいのか分からずに、とりあえず付いて来ている感じ。
「月渚っち、どこか席を確保しといて~! 私、適当に注文してくるから」
「え? ええっ?」
こういうの苦手なのに。他の子たち、特に男子たちは全く声を出してないし何考えてるのか分からないよ。うう……居づらい。駄目だよマキちゃん、まだわたしは無理だよ……。
マキちゃんに言われたけど、そもそも席を確保とか出来るわけも無くて、声も出せずに他の子たちとのコミュニケーションも取れずにいるわたし。しばらくわたしや、他の子たちも無言のままマキちゃんが来るのをその場で待つしかなかった。
そんな少しの間なのに、誰とも話すことなくうつむいていたわたしに、どこからか声がかかった。
「キミ、新入生だろ? この前は話しそびれたけど、今ならアイツも中にいるし連れて行くよ」
「え? え?」
「この子たちと用があるの? ちょっと前に見てたけど何にも話してないみたいだったし、いいよね?」
「ええっ!?」
何のことか分からずに、この男の人に言われるがまま手を引かれてカフェから離れてしまった。他の子たちは何が何だか分からないまま、わたしに声をかけることなく黙って見ていた。
ど、どこへ連れていかれるの? ど、どうしよう……こ、こんないきなり男子に手を引かれて何も出来ないなんて。
「よし、着いたよ。どうぞ、中へ入って」
「は、はい。し、失礼します」
どこへ連れて来られたか分からずに困惑しながら室内へ足を踏み入れると、どこかで出会ったことのある女の人が部屋の奥で本を読んでいた。わたしが中へ入ると顔を上げて、気付いたように声を発した。
「あなたは……入学式のコ?」
「え、あ! ……あの時の方ですよね? あの、ここってもしかして――」
「うん、文芸部。部って付いてるけど一応、サークルね。入りたいんでしょ?」
「えと、えとえと……は、はい」
「うん、いいよ。あなたなら歓迎。名前教えてくれるかな? 私は結城 彩。よろしくね」
「わ、わたしは宮原月渚です。よ、よろしくお願いします」
「で、俺は須垣 槭。よろしく、月渚さん」
「月渚さん……いや、月渚ちゃん、槭に声かけられて逃げたんでしょ? 怖かった?」
「そ、それはあの……わたし」
「あーいいよ。何となく分かった。コイツは見た目ほど怖くないし、ヘタレだからその内にあなたでも話せるようになるから、大丈夫」
「は、はい」
「なるほど、それでか。俺はてっきりいじめてしまったかと落ち込んでしまったよ」
「いじめたんじゃないの? あんた見た目ほど優しくないし」
「待てって。見た目とか言うなよ傷つくだろ! 俺は繊細なんだよ」
「よ、よろしくです。先輩」
何だかとても優しい方たち。けど、それでも槭さんのことはまだ顔をまともに見て話せない……
「んー? 先輩なんて呼ばなくていいよ。私のこともサイちゃんでいいからね。で、槭のことはスガちゃんでもいいしカエデちゃんでもいいよ。女子っぽいし。月渚ちゃんはわたしらで守っていくから、何も心配しなくていいからね」
「あ、ありがとです」
「そういや、さっきカフェでうつむいてたけど何かあった?」
さりげなく槭さんが心配してくれて声をかけてきた。
「そ、その同じゼミの子たちでカフェに来たんですけど、仲のいい子が少し離れてしまってそれで話も出来なくて……」
「あぁ、それでか。その仲のいい子も月渚ちゃんに任せるとか結構スパルタだね。さすがにそれは厳しい」
「だな」
マキちゃんが悪いわけじゃ無いんだけどでも、そうなのかな。敢えて厳しくしてくれてるのかな? そんなことを思いながら、わたしは文芸部のお話を細かく聞くことにした――