12.文芸部のカレ
「月渚さん、今日の活動だけど好きな作家を見つけること! って、彩が言ってたから、放課後までに見つけといてね。じゃあ!」
「え、あっ、槭先輩!?」
マキとの仲直りが出来た日の翌日、講義を終えて教室を出ると通りがかったのか、待っていたのか分からないけれど、文芸部の槭先輩がわたしを見つけて声をかけてきた。
同じサークルの人でしかも先輩だから平気になったかと思えたけど、やっぱり突然来られると驚きで胸の鼓動が激しさを増して、顔が一気に赤くなって熱くなってしまう。
「月渚、今の人ってサークルの先輩? 何だって?」
「あ、奈織ちゃん。うん、文芸部の先輩なの。活動をするから課題? みたいなものをやっておいてくれって」
「へー。一応そういうこと、やるんだね。月渚の思っていた通りのサークルでよかったじゃん?」
「うん。先輩が二人とも優しくて、だから良かったのかもしれないの」
興味のありそうなサークルといえば、なるべくわたしと似た感じで静かな環境で活動している所が良かったんだけど、文芸部はまさにそんな所。何よりも、彩先輩はサバサバしてて頼りになりすぎる女性だし、槭先輩は何だか安心する優しい先輩。あと一人いるっぽいけど、どんな人なのかな。
「文芸部、ねぇ。あれ、でもサークルって5人くらいいないと駄目じゃないの? 先輩が何人いるの、そこ」
「お会いしてるのはふたりなの。あと一人いるって聞いたよ。え? 何かおかしい?」
「部室もあるんだよね、そこ。ふぅん……じゃあ、幽霊部員が沢山いるのかもね。それか裏で何かをしているか」
「え? ええ?」
「まっ、でも月渚がやる気に満ちているし、いいんじゃない? 頑張ってよ。友達が頑張ろうとしてるのに邪魔なんてしたくないしさ」
「奈織ちゃん。ありがとう」
彼女に応援を受けて、槭先輩に出会ったことの緊張がほぐれたことで、そのまま図書室に足を向けた。実は好きな本は少女漫画なんです。なんて、言えないよ。
学校の中の図書館は、すごく広くて大きくて入ってすぐに驚いた。そんなに人はいなかったように見えたけど、奥の方まで人がいて、それぞれみんなで勉強とか音楽を聴いたりしてくつろいでいた。わたしのイメージだと、静かに本を読んでいたりしてほとんどの人は、そこから動かないって思っていたけれど。
わたしが知っている作家、作者と言えば、自宅でお父さんが読んでいたものくらい。わたしが読んだことは無いけれど、何となくその作家名を探して棚をウロウロしていた。
「シェ、シェイクスピア……どこだろ」
とにかく自分の背よりも高い棚が立ち並んでいて、届かないのは誰が見ても明らかだった。けれど、何だか意地になってその場の台を使わずに、ぴょんぴょんと跳んで手を伸ばし続けた。
後になって後悔することになるけれど、黙って職員さんを呼べばよかったなとその時には思い付かなかった。
「そこの子、何してるの? ここ、図書館。分かる?」
「あ、あのっ、手が届かなくて、それで」
「台、あるけど」
「それでも届かなくて、だから……」
「人呼べばいいのに。そんなことも知らないの? キミ、新入生か。図書室でジャンプするのはあまり感心しないけどな。何を探してる?」
「ご、ごめんなさい。あの、シェイクスピアを」
「ふーん? キミが? 本当に?」
何だろこの女。すごく失礼なことを思われている気がする。先輩だよね、きっと。確かに誰かを呼んで取ってもらえば良かった話だよね。でも、こんなにキツく言わなくてもいいと思うのに。でもいつも会うわけじゃ無いし、気にしちゃだめだよね。
「そ、そうですけど」
「難しい本じゃなくて、童話にしとけば? キミに合ってると思うし、じゃあね」
「あっ」
やっぱり見下されてた。何だろあの人。先輩も色々だよね……同じ女子でもキツイこと言う人は、わたしとは合わないかもしれないなぁ。そんなことを思いながら、職員さんに本を取ってもらって放課後のサークル活動に備えた。




