3.心細いわたし
入学式初日から初めての連続だった。わたしは人見知り。だけど、初日の出来事で分かったことがあった。男性に対して極度の人見知りで、なおかつ恐怖症だったんだと思った。
ずっと大切に育てられたからというのもあるけれど、わたしの人見知りは男子限定でのことというのが、はっきりと分かってしまった。何だかんだでずっと同級生が女子で、見事に周りは女子しかいなかったというのもあってか、初対面の人でも素直に返事が出来た。だからこそ友達がすぐ出来たのかも。
「それで、月渚はこれから学生生活やっていけそうか?」
「う、うん。たぶん平気」
何も知らないお父さんはそうやって何気なく聞いてきた。お父さんは親だし、男の人って感じで見ないから怖いとかそういうのは無いけど、”外”にいる男の人はわたしにとって何も知らない人だから、どうやって話をしたらいいのかなんて分かるわけも無いよ。
「月渚、初めは男の子があなたにとっては恐怖でしかないかもしれないけど、そのうちに大丈夫になっていくはずだから、最初は女の子の友達と一緒にいてもらいなさいね」
お母さんはわたしの男子に対する人見知りを理解しているから、あえてそういうことを言ってくれるのがわたしの心の支えとなっていた。初めから男子に接するのは、わたしには簡単なことじゃない。
オリエンを聞き終えて、各学部ごとに沢山の学生たちが講堂から動きだした。わたしが属する学部は、人見知りのわたし自身を克服するためもあって、コミュニティ学部を選択した。当然だけど、男子の数も女子と同じ位に多くいる。
初日に出会ったマキちゃんの姿を探してみるも、講堂の中には姿が無かった。すでに他学部の教室へ移動したのだろうか?
「うあー!? ま、また間に合わなかった……はぁー」
もしかしなくてもあの声はマキちゃん? 学生たちがぞろぞろと出て行く出口付近を見てみると、紛れも無く初日に出会ったマキちゃんが息を切らせながら立っていた。
遅れて来たのはもちろん、彼女一人だけということもありすごく目立っていて、当然だけど教授たちに怒られている。マキちゃんは行動も目立ってたけど、格好も目立っている。何かモデルさんのようなことをしているような感じで、色合いの鮮やかな服を着飾っている。
講堂の端に座っていたわたしは動きも遅く、ほとんどの学生がいなくなってからようやく出口に向かい出した。すると、やはりというか出口付近で叱りを受けていたマキちゃんはわたしに気付いた。
「(るなっち! また後でね~)」
口がそんな感じに動いていたので、軽く頭を頷かせて講堂を後にした。講堂を出て、中庭廊下を進むと恒例行事となっていた、サークル勧誘の先輩たちがわたしたちを出迎えていた。
この時点でわたしはその場から動けない程、関わりを持ちたくないと思ってしまった。そんな気持ちに気付く人なんているはずも無く、勧誘している先輩たちはわたしにも気づいた。
「どう? テニスとかやらない? 初めてでもオーケーだよ~」
「天文興味あるっしょ? キミはそんな感じがする」
「いや、アレだ! 株でもやって儲けない? 簡単だよ簡単!」
「あぅ……」
あっという間に勧誘の輪の中に囲まれてしまうわたし。先輩たちの誘いの勢いもさることながら、声をかけてくるのはほとんどが男子。せめて女子だったらまともな返事を返すことも出来るのに、どうしてわたしには男子の人しか寄ってこないのだろうか。
やっぱり女子の友達を作らないとこういう場面で助けてくれないよね。マキちゃんは遅刻してきたことをたぶん、相当言われているだろうしすぐには出て来ないはず。
こういう時、ものすごく不安で心細い。1人だとやっぱりそう思ってしまう。こうなったら、もう入りたいサークルは決まっているってことをこの人たちに伝えて、この場から離れなきゃ。
「す、すみません……入りたい所、き、決めてます」
「お? ウチだよね?」
「いや、俺のとこだろ?」
「儲かるよ~」
「ご、ごめんなさい。わ、わたしは文芸部に入りたいんです……」
「げ……マジかよ」
「またか」
「ちっ」
男子の顔を見ることのできないわたしは、廊下の床と中庭の地面の間を見ながら声を出した。すると、それまで誘い文句を言い放っていた男子たちは、何故か潮が引くようにわたしの前からいなくなり始めた。
そういえば入学式の時も似たようなことが起きた気がするけど、何か関係があるのだろうか。でもこれで、男子学生たちが寄って来なくなって、素直に教室へ向かうことが出来るのは幸いだった。
うん、とりあえず教室へ向かわなきゃ。マキちゃんも同じ学部だとイイなあ――