森の中、亜人二人
色々搾って絞って思い付いた物語です。暖かい目でみてやってください。
俺の名前はヤナギ。姓はない。捨てた。今年で十八になる、森暮らしの竜人族だ(竜人族は、竜の角や鱗を持つ種族のことだ)。
此処は『フェアレッテ』という国の東部にある『パテラ』というとても賑やかで明るい町の近くにある、シナこ森の中に俺が建てた家だ(町の人達に許可は取ってある)。
さっき、森の中で倒れている少女を拾った。金色の柔らかそうな髪をした長耳族の少女だ。年は多分、俺と五つ、六つは違うと思う。傷だらけでとても衰弱していたので、応急処置程度の治療をして、今は俺の家のベッドに寝かせている。
「……どうしたもんかね。」
俺は行商から買い取った茶葉で作った紅茶を飲みながら呟く。長耳族の少女は皮鎧と簡易的な魔力増強ローブを着ていたことから、冒険者であると推測できる。次点で衛兵、盗賊だが、衛兵にしては装備が安物すぎるし、盗賊にしては真新しすぎる。だから俺は、この長耳族の少女を冒険者成り立ての駆け出しだと考えた。魔力増強ローブを着ていたことから、役職は魔術師か魔導師だろう。長耳族は魔法の扱いに長けるから、それも有力なヒントになった。魔法を発動するための魔具が無いのは不思議だったけど。
「町にある冒険者ギルドに保護の連絡を入れるべきか?でも、あそこはどうにも信用ならないんだよなぁ。俺も一回あそこの手先に襲撃くらったし……誰が死のうが知ったこっちゃない精神でシカトされそうだ。だが、この娘を放置というわけにもいかないし、俺の家に住ませるにはウチは狭いしベッドの数が足りない。本当、どうしたもんかねぇ。」
と、少女の処遇について考えていると、
「ん…………んぅ?」
その少女がムクリ、と起き上がった。目を覚ましたらしい。
「目が覚めたんだな。どうだ?傷は、痛まないか。」
「……ふぇ?傷?そういえば、体のあちこち痛かったのに今は全然痛くないのです。貴方が、治療してくれたのですか?」
まだ若干寝惚けているらしい惚けた声で話す少女。
「まぁ、そういうことだ。あぁ、名乗り忘れたな。俺はヤナギ。姓は捨てた。お前は?」
「私は、ティオラ・レヘルナなのです。パテラで冒険者をやっているのです。助けてくれてありがとうなのです。」
と、言ってペコリ、と頭を下げる少女改めティオラ。
「別に気にしなくてもいいよ。」
「お礼がしたいのです。」
「別に良い。今は別に欲しいものもないし。」
「そういうわけにはいかないのです。」
ティオラは中々頑固だった。結局、今度町に用があるからその時に食事を奢って貰うと言うことで手打ちに。
「それでは、これで失礼するのです。」
「ん?大丈夫か?まだ完治はしてない筈だが。」
「私はこれでも一冒険者なのです。これ位はどうってことないのです。それに、今日は用事が……」
といってベッドから降りて歩き出そうとするティオラ。しかし、一歩目を踏み出した瞬間フラッとよろける。すかさず支える。
「ほらな?言わんこっちゃない。」
「むぅ……自分の体の弱さが憎いのです。」
見るからに落ち込むティオラ。長耳族特有の長い耳も垂れ下がっている。そんなにか。
「仕方ないな。町まで一緒にいってやるよ。」
「…………ふぇ?」
心底意外、という顔をするティオラ。耳も反動でもとの通りに戻った。
「い、良いのです?」
「なんだ、用事があるんだろ?なら急いだ方が良いじゃないか。それに、お前が倒れたらそれこそ用事にすら辿り着かない。」
「で、でも、」
「安心しろ。行き先までちゃんと送り届けてやるさ。回復魔法が使えんから、持続的な治療はできんが、痛み止めくらいならくれてやろう。」
「そういうことじゃ、」
あたふたするティオラ。そんなに驚くこともないだろうに。
「え、えと」
「なんだ?」
「ふぇ?」
「なにか言いたいことがあるんだろう。言ってみろ。」
もじもじしていたのが焦れったく、言うように催促する。冒険者のらしゃきっとしないとな。
「…………なんでここまでしてくれるんです?何か裏でもあるですか?」
「………………………あ~、そういう……………。」
納得がいった。怖いのだ。傷を治療してくれただけでは飽きたらず、用事があるといっている自分にここまで良くしてくれる俺に、何故こんなことをするのか、という疑問が生まれているわけだ。別に恩を売るとか、そういうことは考えてないんだが……案外疑り深いな。
「安心しろ。他意はない。」
「じゃあ何でーー」
「んーー……強いていうならーーーーー」
自分でも良くわかっていない。面倒だと思いつつも、いつもどこかにある『助けてやりたい』という気持ちが勝ってしまう。正義感の強かった馬鹿親父からでも遺伝したんだろうか。とか思ったが、結局、この言葉が一番しっくり来た。
「俺の故郷に“イチゴイチエ”って言葉があってな、その人との出会いは一生に一度のものだから、大事にしなさい、っていう言葉なんだが、まぁ、それに引っ張られたんだろう。要は、お前とは思い出作っておきたいし、お前との思い出を大事にしたいんだよ。行商以外の客人も久し振りだからな。」
「………………………………」
「ま、馬鹿の戯言だと思って聞き流してくれ。それを除いても、今のお前は見てられん。否が応でも助けたくなっちまうさ。」
俺は腰のベルトに武器を差し込む。存外強いからな、ここらのモンスター。まぁ、その分料理するとうまい奴や、高く売れるのが多いから良いんだが。
「ひぐっ、うぅ、ぐすっ」
「え、ど、どうした!?ちょ、痛みがぶり返したか?」
ティオラは泣いていた。何でだ。俺何したよ。
「ちがっ、うんです。そん、な、こと言って、くれたの、ひぐっ、貴方、だけで、」
「あぁ、もう、泣き止んでくれよ。」
延々と泣き続ける長耳族と、その対処にあたふたする竜人族という、なんとも情けない光景が出来上がった。