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治る身体の異世界ライダー  作者: ツナサキ
一章 世界を知る
6/55

05 狼の異能

 「で、どうしてこうなった?」


 朝起きると部屋の中に包丁が落ちているのを確認した。また、その隣に縄も確認した。ヒメルトの縄である。


 「もしかしてハティに何かヤバいこと言ったりしたのかな俺……」


 昨日は凄い眠くて夜に何か言ったのか全然覚えていない。

 というかよく寝られたなと思ってる。きっと失血していて体が弱っていたんだろう。


 すると部屋の扉から何かガチャガチャと色々な物を運んできたハティと目が合った。


 色々な器具、ハティの暴走。これらが組み合わさった気がして少し恐怖を覚えた。


 「あの、何してるんですか?」


 「え? 昨日言ったでしょ、体を調べるって」


 「調べるのに何で縄とノコギリとか包丁が必要なんですかね!?」


 「とりあえず使えそうなもの持ってきただけ。やだなぁ、危ない事なんかしないよ?」


 と包丁持ちながら言われても説得力が無いんですが……うん、逃げよう。殺される気がしてきた。


 「あ、ヨル。抵抗しないでね? でないとスムーズに調べられないから」

 「あ、はい」


 目がギランと輝いた。怖い。


 「それじゃあ、始めるね。まずは確認から。

  昨日、ヨルは森の主から致命傷を腹部に受けた。間違いないよね?」


 「う、うん。森の主、あのユニ――白い馬の事?」


 「そう。あの馬はここら一帯の森を統べる主なの。好戦的ではないんだけど……無礼な生き物には厳しいの。ヨルは不用意に近づいたから無礼だと判断されたみたい」


 「無礼って……まあ、近づいておいて背中向けて大声出してたら無礼かもしれんが……」


 だからって後ろから刺さなくてもいいだろうに。なんちゅう生き物だ全く。


 「生物的な名前はなんて言うの?」


 「……さあ、よくわかんない。私は主って呼んでる」


 「主、ね」


 おうおう主よ。お前の名前は覚えたかんな。いずれ借りは返させてもらうから覚悟しときやす。


 「で、その致命傷が無くなった理由をこれから調べまーす!」


 やめて下さい、包丁持ちながら楽しそうに言うのやめて下さい。

 え? まさかそれで刺したりしないよね、しないよね!?


 「ぐ、具体的には?」


 「取りあえず傷、つけてみる?」


 「やだああぁぁ!! やめてぇぇええ!!」


 マジ怖いこの子!! つい昨日まで傷付けたって落ち込んでたのに治るってわかった途端、極端過ぎやしませんかね!?


 「こら! 暴れないで!」


 「暴れるだろ! つーかどういう原理で治ったのかもわからないのにどうやって治すの!?」


 「うーん、実はね、目星が大体ついてるの」


 え?

 目星ついてる?


 「……ホント?」


 「それにちょっと切り傷入れるだけだから大丈夫だよ」


 「……せめて、心の準備をさせてください。逃げませんから」


 軽くべそをかきながら俺は弱々しく言った。




______



 「じゃあ、いくよ……」


 腕を解放された俺は貰っていた寝巻を脱ぎ、上半身を露にする。


 昨日も含めると腹をそれこそ穴が空くぐらい確認したのだが、やはりユニコーンに刺された傷は見当たらなかった。子供特有のしなやかな筋肉が見えるぐらいである。


 「な、なあ……それ、料理に使ってる包丁だろ? いいのか?」


 「じゃあノコギリにする?」


 「うっ、痛そうだけど、ノコギリでやろう」


 「わかった。でも擦ると痛そうだから刃の部分で刺すだけにするね」


 「よし、さあ来い……!」


 気合を入れてハティに傷をつけてもらう。

 一応傷をつける部分は腕であるが、腹部に傷が無い事を再確認するために服は脱いでおいたのだ。


 「っ!」


 ノコギリの刃が俺の左腕に軽く刺さり、チクッとした痛みの後に刃の横から赤い血液が染み出してきた。


 傷が自動で治る再生能力的なものであれば既に治り始めてもいいのだが、そんな様子は見られない。


 「……どうやら自動回復って訳じゃないみたいだな」


 「ヨル。多分、これだと思う」


 そう言ってハティが手に持っていたのは、水の入った桶だった。


 「水……つけるのか?」


 ハティは何も言わずにコクリと首を縦に振った。


 「じゃあ、つけてみる」


 ハティを信じ、傷に水を塗る。


 するとちょっとした痛みを感じ、まさかな、と思っていた俺の心を虜にする現象が起き始めた。


 「まじ、かよ」


 「……!」


 傷が、無くなったのだった。


 水をつけた瞬間傷が外側から閉じるように組織が再生されていく。再生に幾ばくか時間を要した後、俺の左腕に小さく入った傷は跡かたもなく消失。そこには傷があったと微塵も感じられない程だった。


 しかし傷は治ったが腕に垂れていた血は流れたままであり、昨日の出来事をスケールダウンさせた現象が俺の腕に起きていた。


 「スゲェなこれ! ただの水が一瞬で傷を治す最強薬に大変身してるぞ! どうなってんだ!?」


 そう強く呟きハティの方を見たのだが、ハティは何とも言い難い、強いて言うなら辛そうな表情をしていた。


 どうしたんだハティ。

 

 そう口に出そうとした瞬間、ハティは喋り出した。


 「太陽を喰らい日喰を起こす白黒の狼は、6つの大きな力を持っていたと言われているの。

  光を憎む『目』

  嗅ぎ殺す『鼻』

  逃さない『耳』

  喰らう 『牙』

  弱らせる『爪』」


 「お、おう。あと一つは?」


 「最後の一つが狼の持つ力全てを支える力。涼み、癒される『身体』」


 「涼み、癒される……」


 「狼が全身火傷を負いながらも何回も日喰を起こせるのはこの力のおかげなの。水を傷に当てればたちまち回復してしまうっていう力」


 水。その言葉を聞いたとき、あの湯煙空間が頭をよぎった。


 そういえばあそこは地面に水が張っていた。それに人影の方では水音もしていた。関係、あるのだろうか。

 いや、きっとあるんだろう。あいつがくれると言った『とっておき』とはこの事だったのだろう。直感で察した。


 「じゃあ、その癒される力とやらが俺にあって、腹の傷も治してくれたっていうのか。あの時は水なんて……」


 「もしかして、主の角。濡れてたんじゃないの? 水を飲んでたんでしょ、その時に水面に入ってたのかも」


 「濡れていたから傷に水が付着して治った……! そういうことか!」


 確かに主、もといユニコーンは大きく、大分下の方を向いて水を飲んでいた。その時に角が濡れてその水が傷についたと、そう考えると納得がいく。


 「やっぱり、ヨルも私と同じなんだね」


 「同じ?」


 するとハティはこの間に見せた狼を絶命させた透明のトゲのようなものを自身の手のひらに出現させる。魔法、なのだろうか。あの時は結局色々あって聞けずじまいだった。


 「それ、魔法?」


 「違うよ。ヨルと同じ『狼の異能』。私の力は、喰らう『牙』」


 「牙……」

 

 そういえば湯煙空間の人影はハティの事を知っていた。それに、ハティは『牙』を持っていると。何者なんだあいつ。まさか日喰を起こしてる狼、なのだろうか。


 聞くべきだろうか。ハティに湯煙空間の事を話すべきだろうか。


 「この牙で突き刺すと刺した部分の栄養が任意で私に送られてくるの」


 「はは、じゃあ食べ過ぎると太るのか?」


 「うん。だから使ったとしてもあんまり栄養を送らないようにしてるの。でも牙はとても体力を使うから使ったら食べるっていうのが効率いいんだけどね」


 「ふむ」


 「でもよかったぁ」


 「ん? 何が?」


 ハティは手を合わせてホッとした表情を浮かべる。傷が治ったことだろうか。


 「記憶を失くしてたけど、狼の異能が使えるってことはやっぱりヨルは私と同じ、『狼の眷属』ってことだもん!」


 「ああ、なるほど。そうなるの――っ!?」


 一瞬、頭に声が響いた。

 前に聞いた、湯煙空間で聞いた、あの言葉だった。


――神という愚者が作り出した人形


――我が眷属を模して作られた人形


 人形、眷属を模して作られた。神という愚者。ハティが眷属という言葉を使ったからだろうか。何かが引っかかる。何だ……?


 急に押し黙ったヨルを見て、ハティは心配そうに声をかける。


 「ヨル? どうしたの?」


 「あ……いや、何でもない。傷が水で治るのがちょっと信じられなくて」


 「そう。じゃあ時間がある時これ読んでみて。日喰の狼の本なの。力の事とか色々書いてあるから」


 「了解」


 ハティから一冊の本を受け取った。何てこと無い、普通の本だ。


 湯煙空間の事は話さないでおこう。理由は無いが、強いて言うなら心配させたくない。その一心だった。


 「それとヨル。一つ約束してくれる?」


 「どんな?」


 「いくら水で傷が治るからって、危険な事をしないって。ヨルが痛い思いするのは嫌だし、一人になるのはもっと嫌だから」


 「了解でありますハティ殿!」


 「フフ、変なの。ね、外いこ? 魔法教えてあげる!」


 「マジ!? やったぁ! 先生大好き!」


 そうして俺たちは寝巻のまま元気よく外へ飛び出していった。



______




 「では今日は炎魔法を使いたいと思います!」


 「おお! 炎魔法! 火を操るとかロマンですね!」


 俺たちは相変わらず寝巻のままだったが、ハティと俺は昨日血を洗った服をそれぞれ持っていた。


 「ずいぶん前に『クロノ』という魔法を教えたと思いますが、あれよりは難しいので注意してください」


 「了解です! ハティ先生!」


 俺が魔法を教わる時にハティを先生と呼ぶ理由は二つある。

 一つは単純に教わる立場であるからそういう態度をとった方がスムーズに進むから。


 そしてもう一つはそう呼ぶとハティはニヘラァと表情を崩すレベルで笑ってくれるからである。可愛い。


 「動作自体は単純です。手をこう開いて、『燃やせファイ』」


 「おお! 手のひらに炎が! 熱くないんです?」


 「自分の魔力で出した炎は熱く感じません。ですが感じないだけなので当然着ている服などに引火する可能性があるので注意が必要です」


 ハティは手のひらに炎を出し、それで血を洗った服を乾かすように、炙るようにしながらそう言った。


 「また、魔法は維持するのにも魔力を使うので継続的に必要になる場合は薪に火を付けたりして楽をしましょう」


 なるほど。いつも料理するときにどこから火種を持ってきているのか謎だったが、これを使っていたんだな。


 「じゃあ俺も……燃やせファイ!」


 左手を開き、魔力が左手から放射されるようなイメージを保ったまま、詠唱を唱える。すると火であるから無意識に手加減していたのか、はたまた恐れていたのか、指サイズの火の粉がポッと灯った。


 「小っさ! もっと……うぉう!? デカッ!」


 「気を付けて。火っていうのは本来不安定なものだから、制御するのがちょっと難しいの」


 あまりに小さかったのでもっと大きくしようと魔力を込めたら爆発的に火が大きくなった。

 なるほど、魔法だろうが現象だろうが火の調節は難しいって訳か。ガスコンロってスゲェんだな。そう思った。


 「まあヨルなら水かければ火傷も治るんだろうけど、服の余りが無いから燃やしたら裸だよ、ヨル」


 「それは困る! ムムム……こんな感じか」


 大体炎は纏まってきており、いい感じだった。まあハティの炎よりはブレ幅がデカいが気にしない。


 「それじゃあ服を燃やさないように乾かしましょう! 今回は薪の使用は禁止します」


 「これを維持するのか、中々に、大変ですなぁ」


 ちょっと気を抜くと火は弱くなるし、かといって力を込めると炎はデカくなる。炎魔法の制御に俺は結構悪戦苦闘していた。


 「うん。私の方は乾いた。ちょっと着替えてくるね」


 「あいよ」


 俺の方はまだ少しかかるって感じか。といっても俺はあとズボンもあるからもっと時間がかかるわけだが、


 「ハティが家で、着替えている……?」


 そう思った瞬間、左手に灯した炎が爆発的に大きくなり、あと一歩服を逃がすのが遅かったら消し炭になってしまう所だった。


 魔法使用中の感情の高ぶり、マジ危険。


 「ヨルは異能の性質上水魔法の方が使い道あるかもね」


 「だな」


 既に着替え終えたハティが俺のズボンを炎魔法で乾かしながらそう言った。


 この異世界、ガルム大陸の魔法は大きく分けて、炎、水、雷、光、闇、命の6属性が存在するとハティが言っていた。ちなみにクロノは光属性に分類される。

 

 どこぞのソシャゲかよってくらいにテンプレだが、命ってのはあんまり見ないかな?

 これもハティ曰く、『攻撃、防御、支援全てにおいて万能』とのことだった。まるで勇者が持っていそうな属性である。


 で、俺は水で受けた傷が治るという狼の異能とやらを有しているため、水を使う水魔法と相性がいいという寸法だ。


……待て。それはつまり、俺は戦うことになったら水を体にぶっかけながらゾンビアタックするって事になるのか? 痛みに耐えて? 嘘だろ?


 早急に何か違う特技を見つけねば。そう思った。


 「そういえば得意属性とかってどうやってわかるの?」


 いかにまだ子供で鍛える余地があるとしても剣を振って戦うというのはとても怖い。


 出来れば魔法で遠距離から圧倒とかいう戦法を使いたいなと思って聞いてみたのだが。いや別に誰と戦うって訳でもないんだが、そうできればあのユニコーンも遠距離から倒せるしな。


 「うーん、ある程度魔法を修めた人ならわかるらしいけど、私はそこまで詳しくないから……」


 「そっか、でもまあ当面は水魔法かなぁ。有用だし」

 

 それからは水魔法の習得に力を入れることとなった。


 水魔法は炎よりは操るのが簡単だった。だが、水を攻撃に使うとなると話は別である。


 どの属性も最初、つまり入門レベルの魔法の大きさは大体手のひらに収まるボール一個分くらいの大きさとなる。その時点で既に属性による特色が存在する。

 炎はそのまま投げても多少はダメージが期待できる。雷は入門レベルで既に人を失神および、殺傷出来るほどに威力が高い。光と闇は威力自体は無いが、周囲を光らせたり暗くしたりできる。命はよくわからん。


 そして水だが、水風船を投げるレベルである。しかも試してみてわかったのだが、同じ魔力量で炎と水をぶつけたところ、なんと炎が消えない。威力も当然無い。


 どうやら水属性とは極めていくほどに強くなる晩成型の属性の様だった。そして天敵ともいえる雷は入門で既に殺傷能力がある早熟、最早相性が悪いのは運命で決められているらしい。


 現在はそんな水魔法に威力を持たせるために悪戦苦闘していた。


 「なるほど……現在の状況で水魔法に威力を持たせられないことがわかった」


 結果から言おう。無理だった。

 いくら水を薄く伸ばしてカッターみたいに飛ばしても何も斬れず、そのまま投げても精々目つぶしが限度。

 だが、物は使いようである。つまりどうにかして威力を持たせればいいのだ。


 「つまり……こういうことだ! 潤いをウォルト!」


 俺は手のひらに水球を出現させる。そして魔力は魔法が維持できる最小限を保ちながら、浮かした分の魔力を水球の中の流れに使う。『何か』が一度入ったら出てこないように、某A級高等忍術のように回転を加える。


 「そしてぇー、こいつの中にー、大量の小石を入れますとーマジックショットガン(物理)の出来上がりー!」


 全魔力を流れに集中させているため、水球の中ではとんでもない速さで小石たちが暴れている。指でも入れようものなら斬り飛ばされるほどに。


 「そしてこれを、投げるっ!」


 近場にあった木に投げつけてみる。

 するとどうだろう。水が弾ける音に一瞬遅れて木の幹を小石たちが襲い、バキバキッ! という音と共に傷を入れる。木を倒すほど威力は無いが、生物の顔に当たったらひとたまりもない威力である。


 「ハァ、ふう……よ、要は攻撃出来りゃそれでいいんだよ。物理だろうが魔法だろうがな」


 魔法しか効かない幽霊的なモンスターとかいたら使えないけど、その時は中に入れる物を魔力由来のものにすれば万事解決する。意外と万能なんじゃないか? マジックショットガン。

 

ただし魔力消費が辛い。まだ慣れていないからなのか、水の流れに使う魔力が膨大である。全身に疲労が溜まったような感覚が体を襲い、俺はフラフラとしていた。

 人は魔力切れを起こすと疲労困憊状態になるとハティは言っていた。つまりマジックショットガンはそのくらい魔力を消費しているという事になり、一日にそう何発も撃てないことは明確だった。


 「だが足りん! あのユニコーンに復讐してやるにはまだ足りん。出来れば次のステップの水魔法でこれを試してみたい。きっと素晴らしい威力になるはず!」


 そうしてハティに次のステップを教わる為に教えを乞うのだった。


 「水魔法の次の魔法? いいけど、何に使うの?」


 ハティはジト目でこちらを睨んできた。危険なことはさせたくないのだろう。可愛い。


 「いやぁ、何かの役に立つかなぁと思って」


 「……じゃあ先に外出てて」


 「了解です!」


 そうして俺は湖の近くで一人考え事をしていた。

 

 「マジックショットガンの弱点は石を拾わなきゃいけない事だよな。まあ事前に携帯しておけばいいんだが……ん?」


 すると森の中から何かが湖に向かってヨタヨタと現れる。


 馬、まさかユニコーン!?


 そう思ったが現れたのはいつぞやの黒い馬だった。

 連れの灰色の馬は見当たらない。喧嘩したか?

 そう思ったが違った。怪我をしている。それもかなり大きな怪我だ。

 俺みたいに狼にでも襲われたのだろうか。


 かろうじて湖まで辿り着いたのはいいものの、湖の縁に力なく倒れ込み苦しそうな息を荒く繰り返している。


 他の二匹は、死んでしまったのだろうか。

 ユニコーンの一件であまり馬を好きにはなれなかった俺だったが、何となく可哀想に見えてきた。自然の弱肉強食とはいえ、湖の近くで流血している姿が俺に似ていたから。


 「……助けてやるか。拒否されたらやらないけど」


 そう呟き俺は家からすり潰した薬草を持ちだした。ハティが何かあった時の薬にと置いておいた物だ。俺やハティの火傷の時もお世話になった。とんでもなく沁みるが結構効く。


 「だが問題は、近づけるかどうかなんだよなぁ」


 ユニコーンの時は近づいたら殺されかけたからな。近くに水があるとはいえ痛い思いはしたくない。あまり刺激しないように近づくか。


 「っ、だ、大丈夫だぞー敵じゃない。傷治してやるから大人しくなー」


 近づいていくと黒馬はこちらに気づいたようで首だけでこちらを視認、依然として力なく横たわっていた。

 背中の方から頭へと回り、手が届くほど近くまで近づいたが黒馬は拒否する反応を見せない。できないのか、しないのかで全然違うところだが……


 「足に咬み傷。体は、これは爪痕か? どうやら複数の動物に絡まれたらしい」


 痛々しい咬み傷を見て、何故か俺の右腕が痛んだ気がして咄嗟に左腕で押さえつけた。

 

――同じような傷を見せれば敵対しなくなるだろうか。


 ふとそんな事を思い、右腕をまくりながら黒馬の介抱をしてやることした。


 「いいか。とんでもなく沁みるけど我慢しろよ? くれぐれも暴れたりするんじゃないぞ怖いから」


 反応は無い。拒否ってもいないので肯定とみなして薬草の入った壺からグチャッとした薬草を取り出す。かなりすごい臭いがするが良薬は何とかっていうしな。


 そのまま半ば叩きつけるように怪我している足に薬を塗る。するとやはり沁みるようで痛そうな声を上げる。が、抵抗はしない。治療されていると分かるのだろうか。


 「すまんな。こっちも布不足なんでね。これで我慢してくれや」


 あらかた塗り終わった後、近場から長い草を探し出してきて黒馬の足に巻いてやる。流石に体に巻けるようなものは無かったので体は放置、俺みたいに傷は残るだろうが仕方ない。


 「ブルルル……」


 「んお!? ハハ、何だお礼のつもりか? 愛い奴よ」


 処置が終わると俺は湖の水で馬の血を洗い流していたのだが、黒馬が後ろから頭を俺の方に押し付けていた。そしてそのまま甘えるような声を上げていた。


 折角だったので手を洗った後に黒馬の頭を撫でてやっていた。すると家の方で扉が開き、ハティが出てきたのが見える。


 目が合い手を振ってやると、何事だというような訝しげな表情でこちらに歩いてきた。


 「どうしたのこの子?」


 「怪我しててさ、可哀想だったから手当てしてやったんだ。どこまで効くかわからないけど」


 「そうだったの。良かったねぇ」


 そう言いハティも黒馬の頭を撫でる。やはり抵抗はしない。


 「まあ主が特別短気だったって事だろうね。背後から刺すとか礼節を大事にする奴のやり口じゃな――」


 そう呟きながら森の方を見た瞬間、絶句した。

 ユニコーンが森の中に佇んでいた。

 しかもただ佇んでいたのではない。

 体中血だらけだった。


 襲われた?


 だが傷は見当たらない。どちらかというと流血しているのではなく、返り血を浴びたような感じだ。


 そして俺を貫いた角には、俺を貫いたって表現がちょっとあれだけどともかく、角には何やら生物の肉片のようなものが刺さっていた。


 「……出やがった」


 「え?」


 一瞬遅れてハティもユニコーンの存在に気づく。


 何をしに来た?

 そもそもなぜ血だらけなんだ?

 その肉片は?


 疑問は尽きぬところだがバトろうってんなら相手になるぜ。こちとらこの前みたいに一発KOされると思ったら大間違いだ。返り討ちにしてやんぜ。


 そう心内で呟きながら密かに辺りの小石を集め戦闘に備える。だが、赤白のユニコーンは以外な行動をとったのだった。


 「温厚、だね」


 「また刺されるかと思ったが」


 ユニコーンはまるで俺たちに礼でもするかのように頭を下げた。一瞬また角で攻撃してくるのかと思ったが、俺たちに一礼した後、俺たちから少し離れた水辺で体についた血を洗い流していた。

 そしてそれを見つめるハティの顔がヤバい。声色は普通、襲いに走りだす気配もない。だが、明らかに嫌悪の表情が見受けられる。


 「にしても何であいつ血だらけなんだろうな」


 「うーん、もしかしたらこの子を襲った生き物を仕留めたのかもね」


 「じゃあ俺はそんな仲間思いの奴に攻撃されたのか。悲しいね」


 俺は傷ついた黒馬の頭を撫でながらそう言った。

 納得いかん。血も涙もないユニコーンだと思っていたのに、そんなところを見せられたら仕留めてやると思っていた俺が悪者みたいじゃないか。


 「……ま、襲ってこないなら放っておくか。今に見てろよ、絶対ぶっ飛ばしてやる」


 そうして戻ってきたハティにもっと威力の高い魔法を教えてもらうのだった。


 まあ魔力切れかけてるからお手本しか見せてもらえなかったんだけどね!

 次の水魔法は地面から水柱を噴出させるというものであった。人を浮かせるくらいは威力があるので楽しみである。

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