戯れ魔女
今回短いです。
「ギ、ギルド長。なんで、ここに。」
「んー?私がいちゃ、いけないのかしらん?」
見るからに動揺するファットンに、じろり、と紫色の眼を向けるシャルナートさん。その眼には、微かな殺意がぴり、と感じられた。
「い、いえ!滅相もありません!」
「ふ~ん……あ、そう、ならいいわ。許します。」
さっきまで傲慢な態度をとっていたファットンが、明らかな恐怖をその顔に示している。
「あ、それと、よく来たわね、ヤナギ君。予定よりも数日早いんじゃないかしら?」
「そうですね。まぁ、物のついでです。早かろうが遅かろうが貴方にゃ関係はないでしょう。答えは、既に決まっているんですから。」
「まぁ、それもそうかしらねぇ♪だ・け・ど、一応貴方の口から聞かせてもらうわよ。」
ケラケラと子供を揶揄うように笑うシャルナートさん。
「ん、まあそうですね。格式というか、形だけでも則らなきゃいけないですし。」
「あ、あの。」
言おうとした所で、横からティオラが口を挟んできた。
「ん?何かしら、ティオラちゃん♪今、ちょぉっと大事なお話ししてるんだけど。」
若干シャルナートさんの顔に怒気が見えた。いや、大人気無さすぎじゃあないか?そりゃ、自分がしてる話の途中に割って入られたら多少は腹立つだろうけど、それにしても、あんた年齢を考えてだな……
「それは、ごめんなさいなのです。でもちょっと気になったのです。」
「……何がだ?」
「ヤナギさんとギルド長は、お知り合いなのですか?」
「ん?ふむ、そうねぇ……知り合いというか、宿敵?」
「それは貴方の見解でしょ。俺は別に気にしてませんよ。俺からしたら……ま、世話の焼ける恩人みたいなもんかな。」
「しゅ、宿敵?恩人?」
疑問符が浮いて見えるぐらい困惑するティオラ。
「気にすんな。竜人族と宵人族の解釈の違いだから。論を詰めれば知人以上友人未満見たいなもんさ。」
「は、はあ……。」
「で、結局どうするつもりなの?あのダンジョン。」
「とりあえず内部の地図は作ってきました。全体で六エリア、出現するモンスターはエリアマップ毎に書いてあります。」
懐から六枚の地図を取り出し、近くにあったテーブルに置く。シャルナートさんは、一度それを手に取り、しげしげと眺めてからテーブルに置くと、にっこりと微笑んだ。
「毎度どうも♪で、幾らで売ってくれるのかしら?」
「かなり質の良い薬草やそこそこ強いモンスターもいます。弱点も記載してありますんで、一枚につき大銅貨三枚でどうです?」
大銅貨三枚。パテラの町なら安いの店なら中々良い料理を食べることができる位の金だ。
「ん~もう少し負けられない?」
「俺も生活懸かってますから。これが最安値です。それに、出せない金額じゃないでしょ?」
「あらら、そうでもないわよ?実はパテラは火の車だったり、ね?」
「嘘はよくないですよ?」
「嘘かどうかは、ヤナギ君が決めれば良いんじゃあない?」
相変わらずやりづらい。まあそもそも、俺はこういうのが得意ではないんだが。
「本当に、駄目?」
「駄目、です。これ以上下げると香辛料や本、新聞、他にも色々買えなくなるんで。」
「え~~……ヤナギ君のケチ。」
「可愛い娘振ったって駄目なものはダメです。」
この人隙を見せたら馬鹿みたいに付け上がるからな……自分に有利になることでも用心しなくてはいけない。
「むぅう~~、じゃあそれで良いから一つだけ条件をつけるわ!」
「…条件、ですか……。」
何だろう。とてつもなく嫌な予感がする。何か、面倒事に巻き込まれる臭いしかしない。
「そう!そして、その条件とは!」
橙色がかかった茶色の髪をファサァッと掻き上げ、ニヤッと不敵で不遜な笑みを浮かべるシャルナートさん。さっきまでいじけてた人とは思えない。さて、どんな奇天烈な要求をしてくることやら……
「このギルドの冒険者となって、私の直属の部下として馬車馬のごとく働きなさいっ!!」
その要求は、ある意味地獄だった。
~蛇足的補足~
お金の種類
金、銀、銅の三種類がそれぞれ大、中、小に分けられている。
小銅貨…五十円相当
中銅貨…百円相当
大銅貨…五百円相当
小銀貨…千円相当
中銀貨…五千円相当
大銀貨…一万円相当
小金貨…五万円相当
中金貨…十万円相当
大金貨…五十万円相当