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5.文芸部の男のひと


 遅れて来たマキちゃんは、オリエンが終わると同時にさっさと教室から出て行ってしまって、声をかけることが出来なかった。何だか忙しない感じだけど、他にも何かやってるのかな。


月渚るなはお昼どうする?」


 声をかけてくれた奈織なおさんたちはどこかへ行くのかな?


「んと、奈織さんたちはどこかへ行くの?」


「ん、まぁね。さすがにまだ学内のどこに何があるか知らないし、カフェでも行きつつその辺歩いてみようかなって。っていうか、自分のことも、この子らのことも含めて呼び捨てでいいよ。仲良くなれそうなのに、『さん』付けだと寂しいじゃん? だから、月渚も呼び捨てで!」


「う、うん。な、奈織……ちゃん」


「おっけ。で、どうする? 一緒に見て回る?」


 誘ってくれて嬉しいけど、文芸部の部屋を探してみたい気持ちが強いし今回は断らなきゃ。


「えっと、わたし入りたいサークルがあって、そこに行ってみたくて……それで」


「もう入りたいとこ決めてるんだね~やるじゃん、月渚」


「なにに入るの?」


「ぶ、文芸部に」


「本が好きなんだ? そっか、それもいいかもね」


 佳那ちゃんは笑顔で頷いてくれている。


「ふぅん……文芸部」


 何だろ? 喬子ちゃんが何か首を傾げてるようにも見えるけど気になることでもあるのかな。


 


 奈織ちゃんたち3人とは別行動で、わたしは文芸部の部屋を探してみることにした。まだ慣れない学内を迷いながら、廊下ですれ違う先生に尋ねながらそれらしい部屋の前にたどり着いた。


 お昼に来ても誰もいないかもだけどもしかしたら先輩がいるかもしれないし、いたらきちんと希望を言うことを決めていたわたしは、心を落ち着かせてドアの前に立ってノックをしてみることにした。


 コンコン……


 軽くドアをノックしてみたものの、部屋の中からは何も反応が無いみたいだった。やっぱりお昼に来てもいないよね。そう思って、みんなのいるカフェに向かおうとすると背中越しから声をかけられた。


「何か用?」


 お、男の人の声……? 思わず肩をビクっとさせてしまった。ど、どうしよう。振り向かないと失礼だけど、緊張で体が動かないよ。わたしはそのまま恐る恐る声を出して聞いてみた。


「あ、あの、文芸部はここ……ですか?」


「一応ね。何もプレートが無いから分からないかもだけど、もしかして希望者?」


 そ、そっか。ここで合ってたんだ。ど、どうしよう……返事をしないと。このまま後ろを振り向かないのはダメなので、体の向きを変えてその人の正面に向き合った。


「――あ」


「……ん? キミ、新入生? 珍しいねここを選ぶなんて。今は誰もいないけど、部屋に入ってみる?」


「えと、あ、あの……ご、ごめんなさい。ま、また来ます。し、失礼します」


 せっかく優しく声をかけてくれたのに、まともに顔を見ることも出来ないまま、深くお辞儀をしてそこから足早に去ってしまった。


 入るきっかけを作ってくれたのにどうして逃げてしまったの? なんてことを自問自答するものの、まさか男のひとが声をかけて来るなんて思わなかった。でも今度行くときは逃げずに返事をしなきゃ。


 その足でそのまま、カフェを探して向かうことにしたわたし。


「あれ? 月渚っち? 奇遇だね。どうしたの? どこか行くところなの?」


 なかなかカフェにたどり着けずにいると、マキちゃんがわたしを見つけて声をかけてきた。


「マキちゃん?」


「いえす! マキですよ。もしかして迷ってたの? まぁ、私もなんだけどさ~」


「そ、そうなんだ。あ、マキちゃんわたしと同じ学部だよね。わたし、マキちゃんが遅れて入って来たのを見てたよ」


「あ、あははは~見られてたんだ。そっかそっか、月渚っちも同じか。よかった~」


「マキちゃんって何かしているの? いつも遅れて来てるみたいだし忙しそうだけど……」


「んー、遅れて来てるのは何て言うか~起きるのが苦手っていうかね。んで、別に忙しいわけじゃないけど、じっとしてるのが苦手なだけかな」


「そ、そうなんだ。じゃあ、入学式の時も寝坊したの?」


 マキちゃんは苦笑いしながら無言で頷いていた。


「あんまり話が出来ていなかったから、マキちゃんともお話がしたい」


「そういやそうだね。じゃあ、一緒にカフェに行こ? カフェの場所は把握したし、迷わず行ける!」


「うん」


 マキちゃんの言葉通り、すんなりとカフェにたどり着くことが出来たわたしたち。大学の中にありながら、カフェや軽めの洋食屋さん、コンビニも併設されていて席はどこも埋まっているみたいだった。


「あちゃ~やっぱ、混むよね。どうする? 空いてるとこ探す? それともコンビニで済ます? 天気がいい時はテラス席ってのもありだけど、まだ風が冷たいし座ってる人いないっぽいね」


 そう言えば奈織ちゃんたちがここにいるはずだけど、どの辺に座っているのかな。


「席、探してみる。いい?」


「そだね。そうしよっか」


 カフェ内の、いわゆるいい場所……陽射しがかかって暖かい窓側や、針葉樹か何かが置いてある所なんかは人気が高いのか、ほとんど座る席は無いみたいだった。


「ん~無いね~。これからこんな感じで席を探す日々なのかな」


「そ、そうなのかな……」


 マキちゃんと見渡す限りのいい席を探してみたものの、どこも埋まっていて空く気配も感じられずにいると、窓側で誰かが手を振っていることに気付いた。


「あっ」


「ん~? どうしたの?」


「あ、あのね、同じ学部の子たちが手を振ってくれてるの。そこに座れるかも」


「おー! いいね。じゃ、行こ」


 マキちゃんと一緒に、手を振ってくれた奈織ちゃんたちの所へ行くと、少し驚いた表情を見せていた。


「月渚、文芸部は見つけられたの?」


「う、うん」


「そっか。でさ、その人は友達?」


「えと、マキちゃんは……」


「ども~マキです。同じ学部です?」


「遅れて入って来た人でしょ? 目立ってたし、すぐ覚えたっていうか……その子、月渚とはいつから?」


「月渚っちとは入学式の日に出会って、そこからかな~。えーと」


「自分は奈織で、隣が佳那、端に座ってるのが喬子。よろしく」

「……どうも」

「佳那です。よろしく~」


 友達の友達……何だか不思議な気分。マキちゃんにしても、奈織ちゃんたちにしてもまだ友達と呼んでいいのか分からないけど、4年間も付き合いがあるならこれから楽しく出来そうな気がする。


「月渚は文芸部に入ることにしたの?」


「んと、部屋は見つけたの。だけど、声をかけられちゃって……顔も見れずにそのままそこから逃げてしまって。だから、まだ……」


「声をかけられて逃げたってことは男子だったってこと? 珍しいね。文芸部に男子とか」


「そ、そうだよね」


「月渚っちって、何となく思ってたけど人見知り? それも男子限定的な感じの……」


「ん、うん」


「だから大変なわけ。マキだっけ? あなたも月渚のこと、助けてあげたら?」


「んーそりゃあ、近くにいたり一緒にいる時はそうするけど、でも決めるのはこの子だし。その辺、あんまり甘やかすつもりはないかな。友達って言ったって限度あるし」


 マキちゃんはこう見えてもしっかりしてる人なんだ。彼女とはもっと話をして仲良くなりたい。


「……結構、それってきつい感じするけど?」


 あまり口を開かない喬子ちゃん。もしかしてマキちゃんに注意してる?


「そう? でも、そんなもんでしょ」


「……なるほどね」


 え? 何か雰囲気が……?


「月渚っち、私そろそろ他のとこ回ってみるね。じゃ、また後でね~」


「あ、うん。またね」


 マキちゃんは話を続けることなく、さっさとここからいなくなってしまう。行動が早いのは何だか羨ましいかも。


「ま、人それぞれだよね。タイプも違うし、そんなもんじゃん?」


「……かもね」

「なになに? どうしたの」


 よく分からないけど、マキちゃんははっきりしてるしサバサバしてるから、わたしのことについてもそこまで悪く言ってないと思うけど、喬子ちゃんはどう思ったのかな。


 変な雰囲気になりかけたけど、マキちゃんがこの場からいなくなったこともあってこのまま奈織ちゃんたちと話を続けた。午後は希望のゼミを決めなきゃいけない。そのことを考えながらお昼を過ごした――

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