俺氏、ヲタ友に問題提起する。
_(:3」∠)_思いつきプロット&書き溜めなし投稿第二弾
「彼女がほしいと思ったことはないかね」
とあるアニソンのイベントに参加した帰りに寄った居酒屋で、俺は対面に座るヲタ仲間の「なまたまご」氏に問いかけた。
彼は生まれ故郷のドがいくつもつくレベルの田舎から、アニメ関連のイベントに参加しやすいからと言うだけの理由で単身上京してきた男である。
見た目に気を使うことなどせず、髭も髪も適当に切りそろえている程度、食事はバイト先の飲食チェーン店での賄いで三食済ませているという話で、そのせいか体型はふくよかを通り越してしまっている。
着ている服は、ウニクロだかムラシマだかで買ったであろう素っ気ないものだが、一応飲食関連で働いていることも有って洗濯は頻繁にしているのか汚れは見えない。
が、室内干しなのだろう少々汗をかいた後には彼の体臭が正直鼻につく。
俺も人のことは言えないが。
そんな彼であったが、話しかけられた問いに分厚い眼鏡越しに若干目を泳がせつつこう応えた。
「そんなもん欲しいに決まってるやん」
「だよなぁ……そこでだ」
ずずい、とテーブル越しの彼に若干近寄り、疑問を投げかけた。
「なんで俺らに彼女が出来ないと思う?」
そんな俺の問いかけに、彼は口角を持ち上げて即座に返答してきた。
「そんなん決まってるやん、不細工でヲタクやからやろ」
ヲタクが先か、不細工が先か。
まあそれは今は良い。
「いや、だが考えてみて欲しい。俺らの知り合いにはヲタクでも不細工でも結婚している人物がチラホラいる。その辺りはどう思う?」
そう、ヲタクだからといって結婚できないわけではない。
事実、趣味を同じくするご同輩にだって、既婚者は居るのだ。
「そ、そりゃあれじゃね? 同じ趣味を持ってるヲタ女を上手くゲットしたとか」
「そう、かも知れない。だけど、考えてみてくれ。ヲタでも一般人と結婚しているのも居るだろう?」
「お、おう……」
そうなのだ。
俺らの共通のヲタ友には、ごく普通の、ヲタク趣味を持たない女性を嫁にした人物だって居るのである。
「か、稼ぎが多いとか」
「収入はたしかに多いだろうな、小児科の先生だもの」
「あああの人な……正直うらやましい」
件のヲタ友は、なんと医師である。
しかも、小児科だ。
「俺だったらもう仕事中に暴走してしまうかもしれん」
「アホか」
なお以前当人に聞いた所、ロリ趣味が過ぎて小児科の先生になった訳ではないらしい。
ただ単に、親の職業が小児科で、実家の医院を継いだだけの話だという。
むしろロリよりも年上好みだという話で、実際自分の親が経営する医院に勤めていた年上の看護師に惚れて結婚を申し込んだと言うことだった。
とは言えよくもまあヲタ趣味を持っているのに医師に成れたものだと話した所、親に滾々と説得された末らしいが。
『金が無いのは首がないのと同じ、ンッンー、名言だなこれは』
その時の決まり文句は、これだった。
趣味に没頭するのは構わないが、先ずは稼ぎ口を確保してからになさいと言い渡されたというのだ。
たしかに名言である。
俺だって現状こうなるとわかっていれば、もっといい稼ぎができる仕事につけるよう、年少の頃から勉学に励んだだろう。タイムスリップして子供の頃の自分に戻る系主人公になりたい。
それはともかく。
「俺やお前に共通していて、彼ら既婚ヲタ仲間とは違う点を列挙して見るテスト」
「なるほど、問題点を先に洗い出すんやな?」
「そうだ、いい所を磨く前に、先ずはネガ潰しから始めようと思う」
そう言って俺は、懐からスマホを取り出しメモを呼び出した。
「では、俺らの駄目な所を上げていこう」
「駄目なところって言われても、実際どこがあかんのって言われたら……全部と答えてしまう俺ガイル」
わかる。
超わかる。
実際、知らない奴だったらお互い同席お願いしますと言われたら断るだろうレベルだろう。
家を出た時点では不潔、と言うほどではなかっただろうが今は汗臭く髪は汗と脂でべっとり、分厚い眼鏡には指紋のあとが付きまくっている。
何よりその椅子の背中側に置かれている紙袋やその中に入っている品々が更に駄目な点だろう。
「そもそもやな、もし俺が女やったとして……俺と付き合う以前に会話するの嫌やな」
「激しく同意だ、ちくしょーめ!」
正直なところ、不細工で世間一般にとって駄目な部類の趣味に没頭している奴の彼女になりたいか?
誰だって嫌だ。
俺だって嫌だ。
正直に言おう。
彼女は欲しい。
だがオタ趣味はやめたくない。
ならばどうする。
「まずは見た目からだ」
「いきなりやなおい」
見た目は大事だ。
人間見た目じゃない、なんて言うが第一印象は先ず見た目だ。
そもそも人間見た目じゃないなんて言葉は、実績が有って初めて成り立つような話であってだな。
めったに風呂に入らなくて服装も適当、とかでも。
才能があって実際に結果をだして超有能だったら認められるだろうさ。
どっかの監督みたいに!
だがそんなもんは俺らにはない。
だったら手始めは当然、見た目だ。
「いきなりじゃねえよ、順当だよ。考えてみろ。性格悪い高飛車女がいたとして、ブッサイクだったら近づきたいか?」
「絶対に嫌だ」
俺だって嫌だ。
何を好き好んで見た目も性格も合わないやつと付き合えるのかって話だ。
まあ金持ってりゃそのへん目を瞑るかもだが、当然そんな経済力がある異性なんて縁も所縁もありゃしない。
「では性格同じですっごい見た目好みの女」
「それならいける」
当然いけるわな。
理想は性格も良くて見た目も好みだが、そんな人がいたらとっくに他の方が彼女にしてるだろう。
というか、そんな俺的完璧超人見たことも聞いたこともねえ。
「じゃあすっごく性格良くて優しいけど不細工」
「慣れたらいけるんやない?」
そう、そうなのだ。
不細工でも性格が良ければ異性としてお付き合いできる可能性があるのだ。
これは男女関係なく、だろう。
美人に不細工な彼氏とか、美男子に不細工な彼女とか。
世の中は不思議に満ちているが、実際そういうカップルは居るのだ。
「そうなるよな。だが俺らの場合、慣れるほど長くお友達状態どころかそこに至ることすらできん」
「お、おう。せやな」
「という事はだ。先ず俺らがしなければならないのは」
「ならないのは?」
まずはお近づきになってもらえる為のレッスンその一だ。
身奇麗にしよう。
近くにいて臭いというのはアウトだ。
だから、そこからだ。
「最低限、外見及び清潔度合いを世間一般の人と同じくらいの見た目にまで持っていくことだ」
「でも、このままの俺が良いと言ってくれる人がいるかもしれん」
そんな奴がいたとしても宝くじに当たったようなもんだ。
知ってるか?
数十万分の一とかの確率はな、数字上では存在しても統計的には除外されるんだぞ。
基本ありえないことだとな!
「おう、じゃあブッサイクで性格悪い収入のないオナゴが同じこと言ってたら?」
「何夢見てんだ寝言は寝て言え……はっ!?」
同じ言葉でも自分が言ったのと他人が吐いたのでは扱いが違う。
俺は良いけどお前はダメだ。
これは誰にでも起こりえることだが、きちんと胸にしまっておかねばならぬ。
いわゆる「お前が言うな」だ。
「そういう事だ。よし、今日はもう帰るぞ!」
「え、まだ料理残ってる……」
「これ以上食ったらデブる。更にデブる。良いか、こうなったからには俺とお前はこれから一蓮托生、呉越同舟だ。地獄の底まで付き合ってもらう」
「言うなれば運命共同体、互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う、訳だな!」
「おう、金銭関係以外はな!」
こうして俺達は、彼女が欲しい同盟を組んだのであった。