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俺氏、出来ることから始めるのではなく、思いついたことからやることにする。

「でだ」

「ああ、包んで貰えて良かった」

「せやな。それはそれとしてだ」


 居酒屋を出る際に、お残しは許しまへんでぇとばかりに店員さんが「お包みしましょうか?」と言ってくれたのをこれ幸いに、持ち帰りさせて貰うことにしたのは良いとして。


「最近は残飯減らすために色々とね、やってるとこ多いねん」

「そーなのか。それはそれとしてだ」

「やっぱ、唐揚げはご飯でガッツリといきたいなぁ」

「話を聞け」


 お持ち帰りした品が入った手提げビニール袋を覗き込みながら、「なまたまご」氏は食い気が復活していた。

 なお包装代は別途だ。

 しかし、結構食ったはずなのだがまだ食い気が出せるとか。

 食うなとは言わん。

 加減を考えて食えと言っているのである。

 デブなのは仕方がない。

 体質なのかもしれんし、それにそこが良いという人も結構な率で居るだろう。

 実際男性向けのデブ専向けというその手の作品やお店はあるわけだからな、女性にも需要はあるやも知れぬ。

 しかしだ、そんな低確率を狙わずに、どう見ても食い気が先に立っているせいでデブってるのをまずは是正すべきだろう。

 一応健康な、というかまだ生活習慣病予備軍で済んでいる間に。


「いいか、まずは生活の見直しからだ。まずそこからなおすぞ。一般人的見た目というレベルに持っていく基礎づくりというわけだ」

「えー、先ず計画を立ててからでええやん。みっちりと計画を立てて、それからやるべきだと思う」


 ふんぞり返って何か言ってるが、キミの言葉には説得力というものが欠片もない。

 まずその家に帰る前につまみ食いしたいと言う顔をヤメレ。


「彼女欲しいんじゃないんか」

「いや、欲しいけどさぁ。でもそんなに努力してまでは、って感じになってきてて」


 さっきまで饒舌に俺との計画を語ってた奴はどこに行った。

 いや、むしろこれはアレだな。

 頭のなかでシミュレートして、その導き出された結果が反映されてるな。

 そしてソレはおそらく、これまでの自分の行動の負債的なのを考えての事だろう。

 いわゆるアレだ。

 アレだよアレ。


「お前さん、いわゆる夏休みの宿題溜めすぎててもういいや状態になってるだろ」

「うっ」


 図星だったようだ。

 この場合、日頃のズボラ生活で溜まりに溜まった日常の、ごく普通の生活習慣が当てはまる。


「夏休みの宿題消化の予定を組んだ。毎日数ページやれば楽勝」

「ううっ」


 誰にでも経験あるよね、そういうの。

 一日◯ページずつやれば△日で終わり! 楽勝! って、最初は考えるんですよ。

 俺もそう考えてた時代がありました。

 炊事洗濯お部屋の掃除は元より、食事のバランスなんかも毎日ちょっとずつ考えて片付けような。


「8月に入るまでは、『まあ8月に入ってから頑張ればすぐ取り返せる』と思って手もつけない」

「うううっ」

「休みも半ばを過ぎた頃に登校日。周りは宿題終わらせたやつまで居る。ちょとヤバイかなと思いつつ、予定の倍、毎日やればいいやと放置」

「ううううっ」

「残り一週間、毎日つけなければいけなかった夏休み日記の天気を、新聞をひっくり返して「今日の天気」記事を探す。既に捨てられてて親に切れて逆に怒られる」

「うううううっ」


 どんどんヤツの反応がでかくなる。

 そのリアクション芸もどうかと思う中の一つだよな。


「残り一日、明日は二学期開始。もう無理。どうせ怒られたらいいだけだしもういいや」

「うわああああああ。俺が悪かった! 来年はちゃんとするから助けて父ちゃん母ちゃん!」

「そして翌年も同じことを繰り返すエンドレスオーガスト」


 うん、これアカンやつや。

 人の振り見て我が振り直せとはよく言ったもんだ。


「これと同じことをこれからも続ける気か?」

「お、俺は……」

「いいだろう。お前は好きにしろ。俺は、やる。そして彼女が出来たらまっさきにお前に紹介してくれる。その時を楽しみにして自堕落な生活を続けるがいい」

「待ってくれ! 俺も、俺もやるから!」

「本気か? 家に帰ったらソレをガッツリ食うんだろ?」

「い、いや。これは、そう。これは冷凍して! また後日食う事にする!」

「そうか。今日中にお食べくださいって言われてたがまあ腹痛くなったら自己責任でな。俺は家に帰って風呂に入って寝る。お前は――」


 そう言いながら、俺は彼の部屋を思い返した。

 何度か顔を出している、彼のワンルームマンションだ。

 そして、シャワーしか無いのだ、ヤツの部屋には。


「……おい、帰る前に風呂に入るぞ」

「え?」

「でかい風呂屋があったろ、この沿線」

「あ、ああ、スーパー銭湯的な? あるケド?」

「風呂に入ってから帰るぞ。サウナでさっぱりしていい男、なんだろ?」

「恋愛の花も咲きまっせ、だな!」


 なんか知らんが目を輝かせて応じてくれたが。

 まずちゃんと毎日風呂に入って髪を切ろう。

 最近のでかい風呂屋はサウナどころかプールも有ったり散髪屋もマッサージ屋もあるから侮れん。


「まずはサウナでどっちが長く居られるか競争やな?」

「いや、先に身体を徹底的に洗え。洗ってから風呂に浸かって、また洗え。毛穴の汚れも洗い流せ。サウナはそれからだ」


 サウナは身体洗ってから入ろうね、体臭がサウナルームいっぱいに広がるから。

 二度三度と湯船に浸かって身体を洗い倒す。

 風呂から出たらフルーツ牛乳を腰に手を添えて飲み、髪を切る。

 もうバッサリと、だ。

 

「うはあ、俺散髪屋で髪切ったのなんて久しぶりだ」

「……自分で切るのはもうやめとけよ」


 正直、これだけで割りと真っ当な人間に見えるから不思議だ。

 あとはそうだな、服装をどうにかするべきだな。

 ヲタな人って、謎のチェック柄のシャツとか、なんでみんな狙いすましたように着てるんだろう。

 色合いが派手に見えるから、たまたま目につくだけなのだろうか。


「お前のそのチェックのシャツとかどこで買うんだ?」

「ん? かーちゃんが送ってきたのを適当に着てるだけ」

「……ムラシマですら無いのか」

「多分近所のスーパーとかで特売の日に買ってると思うわ」

「野菜じゃないんだから」


 今度は服を買いに行こう。

 流行りとかじゃなくていいから、ベーシックなやつを。

 そうして俺達は、身奇麗になって家路についたのであった。

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