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俺氏、通勤する

 なんだろう、例の秘書っぽいキリッとした女性がちらちらと、こちらを見てくる。

 チラチラと見てくる。

 俺が何かしたのだろうか。

 まさか俺に気がある?

 無いな、ソレだけはない。

 とするとだ、可能性として高いのは、と思い視線の先、俺を通り越した更に先にその理由があるのではとちらりとそちらに目をやり、納得した。

 やはり、か。

 イケメンのキャリア公務員ぽい人物、男性、年の頃は三十手前の好青年、高身長の、おそらくは痩せマッチョ。

 さしずめ俺が邪魔で、朝の通勤時間帯のひとときの心の癒やし的な存在なのだろう彼が見えづらくなっていると。

 ふふ、ああわかってるさ。

 このおれは空気の読める男、クールに退くぜ。

 ススッと立ち位置をズラシ、彼女から彼へと視線が通るように移動する。

 ま、次の駅についたらそれも仕舞いだしな、人多くなりすぎて愛しの彼をヒトの肩越しに拝むなんてことすらできなくなる。

 そう考え、俺はその次に停車する降りる駅で開く側のドアに向け、人の隙間を縫い動き出した。


「……なんでだ」


 退いてやったのに、こっちを見るのをやめないとは……解せぬ。

 降りる側のドアの前に立ち、扉と身体の間にスマホを保持して今少しの間の暇つぶし、なのだが。

 ガラスに映る秘書っぽいお姉さんの視線が、俺の背中に突き刺さる。

 というのが何故わかるのかというと、ドアのガラス越しにこちらを向き睨むようにしてくる秘書さん(仮名)が映っているからだ。

 これはもしや、俺が居なくなったことで視線が直に向かうようになったために、こっそり見られなくなったからお怒りなのだろうか。

 流石にソレは八つ当たりというものだろう。

 頭でも下げて謝意を伝えたいが、最早身体を回すスペースすら怪しい。

 下手すると痴漢扱いされかねない。

 お、やっと倒せた。

 うーん、何度も何度も手を変え品を変え、攻略サイトですら鬼畜と謳われた憎き騎士をやっと倒せたのである。

 さっきのSSR戦艦建造成功といい、この面の攻略成功といい、幸先いいぜ。

 この調子ならガチャ回したら、虹演出くらい出るかもしれん。

 ……いや、運を使い果たしそうだからやめておこう。

 うん、やめておくべきだ。

 ……。

 あー、ピックアップのじいじ欲しい。

 ぽちり。

 ……カス、カス、カス、カス、カス、カス、カス、カス、カス、ラスイチ……金粒演出来たッ!

 金色だ! あ、魔術師だ。

 ……砂漠の語り部さん、いらっしゃい。

 こ、これはこれで!

 狙いのじゃなかったが、魔術師枠も層薄いし持ってなかったからよしとしよう。

 育成頑張らねば。


「む?」


 扉のガラス越しに背後を見れば、件の秘書さん(仮名)が目を大きくして何やら驚いている。

 んだよゲームしてたら悪いのかよ。

 と、そうこうしている内に駅に到着。

 俺は予定通りに速攻で電車から降り、駅構内の並み居る客たちを縫って改札口を目指したのだった。


 ★


「ということがあってな」

「ほーん」


 会社到着し、始業前のコーヒータイム中に同僚ヲタ氏に、「なまたまご」氏との計画や、いま平行してやってる3つのゲームの内2つでレア物ゲットだぜ、と言ったら鼻くそほじりながら返事された。

 まあ興味ないだろうなとは思ってたけどな、このプロデューサー野郎め。

 この男は二次元の存在こそが俺の嫁と言い張っている筋金入りだ。

 なおバツイチ。

 口癖は「二次元は俺を裏切らない」

 ……過去に何が有ったんだ。

 で、通勤電車でヤケにジロジロ見られたと言ったら。


「そんでちったあ小奇麗にしてたってわけか。あれじゃね? いっつもボッサボサ頭のお前さんが切りそろえてきてたから別人だと思ってたんじゃね? で、ゲームしてるとこ見て『あああいつかよ』と」

「すごくありえる。ていうか、そんな見た目変わってないよな? 髪切って髭剃っただけだぞ?」

「んー、まあ変わってはないな。ぽっちゃり体型も変化なしだし」


 いつも通りだ。

 ボッサボサで顔も見えない髪型とか髭面だったのを改めたらイケメンでしたというようなことはないのである。

 なお痩せてもイケメンになれない模様。

 くっそ。


「まあ、無精髭無いだけマシなんじゃねってとこだわ」

「だよなあ」


 このプロデューサー野郎は元既婚だけ有ってか清潔さには気を使っている、らしい。

 何しろお子さんがいるので。


「そういや娘さんは元気か?」

「ああ、今日もじいちゃんばあちゃんとこに預かってもらってるよ」

「そっか、元気なら何よりだ」

「ああ、大病しないのだけは助かってる」


 しょっちゅう写真を見せられては、子煩悩なところを感じさせるこのプロデューサー男。

 以前娘はアイドルにしないのか? と聞いたら「アイドルなんて厳しい世界に可愛い娘をやれるか」とマジギレしてた。


「まあアレだ。お前も彼女欲しいとか言い出すようになったんだなぁ」

「なんだよ、いかんのか」

「イカンとは言ってない。ただ、俺のようにはなるなよ……」

「お前の私生活、聞いても教えてくれなかったじゃねえか。どうしろってんだよ」


 俺のようになるなと言われても、どういう事情があったのか知らないってんだよ。


「詳しくはウェブで」

「おう見てやるからurl教えろや。ハヨ」

「ほい」


 ピロン、とメッセージが届いた。

 どこぞのまとめサイトっぽい。


「……おによめそくほう?」

「経緯がそこにまとめられてるわ。お前は俺のようにはなるなよ」


 ……うわあ、たまに覗いて「こんな奴おらんやろ」とか思ってたのに。

 リアルで掲示板に相談してた奴見るの俺初めてだ。


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