恋い恋う惹かれの文學少女:エピローグ
「わたし、本が大好きなんです。だからここに来ました!」
大学に入った当初、苦手な男の子を克服したくて文芸部に入ったり、お友達のマキちゃんの力を借りたりして、それでも何だかだらだらと毎日過ごしていたら、あっという間に3年以上が経っていた。
焦るでもなく就活セミナーに参加するでもなく、将来どうしようかなんて思わずに過ごしていた自由気ままでお気楽な学生生活。
「はぁぁー……何か面白いことないのかな。みんな就活、就活……分かるよ? 分かるけどさ~」
春先から就活真っただ中の学生で溢れている中、何だかわたしだけが置いてきぼりのような、ううん、仲間外れにされているような光景。
裕福でもお嬢様でもない家庭で育ったわたし。だけど大事な一人娘ということもあって、幼い頃から高校に至るまで男子の存在しないエスカレーター方式の私立で義務教育を終了。
結果として、男子限定の人見知りになってしまう。男子とどう接したらいいのかな? なんて考えながら、知識は全て本で得るのでした。
「将来なんてなるようになるのに、何で急ぐのかなぁ?」
「月渚って、のんびりと苦労せずに生きていける子だよね。でもさ、その考えが通じるのは今だけなんだからね?」
友達の言葉に『うんうん』と近くにいる数人の女子たちも頷いている。
「そうなの? 何だか大変なんだね。みんな、頑張れー!」
「はは、あんた見てると何だか私まで気が抜けてくる。まぁ、出会った時から感じてたけど。そういうところ、男子は好きだよきっとね」
「話しかけられただけで恥ずかしいよぉ」
「まだ克服できていないわけね。でも月渚っちはかなり人気あるよ。男子たちみんな、癒やしの女神って呼んでるし、どうする? 近いうちに好きな人が出来たら」
「でもでも、男子の顔見られないよぉ。好きな人なんて、ど、どうかなぁ」
「放っておけるような子じゃないし、ふわふわしてるし……放っておいたら知らずにどこかへ飛んでいっちゃいそう」
「あ! ふわふわと言えば、綿菓子って甘くて美味しいよね。わたし、大好きなんだぁ」
「……はぁ」
お友達のマキちゃんとの付き合いも、早三年目くらい。いつもお話を聞いてくれるし、優しくてすごく頼りになる存在。それでも、男の子との克服は自分でやってねなんてことを言われたりして、そこは厳しい。
「あ、あのね、わたし5月の連休初めからお仕事始めるの」
「え、なに? ちゃっかり内定決まってたの!?」
「ううん、アルバイト。わたし、書店で働くの」
「ちょっと待って、就活しないでアルバイト? しかも今からって、のんびりしすぎなんじゃないの。書店ってことは男の子いるだろうし、接客とか大変だよ?」
「でもでも、女性も多く来るから大丈夫なんじゃないかなぁ」
単純に面接しに行った時の雰囲気と、お洒落なビルの中に、書店があっていいなと思って決めたなんて言えない。
「……月渚って今までアルバイトしたことは?」
「ううん、ないよぉ」
「えっ……? それって大丈夫なの?」
「何とかなるんじゃないかなあ」
「なんてポジティブ。月渚の仕事ぶり、近くで見てみたいな」
「もしかしてマキちゃんもお仕事来てくれるの? それなら嬉しいな」
「あんたの話聞いてたらすごい心配になってきた。私も小遣い稼ぎにちょっとだけやろうかな」
「あは! やったぁ。きっと受かるから心配しないよ」
「何の根拠があるのやら。じゃあ、私そろそろ行くわ。またね月渚」
「は~い」
言ってみるものだなあ。正直言って、一人では何だかんだで心細く思っていた。
初めて働くところではみんなが優しくしてくれるとは限らない。そんな不安な思いが顔に出ていたのかもしれない。上手くいけば一緒に働けるかもしれない。
そんな期待を胸に秘めながら家に帰ることにした。
「月渚、顔が強張ってるよ? もしかしてここに来て怖気づいてるとか」
「えええ? そ、そんなことないよぉ」
「今のあんたの表情見て確信した。受かって正解ってね! 思いっきり、不安浮かべてて今にも泣きそうになってる」
「マキちゃんは強いんだね。さすが社会人!」
「いやいや、まだ学生。内定決めただけ。と、とにかく今から仕事に行くんだからね?」
彼女はさすがに長くわたしを見ているだけあって『お見通しだから!』って感じで、わたしを落ち着かせてくれる。
ここは素直に甘えて、手を握りながらぴったりと離れずに一緒に入口へ向かって進んだ。
「わぁ~たっくさん人がいるね! すごーい!! この人たち、全部アルバイトなのかなぁ」
「どうだろうね。全部ってそれは違うでしょ……」
「そうなんだぁ。さすがマキちゃん! 博識だ~」
「博識ってあんたねぇ……あ、通用口に入れるよ」
「うんっ!!」
通用口では、警備員さんがわたしたちを凝視している。何も悪いことをしていないのに、冷や汗が出てきてしまう。どうやら持ち物検査をしていて変な物を持っていないかを検査しているみたい。
「こんにちはーー! えっと、ご苦労様です! ビシッ!!」
ドラマとかで見たことある通りに、そこにいる警備員さんに敬礼ポーズで挨拶をしてみた。
「ちょっ!? ちょっと月渚! 何してんの? や、やめなって!」
「ええっ? 何でー? ドラマとかではいつもこうしているの知ってるよ。だからわたしも」
「そんなわけないでしょ。あれ、作り話だし架空なんだよ」
「そうなの? そんなことないと思うよ~? ほら、警備員さんも笑ってるよ」
「あはは……ど、どうも~。月渚の笑顔につられてるだけのような気がする」
建物の中に入ると同時にわたしは思わず声を張り上げて驚いてしまう。
「わ!? すごーーい! 天井高ーい! 人いっぱい! ひろーい!」
「る、月渚、静かにし……」
「すごいすごい、すごーーい! わたしたちすごい! こんなところで働くなんて」
興奮しすぎていたせいもあって、はしゃぎながら館内中にわたしの声が響き渡り、何事かと警備員たちや店長らしき人たちが数人駆けつけて来た。
『シーー!! 静かにね』
そんなこともあったけれど、着替えを済ませ、エプロンを身にまとって研修部屋に向かうと、一人だけ男の子が椅子に座っていた。
「何? バイト?」
話しかけた男性はムスッとした表情でわたしの顔を見ている。こういう態度をとる男性にはやっぱり、笑顔を見せるのが一番かもしれない。
「笑顔を見せられても……てか、新人だろ?」
「は、はいっ! わ、わたし、今日からのここの書店さんで働くことになりました! お、お願いします!」
「じゃあ、握手」
「え、あの……む、無理です」
アルバイトって初めは握手が必要なのだろうか。いきなり握手を求めてきた男の子にどう対応すればいいのか分からないまま、そこでしばらく固まってしまった。
「冗談だからね? あ、聞いてねえか」
念願叶って、お洒落なビルの書店屋さんでアルバイトをすることになった。それなのにいきなり試練が訪れた。
「えっ? あ、あの……」
「からかっただけ。男が苦手っぽいけど、大丈夫なん?」
「え、あの……その」
「漫画が読みたくて来た! だろ? 残念だけど、近くにあるってだけで自由に読めるわけじゃない。それでも仕事に集中出来る?」
「そ、それは、はい……」
何でいきなりこんなことを言われるんだろう。さっきまで一緒にいたマキちゃんは、どこかに行ってしまったし、どうすればいいのか分からない。
「漫画、俺も好きだけどな。でもリアルに恋したいって思う。そう思わね?」
そもそも男の子が苦手なままのわたしに、恋愛なんて出来るのだろうか。よく分からないけど、そうなった時はわたしも何かが変わるのかな。それなら出来れば恋愛漫画みたいな展開がいい。
その為にも、目の前の男の子の名前を聞こう。変わるんだ! 変わりたい。
アルバイトで出会った男の子の名前を聞いて、そこからわたしは変わるんだ――
「わ、わたしは月渚です。あの、あ、あなたは――?」
END
終わり方に含みを持たせつつ、完結です。
お読みいただきありがとうございました。




