亜人コンビ散歩道~シナの森からギルドまで~
「………もう大丈夫なのです。恥ずかしいところをお見せしたのです。」
「いや、気にすんな。何はともあれ、泣き止んでくれてよかったよ。」
ティオラは、泣くのを見せたのが恥ずかしいと思ったのか若干顔が赤くなっていた。耳なんかもっとだった。真っ赤だった。
(長耳族って、顔よりも耳に熱がいくのか?)
驚きの新事実だった。もしかしたら、ティオラだけかも知れないが、それでも驚いた。
「じゃ、行こうぜ。」
「はいです。うわわっ。」
ティオラがまたよろけた。
「完治は……まぁやっぱりしてないよな。荒療治じみてるし。」
「むぅ……」
悔しそうに唸るティオラ。
「まだ傷は痛むか?」
「ちょっと、痛いのです。」
「じゃ、これ、飲んどけ。痛み止めだ。多少苦いかも知れないけど、我慢してくれ。」
「え?に、苦いですか?」
「何だ、苦いの駄目なのか。」
「むぅ………」
恥ずかしそうに俯くティオラ。まぁ、見た目だけで言えば十二か三そこらだし、無理はない……か?
「いつまでも痛いのは嫌だろ?ちょっと、我慢してくれ、な?」
俺は少ししゃがみ、ベッドに腰かけているティオラと目線を合わせて話す。頭の上から声をかけられるというのは案外怖いものだ。
「わかったのです……えいっ!」
小さな丸い痛み止めをパクっと飲み込むティオラ。段々と顔が青くなり、顔が苦々しく変わっていく。
「~~~~~~~~っ!!!!!」
「は、早く、水、水!」
口を閉じているため声にならない悲鳴をあげるティオラに、水の入ったコップを渡す。するとティオラは、素早く手に取りゴクゴクと一気に飲み干す。痛み止めが喉に詰まってなきゃ良いが。
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「はぁ……はぁ……うぷっ。」
「……大丈夫か?そんなに、苦かったか?」
顔を青くしながら、荒い息をするティオラ。まだ口のなかに苦味が残っているらしく、時折口を手で抑えている。
「でも……確かに痛みは退いたのです。」
「効き目は保証する。俺もたまに使うからな。」
「それにしても、こんなにこの森が広いとは、知らなかったのです。」
「冒険者のお前たちがこの森に来るのは、基本的には薬草集めだろうからなぁ。この森には質の良いのが多いから。」
俺達は、シナの森を歩いていた。というか、正確には、
「……大丈夫か?乗り心地が悪かったら、言ってくれて良いぞ。」
「大丈夫なのです。ヤナギさんの背中、中々居心地が良いのです。」
歩いているのは俺だけで、怪我人のティオラは俺に背負われている、いわゆる“おんぶ”の形になっていた。
「本当に良いのか?この状態で。」
「はいです。まさか一歩も動くことができないとは思ってなかったですけど、これはこれで、中々良いですね。鱗がスベスベで、あったかくて。」
「そんな実況しなくても……。」
どうやらティオラは満足しているようなので、まぁ良いとしよう。乗っても良いと言った俺にも責任はあるしな。
「…………気になることがあるので、聞いて良いですか?ヤナギさん。」
「ん?良いぞ。」
「何で、あの家で一人で暮らしてるです?」
「……」
ふむ、それは、やっぱり聞かれるか。
「俺の実家はいわゆる武家でね。俺はそこの長男坊だった。」
「武家……ヤナギさんってそこそこお金持ちの家系です?」
「まさか。どっかのお偉方に媚びなきゃ稼ぎがないようなちっぽけな家さ。ま、それでも長男坊は長男坊。親父の跡目を継ぐのは俺だ、って話になってな。だが、それに反対の奴がいた。主に俺と俺の家の教育係だ。」
「教育係さんはともかく、ヤナギさんも自分が家を継ぐことに反対したんですか?でも、何で。」
「面倒なのさ。しきたりとか血筋とか、そういう無茶苦茶な癖に嫌に影響力というか、強制力のある『何か』がな。」
「…………」
「それに、下の二人の方が適任だと思ったんだよ。武芸も学問も、俺よりも才に溢れていた。長男だから、何て理由で家を継ぐより、もっと優秀で、熱意のある奴らに継いでほしかった。で、結局逃げた。ま、要は単純に家のしがらみが嫌だったってだけだよ。」
「そうだったんですか。」
「まあ、な。今度、ティオラの話も聞かせてくれ。」
「はいです!」
と、話しているうちに、パテラの町が見えてきた。今が昼時なのもあって、大変な賑わいを見せている。流石は『笑顔の町』だ。
「どうする?昼飯、先に食べてしまうか?」
「お腹、空いていないのです。」
ティオラは変に強がる節があるので幾度か聞き直したが、本当に空いていないようなので冒険者ギルドに直行した。時折背中の方から聞こえる『きゅ~』という音は聞こえないことにした。